やる気なしの錬金術師   作:厄介な猫さん

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原作では百合、こちらは龍と雷……どっちがお好み?
てな訳でどうぞ


百四十二話

会場内を支配した圧倒的な沈黙。それを最初に破ったのはリィエルだった。

 

 

「わたしの友達」

 

『ともだち?システィーナおねーちゃんとルミアおねーちゃんみたいに?』

 

「ん。エルザは、わたしの友達」

 

『おとーさんとも?』

 

「ん」

 

『はじめまして、エルザおねーちゃん!!エルはエルです!!』

 

 

エルの無邪気な笑顔の挨拶に、固まっていた他校の代表選手候補達の真っ当な思考が暴走回転し始めていく。

 

1.リィエルをお母さんと呼ぶ、リィエルに抱きかかえられたエルという名前の幼女。

2.エルの発言からお父さんもいる。

3.エルのその顔はリィエルそっくりだが、瞳の色は銀とウィリアムの特徴をもっている。

 

この三点から、誰もが辿り着く結論は……

 

 

「……ウィルさん。これはどういうことです?いつの間にリィエルと子供を作ったのですか?」

 

 

見事に勘違いしたエルザがにこやかな笑顔で眼鏡をかけたまま、ウィリアムに詰め寄っていた。……圧倒的な存在感と、ここ一帯の空気が氷点下まで鋭く冷え、背後に龍の幻影を出現させて。

 

 

「落ち着けエルザ。この子は妖精で―――」

 

「確かに妖精のように可愛い子ですね」

 

「頼むから最後まで聞いてくれ!?」

 

 

空気が今もなお冷えていき、龍の幻影が雷雲と暴風を纏っていく姿を前に、周りの生徒達は冷や汗を流し、息を呑みながら、そこから一歩ずつ下がっていく。

 

 

「今日もエルザは荒れてるなぁー……」

 

「そ、そうですわね。今日も一段と龍の幻影が凄いですわね」

 

「まぁ、しばらくしたら落ち着くでしょう。触らぬ神に祟りなしですので、今日のエルザさんはウィリアムさんにお任せします。毎回鎮めるのに苦労したので、その苦労を味わってください」

 

 

普段から見慣れている聖リリィ組は、若干冷や汗を流しながらもグレンからは離れずに見守っている。ジニーだけは毒を吐いて何時も通りだが。

 

 

「あ、あれはなんなのですの……?」

 

「幻覚だろう。最近のリィエルやオーヴァイからたまに出てくる、子犬や狼と同類の」

 

「……ウィリア充、そのままくたばれ」

 

「あれがコレット達から聞いた龍の幻影ね……」

 

「うん……恋する乙女はやっぱり凄いんだね……」

 

 

最近のリィエルとオーヴァイが発する幻影に見慣れている二組の面々も、龍の存在に若干呑まれながらも何時も通りであった。……瞳を憎悪に染めたカッシュの後ろから、陽炎のように鼠が揺らめいているが。

 

 

「……エルザ、やっぱりすごく強くなってる」

 

『?』

 

 

そんな状況でもリィエルは何時も通りであり、ずれた感想を告げる。エルは龍の幻影が自身に向いていない事で、怖がらずに不思議そうに小首を傾げる。

 

 

「ふふ、リィエルにはまだまだ敵わないよ。ところで、エルちゃんは生後何ヵ月?」

 

「?たぶん、十一日」

 

「……子供の成長って早いんだね」

 

 

明らかにおかしい日数を聞いても誤解は一向に解けず、エルザに呼応して、背後の龍の幻影が天に向かって大きな咆哮を上げる。

 

 

「な、何だ!?」

 

「雄叫びと共に、凄い轟音が響いたぞ!?」

 

「幻聴まで聞こえてきましたわね……」

 

「だ、大丈夫なのかしら……?」

 

「多分大丈夫でしょ。精神はガリガリと削られるでしょうが」

 

「本当に相変わらずだね、ジニー……」

 

「……()()()、こうなるんだな」

 

 

外野は相変わらず動揺し、遠目で見守る中、一人の猛者が雷が落ち続ける修羅場へと突撃する。

 

 

「本当に凄いですねー。私も混ぜてくださいよー」

 

 

形成された修羅場を前にしたにも関わらず、給士係として歓迎会に参加している、給士服に身を包んだオーヴァイがにこやかにエルザ達に話しかける。

……前言撤回。修羅場に突撃したのは猛者ではなく、更なる起爆剤であった。

 

 

「……すいませんが貴女は?」

 

「アルザーノ帝国魔術学院一年、オーヴァイ=オキタさんです。貴女のお話はウィリアム先輩達から伺っておられます、エルザさん」

 

「そうなんだ……オーヴァイさん、悪いけど邪魔しないでくれるかな?私はウィルさんと大事な話をしているので」

 

「そんなつれない事を言わず、私も仲間に入れて下さいよー。私も()()()()()()

 

「そうなんだ~。……うふふふふ」

 

「あはははは」

 

 

オーヴァイの発言で、同じ恋敵だと理解したエルザは笑みを浮かべ、オーヴァイと互いに笑いあう……背後に極太の稲妻を大量に落とし続ける黒き龍と、幾つもの嵐を吹かせて、龍を睨み付けて唸り声を上げる金色の狼を携えながら。

 

 

「室内なのに、何でこんなに轟音が響いているんだ!?」

 

「それに空気もどこか冷たいし……」

 

「今日のエルザ、今までで一番荒れてるなぁ……」

 

「完全に絵に書いたような展開だね……」

 

「まさに恋の三角関係……いえ、恋の三角錐関係ですわ!!」

 

「そのままリィエルちゃん達に後ろから刺されろ、ウィリア充」

 

「本当に見ているだけで胃が痛てぇ……部外者なのにな……」

 

 

外野は蚊帳の外で言いたい放題だ。

 

 

「そういえばオーヴァイさん。何時からですか?」

 

「秋休み中です。エルザさんは?」

 

「私は短期留学中ですね」

 

「なるほど。では、スキンシップのレベルは?」

 

「……頬に口付けをしました」

 

「すごいですねー。私はまだハグとベッドインしか出来ていないんですよー。リィエル先輩はBまで行っちゃってますが」

 

「B?Cの間違いじゃないかな?エルちゃんがいるんだし」

 

「エルちゃんは十一日前に、この学院の変態教授達が開発した装置で召喚された妖精なんですよ。ですからそこまで行っていないんですよ」

 

「そうだったんだー……その装置は今どうなっています?」

 

 

エルに関しての誤解は解けたようだが、修羅場は収まる気配は微塵もなく、逆にどんどん大きくなっていく。

 

 

「残念ながらその日に壊れてしまったんですよー。おかげで私とウィリアム先輩の妖精は誕生していないんですよ」

 

「本当に残念だなぁ……健在だったら私とウィルさんの妖精が見れたのに……ちなみにBの経緯は?」

 

「ウィリアム先輩が酔っぱらったからです。ウィリアム先輩はお酒に滅法弱いようでして。赤ワイン一杯だけで酔いつぶれるくらいに」

 

「そうなんだぁ~……リィエル、ウィルさんに愛でられてどうだった?」

 

「?よくわかんないけど仕返しのこと?それならすごく気持ちよかった。この前のお仕置きも兼ねた仕返しも含めて」

 

 

エルザの質問にリィエルが小首を傾げながらも答えた瞬間、周りの空気が絶対零度に達した。

 

 

「ちょっ、リィエル!?それは他言無用だと釘を指していただろ!?」

 

「?そうだっけ?」

 

 

リィエルの暴露にウィリアムは焦りを見せるが既に遅い。何故なら―――

 

 

「……ウィルさん、詳しい説明を要求します」

 

「それはオキタさんも詳しく聞きたいですねー。ですので、包み隠さず話してください。あと、エルちゃんは少しシスティーナ先輩達のところに行ってきてくれませんか?お姉ちゃん達はこれから大事なお話をしないといけないので」

 

『だいじなお話?』

 

「うん。とても大事なお話なの。だから少しお父さん達と離れてくれないかな?」

 

『……わかったの。エルはシスティーナおねーちゃん達のところに行ってくるの』

 

「ありがとう。本当にエルちゃんはいい子だね」

 

『ん!エルはいい子!!』

 

 

エルザに頭を撫でられたエルは満面の笑みでそう言って、霊的な羽をパタパタと動かしてシスティーナ達の下へと飛んで向かっていく。

 

 

「それでウィルさん。この前のお仕置きも兼ねた仕返しとはどういう事です?」

 

「そ、それは……また酔ってしまった結果で……」

 

「どんな経緯でお酒を飲んでしまったのですか?」

 

「そ、それは……」

 

「わたしが口移しで飲ませた。ウィルに仕返しされたかったから」

 

「……また唇なんですね」

 

「エルザさん。またではなく、何度もです。リィエル先輩は上書き行動で何度もウィリアム先輩に接吻していますから。……おそらく、濃厚な方の接吻を」

 

「……本当にリィエルは凄いなぁ」

 

「それに関しては本当に同感です。リィエル先輩は物凄い強敵ですので」

 

「?」

 

 

龍と狼が咆哮を上げ続け、雷と嵐が轟き続ける光景に、その場にいる誰もが汗を大量に流して我関せずと、震えながら交流を続けていく。その会場を支配し続けている修羅場に勇者―――柔らかな金髪、まるで彫像のように整った甘く美しい顔立ちの美少年―――レヴィン=クライトスが近づいていく。

 

 

「せっかくの歓迎会なのですから、もっと穏やかに―――」

 

「「部外者は引っ込んでいてください」」

 

「よくわかんないけど、邪魔しないで」

 

「あっ、はい……」

 

 

不敵な笑みで話しかけたレヴィンの言葉を有無を言わさず遮る、にこやかな笑顔を向けるエルザとオーヴァイ、いつもの表情のリィエル。そんな彼女達の背後には、凄まじい威圧感を放ってレヴィンを睨み付けてくる龍と狼、そして、レヴィンを上から見下ろす可愛らしい巨大な子犬(?)が佇んでいる。その三匹の幻影を前に、レヴィンは一気に萎縮してすごすごと引き下がった。

普通ならカッコ悪いと幻滅するだろうが、あれは仕方がないと誰もが思った。むしろ、あれに挑もうとしたこと自体が敬礼ものだ。

 

 

「ほっほっほっ……若いですなぁ」

 

「ええ、本当に……」

 

 

現に、アルザーノ帝国魔術学院学院長リックと、聖リリィ魔術女学院新学院長ローナ=ローゼンバーグですら僅かに汗を流して眺めるだけなのだから。つまり、今の彼女達には誰も関わりたくないのである。

ウィリアムは思わず周りに助けの視線を送るが、誰もがサッと顔と視線を逸らして明後日の方を向く。この場にウィリアムの味方はいなかった。

 

 

「さて、ウィルさん」

 

「お話を続けましょうか」

 

 

邪魔者を追い払ったエルザとオーヴァイは己の幻影をバックにウィリアムに再び詰め寄り、“お話”を再開した。

 

 

―――交流会はたった一つの修羅場によって、最後まで重苦しい空気のまま終わった。

 

 

 




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