てな訳でどうぞ
そんなこんなで、一同は休憩時間に入った。
「お疲れ様です、ウィリアム先輩。リィエル先輩」
『おとーさん。おかーさん。はい、お水ー』
「サンキュー」
「ん」
オーヴァイとエルから受け取ったカップの水をウィリアムは一気に、リィエルはコクコクと飲み干していく。
やはり、身体を動かし続けて渇いた喉に冷たい水は美味い。
「で?どうですか?皆さんの特訓は?」
オーヴァイが沢庵を差し出しながら聞いてくる。
「ああ、今んとこ順調じゃないか?」
差し出された沢庵をかじりながら、ウィリアムはフィールドのあちこちで休憩している皆を順に眺めながら答える。
実際、代表に選ばれたメンバーは総じて実力が高く、その中でも一番秀でているのはメイン・ウィザードに選ばれたシスティーナだろう。
「システィ!システィ!今回も惜しかったね!!」
そのシスティーナは現在、マネージャーとして参加しているエレンの世話を受けていた。
クライトス本家から虐待されていたエレンの処遇は、グレンがシスティーナの父、レナードに相談した結果、クライトス本家から離れ、アルザーノ帝国魔術学院に長期留学することが決まりつつあるそうだ。
無限ループで得た力と経験を全て失いはしたが……システィーナをマッサージしている彼女はとても晴れやかな笑顔を浮かべている。無限ループの時の昏い顔よりずっといい顔だった。
「ああ、システィ……本当に綺麗な肌だね……」
「ちょ、エレン!?どこ触って……きゃん!?」
……百合に目覚めているような気がしなくもないが。
(というか、エレンのやつ。ループの記憶が若干残っているんじゃないのか?)
そもそもループの記憶が残っている理由も未だに不明なのだが。ナムルスが残した……とも思えない。自身とグレンだけならまだしも、怪しい人物が数名いるのだ。ナムルスは基本的には必要最小限の手出ししかしないのだからわざわざそんな事をするとは思えなかった。
まあ、これに関しても今は放置するしかないだろう。何故なら―――
「ウィリアム先ぱ~い。私が先輩をマッサージして上げましょうか~?」
オーヴァイが甘い声でそんなことを宣っているからだ。マネージャーならコーチではなく代表選手の世話をしろ!とツッコミを入れたいところだが、当の本人は柳に風と受け流す始末なのである。
「……ん?なら、わたしもマッサージ?する」
加えて、リィエルが何故かオーヴァイに対抗するように加わるのだから、その心労は堪ったものではなかった。
「ちょ、ちょっと待て!マッサージが必要なほど疲れて―――」
「それでは背中をマッサージしますねー」
「なら、わたしは腰」
ウィリアムの言葉を無視してオーヴァイとリィエルはウィリアムを強引に横にし、ウィリアムにマッサージを施していく。
「あぎゃあああああっ!?ちょ、力!力入れすぎ!強すぎ!!逆効果、逆効果ぁああああああああああああ―――ッ!!!」
若干、というかハッキリとミシミシという軋む音がウィリアムから聞こえてきている。主に背中と腰辺りから。
どう見てもマッサージではない。
「おおおおおおおおッ!!へ、Help!Help me!!誰でもいいから、この二人を止めてくれぇえええ゛え゛え゛え゛え゛―――ッ!!」
ウィリアムは大声で周りに助けを求めるも……
「「「「…………」」」」
全員、顔を背けるだけであった。理由は単純。彼らの目にはいつもの子犬と狼の幻影が見えているからだ。
触らぬ神に祟りなし……東方の諺がピッタリと当てはまる状況だった。
『おとーさん、すごく痛がってるけどだいじょーぶ?』
「大丈夫ですよー。マッサージは疲れが溜まっているほど痛く感じますから」
ちなみにエルはオーヴァイから微妙に違った知識を教えられており、止めに入る気配はなかった。
「本当にイチャイチャしてますねぇ~~」
「いやぁ~~、モテる男は本当に大変だなぁ?ウィリアム君?」
「あはは……」
マリアはニヤニヤと、グレンは非常に腹立つイヤらしい笑みで、ルミアは曖昧な笑顔でその光景を見守っていた。ちなみにイヴは我関せずで無視し続けている。
明らかに楽しんで見ているマリアとグレンに、ウィリアムは青筋を浮かべながら、マリアには重しを追加してのランニングを、グレンには
(にしても……本当に周りはどんどん未来に進んでいるな……)
父のような立派な軍人になりたいエルザ。
母のように強くなりたいオーヴァイ。
自分のしたいことを探し続けるリィエル。
システィーナとルミアも、他のクラスメイトもそれぞれが自分の夢や未来に向かって進んでいる。
対して自分は?
少しづつ前に進んでいるとは思うが、未だに夢らしい“夢”は存在しない。
騒動をグレンと共に解決し、色々と注目を集めてはいるが……期待されても困るだけだ。
別に英雄になりたいわけでもないし、そんなことの為に動いたわけでもない。
(……本当に、俺は変わっているのかな……?)
もし、このまま卒業したら……一体どうなるのだろう?
(……イルシア……シオン……俺は……)
ウィリアムは遠くを見つめる目で、懐かしき兄妹の顔を幻視していた……その時。
「あれ?もしかして効いていないんですか?」
「なら、もっと強くする」
ある意味、物騒な発言がウィリアムの耳に届いた。
途端、背中と腰がメキメキと悲鳴を上げ始めていく。
「ぎぃやぁああああああああああああああああああッ!?だから、力入れすぎだって言ってるだろぉおおおおおおおお゛お゛お゛お゛お゛―――ッ!!!」
ウィリアムは地面を叩いて全力で抗議する。わりと本気で命の危険を感じて。
ちなみにエルザは帝都へ赴いているのでこの場にはいない。理由は軍のスカウトを受け、特務分室への入室が決定したからだ。つまり、今後エルザとリィエルは部下と上司という関係になる。
……立場が逆になる気がしなくもないが。
リィエルも軍の再編成の関係で戻らればならず、明日にはフェジテを発つことになっている。
その間のエルの世話はオーヴァイやルミアと協力して行うことになっているので、当面は問題ではない。
いや、その際に相当空気が冷え込んだが今はいいだろう。
その後、何とか無事(?)に解放されたウィリアムは……
「やっぱり、ウィリアム先輩は悪魔ですぅうううううううううう―――ッ!!!」
「アビャビャビャビャビャビャビャビャビャビャビャビャッ!? !? !?」
マリアとグレンに対して容赦なく考えていたことを実行していた。
そして翌日―――
『いってらしゃい!おかーさん!』
「……ん。いってくる」
「エルちゃんはルミア先輩も協力してくれますので安心して下さい!」
「……ん。お願い」
エルとオーヴァイに見送りを受け―――
「…………」
「ん?どうした?」
「……ギュッして?」
「…………」
ウィリアムに抱きしめてもらったリィエルは帝都へ赴くのであった。
「…………」
「すごい気迫だな、彼女は」
「流石、即戦力としてスカウトされただけはあるな」
(……二人は絶対にウィルさんとイチャついてますよね……しかも、オーヴァイは明日から独占……負けませんよ……剣も……恋も……)
「幻覚が見えるとは……気合いは十分のようだな」
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