―――とある周回の二日目。
いつものように、魔力測定が行われる会場へ向かっていたのだが、今回は少し違っていた。
「―――と、いうわけで。どうしてもメイン・ウィザードになりたいんです」
今までの周回では、魔力測定の準備のために先に会場入りしているシスティーナが何故か一緒に行動しているのだ。
「傲慢かもしれませんが、私はお祖父様に追いつきたくて……」
「……それなら、何でお前はここにいるんだよ?」
グレンの顔色を窺いながら話しかけるシスティーナに、いつもと同じようにエルを肩車しているウィリアムは疑問をぶつける。ただし、エルはいつもなら苺タルトを頬張っているが、今回は心配げにウィリアムを見つめている。
「ウィリアムの言う通りだ。そんなに大切なら、お前にはやるべきことがあったんじゃないのか?」
グレンも同様の疑問を感じてシスティーナにぶつける。それに対し、システィーナは少し押し黙った後、ぼそりと呟く。
「だって……放っておけないですよ。そんな酷い顔をされては」
「「…………」」
「それも、昨日からウィリアムと一緒で唐突です。それまではいつも通りだったのに……心配して当然じゃないですか」
システィーナのその言葉に、不安げな表情のリィエルもこくり、と頷く。
どうやら、今回の自分達の顔は、予定を変更してまで構いたくなるほど、過去最悪のものだったようだ。
それに対し、グレンとウィリアムは……
「「…………」」
気まずそうに顔を逸らし、無言を貫いた。
ここ最近の周回では互いに罵り合うことすら億劫になってしまい、心がとても疲れていて―――重たかった。
ルミアやオーヴァイ、エルの悲しげな雰囲気が伝わってくるが……どうしようもないほど、精神的余裕が今のグレンとウィリアムにはなかった。
このままだと心が壊れてしまうと、どこか他人事のように考えていると……
ざっ!
「ふん。君を待っていた」
いつものように、フォーゼルがグレンの前に現れていた。
とある周回から、フォーゼルを交代でグレンは投げ飛ばして、ウィリアムは【
「……え?帰ってたんですか!?フォーゼル先生!!」
システィーナが驚きを露にフォーゼルを凝視していた。
「む?システィーナ=フィーベルか?僕に何か用か?」
フォーゼルがシスティーナに気づいて尊大に睨み返し、システィーナも目を怒らせて睨み返す。
「僕に何か用か?じゃないですよ!私、忘れてませんよ!?以前、貴方が私の論文に難癖つけて、私を遺跡調査隊から不当に落選させたことを!」
「ふん、女の君にそんな危険な真似をさせられるわけがないだろう?女は黙って、安全な場所で家事等をすればいい。命を賭けるのは男の役目だ」
「だから、その考えは古いって何度も言っているんです!」
「まったく……僕は忙しいんだ。見ろ、この像を」
「!そ、それは―――天空の
「ほう?一目で気づくとはなかなかやるな」
「当たり前ですッ!こんなの常識ですよ!天空の
「……ほう?“わかっている”ようだな。世間一般の認識では、異端扱いの考えを」
「異端ですって!?そんなの、世界が間違っているんですッ!」
「その通りだッ!僕達が―――」
「私達が―――」
「「神だッ!!」」
「……何、このノリ……」
「……似たもん同士め……」
この今までとは違う展開に、グレンはジト目で、ウィリアムは呆れたように見守るしかない。
そんなシスティーナとフォーゼルのやり取りを背に、グレンとウィリアムはルミア達を連れて立ち去ろうとするも……
「―――って、待つんだ、グレン先生!」
フォーゼルはそれを見逃さず、素早くグレンの肩を掴んだ。
「今回の論文を書くには封印書庫の利用が不可欠なんだ。だが、無許可だから100%帰って来られない自信がある。だから、荒事に長けた君の力が必要なんだ」
「俺はこれから、魔力測定の監督を……」
「頼む!論文が書けないのは嫌なんだ!」
グレンとフォーゼルのやり取りに、もう面倒になったウィリアムが順番無視してぶっ飛ばそうか……と、考えた矢先。
「……ねぇ、魔力測定が終わった後で、フォーゼル先生を助けてあげませんか?私と先生、ウィリアムとリィエルで」
「「……は?」」
システィーナがいきなり意味不明なことを言い始めた。
「フォーゼル先生は色々と問題を起こしていますけど、この人のクビは魔導考古学会の損失なんですよ。それに……」
システィーナはそこで、グレンとウィリアムを真っ直ぐに見て、言った。
「今の二人に必要なのは、きっと、息抜きです」
「……悪いが、そんなことしている暇は―――」
「ウィル」
ウィリアムがシスティーナの申し出を断ろうとして、いつの間にか正面に回り込んでいたリィエルがそれを遮った。
「今のウィル、すごく苦しんでいる……その理由はわたしにはわかんないけど……今のウィルを見ていると凄く辛い。だから、システィーナの言う通りにすべきだと思う」
「そうですよウィリアム先輩。ここはシスティーナ先輩の提案に乗ってください。エルちゃんは私とルミア先輩の二人でちゃんと面倒みますから」
『ん。おとーさん、エルはオーヴァイおねーちゃん達といい子で待ってるから、おかーさん達といきぬきしてきて?』
リィエルだけでなく、後輩と娘にまでここまで言われてしまうと、ウィリアムは本当に情けない気分となる。
だが、今までと違う変化に、疲れきった心に僅かな活力が戻った気がして……
「はぁ……わかったよ……」
溜め息とともに、同意するのであった。
――――――――――――――――――――――――
―――魔力測定が終わり、赴いた魔術学院付属図書館の地下書庫区画。その禁断封印書庫にて。
「おい、グレン先生!あっちの棚にあるはずの『旧古代大ルーン外法辞典』を早く取ってきてくれ!大至急だ!!」
「ウィリアムは『古代象徴学秘術書』を探してきて!リィエルはこの本全部、目録番号順に元の場所に返してきて!」
「……へいへい」
「……あいよ」
「ん。わかった」
グレンとウィリアム、リィエルは、フォーゼルとシスティーナのパシリに成り下がっていた。
今回のフォーゼルの調査目的はクライトス領から盗掘した像のモデルとなった、古代の神の眷属の真名看破である。
本当に好き勝手に調べていくシスティーナとフォーゼルに、グレンとウィリアムうんざりしながらも渋々手伝っていく。リィエルだけはいつも通りだが。
システィーナ達曰く、《時の天使》ラ=ティリカと《空の天使》レ=ファリアが天空の
この、今調べている像が、《時の天使》ラ=ティリカの眷属である可能性があることが語られる。
「この不気味な像のモデルがねぇ……」
ウィリアムはシスティーナとフォーゼルの長ったらしい解説と横暴振りにうんざりしながらも、件の像を観察する。
まるで、少女と鳥類を交配させたかのような、禍々しさを感じる冒涜的な像だ。
(しかし……この像……どこかで見た気がするんだよな……それも、何度も見たような……)
不思議な既視感を覚えつつ、ウィリアムはまじまじとその像を観察していく。
(見た……というより似ている……?あの―――)
その瞬間、脳裏に鈍器で叩かれたかのような衝撃と共に気づいた。この像が、エレンの背後にいたあの
「―――先公ッ!!」
「……どうしたんだよ、ウィリアム?急に大声上げて―――」
「この像!あの
「―――ッ!?」
ウィリアムのその言葉に、グレンは驚きに目を見開いて、その像を目に穴が空くではないかというくらい凝視し始める。
「どっかで見たことあると思っていたが……確かにこの像、あのクソッタレな怪物にそっくりだ!!」
「……?どうしたのグレン、ウィル。急に大声上げて」
本を片付けて戻ってきたリィエルの疑問に、グレンとウィリアムは慌てて口を押さえる。下手に話せばリィエル達まで殺される。
だが、今までの経験から、繰り返しにさえ気づかせなければ大丈夫の筈だ。せっかく見えた糸口なのだから慎重にしなければならない。
そんなグレンとウィリアムに、更なる情報が耳に飛び込んでくる。
「どうしたのだ、グレン先生にアイゼン。今しがた判ったその子の名前……“ル=キル”の像をそんなに見つめて」
フォーゼルの疑問に混じっていた“ル=キル”の単語に、グレンとウィリアムは食い付くようにフォーゼルに詰め寄っていく。
「なぁ、フォーゼル。そのル=キルってのはなんだ?」
グレンのその言葉に、フォーゼルは前提知識を与えながらル=キルについて解説し始める。
魔術師の理論としては神や悪魔は存在しないが、ごく一部に“本物の神”が存在する。
天空の
ル=キルはその内の一つ―――《時の天使》ラ=ティリカの眷属だというのだ。
さらにシスティーナとフォーゼルに調べてもらうと、“
そして、その伝承はクリュトゥース地方―――
だが、ここまでわかっても手詰まりのまま。ループとエレンを止めようとした瞬間、あの
ウィリアムは歯痒い思いで写本の図面を睨んでいて……気付いた。
「この図面の時計……
「確かにあるな……」
かなり特徴的な竜頭の図面に、グレンとウィリアムはまじまじと見つめる。
竜頭は時計の機能を操作・調整するための必須の部品。だが、エレンのあの時計には竜頭はなかった。
「……いや、竜頭がなくて何になるんだ?」
「だよな。昔のもんだからなくなっても……」
そう思いかけ……グレンとウィリアムは押し黙った。
時計を操作するための竜頭。
結果が少しずつ落ちてきているにも関わらず、一向にループを続けているエレン。
もし、エレンはループを
「「…………」」
グレンとウィリアムは互いの顔を見つめ合う。互いに同じ考えに至ったようだ。
「さて、今日の目的は《ル=キル時計》ではない。この像から導き出される―――」
「待ってくれ、フォーゼルの先公」
「頼む。このまま《ル=キル時計》の機能をこの図面で分析してくれ!この通りだ!!」
封印書庫のさらなる奥に行こうとしたフォーゼルを引き止め、頭を下げて頼みこむグレンとウィリアム。
「断る。誰かの言うことを聞くのは嫌いなんだ」
だが、フォーゼルはけんもほろろに要求を突っぱね、立ち去ろうとした……その時。
「わたしからもお願い……」
今まで蚊帳の外だったリィエルが、同様に頭を下げていた。
「リィエル……!?」
「……私からもお願いします、フォーゼル先生。どうか、頼みを聞いてあげてください」
「白猫、お前まで……」
リィエルに続くようにシスティーナも頭を下げ、フォーゼルにお願いする。
しかし、相変わらず渋るフォーゼルに、システィーナが祖父レドルフの秘蔵論文の閲覧と引き換えに改めてグレンとウィリアムの頼みを聞いてもらうように頼みこむ。
だが、フォーゼルにとってそれは逆鱗であり、本来なら逆効果であったが、その心意気に免じてタダで《ル=キル時計》の機能分析を引き受けてくれた。
「さぁ、君達!三期のディク・ストーン写本を参考に解読するから、片端から持って来てくれ!早く!!」
完全にスイッチが入ったフォーゼルに追い立てられ、四人は慌てて駆け出していく。
「えーと、その……なんだ……」
「ありがとよ……二人とも……」
グレンとウィリアムの素直なお礼を……
「ん」
「ふふ」
システィーナとリィエルは微笑んで受け止めるのであった。
感想お待ちしてます