やる気なしの錬金術師   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


百五十話

滅びの風が放たれ、ル=キルとエレンを中心に、屋上の床がぼろぼろの灰燼と化していく。

 

 

「逃げてぇえええええええええ―――ッ!!」

 

 

エレンの悲痛な叫びが上がった―――その時。

 

 

「《我に従え・風の民よ・我は風統べる姫なり》!」

 

 

システィーナが両手を広げて、呪文を叫んだ。

瞬間、システィーナの足下に魔力の光が迸って瞬時に魔術法陣が展開され、それがシスティーナを軸に回転し始めていく。

 

 

「いっけぇえええええええええええ―――ッ!!」

 

 

そして、システィーナが何かを分けるように両手を大きく広げると、猛然と迫っていた滅びの風が二つに分かれ、ウィリアム達を避けて流れていった。

システィーナのお得意の改変呪文、黒魔改【ストーム・ウォール】。

その魔術をさらに発展改変した、その場のあらゆる風の流れを知覚し、風を支配できるという、その場における風の完全支配を行う魔術―――黒魔改弐【ストーム・グラスパー】。

グレンとシスティーナが一週間の突貫工事で編み出し、システィーナの魔術特性(パーソナリティ)【流転の加速・支配】ゆえに習得できた、ル=キルの滅びの風に対しての最大の切り札だ。

 

 

「うそ……」

 

「へっ……滅びの風と大層な名がついていても風……風そのものは気圧差で発生する空気の流れに過ぎねえんだよ!」

 

「あくまで滅びを内包した時素(ルイン)を風で飛ばしているだけだから、それに触れなければいいだけの話だ!」

 

「悪いんですけど、この術、すっごく魔力を食うんですから、あんまり長く展開できませんからね!ドヤってる暇はないんですからね!?」

 

「ん。早くあいつを倒すべき」

 

 

妙に緊張感のないやり取りをするグレンとウィリアム、システィーナにリィエル。

そんな彼らに構うことなく、ル=キルはさらに翼をはためかせ、爆風を巻き起こしていく。

 

 

「ふ―――ッ!」

 

 

だが、いくら巻き起こしても所詮、風。システィーナの前には児戯同然。

滅びの爆風は分断され、方向を曲げられ、あらぬ方向へと流される。

だが、滅びの風を受けていた校舎が、度重なる損壊から、灰燼と化しながら崩れ落ちていく。

 

 

「おっと!」

 

 

だが、ウィリアムが正規の手法で大きな鳥の人工精霊(タルパ)を二羽、その場に具現召喚し、それぞれの背中にグレンとシスティーナ、ウィリアムとリィエルを乗せて滞空する。

 

 

「ギ―――」

 

 

一方、ル=キルはエレンを抱きかかえて飛び、上空から滅びの風を叩き付けんとするも―――

 

 

「《剣の乙女よ・空に刃振るいて・大地に踊れ》―――ッ!」

 

 

システィーナが【エア・ブレード】を改変強化した、全方位から迫る風の刃―――黒魔改【ブレード・ダンサー】でル=キルだけを切り刻んで妨害する。

 

 

「グガァアアアアアアアアアアア―――ッ!?」

 

 

無数の風の刃になます斬りにされたル=キルは苦悶の悲鳴を上げ、無数の部品をボロボロと零していく。

 

 

「凄い……」

 

「白猫ッ!アレを頼むぜッ!」

 

「はいっ!」

 

 

グレンの要請に、システィーナは他者に遠隔的に【ラピッド・ストリーム】をかける改変魔術―――黒魔改【スウィフト・ストリーム】を疾風脚(シュトロム)でグレンにかけ、二人三脚の疾風脚(シュトロム)でグレンはル=キルに向かってカッ飛んでいく。

 

 

「ギ―――」

 

 

ル=キルは迎撃とばかりに、滅びの風と、滅びの羽根を自身に迫ってくるグレンに向かって飛ばしていく。

だが、滅びの風はシスティーナの【ストーム・グラスパー】で捌かれ、滅びの羽根はグレンとシスティーナの阿吽の呼吸による三次元機動で悉くかわされてしまう。

 

 

「ギ―――排除―――優先対象―――変更」

 

 

それならば、と言わんばかりに、ル=キルは滅びの羽根をグレンだけでなく、システィーナに向かって大量に飛ばし始めていく。

 

 

「《剣の乙女よ・刃振るいて・大地に踊れ》―――ッ!」

 

 

システィーナが【ブレード・ダンサー】で切り払って、叩き落としていく。だが、それでも全ては落としきれず、滅びの羽根はシスティーナに迫っていく。

 

 

「やぁああああああああああああ―――ッ!」

 

 

だが、その迫りくる滅びの羽根を、ウィリアムが召喚した人工精霊(タルパ)を足場にして空を駆けるリィエルが、碧い剣を剛速で振るい、システィーナに迫る滅びの羽根を悉く叩き落として、システィーナを守っていく。

その滅びの羽根を受けた刀身は―――無傷。

灰燼に帰さずにその存在を保っていた。

この刀身に使われている碧い金属の正体は―――魔術金属《ディバイド・スチール》。

《詐欺師の盾》に取り付けられていた絶対防御の金属を、ウィリアムは刀剣に造り直し、リィエルに持たせたのだ。

名付けるなら―――魔剣《不傷の碧剣》。

決して斬れない碧い剣は―――この滅びを捌くには十分であった。

 

 

「ん。上手くいった。頑張って特訓した甲斐があった」

 

 

滅びの羽根を捌ききったリィエルは、人工精霊(タルパ)の上で若干胸を張って、得意げに呟く。

リィエルが呟いた特訓とは何てことはない。《魔導砲ファランクス》と《魔導砲ファランクス・ミクロ》で形成した非殺傷弾の弾幕を、避けずに全て剣で捌くというふざけた特訓だ。

この一週間、ウィリアムはリィエルにその特訓を毎日施し、同時に《不傷の碧剣》も作成していたのだ。

そして、その特訓と比べれば、あの程度の滅びの羽根の弾幕は―――リィエルにとっては容易かった。

 

 

「ガ―――排除―――ッ!?」

 

 

ル=キルはさらに翼をはためかせ、風と羽根を飛ばしていくも結果は同じ。

滅びの風は明後日の方向に流され、滅びの羽根もかわされ、もしくは叩き落とされて防がれていく。

ル=キルはグレン達から逃げるように上昇するも、システィーナのアシストによる移動の方が速く、グレン達はみるみるうちに迫っていく。

だが、ここまでしても、神の眷属には決定力がない。ル=キルに決定力を持っているのは―――グレンとウィリアムだけだ。

 

 

「《0の専心(セット)》―――ッ!」

 

 

グレンが拳銃の撃鉄を引きながら、呪文を呟くと、その拳銃に不穏な魔力が胎動する。

そのまま、グレンはさらに空を蹴って―――ついに、ル=キルの頭上を取る。

 

 

「ギィイイイイイイイイイイイイイ―――ッ!!」

 

 

逃げ切れないと判断したのか、ル=キルが苦し紛れの攻撃を突然やめ、大量の羽根を自身の周囲に撒き散らしていく。

すると、滅びの羽根が絡み合うようにくっついていき―――自身とエレンを覆う繭を形成してしまった。

 

 

「な―――ッ!?」

 

 

これには流石にシスティーナも絶句する。あれではグレンは近づけないし、【ブレード・ダンサー】で斬り飛ばそうにも、下手に放てばエレンにも当たって、傷を負わせてしまいかねない。

だが、それもほんの一瞬。システィーナはすぐにウィリアムに向かって叫んだ。

 

 

「ウィリアムッ!」

 

「ああ、わかってる―――《一の追求(セット)》ッ!」

 

 

ウィリアムが呪文を呟くと同時に拳銃の撃鉄を引くと、その拳銃に不吉な魔力が宿る。そして、拳銃に錬成される刃。

ほぼ同時に、リィエルが《不傷の碧剣》を鞘に仕舞い、ウィリアムが乗っている人工精霊(タルパ)の鳥の背に着地する。

そのままウィリアムの腕を掴んで一回転し―――

 

 

「やぁああああああああああああ―――ッ!!」

 

 

全身の発条(ばね)を使って、上空へと投げ飛ばした。

 

 

「《吹き抜ける風よ》―――ッ!」

 

 

さらに、システィーナが即興改変の風の魔術をウィリアムに向けて放ち、ウィリアムを滅びの繭に向かって飛ばしていく。

ウィリアムは刃が付いた拳銃を構えていく。そんなウィリアムの耳に―――

 

 

「……私には空なんてないの?望んではいけなかったの?ずっと籠の中なの?ねぇ、システィ……」

 

 

そんなエレンの呟きが耳に届いてくる。それに対し―――

 

 

「あるだろ、誰もが持っている―――“未来”という名前の空が」

 

 

どこか呆れを含ませながらも告げた力強い言葉とともに、ウィリアムはその滅びの繭に銃口から生え、銃床で固定されている独特の刃を滅びの繭に向かって構えたまま、触れた瞬間に引き金を引く。

咆哮する銃声。すれ違っていくウィリアム。同時に崩れゆく刃と繭。

固有魔術(オリジナル)詐欺師の騙し討ち(ディスパージョン)】―――発動。

あらゆる構成要素を喪失させる必滅の魔剣が、ル=キルとエレンを包み込んでいた滅びの繭をマナの粒子へと成り下がらせ―――ル=キルとエレンを燃える黄昏の下に晒していく。

 

 

「ぁ―――」

 

「ああ。そのためにも……この“籠”をぶち壊さねぇと……なっ!」

 

 

天より舞い降りたグレンが、黄昏に晒されたル=キルの額に銃口を押し当て、引き金を引く。

火を噴く銃口。咆哮する銃声。ル=キルを通り抜ける弾丸。

固有魔術(オリジナル)愚者の一刺し(ペネトレイター)】―――発動。

あらゆる霊的要素を破滅させる必滅の魔弾が、ル=キルの存在本質を撃ち抜き、ズタズタに引き裂いた。

 

 

「ァ―――……」

 

 

そのままル=キルは、エレンを手放して、墜落。

墜落しながら、その身体をマナの粒子に分解されていき……呆気なく消滅した。

 

 

「エレン―――ッ!」

 

 

投げ出されたエレンを、システィーナが疾風脚(シュトロム)で空を飛び駆け、空中で抱き止める。

それを尻目に、ウィリアムは人工精霊(タルパ)の鳥を操作し、緩やかに落下するグレン共々、リィエルが乗っている人工精霊(タルパ)の鳥の背に着地する。

 

 

「ようやく、終わったな……」

 

「ああ……今回の騒動もこれで終いみたいだな……」

 

 

そう言いながら、改めて空を見ると、周囲の風景がゆっくりと回転し―――みるみるうちに加速していく。

 

 

「な、なんですか、これ!?」

 

「ねぇ、何が起きているの?」

 

「だいじょーぶ、だいじょーぶ」

 

「多分、繰り返すループで歪んだ時空が、あるべき元の形に戻っているんだろうな」

 

「はぁ!?何を言ってるのか、さっぱりわからないですっ!」

 

「ん。よくわかんないけど、大丈夫ってこと?」

 

「ああ」

 

「そこは信じて大丈夫だ」

 

「もう!後でちゃんと説明してくださいね!?」

 

「それは構わねぇが……」

 

「全部元に戻った時、覚えてんのかなぁ……?」

 

「?」

 

 

なんとも締まらないやり取りの中。

世界は―――完全なる闇の中へ閉ざされていくのであった。

 

 

「次、会う時は……正々堂々競い合おうね、システィ」

 

「……うん。受けて立つわ、エレン」

 

 

最後に、そんなやり取りを残して―――

 

 

 




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