てな訳でどうぞ
―――世界が戻る。
わたしの世界を塗り替えようとしたひめの世界がゆっくりと崩れて消えていき、わたしの大好きな世界が同じ速度で元の形へと戻っていく。
「本当に、よく頑張ったね。リィエル」
わたしを抱きしめ、頭を撫でてくれているひめの姿は、少しずつ、ゆっくりと消えていっている。
ひめはわたしが強かったから、わたしの世界が消えずに済んだと言ったけど、それは多分、わたしの力じゃない。
よくわからない糸を通してわたしに力をくれたクラスの皆の声が聞こえたから。
わたしを必死に助けようとしてくれたシスティーナやルミア、イヴの存在を近くに感じられたから。
グレンが助けてくれたから。
そして、ウィルの存在を近くに感じ、ウィルの想いがわたしに伝わってきて、わたしを助けてくれたから。
そう、ひめに伝える。
「……そっか、そうだね。キミは空っぽじゃない。大切な物がたくさんあって、一番大好きな人もいるからね」
ひめはそう言ってわたしから離れ、曖昧な顔で気まずそうに笑う。ひめは自分はお節介のお邪魔虫だって言ったけど……
「……それに、ひめも励ましてくれたから」
「……え?」
「ひめがいてくれたから……ひめが教えてくれたから、わたしはわたしでいられた…………ありがとう」
「……そう。なら……ボクも現れた甲斐があったかな」
そんなひめに、どうしてわたしを助けてくれようとしたのかと聞くと、ひめはわたしがひめの知っている女性と似ていたから、性分もあったから助けようとしたと言う。
そんなひめの姿がどんどん希薄になっていき、もう会えないのかと聞くと、ひめはよくわからないことを言ってもしかしたら残るかもしれないと言ったので、ひめがわたしの中に残るよう頑張ることにする。
忘れないために、ひめの本当の名前も聞いてみたけど、長かったのでやっぱりひめで覚えることにする。ひめは何故か転びそうになって呆れていたけど。
「それじゃ……さようなら、リィエル。またいつか」
そうして、ひめは光の中へと消えていき、わたしは手から伝わる一番大好きな人の存在を感じながら、ひめを見送るのであった―――
―――――――――――――――――――――――――――
「……そういう事か」
「そういう事だ。もう俺達がやり合う必要はねぇんだよ」
激しい殴り合いを制したグレンの説明に、完敗を喫したアルベルトは安心したように納得していた。
そうしてグレンとアルベルトは互いの事情を明かしていき、アルベルトの女王暗殺未遂が極秘任務―――
「全く、ご苦労なこって……」
「……ふん。お前は相変わらず気楽だな。…………」
そこから暫し、沈黙がグレンとアルベルトの間に漂うも、アルベルトが再び口を開く。
「グレン……俺は絶対に妥協しない」
「…………」
「俺はこれからも九を救うために一を切る。……たとえ、地獄に落ちようとな」
「…………」
「それが気に食わないなら……」
自分を殺してでも止めろ……アルベルトはそう続けようとするも、その前にグレンがきっぱりと告げた。
「ああ、そん時は俺を呼べ。俺とお前の二人なら、最悪な状況も、多少はマシになんだろ……今回はアイツらのお陰で回避出来たけどな」
「……やはり、敵わんな」
先の敗北と、グレンの言葉を思い出したアルベルトはそんな事を呟く。
そして、再び沈黙がグレンとアルベルトの間を漂っていく。
「あ、いたいた!」
「先生!アルベルトさんも!」
「ホント、しぶとい男達ね……」
暫くすると、遠くからシスティーナとルミアが二人の下に駆け寄り、溜め息混じりにイヴも歩み寄ってくる。そして、ウィリアムは―――
「何でこうなった……」
「…………すぅ……」
安らかな表情で寝息をたてているリィエルをお姫様抱っこして歩いて来ていた。
エーテル乖離症も無事治療され、ウィリアムがリィエルをおぶって運ぼうとした際、システィーナとルミアが「そこはお姫様抱っこでしょ(だよ)!!」と何故か非難してきたからだ。
その上、イヴも何故か空気を読みなさいと云わんばかりの呆れた視線をウィリアムに送ったので、ウィリアムは仕方なく、本当に仕方なく、リィエルをお姫様抱っこで運ぶことにしたのである。
「おや~?ウィリアムくん、中々絵になりますなぁ~。可愛い囚われのお姫様を助けだした王子様みたいになぁ~?」
「…………」
当然、それを目撃したグレンはにやついた笑みでウィリアムを盛大にからかうのだが、ウィリアムは動揺せずに……無言で器用に懐から
そして、
「―――いいっ!?」
「そんなに元気なら丁度いいな。正直、まだまだ鬱憤が溜まっているから、グレンの先公をしこたまブン殴って発散させてもらうぜ」
「ちょっ、待って!タンマッ!タンマッ!タンマァアアアアアアアアアアアアア―――ッ!!!!」
グレンの静止の叫びも虚しく、【
そんな、空に輝く月が見守る下で新たに繰り広げられる、二人の馬鹿な争いを、システィーナ達は呆れた溜め息を吐いて傍観するのであった―――
―――――――――――――――――――――――――――
ウィリアム達が学院に帰還するや否や、リィエルはクラスの皆に盛大に無事を祝われ、もみくちゃにされることとなった。そんなリィエルの首もとには、例のペンダントがしっかりと戻ってきていた。
リィエルも、皆のお陰で帰ってこれたと言い、特上の笑顔でお礼と、また皆と一緒にいられる嬉しさを伝えると、再び大騒ぎとなる。
そんなリィエルの様子を、ウィリアム達は少し離れた場所から見守っているのだが……
「オーヴァイ……何で此方に来てるんだ?」
一緒に出迎えたオーヴァイは何故かリィエルの方ではなく、ウィリアムの方へと歩み寄って来ていた。
「アハハ……少し落ち着いてから改めてリィエル先輩の無事を祝おうと思いまして……その間、ウィリアム先輩の隣に陣取っておこうかと……」
オーヴァイは最もな理由を伝え、ウィリアムの左側に近づき、寄り添おうとした瞬間―――
「へっ!?」
いつの間にか、皆の輪から抜け出ていたリィエルが割り込んで、ウィリアムの左腕にしがみついていた。その事実に、オーヴァイは驚愕の声を洩らす。
「り、リィエル先輩、いつの間に!?」
「…………」
オーヴァイの質問に無言を貫くリィエル。そんなリィエルに、ウィリアムは若干動揺しながら理由を問い質す。
「えーと、リィエル?何で急に此方に来たんだ?」
「よくわかんないけど、ウィルのことが一番大好きだから、こうしないといけない気がした」
「ええー………………ん?」
何度目かわからない、本人すら把握してないという事実に、ウィリアムは何とも言えない言葉を洩らすも、何か引っ掛かりを覚えた、次の瞬間―――
「「「「「「キャアアアアアアアアアアアアアアアア―――ッ!!!!大たぁあああああああああああああああん―――ッ!!!!」」」」」」
「「「「「「一番大好きだとぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお―――ッ!?!?」」」」」」
リィエルの言葉をしっかり拾っていた一同は、女子生徒達は桃色の叫びを、男子生徒達は憎悪をたぎらせた叫び声を上げる。
「へっ!?……えっ!?あっ!?ちょ……おいッ!?」
突然の一番大好き発言を漸く理解したウィリアムは、頭が半ば混乱の渦に呑まれてしまっている。だが、続くリィエルの言葉で一気に沈下する。
「ん。大好きな皆の中で、ウィルが一番大好き」
「「「「「「「「……………………」」」」」」」」
……どうやら、リィエルがウィリアムに言った“一番大好き”は皆の中でという意味だったようだ。
その理由は、イヴに黒歴史を指摘されたあの夜にある。グレンがリィエルを看病していた時、学院やクラスの皆に感じている気持ちを、グレンが“好き”だと教えた際―――
『……じゃあ……ウィルの……ことも……好き……なの……かな……?……ウィルと……いると……すごく……ふわふわして……胸がすごく……暖かく……なる、から……』
『……そうなんだろうな。多分、ウィリアムのことが一番好きなんだろ?』
『……一番、好き……?』
『ああ』
『……ん。そうかも……皆の中で……ウィルのことが……一番、好き……』
―――というやり取りがあったのだが、ウィリアムは容態の悪いリィエルの姿を前に、そのやり取りがほとんど耳に入っておらず、その後の例の模擬戦もあり、そのやり取りは記憶の隅に消えていたのだ。……だからこそ、イヴはリィエルのウィリアムに対する無自覚な感情に、確信に近い形で気づいたのだが。
そして、一番大好きの前のやり取りからリィエルは自分の感情を微妙に間違えて理解したのである。彼女が本当の意味で自身の気持ちに気付くのはまだまだ先であった……
「……ホッ。どうやら俺達の勘違いだったみたいだな……」
「いや待て。このままだと確実にそういう関係に発展するんじゃないのか?」
「た、確かに……!」
「つまり、今の内に芽を摘んでおくべきだ……」
「「「「「だから…………」」」」」
一部を除く男子生徒全員がゾンビのように、にっこりと笑っているリィエルに左腕を抱きしめられているウィリアムに、一斉に顔を向け……
「「「「「「「「「今すぐくたばれ!!!リア充野郎ッ!!!!!!」」」」」」」」」
「だと思ったよチクショウッ!!」
呪詛の如き叫びと共に、一斉に男子生徒達がウィリアムへと襲いかかり、そんな彼らをまともに相手したくないウィリアムは、未だ左腕にしがみついているリィエルを抱き抱えてその場から一気に逃げ出していく。
「「「「「「「キャアアアアアアアアアアアアアアアア―――ッ!!!愛の逃避行よぉおおおおおおおおおおお―――ッ!!!!!!」」」」」」」
「逃がすなぁッ!!!!地の果てまで追いかけろぉおおおおおおおおおおおおおおおお―――ッ!!!!!!」
「「「「「「「Sir!!Yes Sir!!!!!!!」」」」」」」
リィエルを抱えて逃げ出したウィリアムに、女子生徒達は黄色い声援を送り、男子生徒達は憎き仇敵を仕留めんとばかりに追いかけ始める。その光景を……
「……これは……色々と……」
「アハハ……うん……大変だね……」
システィーナとルミアは曖昧な顔で見守り……
「よぉーしお前らッ!!!このグレン大先生がアイツを追い詰める指示を送ってやる!!この場でリア充共の筆頭と言えるウィリアムくんを叩き潰すぞ!!」
グレンは先日の仕返しを果たすために嫉妬に燃える男子生徒達を煽動し……
(ホンット、馬鹿ばっかり……)
イヴは相変わらずの馬鹿騒ぎの光景に呆れて溜め息を吐き……
「アハハ……やっぱりリィエル先輩は強敵ですね……ですが、負けませんよー!」
オーヴァイは改めて闘志を燃やして逃げた二人を見つめていた。
そして、ウィリアムに抱き抱えられたリィエルはとても幸せな笑顔でウィリアムを見つめていた。
「「「「「ウィリア充!!大人しく血の鉄槌を受けろぉおおおおおおおおおおおお―――ッ!!!!」」」」」
「変なあだ名をつけてんじゃねぇよッ!?」
……悲しいことに、逃亡に全力を注ぐウィリアムはリィエルのその笑顔に気づく事はなかった……
これで十三巻は終了です
······日常を挟もうかな·······?構成は休日、一日の内容で
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