やる気なしの錬金術師   作:厄介な猫さん

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戦闘回
てな訳でどうぞ


百二十八話

―――そして、時間は現在へと巻き戻る。

 

 

「はぁあああああああああ―――ッ!!」

 

 

リィエルが【フィジカル・ブースト】で強化された腕力で、振りかぶった大剣をオーヴァイに向かって稲妻の如く振り下ろし―――

 

 

「シィ―――ッ!!」

 

 

オーヴァイは直前で身体を左に捌いてかわし、間髪入れずに刀を水平に振るう。横凪ぎに振るわれた刀は―――

 

 

「ふっ―――ッ!」

 

 

リィエルが前転跳躍したことで空しく宙を斬り、リィエルは前転途中で身体のバネを利用してオーヴァイに斬りかかる。

再びオーヴァイに迫る大剣。その大剣をオーヴァイは焦りもせずに後退しながら刀で受け流して対処し、そのまま一度距離を取る。

 

 

「「…………」」

 

 

互いに間合いが空き、二人は隙を窺い、睨み合う。……可愛い子犬がまん丸お目めで睨み付け、厳つい狼が唸り声を上げて威嚇する幻覚と共に。

 

 

「凄いわねオーヴァイ……リィエルと互角にやり合うなんて……」

 

「うん……本当に天才剣士だったんだね……」

 

「ルミア先輩!?オキタさんは正真正銘の天才剣士だと何時も言ってましたよ!?」

 

 

リィエルとオーヴァイの模擬戦にシスティーナは唖然とし、リィエルと互角にやり合うオーヴァイにルミアは少し失礼なことを言ってしまい、オーヴァイはその事にツッコミを入れていた。

普通に考えれば決定的な隙なのだが、リィエルは敢えて動かない。これは模擬戦であり、(無自覚な)女の戦いでもあるのだ。そんな形で勝っても遺恨が残るとリィエルは本能的に察し、文句のつけようがない形で決着をつける事を互いに望んでいるのである。

 

 

「あ、すいません。待たせてしまいましたね」

 

「……大丈夫。気にしてない」

 

「ありがとうございます。では―――」

 

「ん―――」

 

 

リィエルとオーヴァイは互いに武器を構え直し、ほぼ同時に放たれた矢の如く突進し、激しい剣戟を再び繰り広げていく。

リィエルの驚異的な力による斬り返しを、オーヴァイは体捌き、または刀の受け流し、その合間を縫うように斬りかかる。リィエルも大剣を盾にして防ぎ、力で弾き飛ばして再び斬りかかる。

リィエルは素の身体能力と【フィジカル・ブースト】で強化された動きに対し、オーヴァイは東方の武術―――『縮地』と呼ばれる高速移動歩法と技巧によってリィエルを超える機動力で対抗している。

 

 

「本当に凄いですねリィエル先輩。オキタさんのこの超機動に対応できるとは」

 

「ん。勘でなんとなくオーヴァイの仕掛けるタイミングがわかるから」

 

「本当に凄い勘ですねー」

 

 

そんな軽口を叩きながらオーヴァイは背後に瞬時に回り込んで突きを放ち、リィエルはその背後からの突きをあっさりと振り返りながら弾き飛ばす。リィエルはそのまま返しの刃で斬りかかるも、オーヴァイは既に離脱しており空しく宙を切る。

 

 

「本当に何でこうなった……」

 

 

そんな模擬戦をウィリアムは遠い目で見守っている。ちなみにこれは現実であって現実ではない。その理由は―――

 

 

「本当に用意周到過ぎるでしょ、オーヴァイさん……」

 

「あはは……」

 

 

システィーナが呆れ、ルミアが曖昧な笑顔でフィーベル邸に目をやる。フィーベル邸の中、そのラウンジには変な水晶がたくさん取り付けられた(はこ)型のヘンテコ装置―――オーヴァイがオーウェルから拝借した、改良された集団幻覚装置:伍号機―――がピコピコと動いている。

つまり、ここは集団幻覚装置が生み出した精神世界の中である。オーヴァイの血を吐く要望により、対戦型のソフトウェアが新たに開発され、インストールされている。対戦者同士の勝負がつけば解除される仕組みとなっているそうであり、ボスキャラとか、そういった類いはこのソフトウェアにはないようである。

早い話、ここなら全力でやりあえるという、オーウェルにしては一番マトモな発明でリィエルとオーヴァイは全力の模擬戦をしているのだ。……正直、この装置にはいい思い出はないが。

 

 

「本当に、何でこうなったんだろうな……ハァ……」

 

 

ウィリアムからすれば何でこうなったのかと疑問に感じているのだが、寝る時、ウィリアムの体温を直に感じられるのは左からなので、ウィリアムの体温を感じたい二人からすればこの激突はある意味必然である。

そんなウィリアムの疑問を隅に、リィエルとオーヴァイの戦いは白熱していく。二人が再び距離を取った時、オーヴァイが勝負を仕掛けてきた。

 

 

「一歩音越え―――」

 

 

オーヴァイが縮地と強化された身体能力で地を蹴り―――

 

 

「二歩無間―――」

 

 

続く二歩目で更に加速し―――

 

 

「三歩絶刀―――!」

 

 

最後の三歩目の踏み込みで更に加速。リィエルとの距離を一気に詰め、必殺の剣技を放つ。

 

 

「―――『無明、三段突き』!!」

 

 

その声と共に、オーヴァイは()()()()()三つの平突きをリィエルの胸部に向けて放つ。同時に放つ三つの突きは防御不可能の必殺の一撃。魔法金属以外で受ければ、受けた箇所は“消滅”するその技を―――

 

 

「―――ッ」

 

 

リィエルは持ち前の勘でギリギリでかわした。リィエルはそのままオーヴァイを斬ろうとするも―――

 

 

「想定内ですよッ!!」

 

 

それより早くオーヴァイが刀を手放して背後を取り、首のマフラーをほどいてリィエルの首に素早く巻き付け、宙吊りで一気に絞め上げた。

 

 

「ッ!?あ―――ぐぅ……ッ!?」

 

「このまま締め落としますよッ!!」

 

 

オーヴァイは事前に【ウェポン・エンチャント】を施していたマフラーを【フィジカル・ブースト】全開で引き絞っていく。リィエルは必死に逃れようとするも、マフラーがしっかりと首に絡みついているために指を入れられず、引き剥がすことが出来ないでいる。その上宙吊りなため暴れても空しく宙を切るだけになっている。

普通なら決着がついたと誰もが思うだろうが……

 

 

「くっ…………ん……ぐぅ……ッ!!」

 

 

リィエルは大剣を手放し、左右でマフラーの引っ張られている部分を掴み、首もとへと寄せていこうとする。

 

 

「ッ!!そうはいきませんよッ!!」

 

 

リィエルのその行動の思惑をオーヴァイはすぐに見抜き、負けじと引き絞っていく。だが、素の力が強いリィエルの方が力比べでは上手であり、リィエルの首を絞めているマフラーがリィエルの首もとに引き寄せられ、若干の隙間が空く。リィエルはすぐにマフラーの隙間に指を入れて掴み―――

 

 

「―――ぁああああああああああああああああああッ!!!」

 

 

全力で引っ張り、自身の首を絞めていたオーヴァイのマフラーを引きちぎった。

 

 

「嘘ッ!?」

 

 

事前に強化していたマフラーを引きちぎって絞め上げから逃れた事に、オーヴァイは流石に驚愕し硬直してしまう。絞め上げから逃れたリィエルは咳き込む衝動を抑えて直ぐ様大剣を錬成し、着地と同時に振りかぶる。

 

 

「しま―――」

 

 

オーヴァイはすぐに後退しようとするも時、既に遅し。リィエルの大剣はオーヴァイを捉え、見事に切り裂いた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「オキタさん、大敗北ですぅ…………グスンッ」

 

 

オーヴァイが切り裂かれると同時に一同は現実世界へと帰還。帰還して早々、リィエルに敗北を喫したオーヴァイは膝を抱えて落ち込んでいた。

 

 

「あはは……惜しかったね、オーヴァイさん」

 

「本当に凄かったわよオーヴァイ。流石にあの時はリィエルが負けると思ったもの」

 

「慰めは結構ですよー……」

 

 

そんなオーヴァイをシスティーナとルミアは正直な感想で励ますも、オーヴァイは落ち込んだままである。

 

 

「……まぁ、大分いい線いっていたと思うぞ。リィエル程のバカ力じゃなければ、多分、あれで決まっていたと思うぞ」

 

「……ん。あの時は本当にまずいと思った。勝てて良かった」

 

 

ウィリアムも先の勝負の感想を伝え、勝ったリィエルも同意している。

 

 

「あれは初見殺しの技みたいなものなんです。それを使ったのに勝てなかったのは正直悔しいですけど……」

 

 

そこでオーヴァイは立ち上がり、決然とした声で告げる。

 

 

「何時までもクヨクヨしててもしょうがないですッ!!次はもっと強くなってリィエル先輩に勝って、ウィリアム先輩の左側を手に入れますよーーッ!!!」

 

「次もやるのかよ……」

 

「……ん、何時でも受けて立つ」

 

 

オーヴァイの不退転の決意にウィリアムは呆れ、リィエルはどこか得意げに見える表情で受け止めた。

 

 

「それじゃあ、そろそろお昼の準備をしてくるね」

 

 

ルミアは笑いながらそう言って調理場へと向かい、ルミアが作った料理を皆は美味しくいただいた。

 

 

 




修羅場戦はリィエルの勝利
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