てな訳でどうぞ
とある日のアルザーノ帝国魔術学院。その校舎内にて。
「……本当にめんどくせー……」
破砕された壁や床を、錬金術を主軸として修繕しているウィリアムの姿があった―――
―――――――――――――――――――――
―――約一時間前。
魔術学院の東館五階の奥。その学院生徒会室にて。
「何で俺が呼び出されたのでしょうか、リゼ会長」
生徒会から呼び出しをくらったウィリアムは、書類と格闘している灰色の髪と黒瞳が特徴的な学院生徒会長―――リゼ=フィルマーに問いかける。
「実はですね、貴方を呼び出す数十分前に、とある女子生徒が校舎の壁や床を幾つも破壊したのです」
「……へ?」
その時点でウィリアムは猛烈に嫌な予感を覚えて顔がひきつるも、リゼは変わらずに話を進めていく。
「その原因は男子生徒への暴行です。暴行理由はとある男子生徒を馬鹿にした発言を聞いたからだそうです」
「…………」
「ちなみに、壁を破壊した方法は大剣で―――」
「あんのど阿呆ぉおおおおおおおおおおお―――ッ!?」
もう何度目かわからなくなった青髪脳筋娘のやらかしに、ウィリアムはその場で頭を抱えた。
ちなみにその青髪脳筋娘は現在、教職員室で始末書がまた増えたロクでなし担任講師の体罰を受けている。
「ですから、その破壊された壁や床を修繕してもらおうと、呼び出したのですよ」
「……フツーにいつもの業者に頼んで修繕すればいいのでは?」
「本来ならそうしますが、明日は体験学習の当日の上、目立つ箇所なので早急に修繕する必要があるのですよ。今は生徒会も忙しく早急な手配もできませんので」
「あー、そういえば明日だったな……それでも、一不良生徒に頼むのはどうかと思うんだが?」
リゼの言う通り、明日は魔術学院の入学を目指す子供達に魔術学院の雰囲気を知ってもらうためのごく簡単な魔術の授業や学院の案内を行う、学院生徒会主催の企画の日だ。
だが、各委員会やクラブの会計監査と予算決議、次期生徒会会長選挙戦の準備、クライトス校との生徒交流会等、生徒会の仕事が重なってその目処が立たない内に、学院の本部事務局総務企画部が見切り発車で参加者を募集してしまったのだ。
その為、生徒会も対応が遅れてしまい、肝心の体験授業を行ってくれる人員を確保出来ていない事態となった。
それをリゼに凄く世話になったシスティーナが協力し、後に理由を知ったグレンが昼飯の弁当三日分と引き換えに体験授業の講義と、残り三人の講義者も見繕う事で何とか開催の目処がたったのだ。
ちなみに、入学したてのシスティーナはエリート意識が強く、周りから相当浮いていた。……最も、ウィリアムは面倒くささからシスティーナを最初から無視していたが。
それが原因で、周りも「ああ、ああやって無視していればいいんだな」と、入学四日目でシスティーナを完全に無視するようになったのだが、それを当人達が知るよしはない。
「今から業者を手配しても絶対に間に合いませんし……何より、貴方なら、材料さえあれば錬金術で
「…………」
「もし受けて貰えれば、学院の貴方に対する評価も上がりますし、バイトとして賃金も払います。決して、悪くない内容だと思いますが?」
「物凄く面倒なので拒否します」
ウィリアムは即座に断って生徒会室を後にしようとするも、リゼは
「そういえば先週、廃棄予定の用具が
「……特に問題は無いんじゃねぇか?」
その呟きに、ウィリアムはピクッと反応するも、いつも通りの表情で疑問をぶつける。
「確かに大した問題ではないのですが、問題なのはそれが無断で持ち出されていた事です。それにしても、犯人の動機はなんだったのでしょうね……?まさか『担任の講師に成績を落とすと言われたので、授業に必要な魔術触媒を錬成するための錬成素材にした』……わけでもないでしょうし……?」
ウィリアムの背中から汗がツゥー……と流れ始めていく。
「その説明だと、悪いのはその講師のような気がするんだが……?」
「確かにそうでしたね。『そのどさくさに紛れて金の素材を抜き取り、着服した』のとは別問題ですね」
その瞬間、ウィリアムの身体は硬直した。
「他にも、使い物にならない輝石の小さな欠片とか、一滴程度しかなかった
「わかりました。校舎の修繕、慎んでお受け致します」
「ふふっ、お願いしますね」
――――――――――――――――――――――――
―――そんなわけで。
リゼのにこやかな
破壊された壁や床は本当に粉々と言える程の被害であり、リゼの言う通り、正規の手順では今日中には直せないだろう。
「あー……本当にかったるい……」
ウィリアムは文句を言いながらも、破砕された壁に瓦礫を積み、簡単に用意できる魔術製のセメントで接着し、錬金術を使って周りの壁に繋ぎ直していく。
「これ、意外と楽しい」
そんなウィリアムのすぐ近くには、
リィエルはグレンにぐりぐり付きの説教を受けた後、話を聞いたグレンの指示でウィリアムと一緒に自身が破砕した床や壁を修繕して回っているのである。
ちなみに、今回の修繕で支払われるリィエルの賃金はグレンが受け取る事になっている。
「……まったく、悪口くらい軽く流せよな」
ウィリアムは呆れながらリィエルに小言を言い、リィエルが塞いだ床の近くに手を当てる。
途端、塞いだ床から紫電が爆ぜ、床が元の形へと戻っていく。そうして、紫電が収まると、床は破砕される前の姿に戻っていた。
「それじゃ、次の場所にいくぞ」
「ん……」
ウィリアムとリィエルは金鏝と魔術製セメントが入った容器を手に、次の修繕場所へと向かっていく。
互いに無言で歩いていると、リィエルがポツリと声を洩らす。
「……だってあいつ、ウィルがいない方がいいって言っていたから……それを取り消してと言っても、聞いてくれなかったから……」
「…………」
リィエルのその言葉に、ウィリアムは内心で納得してしまった。
リィエルはまだ精神的に幼い。『遠征学習』の一件で、心の拠り所であった『兄』を完膚なきまでに砕かれたリィエルは、ルミアやシスティーナにグレン、そして、ウィリアムを新たな心の拠り所として、今度は前に進もうとしている。
だからこそ、リィエルはここまでの暴行に走ったのだろう。
そんな事を考えながら辿り着いた、本日一番と言える大穴が空いた壁の前で、ウィリアムが口を開く。
「……修繕が全部終わったら、アバンチュールで苺タルト奢ってやる」
「!」
「だから、早く全部直すぞ」
「……ん!」
「後、だからといって校舎を破壊するなよ?端から見ればお前が悪いように見えるからな」
「……努力する」
リィエルのその返答にウィリアムは肩を竦め、大穴が空いた壁に魔術製セメントを塗るのであった。
全ての修繕が終わった後、リィエルの賃金はグレンがピンはねする前にウィリアムが回収。全額リィエルの手元に残る事となり、翌日の体験学習会はセリカ、セシリア、オーウェルが体験授業の講師を務め、波乱の学習会となった。
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