やる気なしの錬金術師   作:厄介な猫さん

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梅雨がきあなぁ······
てな訳でどうぞ


八十六話

「……着いたぜ!」

 

 

《炎の船》へと到達し、セリカドラゴンの背から飛び降り、メイン甲板に降り立ったグレンが叫ぶ。

《炎の船》は、言葉で表すなら、マストと帆のない巨大な戦列艦であり、使われている材質も一切不明の紅い石のような金属で造られており、表面全体に奇妙な幾何学紋様や文字がびっしりと刻まれている。

ここまで運んでくれたセリカは活動休眠状態に移行し、セリカを除く一行は先の構造物を目指して駆け出す。

誰もいない甲板をしばらく駆け続け、幾何学構造物の門が目前に迫ったその時―――門の傍に、人がいた。

 

 

「誰だ……ッ!?」

 

 

一目でもう死んでいるとわかるほど、左胸に大穴を開け、壁を背に倒れている人物は―――ジャティスだ。

グレンは驚愕しつつも、慎重にジャティスの遺体を検分していき……

 

 

「ジャティスだ……まごうことなき本人だ……」

 

「ほ、本当に……ッ!?」

 

 

信じられないとばかりに、言葉を失うシスティーナにグレンは頷いて肯定する。

魔人を一人で討つつもりだったのか、別の目的かはわからないが、確実なのはジャティスは間違いなく死んだということ。

ブレイクがいないのは少々気にはなるが、今は先に進むべく、一同は門をくぐって船の内部へと潜入する。

内部を少し進むと、一行はいつの間にか、壁も通路も床も無い、以前、タウムの天文神殿で通った《星の回廊》に似た奇妙な空間の中にいた。

ルミアがしずしずと前に出て……

 

 

「《門より生まれ出づりて・空より来たりし我・第一の鎖を引き千切らん》……」

 

 

不思議な響きの呪文を唱えた。

その直後、ルミアの祈るように組んでいた両手が銀色に輝き始め、そこから一本の、ナムルスが見せた《黄金の鍵》と瓜二つの、白銀に輝く“鍵”が現れる。

 

 

「―――応えてッ!《銀の鍵》ッ!」

 

 

ルミアがその《銀の鍵》を、何かを差し込むような仕草で前へと突き出して……くるりと回す。

すると、ガラスが砕けるような音と共に、空間がばらばらに砕け散り、ごくごく普通の通路となる。

目の前の人知を超えた現象に呆然とするなか、ルミアは“鍵”について説明していく。

この《銀の鍵》はナムルスが一日限定で使えるようにした、ルミアの真の力とのこと。

“空間を支配し、操る力”がこの《銀の鍵》にあること。

そして、この力についてはそれ以上はわからないとのこと。

この力を使って皆を命に代えても守る為に戦うとルミアは宣言するが……どこか、危うい。

そんな不安のなか、通路の奥からゴーレムの群れが押し寄せてきた。

ルミアは虚ろな瞳で、《銀の鍵》をゴーレム達に向けた……その時。

 

 

「やめて」

 

 

リィエルが、敵を見据えながら、ルミアの手を掴んでいた。

 

 

「よくわかんないけど……ルミア、お願い……もっと、自分を大事にして?」

 

「…………」

 

 

リィエルの懇願に対し、ルミアは……無言。

覚悟を決めた聖者のような顔をするだけだった。

そんなルミアを、リィエルは微かに痛ましく流し見て……

 

 

「わたしがやる」

 

 

その宣言と共に、リィエルはゴーレムの群れへと正面から突貫していった。

 

 

「くそッ!」

 

 

ウィリアムは直ぐ様、リィエルの援護行動へと移り、直ぐ様小銃(ライフル)を錬成し、雷加速弾と、具現召喚した数体の【騎士の誇り(ナイツ・プライド)・銃兵】による銃撃でリィエルを援護していく。

ゴーレム達を適当に蹴散らした後、船内の廊下を駆け抜けていくも、廊下の前後から隊列を組んだゴーレム達が迫ってきている。

前方のゴーレム達を、リィエルとグレンが、斬撃と拳打で一時的に足止めし、二人が離脱してすぐ、システィーナの真空の刃―――黒魔【エア・ブレード】とウィリアムが具現召喚した、帯電している甲冑騎士―――人工精霊(タルパ)騎士の誇り(ナイツ・プライド)・雷兵】の爆ぜる雷撃で、前方のゴーレム達を一気に殲滅する。

そのまま流れるように後方のゴーレム達へと振り向くと、ルミアが一人で、そっちへと歩み寄っていた。

 

 

「ルミアッ!下が―――」

 

 

グレンが警告を発しようとした―――その瞬間。

ルミアは《銀の鍵》を前に差し出し、がちり、と回すような仕草をする。

その瞬間、ゴーレム達がいる廊下の風景が、光の枠で長方形型に切り取られ、そのまま回転扉のように回転する。

回転が終わると、ゴーレム達だけが、その場から消え去っていた。

その“異常過ぎる力”にぽかんとしていると、ルミアが、彼らを異次元空間に追放したと説明する。

 

 

「……私も戦います。そして、皆を守ります。この命に代えても……」

 

 

そんなルミアに、グレンはもう《銀の鍵》を使うな、もっと俺達を頼れというも……

 

 

「それじゃ駄目なんです」

 

 

ルミアは頑なに聞かなかった。

 

 

「……私が……皆を助けないと……そのためなら―――」

 

「ルミア」

 

 

そんなルミアの言葉を、ウィリアムが若干、怒気が宿った声で遮る。

 

 

「お前は、自分が犠牲になって救えば、皆が喜ぶと本気で思っているのか?お前がいなくなった後、俺らやクラスの皆がどんな気持ちになるか、わかっていってんのか?」

 

 

ウィリアムの詰問に対し……

 

 

「…………」

 

 

ルミアは……無言。

その揺るぎない高潔な決意に満ちた表情を、一片足りとも変えなかった。

これ以上問答する暇はない為、ルミアを除く一同は苦い気分で先へと進んで行く。

先の戦闘から、敵の攻勢は嘘のように止まっている。

その不気味さに、一同は警戒しながら進んでいると……

 

 

「せ、先生っ!」

 

「どうした!?」

 

「すみませんっ!あの魔人は、《炎の船》内部の空間を自由に操れることを、今思い出したんです!!」

 

 

システィーナの警告で一同は気づいた―――ルミアがいなくなっていることに。

焦燥にかられるシスティーナをグレンが宥め、一同はルミアに追い付くため、再び駆け出し始める。

その頃―――

 

 

『―――その命、貰い受けるッ!』

 

「―――私が貴方を滅ぼします……この命に代えてもッ!!」

 

 

ルミアは一人、魔人と対峙し、激戦の火蓋を切っていた。

 

 

 




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