てな訳でどうぞ
とあるフェジテの週末、南地区商店街のさらに奥の奥。
迷路のように入り組んだ道の先にあるブラックマーケット街。そこにある一つの露店にシンプルな長袖の上着とズボンに身を包んだ少年が商品を物色していた。
「兄ちゃんこれなんかどうだい!?この腕輪、これはあのグラッツ魔術工房の―――」
「細部の作りが甘い。後、ルーン文字も適当な刻まれ方だ。完全なパチモンを本物と称して売りつけるな」
店主の言葉を少年―――ウィリアムはバッサリと切り捨てる。
「それより、このろ過器はいくらだ?見た限り相場一クレスの中古品だろ?」
「……兄ちゃんのような客はホント嫌いだよ」
店主はうんざりした表情でそう言い、渋々相場の値段でろ過器をウィリアムに販売する。
ウィリアムは購入したろ過器を懐に入れ、店を後にしていく。
ウィリアムが此処に来ているのは、貴重な魔術的な素材を目当てに訪れたのだが、目ぼしいものがなく、せっかくなので錬金術関連の道具を見て回ろうと思ったのだ。
ウィリアムは《詐欺師》時代、そういった道具は荷物となるため持ち歩く事はできず、道具は錬金術で使う時に用意し、その場で使い捨てていた。質の高い道具を錬成するために超有名な錬金術道具を解体するという、魔術師が見たら顔面が真っ青になる行為を平然と実行していた。
結果として、材料さえあれば高品質の錬金術道具を作れるようになっているのだから何とも言えないが……
ちなみにそれを売ったらそこそこいい値段で売れるだろうが、販売用に作るとなると色々と面倒な処理を施す必要もあり、ぶっちゃけ面倒なので実行することはないだろうが……
そんな感じでぶらぶらと見て回っていると、とある露店でよく見知った少女達を見かけたので、せっかくなので声をかけることにする。
「何してんだ、こんなところで?」
ウィリアムの呼び掛けに少女達―――私服に身を包んだシスティーナ、ルミア、リィエルが振り返る。
「あっ、ウィル」
「ウィリアム!!見てみなさいこれを!!」
システィーナは目を輝かせながら、その手に持った銅製の蒸留器をウィリアムに見せつける。
「これはあのセイラス魔術工房製アルカヘスト蒸留器よ!!今、値段交渉で一リルまで値切ってる途中なのよ!!」
確かにシスティーナが手に持っている蒸留器にはその証の刻印が刻まれているが……せっかくなので皮肉めいた言葉で伝える事にする。
「そうか、(社会勉強として)中々いい買い物になるんじゃないか?」
「ええ!!中古でも掘り出し物には間違いないからね!」
「そうだな。(パチモンだが)作り自体はいいからそれなりの品なのは確かだろうな」
「それなりじゃないわよ!!あのセイラス魔術工房製よ!?それなり以上で間違いないでしょ!!」
「あくまでも俺の主観だ。大事なのはお前がそれを判断する心だ(商品が本物かどうかは別だが)。人の意見が重要じゃないだろ?」
「確かにそうね。ウィリアムはどうやら物を見る目がなさそうだし、そういうのには無頓着みたいだしね」
「ハイハイ。(後で騙されたと知ったお前の気持ちは)俺には分からないことだよ」
「ふん!そこで指をくわえて見てなさい!!」
一見すれば噛み合っているように見える会話だが、実際には噛み合っていない。そんなずれている会話をウィリアムは内心で笑い、システィーナはそれに気づかず鼻を鳴らして打ち切り、再び店主との値段交渉に没頭していく。
「そういえばリィエル。その服と髪は……」
「ん、服は自分で選んだ。髪はシスティーナとルミアがやってくれた」
「……そうか、似合ってんぞ」
「ん!」
「ふふっ、良かったねリィエル」
システィーナが値切り交渉している間、ウィリアムはこの前買った服と靴―――白のブラウスに紺色のキャミソールワンピース、ボーンサンダルに身を包み、何時もは後ろで纏めている髪をおろし、頭にカチューシャを着けたリィエルに素直な感想を伝え、褒められたリィエルは目を僅かに細めて満足げにしていた。
そして、(パチモンの)セイラス魔術工房製のアルカヘスト蒸留器を一リル六クレスにまで値切ったシスティーナはホクホク顔で財布を取り出そうとしたので、ここで明かそうとウィリアムが口を開こうとした矢先―――
「……オッサン、ガキ相手にえげつない商売するなよ……」
背中に大きな風呂敷包を背中に抱えたグレンが呆れた声で止めに入った。
そのままグレンはその蒸留器はパチモンの相場五クレスの値段と言い切り、店主もそれを認め、システィーナの面子は見事に潰れるのだが……
「安心しろシスティーナ。それはお前が良い品だと思えば、それは間違いなくお前にとっては良い品だ」
「うるさい!!」
――――――――――――――――――――――――
システィーナの面子が見事に潰された後、グレンが女の子にプレゼントを買いに来たという事実に、システィーナとルミアは固まり、リィエルは……
「…………」
「……あー、うん。気持ちはわかるが……」
顔をむくれさせ、不機嫌そうにそっぽを向いており、ウィリアムはそんなリィエルの頭を撫でて宥めていた。
リィエルが不機嫌になった理由は、グレンにも感想を聞こうと、自身を見せびらかすようにグレンの前で回ったのだが、グレンは何してるんだ?とデリカシーゼロ発言をかましたからだ。
一先ず、システィーナとルミアは件の『女の子』が誰なのか、プレゼントを送る理由を確かめるためにグレンに付いていく事を決め、話を聞いたリィエルも……
「突き止めて……斬る」
「斬るなドアホッ!!」
妙に乗り気で物騒極まりない発言をかました瞬間、ウィリアムのツッコミと共に脳天に拳骨が振り下ろされる事となり、ウィリアムはリィエルの暴走阻止のために同行する事となった。
道中で話を聞くと、プレゼントは既に決まっており(その過程でリィエルの格好も褒めたのでリィエルは漸く機嫌を直した)、背中の風呂敷包はオーウェルからポーカーで巻き上げた発明品だそうだ。
「……危うく失敗しかねなかったけどな……」
グレンはそう言って、この間の出来事を思い出す―――
――――――――――――――――――――――――
―――ポーカーで絶賛連敗中のオーウェルは次の方法で勝負を挑もうとしていた。
「さあ、次の勝負は……カモォオオオオオオオンッ!!!!バタフライフィールド!!!!」
オーウェルの呼び声に応え、扉を開けて現れたのは―――
『ガッデムッ!!!』
警備官の制服に身を包んだあの時の悪夢の魔導人形、バタフライフィールドであった。
「バタフライフィールドには学習機能が搭載されているのだ!!ここからはバタフライフィールドにポーカーをやらせるぞ、グレン先生ぃいいいいいいい―――ッ!!!」
「ええー……」
オーウェルの説明に、グレンはひきつりながらもバタフライフィールドとポーカーを始める。
(ゲッ……全部ブタじゃねぇか……こうなったら捨て山から……)
グレンは手札が全部外れだったので、カードをすり替えようと―――
『……(ギロッ!!)』
―――したが、バタフライフィールドから何故か感じる鋭い視線に、グレンの背中から背中に嫌な予感が猛烈に駆け巡る。それで仕方なく、普通にカードを取り替えると……
『……未遂ダッタカラ制裁ノビンタハ勘弁シテヤル』
(うひぃッ!?完全に気づいてらっしゃる!?)
バタフライフィールドが明らかにイカサマに気づいている発言をした事で、もしあのまま、イカサマをすれば例のビンタが飛んでいたとグレンは内心でガクガクしていた。
そして、勝負は……
『フルハウス……ソウルフレンドノフラッシュヨリ上ダ』
「ウゲッ!?」
グレンの敗北であった。続く勝負では……
『……降リル。オレの手札デハソウルフレンドノ手札ニハ勝テナイ』
(嘘だろ!?七のフォアカードなのに、俺の手札がハートのストレートフラッシュだと見抜きやがった!!やべぇぞ!このままだと……ッ!)
予想外の強敵にグレンが頭をフル回転させて突破口を見出だそうとした矢先―――
『ムッ?ドウヤラ仕事ノ時間ノヨウダ。失礼スル……ガッデム!!』
バタフライフィールドは突然立ち上がり、部屋から出ていくのであった……
「…………」
「……さぁ、勝負だグレン先生ッ!!次はこの―――」
「いや、ツッコメよ!?」
――――――――――――――――――――――――
「……あれは本当に地獄だったな。うん」
遠い目で語るグレンに、一同は何とも言えない気分(約一名を除く)となる。そうして、プレゼント資金稼ぎのためのグレンの商売が始まるのだが……
「ん。買って。買わないと……」
「脅して売るのは犯罪だドアホォオオオオオオオ―――ッ!!」
「あう、痛い痛い」
リィエルは客に剣を突き立てようとして、それをウィリアムが実力行使で止めるという、実にいつも通りの光景が出来るのであった。
そんなこんなでオーウェルの発明品は完売。グレンは大量の金貨を持ち、そのままプレゼントを買う場所、オークション会場へと向かう。
そのオークション会場で……
「あ、ハートマン=レイアースト先輩!?」
「グレン=レーダス!!貴様、わざとやっているだろぉッ!?」
ハー………………レイ(?)に遭遇してしまう。ハー何とかもこのオークションに参加するようで、鼻を鳴らして彼らから去っていく。
そうしてオークションが始まり、既に破損したグラッツ魔術工房製の『月光のアミュレット』を―――
「「宣言――十リルッ(だッ)!!」」
グレンとハンレイ(?)が同時に宣言していた。二人は驚愕し、そのまま意地に近い形で競り合い始める。
その結果―――グレンはシスティーナに借金して『月光のアミュレット』を競り落とすことが出来た。
――――――――――――――――――――――――
―――結論から言えば、プレゼントを送る例の女の子はリンであった。
だが、恋愛関係ではなく、実はグレンが競り落とした『月光のアミュレット』は元々は彼女の大切な品で、先日ひったくりに盗まれた物だったそうだ。ブラックマーケットに流れたそれをグレンが探して買い戻した、というのが今回の真相であった。
リンは買い戻すのに使った金額を時間をかけて返すと申し出るも、グレンはタダ同然だったという嘘をついて断った。
その時、グレンに同意を求められたウィリアム達は……
「……?なんで?グレンは――むぐむぐ」
「確かになぁ。悪どい笑みで値切りまくっていたなぁ」
「そ、そうね!本当に先生は悪人なんだからっ!」
「う、うん!だから気にしなくていいと思うよ!リン!」
あっさりと喋ろうとしたリィエルの口をウィリアムが塞ぎつつ、平然と嘘をつき、システィーナとルミアも若干どもりながらも同意する。
そんな彼らに、リンは目を瞬かせながらも納得し、そのまま帰路へとつき、グレンの明日からのお昼ご飯はシスティーナ達からの差し入れになるのであった。
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