やる気なしの錬金術師   作:厄介な猫さん

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連投である。自己満足でありますが······個人的な解釈も遺憾無く発揮してますし······
てな訳でどうぞ


百二十四話

サイラスがイヴの後頭部に、容赦なくナイフを突き刺した―――その瞬間。

 

パリン!

 

イヴの身体がガラスのようにひび割れ、光の粒子となって消えていった。

 

 

「……は?」

 

 

描いていた光景と違う結果に間抜けな顔となるサイラス。そんなサイラスの真横の、何もない筈の空間が、銃声と共にガラスのように割れて穴があき、ほぼ同時にサイラスのこめかみに強い衝撃が走る。

 

 

「――ぐあっ!?」

 

 

こめかみに強い衝撃を受けたサイラス、はこめかみに手を当ててその場でよろめく。同時に穴があいた空間のすぐ横から帯状の炎が突き破るように飛び出し、サイラスの身体に蛇のように巻き付いていく。

帯状の炎はそのままサイラスの腕を、胴を、首を、足を、口を容赦なく締め上げていく。

 

 

「ん~~~~~~ッ!?ぅ――――――ッ!?んぐぅ~~~~~ッ!?」

 

「全く……大の男が、この程度でピーピーみっともないわね」

 

 

完全に黒魔【フレイム・バインド】―――焼き焦がす痛覚だけを与え、対象を拘束・無力化する拷問用の炎の魔術―――で縛られ、無様に転げ回るサイラスを他所に、女性の呆れた声と共に再びガラスが砕け散る音が響き渡る。

すると、何も無かった筈の空間が光の粒子となって砕け散り、そこから右手を突きだしたイヴと、《詐欺師の盾》を携え、硝煙が昇る拳銃を構えたウィリアムが現れた。

 

 

「馬鹿な……ッ!?人工精霊(タルパ)の幻影だと……!?それは常に注視していた!!見逃す筈が―――」

 

 

イリアの言う通り、彼女とサイラスはウィリアムがいたことから人工精霊(タルパ)の存在に注意しており、幻術に沈めた時も彼らが本物だと、そう()()していた。

 

 

人工精霊(タルパ)だけなら、ね」

 

 

明らかに動揺し、狼狽えるイリアに、イヴは不敵に笑いながら指を立て、その指先に小さな炎を灯しながらタネを明かす。

 

 

「秘伝【火幻術】……火の揺らめきで相手に催眠をかける、秘密の奥の手……これで貴女達の認識を誤魔化したのよ」

 

「火の揺らめきだと!?ま、まさか―――ッ!?」

 

「ご明察。最初に放った炎は攻撃ではなく催眠。サイラスがご高説し始めてから()()人工精霊(タルパ)とすり変わったのよ。これは《詐欺師(ウィリアム)》の言葉だけど、どれだけ強力でも仕掛ける対象に向かなかったら、空振りに終わるだけだそうよ?」

 

「すり変わった後は光を曲げて周囲の景色と同化する壁―――人工精霊(タルパ)迷彩の壁(ステルス・ウォール)】で隠れていた。俺だけなら即効でバレただろうが、イヴの先公の幻術のお陰でテメェらの認識を誤魔化せた……儀式の発動を許してしまったのは痛恨だけどな」

 

 

幻術は基本的には個人に仕掛ける魔術だ。世界そのものを欺く幻術とは違い、その対象に向けなければ如何に強力でも意味がない。あまりに単純だが有効な一手ではあった。

 

 

「くっ……!?いや、待て!()()だと……ッ!?まさか―――ッ!?」

 

 

イヴの種明かしに含まれていた一つの言葉に、イリアは驚愕と焦燥を露にリィエルが横たわる祭壇へと急いで目を向ける。

すると、膝をついて虚ろな目をした人工精霊(タルパ)のウィリアム達が拳銃のみを残して一斉に砕け散り、同時に祭壇の一部の光景がウィリアムとイヴが現れた時と同じように砕け散る。

砕け散った先には―――リィエルに向き合っているシスティーナと()()()()()()()()()()ルミアの姿があった。

 

 

「―――ッ!!!」

 

 

その光景を見て、イリアはようやく悟る。最初の銃弾は自分達を排除するためではなく、自分達を祭壇から引き離すためのもので、油断していたのは自分達の方だったと。

そんな、完全にしてやられたと目を見開くイリアに、ウィリアムが《詐欺師の盾》を前につき出して身体を隠し、【騎士の誇り(ナイツ・プライド)・風兵】の突風で自身を吹き飛ばして突貫して迫って来る。

 

 

「おのれぇえええええええ―――ッ!!―――【月読ノ揺リ籠(ムーン・クレイドル)】ッ!!」

 

 

ウィリアムとイヴに幻術使いとしてのプライドを傷つけられ、見事なまでに欺かれて激高したイリアが、先に戦闘力の高い厄介な邪魔者達から排除するため、指先に白い月のような光を灯し、そう叫ぶ。

放たれるあらゆる精神防御を貫通する幻力。だが、ウィリアムとイリアの間に挟まている《詐欺師の盾》が―――“あらゆる魔術要素に崩壊の構築”をもたらす《ディバイド・スチール》の絶対防御の盾が、その絶対の幻力を崩壊させ、彗星のように切り裂いて、イリアへと迫っていく。

 

 

(馬鹿なッ!?私の【月読ノ揺リ籠(ムーン・クレイドル)】が防がれているだと!?あり得ん!!いや、あの《盾》が原因なら―――)

 

 

手応えから、あらゆる精神防御を貫通する絶対幻術の幻力が防御された現実にイリアは思考が硬直しかけるも、すぐに防御された原因を突き止め、《盾》の横に周り込んでから【月読ノ揺リ籠(ムーン・クレイドル)】を改めてウィリアムにぶつけようと左側に向かって跳ぶ。

イヴは【火幻術】を放っていたが、イリアの幻術に呑まれかけており、《盾》を挟まなければ通ると見抜いたイリアは勝利を確信し、ウィリアムに再び【月読ノ揺リ籠(ムーン・クレイドル)】をぶつけようとする。

だが、《盾》に隠れていたウィリアムの身体が《盾》と拳銃を残し、光の粒子となって砕け散った。

 

 

「!?」

 

「マトモにやり合うわけねぇだろ。このドアホ」

 

 

再び驚愕するイリアに、そんな呆れた声と共に、背後からガラスが割れる音と共に、勢いが乗った【騎士の腕(ナイツ・アーム)】の右拳が現れ、そのままイリアを殴りつけ、壁に拳ごと叩きつけた。

 

 

「ガ、ァ―――ッ!?」

 

 

全力で叩きつけられ、骨も幾つも折られたイリアは血ヘドを吐きながら意識を失い、【騎士の腕(ナイツ・アーム)】が砕けて霧散すると同時に手足を広げ、床に崩れ落ちた。

 

 

「……本当にチート過ぎるでしょ、それ」

 

「考えている程、便利なもんじゃねぇぞ」

 

 

幻術が解除されたイヴの呆れ言葉を、【詐欺師の工房】を解き、同時に【迷彩の壁(ステルス・ウォール)】も消えて姿を現したウィリアムは、床に転がった拳銃を回収しながら溜め息混じりにそう答える。

《詐欺師の盾》は精神攻撃も防げるが、魔力障壁を展開しなければ正面以外は防げず、正面の場合も《盾》に完全に隠れてなければ普通に食らってしまう。

障壁を展開すればイリアの絶対幻術は確実に防げるが、その場合、一切動けなくなるのでリィエルを助けることが出来なくなってしまう。その為、障壁の展開は事実上不可能であり、最終手段であった。

念のためにルミアの《王者の法(アルス・マグナ)》で超強化した【マインド・アップ】を施してはいたが、わざわざ食らいに行く必要はないのだ。

ちなみに、止めの一撃が【騎士の腕(ナイツ・アーム)】だったのは、今までの溜まりに溜まった鬱憤を晴らしたいがため、敢えて直接操作系の人工精霊(タルパ)を使っただけという、もの凄く個人的な理由からである。

意識を失ったイリア達に(じたばたしていたサイラスは義手で顔面を全力で何回も殴り飛ばして意識を刈り取ってから)【スペル・シール】等を施して完全に無力化したウィリアムは、迷うことなくシスティーナとルミアが作業をしている祭壇へと向かって行く。

 

 

「システィーナ、ルミア……リィエルは?」

 

 

ウィリアムの不安げな言葉に、作業をしていたシスティーナとルミアは安心させるように笑って答える。

 

 

「リィエルは無事よ!少し深層意識が上書きされていたけど、表層の人格部分の書き換えには至ってなかったから十分に間に合ったわ!今はリィエルに導入されていたアストラル・コードを削除しているところよ!」

 

「うん!その後は、セシリア先生から教わった治療法を施せばリィエルは助かるよ!」

 

「そうか……」

 

 

二人の力強い返答にウィリアムは安心したように呟き、その場に崩れ落ちる。そして、作業の邪魔をしないように、立ち上がって祭壇から少し離れようとするも……

 

 

「ちょっとウィリアム。何処に行くつもり?」

 

「いや、俺がいても邪魔なだけだろ……もう俺に出来ることねぇし」

 

「あるよ、一つだけ……リィエルの手を握って上げるということがね」

 

「……へ?」

 

 

ルミアが微笑みながら告げた言葉にウィリアムは目点となり、間抜けな表情となる。

 

 

「ちょっと待て。何で手を握る必要があるんだ?」

 

 

そんなウィリアムの疑問に、システィーナとルミアはジットリとした視線を送り始める。その視線に凄く居心地の悪さを感じたウィリアムは深い溜め息とともに、治療が終わるまでの間、リィエルの手を握りしめる事となった―――

 

 

―――治療が終わった後、再び行動を強要されることになることを、この時のウィリアムは予想だにしていなかった……

 

 

 




····絶対貫通の幻術と絶対防御の盾·······まさに矛盾の言葉が当てはまる
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