やる気なしの錬金術師   作:厄介な猫さん

195 / 215
……今回は長いです。
キリが良いところまで書いていたらここまでになってしまった……
てな訳でどうぞ


百四十七話

―――三日目。

座学試験がいつものように終わり、試験結果も発表されたとある時間帯。

ウィリアムはグレンの先導である場所へと向かっていた。

 

 

「間違いなくそこに、()()()はいるんだな?」

 

「ああ。この時間帯なら、確実に()()()はこの先にいる」

 

 

グレンとウィリアムは確認を取りながら、目的の場所―――屋上へと出る扉の前に立つ。

 

 

「行くぜ……覚悟はできてるな?」

 

「ああ」

 

 

そしてグレンとウィリアムは互いに頷き合い―――屋上への扉を力を込めて押し開いた。

 

ばぁんっ!

 

大反響を立てて押し開いた扉の先には―――

 

 

「……あ」

 

「な!?」

 

 

エレンと、彼女の祖父であり、クライトス魔術学院の学院長、ゲイソン=ル=クライトスが驚いたようにこちらを見ていた。

 

 

「さぁ、馬鹿騒ぎは終いにしようぜ?」

 

 

呆気に取られるエレンとゲイソンに言い放ったグレンと共に、ウィリアムは二人に対峙する。

 

 

「な!?二人とも、また死にたいんですか!?帰ってください!!」

 

 

苛立ったように言い放つエレンに、ウィリアムは極めて冷静に言い返し始める。

 

 

「問題ねぇよ。《ル=キル時計》の機能は大方把握した。お前の行動を妨害しなきゃ、設定した命令でしか動けない番人(ルーラー)は動かない。それに……用があるのはお前じゃないんだよ。俺達が今回、用があるのは、そこにいるジジイだ」

 

「ああ。だから、現クライトス当主ゲイソン……“とっとと、竜頭を出せ”。《ル=キル時計》の機能を操作・制御する“竜頭”をな」

 

 

その言葉に、エレンは呆けたように呟いた。

 

 

「なんで……わかったんですか……?」

 

「そんな難しい話じゃないさ」

 

 

エレンが懐から取り出した、件の竜頭のない懐中時計を流し見ながら、ウィリアムは答えていく。

 

 

「神の眷属を時計型へと作り替えられた魔法遺産(アーティファクト)……なら、使い方も普通の時計と同じように使う筈だ。だが、その時計には本来竜頭がある箇所には、穴だけで“竜頭”がない。なら、どうやってその時計を操作するのか?そこである仮説に至った。“その時計の竜頭を持っている人物が、時計を遠隔的に操作しているんじゃないか?”という仮説に」

 

「その仮説もフォーゼルの野郎に《ル=キル時計》の構造を調べてもらったことで裏が取れた。思った通り、時計の魔術機能の操作・制御は竜頭に集約され……記憶継承の効果はその時計本体だけだった。つまり、エレン、お前は黒幕ではなく、時計を持たされてループに巻き込まれた被害者だ。そうだろ?」

 

 

グレンの言葉に、エレンの顔色が変わる。

 

 

「そして、その“竜頭”の持ち主は記憶継承出来ないのにループを繰り返す理由だが……記憶を継承しているエレンの存在と、この選抜試験を繰り返す状況ですっかり他の可能性を失念していたが、ようやく気づいた。一番利益があり、その竜頭を持っているであろう人物にな」

 

「それがお前だ、ゲイソン。“エレンがメイン・ウィザードに選ばれた展開”が出るまで竜頭を操作して、時間を巻き戻し続ける……それだけで、記憶を継承しないアンタにとっては、全てが理想の形で終わるんだ。……孫娘(エレン)だけが地獄の苦しみを味わうこと以外はな。……テメェ、孫娘を何だと思ってるんだ?」

 

「さっきから何を言っているんだ!?無礼にも―――」

 

 

ドパンッ!

 

いきり立ったゲイソンに、ウィリアムが拳銃の非殺傷弾を顔すれすれに放って強引に黙らせる。

 

 

「芝居はいいんだよ。このループを順調に回す為に、“エレンを妨害した者の殺害”と“ループ情報を得た第三者の殺害”という、番人(ルーラー)に設定されたであろう令呪(コマンド)があるにも関わらず……この暴露話でお前がまだ生きているのが最大の証拠だ!」

 

「ああ。今から身体の隅々まで調べさせてもらうぜ。拒否権は―――……」

 

 

お互いに拳銃をゲイソンに向けて構え、グレンとウィリアムは距離を詰めていく。

すると……

 

 

「……やれやれ。まさか、この私の思惑に気付き、ここまで真実に到達できる者達がいたとは」

 

 

ゲイソンは薄ら寒く、実に俗っぽい下卑た形相へと表情を変える。

そして、ゲイソンは懐から不思議な魔力の光でぼんやりと発光し、ちりちりと燐光を零しながら宙に浮く小さな歯車―――《ル=キル時計》の竜頭を取り出した。

ゲイソンは下卑た表情のまま、何の罪悪感も感じていない様子で、クライトスの繁栄の為に分家筋のレヴィンではなく、直系のエレンを当主にするために、エレンがメイン・ウィザードに選ばれるまで繰り返す()()()()()()と明かす。

その上、エレンの父、グラハムと兄のレオスに代わって庇護した恩を傘に、エレンにループを強要するというヘドが出る光景まで見せていく。

 

 

「そのために……この少し辛い試練、耐えてくれるな?エレン」

 

「……は、はい……私、頑張りますから……」

 

 

ゲイソンの言葉に、エレンは目尻に涙を浮かべ、掠れた声で呟いた。

それが、限界だった。

 

 

「良い子だ、エレン。愛しているよ、我が愛しい孫娘……」

 

 

ゲイソンはエレンの返答に満足して、我が意を得たとばかりに、グレンとウィリアムに振り返った―――その瞬間。

 

 

「ぐぎゃあああああああああああーーッ!?」

 

 

ウィリアムが【詐欺師の世界】で具現召喚した【騎士の腕(ナイツ・アーム)】に殴り飛ばされ、ゲイソンは派手に転がっていた。

 

 

「いい加減にしろよ……?愛しているだと?あんな顔の孫娘に、恩を傘にループを強要しているのにか?テメェが愛しているのは“理想のクライトス家”だけだろうがッ!!そのために、孫娘(エレン)を利用しているだけだろうがッ!!このクソジジイッ!!」

 

 

ゲイソンに向かって、怒りの咆哮を上げるウィリアムに続くように、グレンがエレンに向かって吠えかかる。

 

 

「エレン!お前は本当にそれでいいのかッ!?大事な友達だった白猫……システィーナを逆恨みして、憎み続けながら、この老害の言いなりで繰り返し続けるつもりか!?お前もわかってんだろ!?この閉じた一週間じゃ、システィーナに絶対勝てないことは!?」

 

「―――ッ!だ、だけど……私は、こうするしか……ッ!」

 

「足踏みは止めろッ!未来で足掻けッ!」

 

「―――ッ!?」

 

 

グレンの叱責に、エレンは思わず呼吸を忘れた。そんなエレンに、ウィリアムが更に言葉をぶつけていく。

 

 

「立ち止まって足踏みしても、何も得られないし、何一つ変わらないんだよ!未来に向かって足掻くことでしか……背負うもん背負って前に進むことでしか、変えることが出来ないんだよ!!」

 

「確かにお前は人よりハンデを背負っているが……それでも一歩一歩歩き続けるしかねえんだよ!生まれや環境や才能のせいにしても、何も変わらねえし、誰も変えてくれねえんだよ!……もう一度聞くぜ?エレン……まだ繰り返すつもりか?」

 

「……嫌……です……もうこんな繰り返しは嫌……ッ!誰か……誰か助けてよぉおおおおおおお―――ッ!!」

 

 

グレンとウィリアムの言葉に、ついにエレンは頭を抱えて、己の心情を吐露するのであった。

その言葉を受け、グレンとウィリアムはゲイソンに近づこうとした……その時。

 

 

「げほっ……ぐははは……これだから最近の若者は……敬うべき人生の先達に対してこの仕打ち……実に嘆かわしい」

 

 

倒れていたゲイソンがにやりと笑いながら、ゆっくりと立ち上がっていた。

 

 

「……黙れ、クソジジイ」

 

「若者にも敬う相手を選ぶ権利があるぞ、老害」

 

 

すると、ゲイソンは蔑むように言った。

 

 

「君達は一つ勘違いしているよ……君達は、《ル=キル時計》の番人(ルーラー)は設定した命令でしか動かないと……本当にそう思うかね?」

 

「「―――ッ!?」」

 

 

ゲイソンのその言葉に、グレンとウィリアムはようやく()()に気付き、ゲイソンの掌の竜頭が不穏な魔力を漲らせ、猛回転しているのを視界に収めた瞬間、咄嗟に互いに離れるように横へと飛び跳ねた。

瞬間、微かな風の流れを、ウィリアムは右肩に、グレンは左肩に感じ―――

ぼんっ!互いに風を感じた肩が突然弾け、血花が咲いた。

 

 

「ぐぁあああああ―――ッ!?」

 

「がぁあああああ―――ッ!?」

 

 

グレンとウィリアムが苦悶の叫びを上げた、次の瞬間。

ばぁんっ!屋上の扉が開け放たれる。そこに現れたのは―――

 

 

「な……ッ!?」

 

「システィーナにリィエルッ!?」

 

 

システィーナとリィエルの二人だった。

 

 

「せ、先生!?」

 

「ウィル!」

 

 

そんなグレンとウィリアムの驚き他所に、システィーナはグレンに、リィエルはウィリアムに急いで駆け寄っていく。

 

 

「ウィル、酷い怪我……ッ!なんで、どうして……ッ!?」

 

「リィエル!お前はシスティーナを連れて急いでここから逃げろ!」

 

 

ウィリアムは弾け飛んだ右肩を押さえながら立ち上がる。振り返った先には―――

 

 

「あ、あぁ……ッ!?」

 

 

驚愕のエレンと、そんなエレンの頭上に浮遊して凄まじい魔力を漲らせる《ル=キル時計》。

そして、その時計が今までの異形の人形から、時計に変形する時の逆の挙動で番人(ルーラー)が―――墜ちた神の眷属、ル=キルが顕現する。

 

 

「何、あれ……?敵……?」

 

 

リィエルは微かに震えながらも、大剣を錬成してル=キルに向けて構える。

 

 

「この竜頭があれば、彼女―――ル=キルを私の意思で自在に操ることができる……」

 

「だから、エレンは黙って従ってたんだな……ッ!逆らえば、そいつを使って殺すと言ってッ!?」

 

「そして、そいつはやっぱり……フォーゼルが盗んできたあの像に瓜二つだ!やはり、その時計はル=キルそのものなんだな……ッ!」

 

 

ル=キルを睨み据えるグレンとウィリアムに、ゲイソンは下卑た笑みで答えていく。

 

 

「ご名答だよ。時間を操る神の眷属ル=キルが、魔法遺産(アーティファクト)へと作り替えられた存在―――《ル=キル時計》こそが、我がクライトス主家の当主にのみ受け継がれてきた秘宝。当然、この時計の使い方も熟知している……このようにな!」

 

 

ゲイソンがそう告げると同時に竜頭が回転し、その回転に応じて、ル=キルの鎖で縛られたクズ鉄の翼が羽ばたき、風を起こし始める。

ウィリアムは今までの情報から、風を受けてはいけないと判断し―――

 

 

「リィエル―――ッ!」

 

「うあっ?」

 

 

ウィリアムは身体能力強化魔術を全開にし、リィエルを抱きかかえて横へ飛んだ。

リィエルは辛うじて風の範囲から外れたが―――ル=キルが巻き起こした風は、ウィリアムの背中と、リィエルの大剣を撫でた。

 

 

「が―――ッ!?」

 

 

ぼんっ!リィエルの大剣が穴が空いたように真っ二つに折れ、ウィリアムの背中が弾け飛ぶ。……致命傷だ。

背中から大量の血が流れ、ウィリアムは立ち上がることさえ出来なくなる。

 

 

「ウィルッ!?何で急に、酷い傷が!?」

 

「リィ、エルッ!はや、く……ごふっ!シス、ティーナを、連れ、て……にげ、ろ……ッ!俺と、先公を、置いて……ッ!」

 

 

ウィリアムは血ヘドを吐きながら、すぐ近くで、脇腹に致命傷を負ったグレンに縋るシスティーナに視線を向けながら伝えるも。

 

 

「やだ……やだやだッ!絶対、やだッ!!ウィルとグレンを置いていくなんて、絶対、やだッ!!」

 

 

リィエルは悲痛な顔で拒絶し、ウィリアムから離れようとしなかった。システィーナもグレンに請け合わず、法医呪文(ヒーラー・スペル)をかけ続ける。

そんな四人にゲイソンは高笑いして、竜頭をさらに回転させていく。同時にル=キルが再び風を起こし―――

 

 

「ぐ―――ッ!《解の開放(オープン)》―――ッ!《楯壁展開(ロード)》―――ッ!」

 

 

ウィリアムは何とか左手を動かして、圧縮凍結状態の《詐欺師の盾》を取り出し、解凍して元の大きさに戻して封印を解除し、《盾》の魔力障壁を展開する。

ウィリアム達を守るように、全方位に展開された絶対防御の魔力障壁が、迫る風を受け止めるも―――

 

ぴっ。ぴっ。ぴしっ。

 

風にあたった絶対防御の魔力障壁に、ちょっとずつヒビが走っていく―――

 

 

(“あらゆるエネルギーを分解”する特性を再現した魔力障壁にヒビが入るとか……ッ!?やっぱりこれは物理的な破壊じゃないッ!別の理屈で起こしている“滅び”だ……ッ!)

 

 

このままでは、障壁が破られる。

 

 

「―――~~?――――――~~~?―――、―――~~!」

 

 

障壁の外にいるゲイソンの持つ竜頭がさらに回転数を上げ、それに呼応するようにル=キルの羽ばたきがさらに強まり、クズ鉄の翼から羽根まで飛ばし始めていく。

飛ばされた羽根も障壁にあたった瞬間、そこからヒビが入って障壁を壊していく。

そして、滅びの風と羽根により、魔力障壁のひび割れがどんどん大きく、広がっていく―――

 

 

「このままだと……がはっ!破られるッ!」

 

「ごほっ!白猫……げほっ!お前の風の魔術であの風を受け止めろ!風には風だ……ッ!」

 

「な、何を言ってるんですか……ッ!?今治療を止めたら……ッ!」

 

「大丈夫だ!大丈夫だから―――」

 

「でも……でもぉ……ッ!」

 

 

グレンの要請をシスティーナが涙目で拒絶している間に―――

 

ばきぃんっ!!

 

絶対防御の魔力障壁は遂に限界に達し、砕け散ってしまった。

 

 

「ふははははははは―――ッ!中々耐えたようだが、所詮ここまで!我らがクライトスの威光にひれ伏して―――死ねッ!」

 

 

ゲイソンが哄笑と共に竜頭をさらに回転させようとした―――その時。

ぴたり、と。ル=キルの翼の動きと、滅びの風と羽根が止まった。

びきり、と。ル=キルを戒める拘束具と鎖に、ヒビが入った。

そのヒビに呼応するように、竜頭がかつてないほどの回転を始め―――ル=キルを戒めていた拘束が次々と弾け飛び、首輪と、首輪についた鎖以外の拘束が、全て破壊された。

 

 

「い、一体何が―――」

 

 

驚愕するゲイソンの言葉は最後まで紡がれず、ほぼ自由になったル=キルが巻き起こした風でこの世から消し去られてしまう。

 

 

「ヨウヤクデス……えれんの、オ陰デ……出テ来ラレタ……モウ少シ繰リ返セバ……完全ニ、自由ニ、ナレル……ダカラ……一緒ニ、繰リ返シマショウ、えれん……永遠ニ……」

 

「やだ……もう繰り返すのは嫌ぁあああああああああ―――ッ!」

 

 

身体の半分以上が機械化され、肉に歯車やらが覗く、悍ましい姿のル=キルと、そのル=キルから背後で抱きしめられるエレンのやり取りを前に、グレンとウィリアムは遂に限界に達する。

 

 

「先生ッ!しっかりして、先生ッ!!」

 

「ウィルッ!死なないで、ウィルッ!!」

 

 

システィーナとリィエルが縋り付いてくるが、最早、グレンとウィリアムの身体は動かない。

今起きた現象は単純だ。

時計に改造されて封印状態だったであろうル=キルが、何千回と使い続けた結果、その封印に綻びが生じ、その綻びを突いて封印を破壊したのだ。

そして、この世界は終わり(Ω)始まり(A)へと戻る―――

そんな、昏く落ち行く世界の真ん中で―――

 

 

「大丈夫だ、白猫……信じろ……」

 

「“次”こそ……このふざけた世界をぶっ壊して……お前や皆の未来を守ってやるから……」

 

 

グレンとウィリアムは最後の力で、それぞれに縋る少女の手を握りしめる。

そんな二人に対し……

 

 

「……わかりました、信じます」

 

「……わたしにはよくわかんないけど……その時は、ウィルの力になる……」

 

 

少女達は力強く手を握り返した。

その言葉にグレンとウィリアムは安堵し、心に潤いが戻っていくと同時に、意識は闇へと落ちるのであった―――

 

 

 




感想お待ちしてます
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。