やる気なしの錬金術師   作:厄介な猫さん

171 / 215
てな訳でどうぞ


百二十三話

互いを知り尽くしたギリギリの駆け引きの戦い。その戦いを制したのは―――

 

 

「やっと射程に捉えたぜ、この野郎」

 

 

アルベルトが本気の狙撃で対象を殺す時の癖を見事に読み切ったグレンであった。

 

 

「言っておくが……俺は近接格闘戦でも強いぞ?」

 

 

【愚者の世界】の効果範囲内にアルベルトを捉え、帝国式軍隊格闘術の構えをとるグレンに、アルベルトは東方の武術の構え―――骨法の構えをとる。

そして、二人の男は互いの信念と覚悟を乗せて殴り合う―――

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

グレンとアルベルトが怒涛の格闘戦を繰り広げる中、サイラス達は“復活の神殿”の内部―――ドーム状の祭儀室に辿り着いていた。

サイラスはその部屋の中央にある、左右に黒いモノリスが聳え立つ祭壇の上にリィエルを横たわせ、慣れた手つきでモノリスを操作、祭壇部屋の何かを起動していく。

 

 

「件のアストラル・コードは?」

 

「すでに導入(インストール)済みだ。……想定よりも素体(リィエル)への定着が上手くいかなかったが問題ない。許容範囲内だ」

 

「そうですか……」

 

 

そんなやり取りをしながら、サイラスと魔導士の女は次々と作業を終わらせていき、サイラスは懐から魔晶石を取り出し、リィエルの胸部に載せる。

すると、その魔晶石は、リィエルの体内へと埋没していき、サイラスが高らかに呪文を唱えると、魔晶石から無数の光の線が四方に放たれ―――リィエルの霊域図版(セフィラ・マップ)が展開される。

 

 

「ふふ、本当に美しい霊域図版(セフィラ・マップ)だ……」

 

「シオン=レイフォード……やはり稀代の天才だな。研究の過程で『原初の魂』の複製に至っていたとはな」

 

「さぁ、始めましょう―――英霊再臨の儀である心霊手術をッ!!」

 

 

サイラスは高ぶった気分のまま、同伴していた魔導士の女と共に、作業を再開しようとした―――その瞬間。

 

轟ッ!!

 

灼熱の業炎が、サイラスと魔導士の女の前に立つモノリスを包むように燃え上がった。

 

 

「なぁ―――ッ!?」

 

「―――ッ!?」

 

 

サイラスと魔導士の女はその灼熱の業炎から飛び下がった瞬間―――

 

ドパパパパパパパパパンッ!!!

 

銃声の音が連続で鳴り響き、再び咄嗟にサイラス達は横に飛ぶと、サイラス達がいた場所を幾つもの銃弾が通過していき、壁やモノリスにぶつかっていく。

勿論、この神殿には霊素皮膜処理(エテリオ・コーティング)が施されているため、破壊されることがないが―――モノリスが炎に包まれたせいで作業が出来なくなる。

そんな祭儀室の出入り口から二人の声が響き渡る。

 

 

「ようやく出したわね、リィエルの霊域図版(セフィラ・マップ)を……」

 

「ようやく、この茶番劇にケリがつけられるな……」

 

 

そう言ってサイラス達の前に姿を現したのは……

 

 

「イヴ!?イヴ=イグナイト!?」

 

「《詐欺師》ウィリアム=アイゼン……お前は過労で倒れた筈では……」

 

 

悠然とした態度でサイラス達へと歩むイヴと、二丁の拳銃を構えてイヴと同じくサイラス達へと近づくウィリアムであった。

 

 

「リィエルは返してもらうわ!!」

 

「これ以上、貴方達の好きにはさせません!!」

 

 

続いてシスティーナとルミアが通路奥から駆け寄り、ウィリアム達に並び立つ。

彼らが対峙した直後、()()()()()()()()()()()()が息せき切って、現れる。彼女はそのままイヴの横に並び立ち、サイラスに怒りの目を向けて糾弾するも―――

 

 

「ねぇ、イリア。―――そういう茶番はもういいの」

 

 

イヴが無表情で後輩のイリアの肩に右手を置き、炎熱系魔術を遅延起動(ディレイ・ブート)する。

たちまち起動した炎の魔術は後輩のイリアを呑み込んでいき、後輩のイリアの叫び声が木霊するが、その途中で、彼女の姿が揺らめいて歪んでいき、まるで始めから存在しなかったかのように消えていったのだ。

 

 

()()()()()()……当時、《月》の席は空席だったことをね」

 

 

イヴはそう言って魔導士の女―――状況からして本物の《月》のイリア=イルージュに鋭い視線を送る。

本物のイリアはご名答と答え、自身の固有魔術(オリジナル)―――月の光を触媒に世界そのものに幻術を仕掛ける究極の幻術【月読ノ揺リ籠(ムーン・クレイドル)】の効力を説明する。

 

 

「しかし、見事だ。よくぞ私の幻術を見破った。流石は元・《魔術師》―――」

 

「違うわ。最初に見破ったのはグレンよ」

 

「……何?」

 

 

イヴはそう言ってイリアに、グレンとセラの絆を土足で踏みにじったこと、違和感に気づいたグレンの指示で監視対象をリィエルに変え、リィエルの霊魂に妙なアストラル・コードが導入されているのに気付き、それを霊的に介護している後輩のイリアがその異変に気付かない筈がないから、後輩のイリアの存在を疑ったのだと告げる。

ウィリアムがイヴ達から距離を取ったのは、リィエルそのものの監視で冷静さを保てるか、自分でも不安だったからである。

それらの状況証拠と、この“復活の神殿”の成り立ちから、サイラス達の目的がリィエルを使って、誰かを蘇生するのだと見抜き、それを糾弾してサイラスに素性を問い質すと、サイラスは余裕の笑みで答えた。

 

 

「私の本当の肩書きは、蒼天十字団(ヘヴンス・クロイツ)。その団長です。そして、『Project:Revive Life』―――これはもう、我々の中では確立された技術なのですよ」

 

 

サイラスのそんな言葉をシスティーナはすぐに否定するも、以前からその可能性に至っていたウィリアムはトーンを落とした声で答えあわせをする。

 

 

「……バークスの研究とルミアの異能だな?」

 

「「!?」」

 

「正解ですよ。彼の研究で抽出したルミアさんの異能でね。勿論、劣化複製したものですが」

 

 

ウィリアムの言葉にサイラスはあっさりと肯定し、ルミアから抽出、複製した劣化異能―――《僭主の法(パラ・アルスマグナ)》によって自分達が完成させた『Project:Revive Life』の重大な欠陥―――霊的な拒絶反応による崩壊と、それを解決するのが、リィエルの霊魂が高精度で再現された『原初人類の霊魂』―――『パラ・オリジンエーテル』であることを嬉々として語り、この儀式を以て真の完成を果たすと言う。

リィエルの人格と記憶が消えること―――リィエルの『死』―――を些細だと言い切り、壊れた哄笑を上げ続けるサイラスに、ウィリアムは鬼の形相で睨み付ける。

 

 

「……させると思うのかよ?」

 

 

地獄の底から響くような声を滲ませ、ウィリアムは両手の拳銃の銃口をサイラス達に向ける。イヴも右手を突きだし、システィーナ達も左手を突きだして臨戦体勢へと移る。

 

 

「……ククッ……本当に滑稽ですね……ねぇ、イリア?」

 

 

サイラスが余裕を崩さずにそう言うと同時に、イリアが無言で手を振るう。

その瞬間、世界がガラスのように割れていき、ウィリアム達は虚無の虚空へと呑まれていく。

そうして、再び世界が形を取り戻すと、既に儀式が始まっている光景が広がっていた。

 

 

「ッ!?」

 

「残念でしたねぇ!?儀式はとっくに始まっていたんですよ!!そして―――」

 

 

サイラスの言葉を無視して、ウィリアム達が祭壇へ駆けつけようとした瞬間、ウィリアム達の目が虚ろとなり、その場で跪いしまう。

 

 

「……油断したな。【月読ノ揺リ籠(ムーン・クレイドル)】は通常の幻術と同じように個人にもかけられる。この場合は月の光の触媒は必要ない。そして、“あらゆる精神防御を貫通する”この幻術から逃れることは不可能だ」

 

 

人差し指に灯す白い光を掲げ、感慨なくウィリアム達を見下ろすイリア。

沈黙したまま、微動だしないウィリアム達に、サイラスは悠然と歩み寄り―――

 

 

「栄光の礎となって……死ねぇええええええええええええええええ―――ッ!!!」

 

 

引き抜いたナイフをイヴの後頭部へと容赦なく降り下ろした―――

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

眠い。

わたしの意識を蝕む眠気が、暴力的なまでにわたしを襲い、ボロボロの崩れかけであるわたしの大好きな世界をひめの身体から広がっている……たぶん、ひめの世界が塗り替えていっている。

このままだと、わたしの大好きな世界は消えてなくなって……たぶん、わたしも消えてしまうだろう。

 

 

「……ごめん……本当にごめんね、リィエル。ボクも抑えようとしているんだけど…………今のボクは複製された記録情報(アストラル・コード)に過ぎないから……命令に抗えないんだ……」

 

 

ひめはわたしを抱きしめたまま、本当に申し訳なさそうに、辛そうに、謝り続けている。

だけど、まだ、わたしに命を送ってくれている大好きなクラスメートの皆の声が聞こえてくるから。

わたしの大好きな友達が近くにいることが、確かに感じられるから。

わたしの大好きなあの人が、今もきっと、わたしを助けるために戦ってくれているから。

そして―――わたしの世界にいた、一番大好きな彼の存在が近くに感じられ、絶対に助けるという強い想いが伝わり続けているから。

 

 

「だから……大丈夫」

 

 

わたしは眠気をこらえながらそう言って、この世界にある、彼からの贈り物を握りしめる。

 

 

「そう……なら、ボクも一緒に信じるよ。キミの大好きな人達を……キミの一番大好きな彼のことを」

 

「ん……」

 

 

そう言って、わたしとひめは互いの存在を確かめ合うように抱きしめ続けた―――

 

 

 




感想お待ちしてます

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。