互いを知り尽くしたギリギリの駆け引きの戦い。その戦いを制したのは―――
「やっと射程に捉えたぜ、この野郎」
アルベルトが本気の狙撃で対象を殺す時の癖を見事に読み切ったグレンであった。
「言っておくが……俺は近接格闘戦でも強いぞ?」
【愚者の世界】の効果範囲内にアルベルトを捉え、帝国式軍隊格闘術の構えをとるグレンに、アルベルトは東方の武術の構え―――骨法の構えをとる。
そして、二人の男は互いの信念と覚悟を乗せて殴り合う―――
――――――――――――――――――――――――
グレンとアルベルトが怒涛の格闘戦を繰り広げる中、サイラス達は“復活の神殿”の内部―――ドーム状の祭儀室に辿り着いていた。
サイラスはその部屋の中央にある、左右に黒いモノリスが聳え立つ祭壇の上にリィエルを横たわせ、慣れた手つきでモノリスを操作、祭壇部屋の何かを起動していく。
「件のアストラル・コードは?」
「すでに
「そうですか……」
そんなやり取りをしながら、サイラスと魔導士の女は次々と作業を終わらせていき、サイラスは懐から魔晶石を取り出し、リィエルの胸部に載せる。
すると、その魔晶石は、リィエルの体内へと埋没していき、サイラスが高らかに呪文を唱えると、魔晶石から無数の光の線が四方に放たれ―――リィエルの
「ふふ、本当に美しい
「シオン=レイフォード……やはり稀代の天才だな。研究の過程で『原初の魂』の複製に至っていたとはな」
「さぁ、始めましょう―――英霊再臨の儀である心霊手術をッ!!」
サイラスは高ぶった気分のまま、同伴していた魔導士の女と共に、作業を再開しようとした―――その瞬間。
轟ッ!!
灼熱の業炎が、サイラスと魔導士の女の前に立つモノリスを包むように燃え上がった。
「なぁ―――ッ!?」
「―――ッ!?」
サイラスと魔導士の女はその灼熱の業炎から飛び下がった瞬間―――
ドパパパパパパパパパンッ!!!
銃声の音が連続で鳴り響き、再び咄嗟にサイラス達は横に飛ぶと、サイラス達がいた場所を幾つもの銃弾が通過していき、壁やモノリスにぶつかっていく。
勿論、この神殿には
そんな祭儀室の出入り口から二人の声が響き渡る。
「ようやく出したわね、リィエルの
「ようやく、この茶番劇にケリがつけられるな……」
そう言ってサイラス達の前に姿を現したのは……
「イヴ!?イヴ=イグナイト!?」
「《詐欺師》ウィリアム=アイゼン……お前は過労で倒れた筈では……」
悠然とした態度でサイラス達へと歩むイヴと、二丁の拳銃を構えてイヴと同じくサイラス達へと近づくウィリアムであった。
「リィエルは返してもらうわ!!」
「これ以上、貴方達の好きにはさせません!!」
続いてシスティーナとルミアが通路奥から駆け寄り、ウィリアム達に並び立つ。
彼らが対峙した直後、
「ねぇ、イリア。―――そういう茶番はもういいの」
イヴが無表情で後輩のイリアの肩に右手を置き、炎熱系魔術を
たちまち起動した炎の魔術は後輩のイリアを呑み込んでいき、後輩のイリアの叫び声が木霊するが、その途中で、彼女の姿が揺らめいて歪んでいき、まるで始めから存在しなかったかのように消えていったのだ。
「
イヴはそう言って魔導士の女―――状況からして本物の《月》のイリア=イルージュに鋭い視線を送る。
本物のイリアはご名答と答え、自身の
「しかし、見事だ。よくぞ私の幻術を見破った。流石は元・《魔術師》―――」
「違うわ。最初に見破ったのはグレンよ」
「……何?」
イヴはそう言ってイリアに、グレンとセラの絆を土足で踏みにじったこと、違和感に気づいたグレンの指示で監視対象をリィエルに変え、リィエルの霊魂に妙なアストラル・コードが導入されているのに気付き、それを霊的に介護している後輩のイリアがその異変に気付かない筈がないから、後輩のイリアの存在を疑ったのだと告げる。
ウィリアムがイヴ達から距離を取ったのは、リィエルそのものの監視で冷静さを保てるか、自分でも不安だったからである。
それらの状況証拠と、この“復活の神殿”の成り立ちから、サイラス達の目的がリィエルを使って、誰かを蘇生するのだと見抜き、それを糾弾してサイラスに素性を問い質すと、サイラスは余裕の笑みで答えた。
「私の本当の肩書きは、
サイラスのそんな言葉をシスティーナはすぐに否定するも、以前からその可能性に至っていたウィリアムはトーンを落とした声で答えあわせをする。
「……バークスの研究とルミアの異能だな?」
「「!?」」
「正解ですよ。彼の研究で抽出したルミアさんの異能でね。勿論、劣化複製したものですが」
ウィリアムの言葉にサイラスはあっさりと肯定し、ルミアから抽出、複製した劣化異能―――《
リィエルの人格と記憶が消えること―――リィエルの『死』―――を些細だと言い切り、壊れた哄笑を上げ続けるサイラスに、ウィリアムは鬼の形相で睨み付ける。
「……させると思うのかよ?」
地獄の底から響くような声を滲ませ、ウィリアムは両手の拳銃の銃口をサイラス達に向ける。イヴも右手を突きだし、システィーナ達も左手を突きだして臨戦体勢へと移る。
「……ククッ……本当に滑稽ですね……ねぇ、イリア?」
サイラスが余裕を崩さずにそう言うと同時に、イリアが無言で手を振るう。
その瞬間、世界がガラスのように割れていき、ウィリアム達は虚無の虚空へと呑まれていく。
そうして、再び世界が形を取り戻すと、既に儀式が始まっている光景が広がっていた。
「ッ!?」
「残念でしたねぇ!?儀式はとっくに始まっていたんですよ!!そして―――」
サイラスの言葉を無視して、ウィリアム達が祭壇へ駆けつけようとした瞬間、ウィリアム達の目が虚ろとなり、その場で跪いしまう。
「……油断したな。【
人差し指に灯す白い光を掲げ、感慨なくウィリアム達を見下ろすイリア。
沈黙したまま、微動だしないウィリアム達に、サイラスは悠然と歩み寄り―――
「栄光の礎となって……死ねぇええええええええええええええええ―――ッ!!!」
引き抜いたナイフをイヴの後頭部へと容赦なく降り下ろした―――
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眠い。
わたしの意識を蝕む眠気が、暴力的なまでにわたしを襲い、ボロボロの崩れかけであるわたしの大好きな世界をひめの身体から広がっている……たぶん、ひめの世界が塗り替えていっている。
このままだと、わたしの大好きな世界は消えてなくなって……たぶん、わたしも消えてしまうだろう。
「……ごめん……本当にごめんね、リィエル。ボクも抑えようとしているんだけど…………今のボクは
ひめはわたしを抱きしめたまま、本当に申し訳なさそうに、辛そうに、謝り続けている。
だけど、まだ、わたしに命を送ってくれている大好きなクラスメートの皆の声が聞こえてくるから。
わたしの大好きな友達が近くにいることが、確かに感じられるから。
わたしの大好きなあの人が、今もきっと、わたしを助けるために戦ってくれているから。
そして―――わたしの世界にいた、一番大好きな彼の存在が近くに感じられ、絶対に助けるという強い想いが伝わり続けているから。
「だから……大丈夫」
わたしは眠気をこらえながらそう言って、この世界にある、彼からの贈り物を握りしめる。
「そう……なら、ボクも一緒に信じるよ。キミの大好きな人達を……キミの一番大好きな彼のことを」
「ん……」
そう言って、わたしとひめは互いの存在を確かめ合うように抱きしめ続けた―――
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