てな訳でどうぞ
長い夜が明けた早朝から、学院にある魔術薬調合室の一室にウィリアムは引き籠り、『ダストの玉薬』を作る為の下準備をしていた。
『ダストの玉薬』は錬金術試薬を調合してできる魔術火薬。
ルーン文字を刻んだ専用の金属薬莢等も同時に作る必要があるため、早々に取りかかればならなかった。
(まさか……これに頼らざるを得ないとはな……)
そんなことを思いながら下準備を終え、ウィリアムは調合に必要な試薬の調合に取りかかる。
錬金術的に作り出された、『剥離の粉』と命名した純白の粉、『分解再結晶法』に必須の結合促進触媒。
この二つが、『ダストの玉薬』を作るのに絶対に欠かせない材料である。
昨夜の会議で、グレンの『イヴ・カイズルの玉薬』は確実、ウィリアムの『ダストの玉薬』は可能性として、魔人への対抗手段として可決された。
だから、わかっている。
この『ダストの玉薬』を調合し、使わなければならないことは。
そして、あの時の記憶が呼び起こされる―――
―――――――――――――――――
「―――完成だ」
その日、ウィリアムは魔術的隠蔽を施したどこぞの穴蔵で、ルーン文字が刻まれた金属薬莢の弾丸―――『ダストの玉薬』を完成させた。後は、その効力がその通りに発揮するのか、確認するだけだ。
「にしても……これ、銃弾としては失敗作だよな」
ウィリアムはそんなことをぼやきながら、『ダストの玉薬』が詰まった金属薬莢の弾丸を《魔銃ディバイド》に装填する。
ウィリアムはそのまま、穴蔵の外―――樹海の中へと出て、周りを見やり、一匹の熊の姿をした魔獣を見つける。
ウィリアムはその魔獣に狙いを定め……
「《
呪文を唱え、撃鉄を引く。
一瞬だけ、何ともいえない、不吉な魔力が拳銃に胎動する。
ウィリアムはそのまま、魔獣へと向かい―――
―――……
『ダストの玉薬』の効力は問題無く機能した。目の前の地面には塵の山がある。その塵は魔獣だったものの塵だ。
これで、敵を殺す―――
「――え?」
ウィリアムはその思考に一瞬呆然とし、次第に身体を震わせていった。
思い返せば―――
今までは『守る』ため、『助ける』ために、魔術を学び、力をつけてきた。もう既に人を殺している時点で正義面するつもりは微塵もない。悪党、外道と罵られて当然とさえ考えている。
それでも、尊い意思は存在していた―――だが、『ダストの玉薬』には、それが一切ない。
格上の相手を確実に『殺す』―――ただそれだけの、自身の願いとは真逆の、漆黒の殺意と悪意だけで作り上げた、暗黒の結晶だった。
ウィリアムはその自身に潜んでいた悪意にこの時点で、ようやく気づいたのである。
「……あ……あぁ……」
身体を震わせながらも、辛うじて残っていた理性で、一目散に穴蔵の中へと飛び込んでいき―――
「ぅおげぇええええええ―――ッ!?げほっ!ごぼぁ―――ッ!?」
拳銃を手放し、堪らず、胃の中身を吐き出す。
次に襲ってきたのは、凄まじい寒気と恐怖。
これを使って人を殺せば、自分はどうしようもない『外道』、『殺人者』へと堕ちて、戻れなくなる。
「ぁああああああああああああああ―――ッ!?ごほぁあああああああああああ―――ッ!?」
吐瀉物を撒き散らしながら、その半狂乱の恐慌状態は、丸一日続いた―――
―――――――――――――――
「―――ッ」
思い出した記憶に、手元が狂いそうになるも、辛うじて気持ちを抑え、深く深呼吸をする。
(落ち着け……落ち着くんだ……)
作るだけなら大丈夫だと、必死に己に言い聞かせる。二年前まで自戒のために作り、持ち続けていたのだからと、必死に考える。
そんな追い詰められたかのような心情で、必要な材料を作り続け―――
ガチャ
しばらくして、扉の開く音が聞こえた。そちらを向くと、大量の苺タルトをトレイに載せて持ってきたリィエルがいた。
「ご飯持ってきた」
「……なんで苺タルトばっかなんだ?」
思わずそう突っ込むも、丁度お昼だったこともあり、素直に一緒に頂くことにする。
「…………」
「……そんなに見つめてどうしたんだ?」
「……ウィル、元気なさそうに見えるけど、大丈夫?」
「……、……ちょっと疲れているだけだから、大丈夫だ……」
リィエルの問いに対して、ウィリアムはそんな嘘で返した。
食事を終え、リィエルは調合室を後にし、ウィリアムは作業を再開した―――
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