やる気なしの錬金術師   作:厄介な猫さん

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だんだん寒くなってくる頃ごろ······
てな訳でどうぞ


百二十話

イヴに連れられたグレンとウィリアムは校舎裏の雑木林が茂る薄暗い空間に来ていた。そこでリィエルが新しく配属された特務分室の者達に連れて行かれたと聞かされたが、ウィリアムは沸き上がる激情を押し殺して話を促す。

イヴも話を切り出し、軍が押収したシオンの研究データ―――通称『シオン・ライブラリー』が軍の資料室からごっそりと消えており、誰かに横流しした可能性が高く、その証拠は握り潰されて存在しないことを伝える。

 

 

「……サイラス=シュマッハか?」

 

 

グレンのその言葉に、イヴは頷いて肯定する。

 

 

「ええ。元・宮廷魔導士団、魔導技術開発室室長にして、現在の特務分室の室長であるサイラスがシオン・ライブラリーを独占している可能が高い。限りなく黒に近いグレーでね」

 

 

イヴはそのまま、サイラスはかつて訪れたサイネリアの白金魔導研究所の魔導技術開発派遣武官であったことも明かしていく。

明らかに臭すぎる人物だが、今はそこを議論すべき状況ではない。話を聞く限り、グレンがサイラスの取引に応じなければ、リィエルの霊域図版(セフィラ・マップ)を手に入れることは出来ないという事実と、その取引の内容が女王暗殺を目論み、バーナードとクリストフを殺害したアルベルトの討伐という、聞けば信じられない内容だったからだ。

リィエルが倒れた時期と同じ時期で何故そんな行動に出たのかは分からない。だが、リィエルはグレンを従わせる人質として同行させるとサイラスは言っていたそうだ。

だが、ウィリアムはそこで疑問が浮かび上がった。

 

 

「グレンの先公を従わせるためだけなら……何故、霊域図版(セフィラ・マップ)を最初から掲示しなかったんだ……?」

 

「あ……ッ!い、言われてみれば……ッ!?」

 

「ようやく調子を取り戻したようねウィリアム。そう、従わせるだけならリィエルの霊域図版(セフィラ・マップ)を掲示するだけで十分なのよ。ここで仮説。サイラスがシオン・ライブラリーを持っているとしたら、リィエルが倒れる時期も容易に予測出来る筈よ」

 

「そうだな。リィエルの正体と、それを読み解く専門知識があれば、それくらいは可能だろう」

 

「加えて、このタイミングでの討伐任務……あまりにも状況が出来すぎている」

 

「ええ。おそらくリィエルを中心に何かがある筈よ。そして、そこに突破口があるのも理解出来るでしょ?」

 

 

イヴのその言葉に、グレンは何故か納得したような顔へと変わる。

 

 

「成る程な……何で過労で意識を失って倒れたと聞いたウィリアムがもう目覚めたのかと思っていたんだが……そういう事だったんだな」

 

「そうよ。あそこで嘘をついたのは自由に動ける戦力を確保するため。なら、もうすべきことは決まっているでしょう?」

 

 

グレンが部屋に来た時の驚いた理由がわかり、イヴの用意周到さにグレンとウィリアムは脱力するしかない。

 

 

「まずは真実を見極める。俺は連中の傍で真実を探り、ウィリアムは裏で動いて探っていく……そうなんだろ?」

 

「だったら、やるしかないな……」

 

 

強い瞳を宿したグレンとウィリアムに、イヴは奇妙な事を言い出した。

 

 

「……さて、私も色々と準備しないとね」

 

「……え?」

 

「は……?」

 

「……何よ?二人してそんな目で私を見て」

 

「いや、その……ひょっとしてお前、着いてくる気なのか?」

 

 

二人の意外そうな表情に、イヴはしかめっ面で答える。

 

 

「当然よ。今のウィリアムには手綱を握る人物が必要でしょうし、疲労も相当溜まっているのも事実なのよ?準備なんて出来そうにないし、また暴走したら本末転倒もいいところでしょ?」

 

「うぐ……ッ」

 

 

イヴのもっともな指摘にウィリアムはたじろいでしまう。オーヴァイの指摘で幾ばくか落ち着いたが、また暴走しないとも限らないとも分かるから言い返せない。

その後、グレンが失礼な事を言ってイヴの爆炎に吹き飛ばされ、こっそり後をつけ、盗み聞きしていたシスティーナとルミアの同行も決まる。そして……

 

 

「っと、そうだウィリアム。忘れるところだった」

 

 

グレンはそう言ってズボンのポケットに手を入れ、何かを取り出してウィリアムに渡す。

 

 

「これは……!」

 

 

グレンが渡したのは、あの時リィエルにプレゼントした白銀竜を模したペンダントだった。

 

 

「ああ。俺が回収しておいた。今のリィエルの手元に置いていたら連中に捨てられる可能性が高いし、俺よりお前が持ってた方がいいだろしな」

 

「ああ……ありがとよ先公……」

 

 

ウィリアムはペンダントを左手で強く握り絞め、改めてリィエルを救うことを強く誓うのであった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

―――翌日の日も上りきっていない早朝、魔術学院の中庭にて。

そこには旅支度を整えてイヴ、ウィリアム、システィーナ、ルミアの四人が集まっていた。

そして、イヴが手に持つ水晶玉から窓のようから送られてくる映像―――担架に拘束され、貨物運搬用の神鳳(フレスベルグ)に積載されようとしているリィエルの姿に、お馴染みの紺の外套を身に纏ったウィリアムは拳に血が滲まんばかりの力を込めて握りしめていた。

 

 

『……ぐ、れん…………わたし……を……どこに……つれて……いく……の……?…………うぃる……は……どこに……いる……の……?』

 

『心配するな!ゆっくり寝てろッ!必ず助けてやるから、今はゆっくり休んでろッ!俺()を信じてくれ!!』

 

『…………ん……』

 

 

イヴと仮サーヴァント契約をし、イヴの使い魔になっているグレンの言葉に安心したように、不安げだったリィエルはゆっくりと目を閉じて……再び深い眠りについた。

 

 

「…………」

 

 

その映像を前に、ウィリアムはあの時の―――二人を救えなかった時の無力感が襲いかかり、歯を食いしばって身体を震わせる。

 

 

「ウィリアム……」

 

「ウィリアム君……」

 

 

そんなウィリアムをシスティーナとルミアは不安そうに見詰め、イヴは特に何も言ってこない。興味がないのではなく、下手な言葉は逆に追い詰めるのと、ウィリアム自身が冷静になろうと努めようとしていると分かっているから、敢えて何も言わないのだ。

その間も映像は流れ続け、サイラスがグレンに白々しい謝罪をしてきている。

 

 

『―――俺達とは学院の人達のことですかね?あんな生徒に負担をかける方法を取らなくても、こちらで彼女の延命措置は用意していましたのに』

 

 

リィエルは現在、セシリアが組んだ術式によって遠隔のマナ供給を受けている。セシリアが過労で倒れた今、術式の制御はセリカとギーゼンが担当し、生徒達が必死にリィエルに自分達のマナを送っている状態である。

サイラスの言葉にグレンは信用できないと言って突っぱねるが、サイラスの口から最初からリィエルが倒れることを知っていたと匂わせる発言を洩らしたことでますます疑いが強くなる。

そして、グレン達はアルベルトが潜伏している場所―――東部カンターレの遺跡都市マレスに向かって神鳳(フレスベルグ)を飛ばして行く。

 

 

「さて……私達もいきましょう」

 

 

それを確認したイヴが水晶玉の映像を切り、澄まし顔でポケットへとしまう。

 

 

「で、でも、どうやって先生達を追うんですか……?」

 

「馬車で追いかけたんじゃ、到底間に合わない……」

 

 

あまりに的外れなことを言うシスティーナとルミアにウィリアムは脱力。イヴは呆れたように溜め息を吐いた後―――

 

 

「《いざ来たれり・翼持つ誇り高き風の朋友(ほうゆう)・我汝の契約を此処に果たせ》――」

 

 

呪文を唱えながら右手で複雑な印を結び、その右手を地面につけて、自身の神鳳(フレスベルグ)を召喚する。

こうして、ウィリアム達はイヴの神鳳(フレスベルグ)に乗ってグレン達の後を追いかけて行った。

 

 

「―――っきゃああああああああああああああああああーーッ!?」

 

 

……システィーナの悲鳴を聞き流しながら。

 

 

 




書き加減が難しい······
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