やる気なしの錬金術師   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


百四十九話

閑散とした寂しげな裏庭。そこにグレンとウィリアム、システィーナとリィエルがいた。

 

 

「ったく、何の用事だよ?」

 

「同感だ。一体どういう―――」

 

 

グレンとウィリアムの投げやり気味の言葉に、システィーナは戸惑いながら、リィエルはよくわかっていなさそうに言葉を口にする。

 

 

「私……先生を起こそうとした一瞬……夢を見たんです。先生とウィリアムが何か恐ろしい敵と戦っている……そんな夢を」

 

「ん、わたしも夢……?を見た。グレンとウィルが敵にボロボロにされて、最後までウィルがわたしの手を握ってくれたのを……一瞬だけど」

 

「「!?」」

 

 

システィーナとリィエルのその言葉に、グレンとウィリアムは目を剥いて愕然とする。

 

 

(前回のループの記憶が少し残っている!?最後まで俺や先公と一緒だったことが原因なのか……ッ!?)

 

 

理屈はわからないし、そもそも、周回の記憶を残すようになった原因も不明なのだ。

そんな困惑するグレンとウィリアムに構うことなく、システィーナとリィエルは言葉を続けていく。

 

 

「もの凄くリアルな夢で……不思議とリィエルも同じ夢を見た気がして……」

 

「グレンとウィルを助けたい……そう強く感じる夢?だった……ウィルの最後まで握ってくれた手の温もりが、強く感じるほどに」

 

「あの夢の中で握ってくれた先生の手の感触が……今もはっきりと残っているんです!もし、何か隠しているなら……話してくれませんか?」

 

 

そんなシスティーナとリィエルに対し、グレンとウィリアムは―――

 

 

「「…………」」

 

 

……黙りを貫いて、気まずそうに目を逸らした。

システィーナとリィエルが前回の記憶の一部を継承したのには驚いたが……結局は事情を話せない。話せば、ループが始まってしまう。彼女達の力を借りることは出来ない。

墜ちた神の眷属、滅びの風をもたらすル=キル。

そのル=キルに対抗できる可能性があるのはシスティーナだ。

リィエルも、ル=キルに対抗できる手段を用意してやれるが、それもシスティーナの協力がなければ意味がない。

そして、システィーナにはあることをやってもらわなければ、今のままではル=キルに対抗することが出来ない。

しかも、それをやるにはハードルが高すぎるのだ。

詳しい事情を明かせない以上、どうしようもない。

仮に頼んでも、それを受け入れてくれるかどうか……

 

 

「…………」

 

「……もう、話さなくていいです」

 

 

何も語らないグレンとウィリアムを前に、リィエルが目を伏せ、システィーナがぼそりと呟いた。

ここまで真剣に真摯に向き合ったのに、話すらしないのだ。誰だって愛想を尽かして当然だ。

グレンとウィリアムは、システィーナとリィエルに本当に申し訳ない気分になっていく。

だが、これでいい。これでいいのだ。元からこれはそういう戦いなのだから。

かなり厳しいが、人工精霊(タルパ)で何とか滅びの風を抑えて、必滅の一刺しを叩き込むしかない。

グレンとウィリアムは寂しげに、無言で立ち去ろうとした……その時だった。

 

 

「……それで?私は何をやればいいんですか?」

 

「……ん。何をやればいいのか、教えて」

 

 

あまりにも意外過ぎる言葉が、グレンとウィリアムの背中を叩いたのであった。

 

 

「「は?」」

 

 

その言葉に、グレンとウィリアムが思わず振り返る。

そこにあったのは、苛立ったり悲しんだりしたものではなく、無限の信頼を瞳に灯した二人の姿だった。

 

 

「何をやればって……」

 

「そもそも話してねぇのに……なのに、どうして……?」

 

「肝心な所で嘘が下手すぎですよ。何かあるのは二人の態度で確信しましたから。それがきっと……あの夢にあることも」

 

「ん。たぶん、グレンとウィルは“話せない”んだと思う……勘だけど」

 

「「!」」

 

「だったらわたしは何も聞かずグレンとウィルの力になる。そうしたいと、わたし自身が思うから」

 

「その理由はさっぱりですけど……そのくらいはわかるというか……信頼しているっていうか……そういうことですから察してください!それで、何をすればいいんですか?」

 

 

相変わらずのリィエルと突然怒ったシスティーナに、グレンとウィリアムは目をぱちくりとしてしまう。

そして、グレンとウィリアムは頼みを口にする。

 

 

「……システィーナ。選抜会を辞退してくれ」

 

「……リィエル。今日から学院を休むぞ」

 

「!……わかりました。辞退しますね」

 

「ん。わかった」

 

 

あまりにもあっさりと承諾したシスティーナとリィエルに、ウィリアムはかくん、と口を開き、グレンは思わず転びそうになる。

 

 

「何でそんなにあっさり!?」

 

「お前はメイン・ウィザードになりたいんだろ!?本当にわかっているのか!?理由も話さず、頼みも滅茶苦茶……なのに、どうしてなんだ!?どうして、そんなに信じてくれているんだ!?」

 

「ウィリアムはともかく、先生がなんで私の意気込みを知っているのか凄く気になるんですが……先生だからですよ」

 

「ん。グレンとウィルだから……だから、信じる」

 

「「…………ッ!?」」

 

 

システィーナとリィエルのその言葉に、グレンとウィリアムはただただ圧倒され、二人の顔を見つめるしかない。

 

 

「ほら!先生!早く行きますよ!」

 

「ん。わたし達も行こ、ウィル」

 

 

グレンとウィリアムはそれぞれの少女に手を引かれて。

本当に敵わないな……と、互いに同じことを思うのであった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

四日目の、第三の試験―――総当たり模擬魔術戦。

代表候補の生徒達の白熱した試合を多くの生徒達が観客席から見守っている。

 

 

『皆すごいの!ファイトぉ~、なのッ!』

 

 

その観客席の一つから、オーヴァイに抱きかかえられたエルの声援が響いている。

 

 

「本当に凄いですねぇ、皆さん。オキタさんも戦いたかったですー」

 

「あはは。本当に凄いね、皆」

 

 

オーヴァイは羨ましげに、ルミアは朗らかに笑いながら試合を見守っている。

 

 

「……でも、本当にどうしたのかな?システィが選抜会を急に辞退するなんて……」

 

「はい。それもグレン先生と朝から晩まで図書館に籠って……同時にウィリアム先輩とリィエル先輩も学院を休んでますし……」

 

 

ルミアとオーヴァイの間に微妙な空気が流れ始めるも……

 

 

「だけど、きっと何か理由がある筈だよ。そうしないといけない理由が」

 

「はい。正直、不満やら自身への情けなさやらで胸が一杯ですが、今は信じましょう。先生達を」

 

「うん……そうだね」

 

『う?』

 

 

ルミアとオーヴァイは微笑みながら、よくわかってなさそうに小首を傾げるエルと共に彼らを想うのであった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

―――七日目。選抜会の最終日。

魔術競技場でより白熱した模擬魔術選が行われる中、エレンは魔術学院校舎屋上から、黄昏に燃えるフェジテの街並みを涙と共に眺めていた。

 

 

「泣カナイデ、えれん……怖クナイカラ……一緒ニ、繰リ返シマショウ……繰リ返セバ、アノ御方ニ、何時カ、会エルカラ……」

 

 

そんなエレンを、掌にあの竜頭を収めているル=キルが背後から抱きしめている。

会話も全く成立せず、エレンの胸にはただただ、悔恨と絶望、皆の未来を奪ってしまったことへの罪悪感しかなかった。

 

 

「ごめんなさい、ごめんなさい……」

 

 

自分勝手な願望がもたらした結果に、エレンは鉄柵に縋り付き、燃える黄昏に向かってひたすら涙を流し、永遠に続くであろう謝罪の言葉を繰り返していると……

 

がちゃ……

 

背後から扉が開かれる音が聞こえてきた。

誰かが入ってくる気配を感じ、エレンは、力なく背後へと振り返る。

 

 

「……え?」

 

 

そこに居たのは、グレンと―――システィーナ。

そして、後ろには紺の外套を羽織ったウィリアムと、鞘に納まっている十字架型の柄(クロス・ヒルト)を設えた剣を腰に吊ったリィエルだった。

 

 

「……どうして、システィーナがここに……?」

 

 

エレンの口から疑問の声が洩れる。

グレンとウィリアムは、何度も顔を合わせたから、まだ理解できる。

リィエルという名前の少女は……理解はできないが許容はできる。

だが、システィーナがこの場にいることだけは―――理解も許容もできなかった。

そんなエレンの心情に構うことなく、システィーナが口を開く。

 

 

「久しぶりね、エレン。貴女を助けに来たわ。先生とウィリアムが何も教えてくれないから、詳しい事情はわからないけど」

 

「…………」

 

「待っててね、エレン。今すぐ、その怪物を倒して助けるから」

 

「……どうしてなの?どうして貴女がここにいるの!?貴女は選抜戦に出場しているはず!貴女にとってこの選抜戦は、何物にも代えがたいものの筈なのに……ッ!私は、散々、貴女に酷いことを言って、傷つけたのに……ッ!なのに、どうして、私なんかを助けに―――ッ!?」

 

「……ごめん、エレン。正直、貴女の言っている意味が全然わからない。間違いなく知らない所で色々あったのね。だけど、“友達を助ける”……それだけで、私にとっては十二分に過ぎる理由よ」

 

 

「あ……」

 

 

いまいち事情が呑み込めないまでも、はっきりと告げたシスティーナのその言葉に、何千回もの繰り返しで化石と化して乾ききったエレンの心に、急速に潤いが取り戻され、優しく溶かしていく。

そして―――

 

 

「システィ……ぐすっ……ごめん、ごめんね……」

 

 

エレンは辛さと後悔で顔を歪めて泣いていた。

そんなエレンの姿に、システィーナは口元に優しげな笑みを浮かべ、呼吸と共に、静かに魔力を高め始める。

エレンとシスティーナのやり取りを見守っていたグレンとウィリアム、リィエルもシスティーナに続くように、グレンとウィリアムは互いの拳銃を抜き、リィエルは腰に吊った剣を鞘から抜いて構えていく。

リィエルが持つその剣は、片手半剣(バスタードソード)状の刀身で、その刀身はルーン文字が幾つも刻まれた碧い金属で構成されている。

 

 

「さあ、行きますよ、先生!ウィリアム!リィエル!」

 

「へっ、頼りにしてるぜ?()()

 

「もちろんだ」

 

「ん。任せて」

 

 

そんな一同の言葉と動きに、エレンはぎょっとして叫びを上げる。

 

 

「待って!待ってくださいっ!まさか、本当にこの怪物と戦うつもりなんですか!?」

 

「そうに決まってんだろ」

 

「そもそも倒さないとマズイだろ。後、そいつへの対抗策はもう用意してあるんだよ」

 

「対抗策……ッ!?この人を超えた異次元の力に、どうやって……ッ!?」

 

 

わけがわからないと困惑するエレンに、システィーナが自信に満ちた声で告げる。

 

 

「大丈夫よ、エレン。選抜会を棄権して、先生と一緒に、新しい魔術を作ってきたから」

 

「はぁ!?棄権!?」

 

「私には、今まで先生と一緒に積んだ、とても大きな土台がある。先生も一緒なら、この一週間で、そんな怪物に対抗する魔術を編み出すくらい、わけないわ!だから……絶対に、貴女を救ってみせる!!」

 

 

そんな威風堂々としているシスティーナの姿を、エレンは遠く眩しいものを見るように、ぼんやりと見つめる。

 

 

「―――そういうわけだ。この茶番劇にケリをつけようぜ……ル=キル」

 

 

ウィリアムが不敵に笑って、ル=キルを見据えると―――ル=キルが遂に動いた。

 

 

『敵性反応、検知。処刑もーどニ移行シマス。―――《滅ビノ風》行使権能―――発動』

 

 

途端、ル=キルの掌の竜頭が、猛回転を始め―――背中の翼がばさりと広がり、容赦なく羽ばたかせた。

今までとは違う、エレン以外を吹き飛ばそうと荒れ狂う、渦巻く嵐が、彼らを呑み込まんと迫る―――

 

 

 




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