てな訳でどうぞ
グレンとセシリア、ギーゼンが日夜問わずにリィエルの霊魂の解析に尽力し、システィーナとルミアは図書館に籠ってエーテル関係の最新の論文を徹夜で読み進め、要点をまとめ上げていく。
ウィリアムも片っ端から医学関連の書物を読み上げ、手がかりを探しつつ、マナが抜けていくリィエルに限界までマナを供給し、終われば再び図書館の書物を読み漁る。
もちろん、彼らだけではない。
「彼女に必要な『アストラル・コード分離術式』回りは私が開発を進めよう……可愛い女の子を失うのは、人類の損失だからね」
「魔導演算器の機能拡張は、このオーウェル=シュウザーに任せるがいい!」
「これを持っていけ……勘違いするなよ?きっちり落とし前をつける前に、勝手に逝かれてはたまらんからなっ!!」
「頑張れよ、リィエルちゃん……」
「……勝ち逃げは許さないからな」
「大丈夫……大丈夫ですわ」
「早く、元気になって……」
「また、一緒に学院生活を過ごそうよ……」
「皆、待っとるけんな……」
「気合いで頑張ってください、リィエル先輩」
学院の者達も一丸となってリィエルを救うために尽力していくが、霊魂解析は遅々として進まず、時間だけが無情に過ぎていった―――
―――――――――――――――――――――
リィエルが倒れて丁度一週間。夜空に白く寒々しい月が輝く夜に、それは容赦なく告げられた。
「それは無理だ。諦めろ」
うず高く資料と文献が積み上がり、足の踏み場もない魔術式研究棟の一室で、学院にふらりと姿を現したセリカが、はっきりとウィリアムとグレンにそう告げた。
「なん……だとぉ……?」
「…………」
グレンはセリカにふらふらな足取りで歩み寄り、その胸ぐらを力なく掴み、ウィリアムは取り合っている暇はないと言わんばかりに、必死に資料に目を通し続けている。どちらの目元にも色濃い隈が出来上がっており、不眠不休であることが窺える。
「……お前達のやっていることは理論的に矛盾しているんだ……本当はもうとっくに気づいているんだろ?」
セリカが痛ましげに告げたその言葉に、グレンは膝を折り、手足をついて項垂れ、ウィリアムは身体を震わせながら資料に目を通し続けているが、その資料は所々、濡れたように滲み初めている。
本当はわかっている。リィエルを助けることは出来ないのだと。今やっているこの作業を例えるなら、ジクソーパズルの一ピースから、完成形を完全に再現するようなものだ。当然、最初から気づいていたが、それでも……諦めたくなかったのだ。
そして、グレンのやるせない咆哮が響き、ウィリアムも机に顔を埋め、嗚咽を洩らし始める。
「……グッ……ウゥ……アァ……ッ」
「何でなんだよ!?リィエルは漸く、日向の世界を歩み始めたのに……ッ!!」
二人のやるせない思いが部屋の中をしばらくの間支配し続けた……その時であった。
「全く……ピーピー泣いて情けないわね……」
その部屋に、どこか呆れを含ませながらイヴが入ってきたのは。
「……イヴ……?」
「……イヴの先公……?」
「本当に大馬鹿ね。グレンはまだしもウィリアムまでこんな無駄な行動に時間を費やすなんてね。それだけ今回の事に気が動転していたということでしょうけど」
「おい……少し黙れよ、お前」
腕を組んで未だに呆れた表情を見せるイヴに、セリカが地獄の底から響くような声色とともに睨み付ける。
「私はグレンを苦しめたお前の事が本当は大嫌いなんだ……それに、今は機嫌がすこぶる悪い……だからとっとと失せろ。物理的に消滅したくないならな」
並の人間なら即、死を覚悟させるセリカの圧倒的な殺界がこの場に形成され、机に突っ伏して眠っていたシスティーナとルミアもその重圧にたちまち目を覚まし、ただならぬ様子の室内で怯えることになる。
だが、その重圧をイヴは受け止めつつ、強気で鼻を鳴らして突っぱね、本題へと切り出した。
「貴方達が無駄な行動に時間を費やしている間に、私がか細いけど、リィエルを救う糸口を見つけてきてあげたわ」
イヴからもたらされた言葉に、その場の一同が驚愕の視線を一斉にイヴへと向ける。だが、セリカだけはイヴを睨み付けたままであった。
「おい、適当なことをぬかすなよ?……最初から全体像を知らない限り、ルミアのアシストを受けた私ですら不可能なこと何だぞ?」
「だったら、その全体像を最初から持ってくればいいだけでしょう?」
一見、突拍子のないイヴの言葉だが、ウィリアムは気付いたのか、目から鱗が落ちたような顔となってその可能性の道筋の言葉を口に出して呟く。
「まさか……シオンの研究データ……?」
「「「「!!」」」」
その呟きを聞いたグレン達は思い至ったように目を見開き、イヴは正解を言い当てたウィリアムに視線を移した。
「正解よ。それで、そのことについてなんだけど――」
イヴが話を進めようとした次の瞬間、乱暴に部屋の扉を開ける音が響き渡る。ウィリアム達は何かと思ってそちらに目を向けると、荒い息を吐いて扉の前にいたのはオーヴァイだった。
「大変です皆さん!!突然、軍人のような人達が押し掛けてきて、リィエル先輩をどこかに連れて行こうとしているんです!!」
オーヴァイのその言葉に、グレンは焦燥を露に猛然と部屋から出ていき、ウィリアムもそれに付いていこうとするが、立ち上がった瞬間、その場でよろめいて膝をついてしまう。それでも立ち上がってグレンの後を追いかけようとするも……
「止めときなさい。貴方、グレン以上に無茶をしていたのでしょ?そんな状態で向かっても迷惑なだけよ」
イヴが厳しい声でウィリアムを引き留めた。イヴの言う通り、リィエルが倒れてから殆ど徹夜で動き続け、リィエルにマナの供給もしていたのだからある意味当然であった。
ウィリアムもそれが頭でわかっていながらも、身体を引きずるように歩いてリィエルの下へと向かおうとする。そんなウィリアムにイヴは本当に呆れたように溜め息を吐き、ウィリアムの肩を掴んで引き留める。ウィリアムはイヴの手を振りほどこうとするも力が思うように入らず振りほどけないでいる。
「……そこの貴女。確かオーヴァイという名前だったわよね?どうして押し掛けてきた人達が軍人だと思ったのかしら?」
「えっと、それは……あの人達が来ていた服がアルベルトさんや以前イヴ先生が来ていた礼服と同じだったので……」
イヴの質問に答えたオーヴァイのその言葉に、イヴは思案顔となり、やがて、不敵な笑みを浮かべた。
「もしそうなら好都合だわ……オーヴァイ、貴女はそこの疲労困憊の馬鹿をここで見張って起きなさい。セリカ=アルフォネアは一緒に来てもらうわ」
「おい、小娘……この私を顎で使おうとするとはいい度胸じゃないか……」
「これはリィエルを救うために必要なことよ。もしあの男がここに来ているなら、リィエルの
「…………」
イヴからもたらされた言葉に、セリカは不機嫌極まりない顔で無言を貫く。イヴはそのダンマリを了承と受け取り、セリカと一緒に部屋を出ていく。
一連を見守っていたシスティーナとルミアも、ウィリアムのことを心配しつつも、今はリィエルの方が心配なのでイヴ達の後を追って部屋を出ていく。部屋に残ったのはウィリアムとオーヴァイだけとなった。
「…………」
「……先輩、無茶し過ぎですよ……いつもの先輩でしたら多分、とっくにグレン先生と一緒となって向かっている筈ですから……」
「…………」
「それに、気づいてましたか?ウィリアム先輩がリィエル先輩にマナを送っている間のリィエル先輩の顔、すごく辛そうなお顔でしたよ?」
「!?」
オーヴァイが告げたその言葉に、ウィリアムは鈍器で頭を殴られたかのような衝撃を覚える。
「日に日に酷くなっていくお顔を見せたら誰だって心配になりますよ……気持ちはわかりますけど、ちゃんと自分の事も考えて下さい。先輩がそれで倒れたら本末転倒もいいところですし」
「……ワリィ……」
オーヴァイに諭された事で、ウィリアムはその場で崩れ落ちて項垂れ、そのまま時間が過ぎていく。どのくらいたったのか、沈黙が支配していた部屋にイヴとグレンが戻って来た。
「どうやらちゃんと大人しくしていたようね?今から場所を変えるけど、動けるかしら?」
イヴのその言葉に、ウィリアムはふらつきながらも両足で立ち上がり、行動で示す。それを見たイヴは目を見開いていたグレンとウィリアムを連れて部屋を後にし、オーヴァイはイヴに論されて仕方無く彼らと別れた。
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