やる気なしの錬金術師   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


百六十七話

あれからもてんやわんやとなりながらもあっという間に時間が過ぎ、帝国代表選手団は北セルフォード大陸南東部にある連合国家『セリア同盟』の中で一際大きな力を持つ、自由都市ミラーノに到着していた。

魔術祭典は、伝統的にこの自由都市ミラーノにて行われる。

 

 

「なんで、魔術祭典がこのミラーノで行われるか、先生は知ってますか!?」

 

 

ミラーノ入りして開口一番、テンションが上がっているシスティーナがグレンに話しかけていた。

 

 

「ウィリアム先輩。確かこの地は二百年前、魔導大戦の最終決戦地だったんですよね?」

 

「そうだな。帝国はもちろん、レザリア王国、セリア同盟、東方諸国……全大陸の国々が協力して邪神と戦い、世界滅亡に立ち向かった。故にここミラーノが、平和の祭典である魔術祭典の開催地になっているんだ」

 

 

オーヴァイの質問に答えながら、ウィリアムは周囲を見回していく。

自由都市ミラーノ……この地はアルザーノ帝国とレザリア王国の政治的緩衝地帯であり、さらにエリサレス新教と旧教が入り交じる宗教的緩衝地帯でもある。

 

そして、東西の文化交流地点でもあるため、都市を挙げて芸術家達を保護・活動を推奨しているため、その街並みは華やかに洗練されている。

最新の建築様式で建てられ、絢爛華美の言葉が相応しい、多様されている変化に富んだアーケード。

 

煌びやかな天使像や聖母像があちこちに設置されている大通りでは、絶えることなくピアノやバイオリンの音色が響き、若い画家達がキャンバスを立てて絵を描いている。

加えて、久々の魔術祭典の開催で外国からの観光客も非常に多く、街は賑わいに賑わっていた。

 

 

「本当に凄いですねー。故郷の銀竜祭の比じゃないくらい賑わってますよ!」

 

『おとーさん、苺タルトー』

 

 

その空前絶後の活況ぶりに、オーヴァイは楽しそうに呟き、ウィリアムに抱きかかえられているエルは目を瞬かせながらも苺タルトをウィリアムに所望していた。

ミラーノは宗教的緩衝地帯であるがゆえ、やたら聖堂や寺院が多いのも特徴の一つである。著名な建築士達が腕を競って建立したそのバロック調宗教的建造物は、どれもこれもが豪奢で荘厳な威風を誇っている。なので、寺院巡りだけでも一ヶ月は経ってしまうだろう。

システィーナを筆頭とする帝国代表選手団の誰もが、そんな街並みと偉容に圧倒され、目を瞬かせる中―――

 

 

(……あの彫刻、錬金術で形だけは再現できそうだな。あの建物は耐久性が高そうだ……)

 

 

ウィリアムはそんなことを考えていた。

 

 

『……おとーさん?』

 

「ん?ああ、悪い。苺タルトだったな?ホテルにある筈だから少し我慢してくれ」

 

『ん!わかった!』

 

 

エルと微笑ましく会話していた―――その時。

 

 

「―――というわけで、ここでお別れだ。グレン先生、後は任せたぞ」

 

「ちょっと待てい」

 

 

このあいだのル=キル像の無断拝借がバレ、その不始末の埋め合わせでグレンの補佐役にされた筈のフォーゼルが、グレンに襟首を引っ掴まれていた。

 

 

「どこ行く気だ?」

 

「離せグレン先生。僕が一体、何の為にここまで同行してやったと思ってるんだ?……遺跡調査のために決まっているだろう!?」

 

「違うだろ!?代表選手団の監督補佐として来たんだろうが!?」

 

「この僕がそんな殊勝な真似をするわけないだろ!?少しは常識―――あべしっ!?」

 

 

あまりにも酷いフォーゼルの言い分に、ウィリアムは思わず無音火薬(サイレントパウダー)による非殺傷弾を、額に三発叩き込んだ。

 

 

「面倒だから、気絶させてから強引に連れていくぞ。先公」

 

「……そうだな。このまま―――」

 

 

ぐったりとしたフォーゼルの襟首を掴んだまま、グレンはウィリアムの言葉に同意するも―――

 

 

「ふははははははっ!!では、さらばだ!!グレン先生にアイゼン!」

 

 

フォーゼルは即復活し、どひゅん!と、リィエル以上の瞬発力で、猛ダッシュでその場を立ち去るのであった。

 

 

「「…………」」

 

「放っておきなさい、あんなクズ男。一緒にいるより好きにさせていた方が精神衛生的にずっといいわ」

 

 

そのフォーゼルの後ろ姿をグレンとウィリアムは絶句して見送り、イヴはむっつり顔で放置するように進言していた。

 

 

(……本当に大丈夫なのかよ……グレンの先公……)

 

 

先日、グレンに『アリシア三世の手記』の進展具合を聞いたところ、どうやらフォーゼルがあの暗号を解読できるとのことで、写本を渡したそうだ。

何故、フォーゼルが解読できるのかグレンに問い質したところ、当の本人は煙に撒いて答えなかった。

たぶん、解読できる理由はフォーゼル本人から口止めされているのだろうと察し、それ以上の追及はしなかった。

だが……

 

 

「ウッヒョォオオオオオオ、漲ってキタァアアアアアアアアアーーッ!?」

 

 

向こうから聞こえてくる、テンションMAXなフォーゼルの叫び声に、ウィリアムは不安しか感じなかった。

 

 

「むしろ、ここであの学院の産業廃棄物を遺棄すべきよ」

 

「お前……本当に、アイツのこと嫌いなんだな……」

 

「貴方がマシに思えてくるくらいにはね。そんなことより急ぐわよ」

 

 

つんと髪をかき上げ、イヴが歩き出したので、ウィリアム達もイヴに続いて歩き始めていく。

 

 

『おとーさん。さんぎょーはいきぶつってなぁに?』

 

「今は知らなくていいんだよ」

 

『?』

 

 

エルの質問にウィリアムは優しげな表情で知らなくていいと答えた。

そのまましばらく歩き続け、一同は予定していたホテルへと到着した。

魔術祭典運営委員会から、各国の選手団ごとに指定配分され、一つの建物が貸し切りとなっているホテルだ。

ここが、魔術祭典開催中の帝国代表選手団専用の拠点となるのだが……

 

 

「おおう……マジでここを使うのか……」

 

 

ミラーノの一等地を贅沢に使い、貴族城館のような豪奢なホテルを、ウィリアムは半目で見上げていた。

 

 

「凄いですねー。シャトー・スノリア並みのホテルですねぇ」

 

「本来は、富裕層のミラーノ観光客向けに造られた公営の高級ホテルらしいわよ」

 

「……え?マジで?そんなすげぇホテルを俺達が貸し切りとか……マジで?」

 

 

オーヴァイの言葉にイヴがつんとすました言葉で答え、それを拾ったグレンはたちまち萎縮してしまう。

 

 

「当たり前でしょ。私達は帝国代表選手団―――帝国の代表。言わば“公賓”なのよ?このくらいの待遇は当然でしょう?」

 

 

まったく普段通りのイヴは、さっさとホテルの入り口へと向かっていく。

 

 

「それじゃあ、私達も行きましょうかー。ウィリアム先輩」

 

 

オーヴァイもそう言って、ウィリアムの手を握ってホテルへと向かっていく。

 

 

(ホテルかぁ……今回は大丈夫だよな……?)

 

 

シャトー・スノリアの件が黒歴史となっているウィリアムとしては、これ以上は増えてほしくないとわりと切実に願うのであった。

勿論、その願いは儚くも崩れ落ちることは決まっていた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

―――同時刻。

ティリカ=ファリア大聖堂の屋根の上にて。

 

 

「フフフ……此度の美の探究はどうなりましょうな?天の智惠……七世……焔……正義……愚者……それぞれがぶつかりし時、どのような美しさを醸し出すのか……胸が踊りますな。……そして、()()()()()()()()()()()()()()

 

 

髭を蓄えた吟遊詩人のような服装に身を纏った男性は、その手に持つ一冊の本を眺めるように見つめながら、誰に言うわけでもなく呟く。

 

 

「我輩はいつものように観察させて頂きますぞ。我輩の“美”の為に……」

 

 

その呟きを最後に、男性はその場から優雅に立ち去るのであった―――

 

 

 




「……チャールズ。今回の新作は?」

「三剣士の制服写真や」

「……いくらだ?」

「特別価格で金貨五枚や」

「高ぇ……でも、その価値は確かにあるぜ」

「でもどうやってこれを?」

「…………」

「チャールズ?」

「ハハ、チョットシタ交渉デナ。代ワリニ男ノ写真ヲ撮ル羽目ニナッタケドナ」

「チャールズ!?片言の上、身体が凄く震えてるぞ!?」

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