てな訳でどうぞ
グレンから指示を受けた翌日。
ウィリアム達は先回りして、遺跡都市マレスの都市区画北側の崩れかかっている古代塔の中腹に降り立ち、拠点を構えており、ウィリアムは今得ている情報を整理していた。
(まず、この騒動の起点となっているのはアルベルトの女王陛下暗殺未遂と、リィエルのエーテル乖離症を患ったこと……)
ウィリアムはそう考えながら二つの石ころを置く。
師匠曰く、「戦場と敵地で考える時は頭の中、拠点で考える時は盤上のようにして考えるのが吉」との事。なのでこうして石ころを情報に見立てて整理していく。
(続いて、サイラス達の編成は調査目的の編成を、討伐目的を加えて再編成したようなもの……)
ウィリアムは新たに石ころを地面に置く。
(そして、初日の出発の言動からリィエルが倒れる事は既に予期していた……にも関わらず、リィエルを無理矢理連同行させた……)
奥底から激情が沸き上がって来るが、ウィリアムは深く息を吐いて気持ちを静め、更に三つの石ころを置く。
(サイラスはグレンが裏切らない保険と言っていたが、リィエルの
ウィリアムはそう思案しながら、石ころを一つ弾き飛ばす。
(そして、イヴの先公の遠見の魔術の確認だと、アルベルトは“復活の神殿”と呼ばれる神殿の天辺の屋上に堂々と佇んでいた……)
マレスの中心地にある巨大な台形型神殿にアルベルトは隠れるのではなく、待ち構えているかのような行動に、ウィリアムは一つの可能性に至り始める。
(……だが、まだピースが足りない。そして、イヴの先公から聞いたグレンの先公の指示……)
その指示の結果次第では―――真相が一気に見えてくる筈だ。
イヴのその調査結果を待つ間、ウィリアムは自身の装備の点検と整備に時間を費やす事にする。
ウィリアムは今、とある理由からイヴ達と少し距離を置いており、現在の情報収集には不参加だからだ。
そんなわけでしばらく自身の武器の点検をしていると……
「……本当に、魔術師らしくない装備ね」
《詐欺師の盾》を点検していたウィリアムの背後から、イヴの呆れた声が聞こえてくる。ウィリアムがイヴ達から離れる際、グレンの要件の結果がわかったら呼んでくれと言っていたので、その結果が出たということだ。
「……イヴの先公。グレンの先公の指示の結果、どうだった?」
本当に一方的な聞き方にイヴは盛大に溜め息を吐きながら、その結果を伝える。
「……グレンの睨んだ通りだったわ。ホントッ、普段は鈍感なのにここぞという時は鋭いんだから……」
イヴはそのまま、グレンの指示からの調査結果を伝え、一緒に来ていたシスティーナとルミアと共に状況証拠から一つの結論にへと至る。
「……つまり、あの人達の目的は初めからリィエルだったということね……」
「ああ。そして、連中にはその瞬間までは手出しが出来ず、好き勝手させるしかないこともな」
ウィリアムは声色こそ静かだが、拳を強く握りしめている辺り、相当悔しいことが窺える。
「ウィリアム。わかってるとは思うけど……」
「わかってる。その時は絶対に暴走しない。リィエルの命がかかっているんだ。そんなヘマをして取り零すなんて、あまりにも情けなさ過ぎるだろ」
ウィリアムのその力強い決意の言葉に、イヴは内心で臭いセリフだと呆れながらも心配ないと判断して話を進める。
「……わかってるとは思うけど、相手はとんでもない強敵よ。それに気づいた今でもまだ信じられないくらいだから」
「だろうよ。俺だって同意見だし、おそらく近づいたら終わりのレベルだと思うぞ」
「そうね。あの男がこんな愚策しか取らないという事は、その可能性は十分にあり得るわね」
あの男―――アルベルトは間違いなくグレン達の存在に気づいている筈だ。
にも関わらず、一切動かず、ただ“待っている”だけというのはそれだけ危険な相手だという可能性は十分にあり得る話なのだ。
「一番確実なのは“食らわない”こと。どんな強力でも仕掛ける対象に向かなかったら、空振りに終わるだけだからな」
「だけど、やり合う以上、こちらの存在は間違いなく攻撃の時点で認識される。それは避けて通れない道だけど……」
イヴはそう言って、右手の人差し指に小さな炎を灯す。
「今ある手札を上手く使えば連中を出し抜くことが出来る筈よ。こちらの手札も明かすからウィリアムも手札を明かしなさい。この状況で有効に使える手札をね」
イヴのその言葉に、ウィリアムは仕方ないと頷き、有効な手札を何枚か明かし、イヴも自身の秘密の手札を明かしてリィエル救出の作戦を立てていくのであった。
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作戦の概要が大まかに決まり、日が沈み、討伐隊に参加していたグレンと、拠点で待機していたサイラスとイリア以外がアルベルト一人に全滅したその日の夜。
全滅からそう時間を置かず、グレンは今度は単身でアルベルトに挑んでいた。
グレンの
互いの手の内を知りつくした二人。その二人が激しくぶつかりあう。
グレンとアルベルトが激突する最中―――
「……では行きますよ」
サイラスと二十代前後の黒髪の女の魔導士が手足を拘束したリィエルを抱えて、“復活の神殿”へ向かって密かに移動し始め……
「こちらも手筈通り行くわよ。絶対に勝手に動かないで頂戴」
「ああ」
同時にウィリアム達もリィエルを救う為に動き始める。
ウィリアムにとって、絶対に負けられない戦いが再び幕を開ける―――
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