やる気なしの錬金術師   作:厄介な猫さん

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いけるかな······?
てな訳でどうぞ


八十三話

―――日が沈みかけている夕暮れにて、ようやく必要な材料を作り終えた。

 

 

「ここからだな……」

 

 

ウィリアムは気を引き締めて、そう呟く。

ここまでの作業は全て準備でしかない。『ダストの玉薬』の調合作業はここからが本番である。

ウィリアムは必要な材料を調合台の上に並べていき、特殊なルーン文字が刻まれた乳鉢と乳棒、小瓶を調合台の上へと置いていく。

準備が整い、ウィリアムは『ダストの玉薬』の調合を開始する。

 

 

「“硝石を三、剥離の粉を一、粉末状にした紫炎晶石を二。それらを封爆のルーンを描くように混ぜ合わせ、同じく粉末状にした爆晶石を四、投入する―――”」

 

 

作るのは二年振りだが、淀みなく調合手順を進めていく。

 

 

「“―――作成した粉塵に、白炎綿を二、木炭とアマランスの灰を一加え、結合促進触媒を一ずつ五回投入しながら、右に三回、上下に二回混ぜ、その粉塵をルーン文字が刻まれた別の乳鉢に入れ替え、その乳鉢を軍神マルスの象徴が描かれた布の上に置く―――”」

 

 

調合作業を淡々と、無感情で進めていく。

 

 

「“―――氷晶水を三、硫黄を二、剥離の粉を一。それらを最初の乳鉢に入れ、ヴァルの印を結んだ後、水銀を一加え、左に六回ゆっくりとかき混ぜ―――”」

 

 

その後も問題無く調合を進めていき、最後の手順に到達する。

 

 

「“―――出来上がった二つの試薬を三つ目の乳鉢に静かに同時に投入し、ゆっくりと右にかき混ぜながら、呪文を唱える―――”」

 

 

ウィリアムは調合式通りに進め、仕上げに入る。

 

 

「“―――《律と理・始源と根源・五素の―――》”」

 

 

突如、『ダストの玉薬』を初めて使った光景がフラッシュバックする。

 

 

「―――ッ!!?」

 

 

その瞬間、寒気と目眩が一気に襲いかかり、思わずその場から飛び下がってしまう。

それと同時に、寒気と目眩が治まっていく。

 

 

「くそ……」

 

 

今ので調合は失敗してしまった。『ダストの玉薬』はデリケートであり、完成するまでミスは許されない試薬なのだ。

こうなった以上、最初からやり直しだ。

 

 

(だけど……作れるのか……今の俺に……?)

 

 

不意に、そんな不安が過り、初めて『ダストの玉薬』を使った、あの時の恐怖が胸中を支配していく。

 

 

(何を考えてんだ!?俺が持つ手札(カード)の中で、あの魔人に通用する可能性があるのはこれだけなんだぞ!?)

 

 

ウィリアムは自身を叱責し、再び調合台の前に座り込み、再度、調合に取りかかる。

 

 

「“硝石を三、剥離の粉を一、粉末状にした―――…………”」

 

 

…………

 

何度調合しても。

自戒の為と何度も騙し、言い聞かせても。

どうしても、最後の過程でフラッシュバックに加え、凄まじい悪寒に目眩、吐き気まで襲ってくる。

その度に、手元とマナ・バイオリズムが狂い、調合は失敗してしまう。

それどころか、調合の途中にこれらが起こる始末だ。

 

 

「ぁああああああああああああああああ―――ッ!!!」

 

 

苛立ちと恐怖、それらが混ざり合った感情を吐き出すように、調合台に拳を叩き付け、叫び声を上げる。

 

 

「ハァ……ハァ……ちくしょうが……ッ!」

 

 

何度目かわからなくなった失敗作を、荒い息を上げながら睨み付ける。

 

 

「俺は一体何をしているんだ!?使える手は全部使うんじゃなかったのか!?先公だけに全部押し付けるつもりか!?俺の覚悟は、決意はその程度のものだったのか!?」

 

 

ウィリアムは最悪な気分のまま、調合台と改めて向き合う。

材料はもう残り少ない。これ以上の失敗は許されない。

追い詰められたような表情で調合に取りかかろうとして……

 

 

「!?」

 

 

不意に気配を感じ振り返ると、扉が開いており、その扉の先にはリィエルが立っていた。手にはサンドイッチや苺タルト、魚のパイ等が載ったトレイがある。

 

 

「……いつからそこにいたんだ……?」

 

「叫んでた辺りから。遅かったから、ルミアに言われてご飯を持ってきた」

 

 

震える声で問いかけるウィリアムに、リィエルは淡々と返すも、その瞳は若干不安げに揺れていた。

 

 

「ウィル……お昼の時よりも元気がない……そんなにそれ、難しいの?」

 

「……それは…………」

 

 

心配そうに問いかけるリィエルに、ウィリアムは堪らずに白状した。

 

 

「難しいんじゃない……“びびっている”んだ……この『ダストの玉薬』を調合して……実際に使うことを」

 

 

ウィリアムはそのまま、『ダストの玉薬』が自分にとって、どういうものかを語っていく。

 

 

「これは……俺の暗黒の象徴……試しに使うまで気づかなかった、悪意と殺意だけで作り上げたものなんだ……」

 

 

その悪意を忘れ、繰り返さないために、使うことのない自戒用として作り、持ち続けた。

そして、これのコンセプトを防御に向けて作り上げたのが、魔術金属《ディバイド・スチール》である。

 

 

「これをどんな形であれ、もう一度使ってしまえば……俺は道を決定的に間違えて、戻れなくなる……そんな確信めいた恐怖と予感があるんだ……どんな力も使い方次第だというのは、理解してるんだけどよ……」

 

 

もしそうなれば。

自分を止めてくれる人間は―――いない。

だから、一度でも使えば、どうしようもないところまで堕ちていってしまうだろう。

 

 

「情けねえだろ……?自分から言い出して起きながら、これなんだからよ……」

 

「……わたしには、よくわかんないけど……」

 

 

自嘲気味に、力なく頭を下げて答えたウィリアムに、リィエルはウィリアムを見つめ、突拍子もなく告げた。

 

 

「ウィルは間違えない、と思う」

 

「……は?」

 

「……んと……うまく言えないけど……みんながいるから、多分、大丈夫だと思う……どうしてかはわからないけど……」

 

「……自分で言ってわからないのかよ……」

 

 

相変わらずのリィエルに、ウィリアムは溜め息と共に呆れ、先程までの悩みが何故か、馬鹿馬鹿しく感じてしまう。

 

 

「……とりあえずもう一度やってみる。残りの材料からして、多分、これが最後のチャンスだ」

 

 

ウィリアムはそのまま、『ダストの玉薬』の調合を開始していく。

 

…………

 

 

「“―――出来上がった二つの試薬を三つ目の乳鉢に静かに同時に投入し、ゆっくりと右にかき混ぜながら、呪文を唱える―――”」

 

 

ここまでは問題なく調合は進んだ。だけど、問題はここからなのだ。

そんな思い詰めた表情をするウィリアムに―――

 

 

「…………」

 

 

リィエルが後ろから、椅子越しでウィリアムを抱き締めた。

 

 

「……リィエル?」

 

「こうすれば落ち着くって……誰かが言っていた気がする」

 

「誰だよ、それ言ったやつ……」

 

 

若干呆れながらも、リィエルの両腕から伝わる温もりに、先程までの陰鬱な気分が霧散していく。

そして―――

 

 

「“――《律と理・始源と根源・五素の標を元に・認識せよ・我は摂理を握りしもの・粉は群の縁を解き放つもの・与えるは紡がれた縁を断ち・親密な縁へと拡げ伝える・微細な象へと帰還させるものなり・……》―――”」

 

 

リィエルから伝わる温もりからか、フラッシュバックは一度も起きず、今までの不安定さが嘘のように進んでいく。

そのまま呪文を唱え終え……

 

 

「“―――最後に専用の容器に詰めることで、『ダストの玉薬』はここに完成する”」

 

 

ルーン文字が刻まれた小瓶に詰め込み、蓋を閉める。

 

 

「……ありがとな、リィエル。お陰で助かった……」

 

「ん。ウィルの役にたててよかった」

 

 

ウィリアムのお礼に、リィエルは薄く微笑んで受け取った。

ウィリアムはそのままリィエルを見つめ……

 

 

「……お前って、ホント馬鹿だよな」

 

 

突然、失礼極まりない言葉を口にした。

 

 

「いや、イルシアも何だかんだで、突拍子もないことを言い出す時もあったし……いや、でも、イルシアのほうは学習はしていたな、うん」

 

 

そんな言葉に、リィエルは頬を膨らませ、不満げな表情になる。

 

 

「だけど……お前は学習しない馬鹿だけど、的だけはついてるんだよな……」

 

 

ウィリアムは椅子から立ち上がり、左手をリィエルの頭の上に置く。

 

 

「みんながいる……確かにその通りだったな。今の俺にはお前やグレンの先公、システィーナにルミア、それにクラスのみんなも……間違えたら、ぶん殴ってでも正して、連れ戻してくれる人達がいる。そんな大事な事を、お前に言われるまで俺は気づけなかったよ……」

 

「……」

 

「だから、俺は守りたいもんを守る為に、この『ダストの玉薬』を確かな意思と決意をもって使う。こいつであの魔人に、一泡吹かせてやるさ」

 

 

そんな穏やかな笑みを浮かべるウィリアムを見て、リィエルは胸の内が暖かくなるのを感じる。

システィーナやルミア、グレンと一緒にいる時とは違う暖かさ。

あの時以上にもやもやするけど、それ以上にすごく暖かい。

リィエルはその暖かさがもたらす衝動のまま、ウィリアムに抱きついた。

 

 

「リィエル?いきなりどうした?」

 

「……不思議とこうしたいと思った。ウィルもわたしを抱き締めてほしい」

 

 

リィエルのそのお願いに、ウィリアムは呆れた顔になりながらも、抱き締め返すことで応えた。

ウィリアムから伝わる温もりに、リィエルの表情は自然と満面の笑みへと変わっていく。

二人はそのまま、互いの温もりから湧き出る衝動のまま、抱き締めあい……

 

 

 

グゥ~~~~~~~~…………

 

 

 

……その甘い雰囲気は、二つのお腹の鳴る、情けない音で霧散した。

 

 

「……腹、減ったな……」

 

「……ん……」

 

 

何ともいえない微妙な空気が部屋一面に流れる。

 

 

「……とりあえず、お前が持って来てくれた飯を食うか」

 

「ん」

 

 

ウィリアムとリィエルはそのまま、二人で遅い夕食を食べ始めた。

そんな二人の姿を……

 

 

(ふふ……とってもお似合いだよ……二人とも……)

 

 

部屋の外から、にこやかな顔でルミアが覗き見ていた。

ルミアは穏やかな気持ちのまま、その場からコッソリと後にした―――

 

 

 




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