やる気なしの錬金術師   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


百五十一話

――――――。

 

 

「―――ウィル」

 

「……んお?」

 

 

肩を揺すられたウィリアムは意識を今へと戻し、肩を揺すっていたリィエルに顔を向ける。

 

 

「ぼーっとしてたけど大丈夫?」

 

「あー、大丈夫だ。ちょっと物思いに耽っていただけだからよ……」

 

 

リィエルにそう言いながら、ウィリアムは教卓で寝そべっていたグレンと、ギャンギャン吼えるシスティーナ、そんなシスティーナを諌めるルミア、他のクラスメイト達を見やる。

 

 

「グレン、かわいそう」

 

『グレンおにーちゃん、だいじょーぶ?』

 

 

リィエルがそんなグレンにぼそりと零し、リィエルの膝の上に座っている、特注で用意してくれた制服に身を包んだエルも心配げに呟く。

 

 

「本当に相変わらずだな……」

 

 

本当に相変わらずの光景に、ウィリアムが大きく背伸びした―――その時。

 

 

『?おかーさん、すごく嬉しそう。どうして?』

 

 

不意に、エルのそんな疑問の声がウィリアムの耳に届いてきた。

ウィリアムが疑問に思い、リィエルに改めて顔を向けると―――そこには、はっきりとわかるほどに笑みを浮かべていたリィエルがいた。

 

 

「何でもない、秘密」

 

「『?』」

 

 

普段とは違うリィエルに、ウィリアムとエルは揃って首を傾げるしかない。

だが、リィエルは笑ったまま、ウィリアムに近づいてくっついた。

 

 

「おいおい……」

 

「ふふ……」

 

 

肩を擦り寄せてくっついたリィエルに、ウィリアムは困惑しながらも、まぁいいかと、リィエルの甘えを、システィーナに引っ張られるグレンを見送りながら受け入れるのであった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

――――――。

 

そして、いつもどおり始まった交流歓迎会。

いつも通り始まった―――修羅場の最中にて。

 

 

「さて、ウィルさん」

 

「お話を続けましょうか」

 

 

己の幻影をバックに、エルザとオーヴァイはウィリアムに詰め寄って来る。

 

 

「エ、エルザ。オーヴァイ。頼むから落ち着いて―――」

 

「落ち着いてますよ?」

 

「ええ。エルザさんの言う通りですよ?ウィリアム先輩」

 

「だったら、背後のそれを消してくれ!?」

 

 

何度味わっても全く慣れず、精神を削られ続けた光景に、ウィリアムは冷や汗を流して叫ぶ。

 

 

「ちょっと、貴女達!?何時まで先生にくっついているつもりなの!?」

 

「そうだよ!少しくっつき過ぎだよ!」

 

「ふっ!決まっているだろう?アタシ達の先生になってもらうためさ!」

 

「そうですわ!既に転勤手続きの書類は、わたくし達が揃えております!後は先生のサインだけです!」

 

 

それを他所に、否、目の前の修羅場のフェードアウトも兼ねて、グレンの取り合いを初めていく聖リリィ組と、システィーナとルミア。

 

 

「おっと?それは聞き捨てならねぇーなぁ?」

 

「先生に狼藉を働く輩は、誰であっても許しませんわ」

 

 

そんな一触即発の場に、カッシュやウェンディを筆頭とした二組の生徒達も集まっていき、そのまま二つの集団が形成され……

 

 

「「「「戦争じゃあああああああああああああああーーッ!!」」」」

 

 

そんな(とき)の大声が上がると共に―――

 

 

「すいませんが、少し静かにしてもらえませんか?」

 

「ええ。こちらの会話が遮られてしまうので」

 

「「「「あっ、はい……」」」」

 

 

エルザとオーヴァイの静かな声が響き渡り、龍と狼の幻影が睨み付けてきたことで、二つの集団の熱気は一気に鎮火し、大人しくなった。

 

 

「僕が気圧されるなんて……しかも、代表候補ではない生徒三人に……」

 

「仕方ねぇよ。あれは誰だって気圧されるさ」

 

「むしろ、あれに挑もうとしたこと自体が表彰ものだよ、レヴィン」

 

 

名誉挽回に格好よく止めようとし、見事に挫かれたレヴィンも分かりやすく落ち込んでおり、周りのクライトス校の生徒達に慰められている。

 

 

「では、ウィリアム先輩。この前のお仕置き兼ねた仕返しについて、詳細な説明を要求します」

 

「うん。まさかCに到達していませんよね?」

 

「いってないいってない!そこまでいっていないッ!!」

 

「じゃあ、どこまでやっているんですか?」

 

「この前の仕返しは、指をい―――」

 

「言うなぁあああああああああああああああああーーッ!?」

 

 

本当にあっさり話そうとするリィエルの言葉を、ウィリアムは叫んで強引に遮る。だが……

 

 

「先輩。それはやり過ぎですよ?」

 

「そうだね。付き合っていないのに、それはやり過ぎですよ、ウィルさん?」

 

 

それだけでエルザとオーヴァイはウィリアムの所業を理解し、本当に怖い笑顔と、天変地異を起こさんばかりに暴れている幻影を背後にますます詰め寄っていく。

 

 

「?そうなの?だけど、すごく気持ちよかった。わたしの腕を縛ってウィルの好きにされるのも、悪くなかった」

 

「……へー」

 

「……ふーん」

 

「だから何で喋るんだよ!?」

 

 

本当に口の軽いリィエルに、ウィリアムの精神はガリガリと削られていく。エルザとオーヴァイが放つ威圧感が膨れ上がるとともに。

 

 

「本当にお兄様は凄いですわ……」

 

「ああ……まさに“(おとこ)”だぜ……」

 

「改めて聞くと、やっぱり凄いよ……」

 

「ウィリア充、いや、ウィリ野獣ぅ~……」

 

「本当に大丈夫かな……?」

 

『?』

 

 

周りが修羅場に気圧され、ウィリアムの評価が悪い意味で上がっていくなか……

 

 

「ねぇ、システィ……あれ、どうしたらいいの……?」

 

「あれは触れない方がいいわ、エレン」

 

「そ、そうだね……」

 

 

システィーナとエレンも遠くから修羅場を眺めていた。

あの様子からして、エレンの繰り返しの記憶は失われてしまっているようだ。

つまり、この選抜会で起きた事を知っているのはグレンとウィリアムだけ(?)となった。

ウィリアムはグレンに、繰り返しで得た、目での意思疏通で、グレンに助けを求めるも―――

 

 

が、ん、ば、れ。

 

 

非常に悪い笑顔でそう返し、顔をウィリアムから外した。……突き立てた親指を下にして。

地獄に落ちろ……そんなグレンのメッセージに、ウィリアムは内心で苛立ってグレンを睨み付けていると……

 

 

「野郎共ッ!!今日こそはウィリ野獣に血の鉄槌を下し、リィエルちゃんを奴の毒牙から守るぞッ!!」

 

「「「「応ッ!!」」」」

 

「俺達も加勢するぞッ!」

 

「ああッ!我らクライトス校も参戦する!」

 

「感謝するぜッ!!」

 

「「「「全軍抜刀ッ!!突撃開始ッ!!うおおおおおおおおおおおおお―――ッ!!!」」」」

 

 

クライトス校も含めた男子生徒達が、瞳に憎悪を宿してウィリアムに突撃した―――その瞬間。

 

 

「「「「グハッ!?」」」」

 

 

剛速の一撃が、神速の居合が、三連撃の衝撃が突出していたカッシュを含む数名の男子生徒達に襲いかかった。

 

 

「「「「…………」」」」

 

「すいませんが、邪魔をしないでもらえませんか?」

 

「ええ。邪魔をされるなら、今のように実力で排除しますので」

 

「ん。よくわかんないけど、ウィルに手を出すなら……斬る」

 

「「「「は、はい……すみませんでした……」」」」

 

 

目の前の瞬殺劇と、龍と狼、子犬の幻影が放つ威圧感を前に、突撃しかけた男子生徒達は素直に引き下がった。

ついでに、今度こそ格好よく止めようとし、再び出鼻を挫かれたレヴィンは人目を憚らずに泣いている。

その隙に、ウィリアムは逃げようとするも―――

 

 

「駄目ですよ、ウィルさん?」

 

「まだ、お話は終わっていませんよ?ウィリアム先輩?」

 

 

エルザとオーヴァイにあっさりと捕まった。

やっぱりまったく勝てない……と、ウィリアムは魂が抜け出そうな気分でそう思うのであった……

 

 

 




ひとまず、十四巻はこれで終了
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