やる気なしの錬金術師   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


百四十八話

――――――。

―――ふと、気付く。

 

 

「「……?」」

 

 

グレンとウィリアムは、いつの間にか見知らぬ世界に立っていた。

無限に広がる草原に所々、地面から生えるように色とりどりの鉱物が幾つも散らばっており、遠くには山々が連なる世界だ。

前方には緩くうねるような街道が地平線の果てまで続いており、その街道の遠くの先には、良く見えないが、妙な柄の剣らしきものが刺さっている。

グレンの足下には金色の毛並みの可愛い子犬が懐くように寄り添い、ウィリアムの足下には薄い金色の毛並みの子狼が構ってほしいように見上げている。

ウィリアムの肩には、瑠璃色の瞳を眠たげに細めた子リスが、縋り付くように乗っており、少し離れた道の先で、真っ白な毛並みの子猫が、ちょこんと座り、つんとしたすまし顔でグレンに向かって振り返っている。

そして、空は無限の星で煌めき、どこまでも大きく広がっている―――

 

 

「……どこだよ、ここ……」

 

『ここは、貴方達の精神世界が混ざり合った場所よ、グレン、ウィリアム』

 

 

グレンの呟きに、背後から聞こえた声が答え、グレンとウィリアムが振り返ると、ナムルスが立っていた。

 

 

『夢と現実の狭間、意識と無意識の境界に存在する領地……今は貴方達の心象風景が混ざりあって生み出された、外界を流れる時間とは切り離された世界……とはいえ、貴方達以外の誰かさん達の意識も少し混ざっているみたいだけど』

 

 

ちらり、とナムルスが視線を子リスと子猫に向ける。

瑠璃色の瞳を眠たげに細めた子リスはウィリアムをじっと見つめ、真っ白な毛並みの子猫は物言いたげにグレンを見ていた。

 

 

「本当に、何でもありなんだな、ナムルス」

 

『……さて。ようやく真実に辿り着いたみたいね』

 

 

ウィリアムの嘆息をナムルスは軽く流して、本題へと切り出す。

 

 

「……見てたのか?」

 

『ええ、見えたわ。あの子……ル=キルが今回の元凶ね』

 

「「?」」

 

 

ナムルスの奇妙な表現に、グレンとウィリアムは揃って首を傾げるが、ナムルスは構わずに話を続けていく。

今のル=キルに理性はなく、エレンに取り憑いて、与えられた命令の延長線上でしか思考出来ないこと。

本来は厄介である時間操作能力も、この一週間の繰り返しだけで、厄介なのはあの翼の滅びの風と羽根だけだと。

 

 

「それが絶望的なんだが?」

 

『今のあの子の力は、時間が常に内包している滅びの“概念”を極微少の根源素粒子―――第三虚数質量物質《時素(ルイン)》として翼で物質化し、風に乗せて飛ばすだけ……羽根も風と似たようなものよ。だから、()()ウィリアムの碧い金属そのもので十分耐えられるわ』

 

「……ああ。だから不完全でも魔力障壁で防げたんだな」

 

 

ナムルスの説明に、ウィリアムは納得がいく。

エネルギーは物質の移動・振動である以上、滅びの概念を宿した《時素(ルイン)》という物質を飛ばしているだけだからこそ、止めることが出来たのだ。

《ディバイド・スチール》本体なら、あの滅びの風と羽根を確かに止められるだろうが、所詮金属。限られた範囲でしか防げない。

 

 

「結局、発生したての風に触れなきゃ大丈夫なのか?」

 

「ああ。滅びを内包しているから、物質化した《時素(ルイン)》も、自らの滅びで消えるんだからな」

 

「なるほどな……」

 

『そういうこと。かつてのように、近過去へ不可視の攻撃をしてくる力もないから、安心なさい』

 

「近過去への攻撃って……まさか、過去を攻撃して、攻撃されたという現在を作るってか?」

 

「神の眷属は何でもありかよ……」

 

 

頬を引きつらせるグレンとウィリアムに、ナムルスが訴えるように告げる。

 

 

『貴方達ならきっと対策を打てるはず……それに、薄々わかってるでしょ?私が再び現れた理由に』

 

「……限界、なんだろ?」

 

『ええ。恐らく次の繰り返しで、貴方達の存在する時空間が完全にねじ切れる。そうなれば、この一週間はあの子に関係なく永遠に繰り返され……どこにも向かわない』

 

「もう、後がないんだな……」

 

「……ホンっと、ヘヴィだぜ……」

 

『ル=キルを倒して。幸い、今のあの子は予め決められた機能と命令しか実行できない、ただの時計よ。()()グレンには手に負えない時間操作能力もループ機能だけ……まったく勝ち目がないわけじゃない……あの子を楽にしてあげて……』

 

 

湿ったものが混ざったナムルスの態度と言葉に、グレンとウィリアムは引っかかりを覚える。

 

 

「ナムルス……やっぱり、ル=キルのことを何か知っているんだな?」

 

『さぁ?』

 

 

グレンの問いかけにナムルスは答えず、くるりと背を向ける。おそらく、いつもの“答えられない”だろうから、素直に諦めることにする。

 

 

『……お願い……グレン、ウィリアム……貴方達は自身の過去と未来のために、あの子を倒して、未来を掴んで……』

 

「……善処はするぜ」

 

「……やるだけやるさ」

 

 

ナムルスの懇願に、グレンとウィリアムが応じると、二人のいた世界は真っ白に白熱していった―――

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

――――――。

 

 

「―――ウィル。……?」

 

「…………」

 

 

再び、初日に戻る。

そこは、いつもの教室。

いつものように皆が居て。

隣には、エルを膝の上に座らせたリィエルが居る……

 

 

「…………」

 

『おかーさん?』

 

 

リィエルはなぜか自身の手とウィリアムを交互に見比べているが……それどころではない。

今回で何としても、あのル=キルを倒さなければ、この世界は一週間を永劫繰り返すだけの世界となってしまうからだ。

 

 

(第三者へのループ情報開示のルール……おそらく、まだ生きているだろうな……ナムルスが今のあいつは与えられた命令延長線上でしか思考出来ないと言っていたから、ゲイソンから離れた今もそのルールは引き継いでいると見ていい……いや、そう見るべきだ)

 

 

希望的観測で行動して、ループ情報を第三者に掲示した瞬間、次のループが始まれば、そこで全てが終わってしまう。

今の状況で動けるのは、周回の記憶を残しているグレンとウィリアムだけ。たった一人で挑むより遥かにマシだが、それでも、頼れる人物達の力を借りられないのは痛過ぎる。

特に、ル=キルの滅びの風対策に最も適した人物―――システィーナの力を借りられないのが一番痛い。

 

 

「ああ、クソ……ッ!」

 

「一体どうすれば……!?このままじゃ―――ッ!」

 

 

ウィリアムは同じ考えであろうグレン共々、頭を抱えて、机に突っ伏した、その時。

 

 

「先生……少し、お話ししましょう」

 

 

グレンと自身の手を見比べて、どこか様子のおかしかったシスティーナが、グレンの手を突然取って、引き始めたのだ。

そのシスティーナがちらり、とリィエルとウィリアムに視線を向けてから、グレンを教室の外へと連れていこうとする。

システィーナの謎の行動にウィリアムが戸惑っていると……

 

 

「……エル。ごめんだけど、ルミアのところで待ってて。わたしとウィルは、グレンとシスティーナに付いていく」

 

『?わかったの。ルミアおねーちゃんのところで、エル、待ってる』

 

 

リィエルの突然のその言葉に、エルは小首を傾げながらも素直に頷いて、霊的な羽を動かして、リィエルからルミアの下へ飛んで向かっていく。

それを確認したリィエルは、そのまま、ウィリアムの手を引っ張って、グレンとシスティーナの後へと続くのであった。

 

 

(……一体どうなってんだ?こんな展開、一度も……)

 

 

ラスト・ループに来て、完全に初めての展開にウィリアムは、システィーナに引っ張られているグレン共々、戸惑うしかなかった。

 

 

 




「「「…………」」」

草葉の陰からじっと見つめている、真っ白な毛並みの子犬と赤い毛並みの子リス、亜麻色の毛並みの子狼の図

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