やる気なしの錬金術師   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


百四十五話

ナムルスによって繰り返される一週間を思い出したウィリアムは現在、学院の校門前にいた。

 

 

「まだ居てくれよ……」

 

 

ウィリアムはそう呟きながら門を潜る―――前にグレンがタイミングよく現れたので、すぐに声を上げてグレンに近寄っていく。

 

 

「先公ッ!!」

 

「……ウィリアムか。こんな時間にどうしたんだ?」

 

 

ウィリアムの呼び掛けにグレンは力なく応じるも、すぐに違和感に気付いて目を見開く。

 

 

「……ちょっと待て。何でお前が此処に来てるんだ……?」

 

「ナムルスに会った」

 

 

途端、グレンの顔が驚きに染まる。

 

 

「ナムルスに会っただと!?つまり、お前も……ッ!?」

 

「ああ、()()()()()()()()。だけどアイツ、一方的に記憶を思い出させて消えやがったからほとんどさっぱりだ」

 

「マジかよ……」

 

「だから教えてくれ先公。今のこの状況を」

 

「……わかった。だけど、ここじゃなんだから場所を変えるぞ」

 

 

グレンはそう言って歩き始め、ウィリアムもグレンの後に続いていく。

そして、学院の裏手で今の状況を聞かされた。

 

 

「……つまり、端的に言えばこの切り離された時空間が限界に近づいていて、このままだとこの一週間を永劫繰り返すだけになると……」

 

「ああ」

 

「本当に最悪過ぎんだろ……」

 

 

グレンが明かした現在の状況に、ウィリアムは頭を抱えてしまう。

エレンの急成長のカラクリも、このループによって蓄積された知覚経験によって得られたものであること。

そして、エレンの目的がシスティーナに勝ち、自身がメイン・ウィザードになること。

それまではこの繰り返される一週間が続くという事実に、ウィリアムの頭は本当に痛くなる。

 

 

「てか、前回お前が死んだ時、本当に大変だったんだからな。あの後、駆けつけたアイツらも泣いて騒いで、特にオーヴァイとエルザにエル、リィエルの騒ぎぶりと泣き顔は、わかっていてもすごく辛かったんだからな」

 

「六回も皆を泣かせた先公が言うな」

 

 

互いに憎まれ口を叩くも状況は最悪だ。

 

 

「エレンが持っていたその竜頭のない奇妙な懐中時計……おそらく魔法遺産(アーティファクト)の類だろうな」

 

「ああ。古代語で“ル=キル”と刻まれていたその時計がこのループの要なんだろうが……奪おうとした瞬間、あの番人(ルーラー)が出てきて殺され、悉く失敗した」

 

「それも事前に施した魔術防御を無視して、か……」

 

「ウィリアム、お前の《盾》でなんとかならないか?」

 

「たぶん、無理だ。《盾》は全身を守るものでない以上、別方向からその攻撃をぶつけてくるだけだ。障壁展開も手出しできなくなるから論外だ」

 

「だよな……」

 

 

グレンとウィリアムは揃って溜め息を吐く。

グレンの話を聞いた限り、件の懐中時計は番人(ルーラー)そのものと見ていいだろう。

エレンがシスティーナに勝利してメイン・ウィザードに選ばれればこのループは終わるだろうが、その可能性はゼロだ。

何故なら、システィーナは魔術師として本当の天才。連続起動(ラピッド・ファイヤ)疾風脚(シュトロム)二反響唱(ダブル・キャスト)、場に展開された駐在型魔術の術式に介入して制御権を奪う“術式介入(スペル・インタベンション)”―――数々の高等魔術技巧を習得している。

それらの魔術技巧は凡人が我流で扱える技能ではなく、知っている者にやり方を学ばなければ習得できない。

ウィリアムだって、生前のユリウスにやり方自体は教えてもらったからこそ、使えているのだ。

加えて応用が利く風の魔術に抜群の適性を持ち、修羅場も潜り抜けたシスティーナに、凡人のエレンが敵う道理はない。もちろん絶対とは言わないが、この限られた一週間ではシスティーナに勝ち星を得ることはできない。

 

 

「とにかく、協力者ができて助かった。何とかしてこのクソッタレなループを終わらせねぇとな」

 

「ああ。あいつらの未来を潰させてたまるかよ」

 

 

こうして、グレンとウィリアムは解決のために、協力して動くのであった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

――――――。

 

 

―――状況は進展せず、次第に最悪へとゆっくりと向かっていた。

 

 

『がんばれー!システィーナおねぇーちゃーんっ!!』

 

 

観客席で、リィエルの膝の上に座って応援しているエルの声が聞こえてくるが、隣に座っているウィリアムは死んだ魚のような瞳でシスティーナとエレンの試合を眺めていた。

 

 

(……飽きた)

 

 

何度も繰り返されたループで、もう色々と精神をすり減らしているウィリアムはだいぶ参っていた。

何度かグレンと協力してエレンの持つ時計を奪取しようとしたが、やはりあの番人(ルーラー)が現れて瞬殺されて終わるだけ。

試しに《詐欺師の盾》を持ち出して迫ってみた結果、最初こそ防げたが、横から風が一際強く吹いた瞬間に腕や胸が分断されて終わるだけだった。

それにより、あの謎の攻撃が風と関連があるとわかったが、それだけ。

もちろん、判明した事はそれだけではない。

このループの例外に関する起動条件が、“第三者が、エレンを妨害した時”、“第三者が、このループの情報を入手した時”であることが判明している。

後者の条件はグレンがイヴに相談し、イヴが番人(ルーラー)に殺されたことで判明したのだ。

グレンとウィリアムはナムルスによって“思い出した”だけであり、もう既に知っているからルールに抵触しなかっただけ。

このループを律儀に繰り返すエレンに接触出来ず、番人(ルーラー)の正体もわからない。グレン以外にはこの状況を明かせない。

……完全に手詰まりであった。

 

 

おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーッ!!

 

 

『やったのーッ!システィーナおねーちゃんが勝ったのーッ!!』

 

 

それを他所に、何度も聞いた、観戦していた人達の歓声と、エルのはしゃぐ声が耳に届いてくる。どうやら今回もシスティーナの勝利で終わったようだ。

 

 

「……ん。システィーナが勝った」

 

「ええ。本当にシスティーナ先輩は凄いですねー!」

 

 

エル抱くリィエルと、一緒に観戦していたオーヴァイも頷いて同意し、隣に座っているウィリアムに顔を向ける。

 

 

「……ウィル?」

 

「……ウィリアム先輩、まだ顔色が悪いですね。大丈夫ですか?」

 

『おとーさん、だいじょーぶ……?』

 

「……大丈夫だ……大丈夫だから……」

 

 

自身を心配する彼女達に、ウィリアムは感情を押し殺したように言葉を返す。

ここ最近のループでは、グレンとウィリアムは二人きりの時、互いの鬱憤を晴らすように激しく罵り合うようになっている。そうでもしなければ、とてもじゃないがやっていられなかった。

ナムルスがグレンに接触した時、不謹慎な事を言っていたそうだが、今ならその気持ちも理解できる。エレンやナムルスと比べて回数が浅い自分達ですらこれなのだから、一人でこのループを眺め続けたナムルスもそう考えなければやっていられなかったのだろう。

 

 

「「『…………』」」

 

 

そんなウィリアムの様子を、彼女達は心配げに見つめていた。

そして、いつものようにメイン・ウィザードが発表され―――

 

 

―――そして、いつものように終わり(Ω)始まり(A)に戻る―――

 

 

 

――――――。

 

 

「―――ウィル」

 

 

いつものように、肩を揺するリィエル。

いつものように、ここへと戻る意識。

 

 

「……どうしたの、ウィル?なんか元気な―――」

 

「悪い……放っておいてくれ……」

 

 

グレン以外に八つ当たりしたくないウィリアムはそれだけ言って、頭を抱えて机に突っ伏す。

 

 

「……ウィル……?」

 

『……おとーさん……?』

 

 

そんなウィリアムの様子を、リィエルとエルは心配そうに見つめる。

そして、また始まる、選抜会の一週間。

それをウィリアムは眺める―――眺めるしか出来なかった―――

 

 

 




「むむむむ……」

紺のハンカチを噛み締め、龍を背後に睨み付けるエルザの図。

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