やる気なしの錬金術師   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


百六十八話

ホテルのチェックインも一人一部屋(無論、エルはウィリアムと一緒)と確認して無事に終わった後、一行は水路のゴンドラと、コーチ馬車を使って、都市北西部へと向かう。

程なくして、ウィリアム達は、アルザーノ帝国魔術学院の魔術競技場などとは比べ物にならないほどの規模の、豪奢な石造りの円形競技場へとたどり着いた。

 

セリカ=エリエーテ大競技場。

自由都市ミラーノが誇るその大競技場が、かつて連綿と魔術祭典が開催され続け、数多の若き魔術師達が腕を競い合ってきた、由緒ある場所である。

 

ここが二百年前の魔導大戦で、最後に残った二人の英雄が、邪神との最終決戦地に挑んだ場所で、この大競技場はその跡地に建てられたらしい。

 

 

(……どうみても、アルフォネア教授と《剣の姫》エリエーテ=ヘイヴンが名前の由来だろ……)

 

 

なんとも分かりやすいネーミングに、ウィリアムは苦笑しながら、グレン達と共に、来賓口から大競技場の中へと進入する。

各種手続きを済ませ……

 

 

「……そちらのお子さんは?」

 

『う?』

 

「妖精ですので気にしないで下さい」

 

「は、はぁ……そうですか」

 

 

……各種手続きを済ませ、一同は控え室の大部屋へと通される。

部屋には、各国の選手や監督達がすでに集まっており、独特な緊張感とピリピリした空気が張り詰めていた。

 

これから、開会セレモニーの事前説明と打ち合わせがあるらしいのだが……自国のチーム以外は国の威信をかけて世界の頂点を目指して競い合う敵同士。この空気となるのは無理もない話であった。

 

 

「こんなことなら、サボって観光にでも行けば良かったかな……」

 

 

そんな中、ウィリアムは面倒くさそうに小声でそんなことをぼやいていた。

 

 

「一人サボろうとすんなよ、ウィリアム。大会中は、徹底的にこき使ってやるから覚悟しとけよ?」

 

 

ちゃっかり耳に届いていたらしい緊張感ゼロのグレンに、サボり精神を加速させる釘を刺されていたが。

 

 

「まったく……本当にマイペースですね」

 

「ふふ、羨ましい限りですね」

 

「ある意味、ここにいる誰よりも大物ですね」

 

 

システィーナ、リゼ、ギイブルは、そんなグレンとウィリアムを見て苦笑する。

 

 

「おかげで肩の力が程よく抜けていると思いますよ?……あちらはガチガチですが」

 

 

オーヴァイがフォローしつつ、苦笑しながら視線を向けた先には……

 

 

「ど、どの方も強そうですわ……ッ!」

 

「ば、バカ野郎!び、び、ビビってんじゃねーぞ!?」

 

「はぁ~、いつもの女を投げ捨てた図太さはどこいったんですか?ほら、深呼吸です。深呼吸。ひっひっふー」

 

 

ひたすらビビりまくっているフランシーヌとコレットを、いつも通りのジニーが鬱陶しげに宥めているところだった。

 

 

「緊張で見事に無様を晒していますね。少しは彼らを見習ってほしいものです」

 

「……ふん」

 

 

レヴィンとジャイルはそんな聖リリィ組の代表に呆れたような視線を向けていた。

そんな代表選手団の衣装は、いつもの制服ではなく、黒と白を基調とした実質剛健な意匠のコートローブだ。これが、魔術祭典における伝統的な帝国礼装とのことである。

もっとも、マネージャーとコーチには関係ないものだが。

 

 

「いやー、本当に凄いですね。これが世界なんですね」

 

 

隣で感慨深げに見つめるオーヴァイの言葉を聞き流しながら、ウィリアムはそれとなく周りを見やる。

それぞれの国の礼服に身を包んだ、若き魔術師達。

その誰もが恐るべき才覚を秘めているのが一目でわかる。

 

 

(……ホンッと、世界は広いな……)

 

 

今回の魔術祭典に参加するのは、北大陸の主要八ヵ国。過去の祭典の最大規模時は十五ヵ国が参戦していたから、ここにいる者達は氷山の一角だろう。

まぁ、ウィリアム個人としては、本当にどうでもいいことだが。

 

 

(てか、レザリアの連中も来るんだよなー……本当に関わりたくない)

 

 

むしろ、この場に来るであろうレザリア王国の代表団に対しての不安が強かった。

レザリア王国、具体的には旧教の一部に、他宗教に対して、極端なまでに排他的で閉鎖的な信者がいる。

 

帝国ではそういった連中を、蔑みを込めて“狂信者”と呼んでいるのだが、ウィリアムとしてもあまり関わりたくない人種である。

エルの教育に、物凄く悪いから。

 

 

「ふん……この穢らわしい異端者どもが」

 

 

予想通りというか、なんというか。全く聖職者に見えない、侮蔑と嫌悪に染まった顔をした僧服の少年がシスティーナに吐き捨てていた。

 

 

「やれやれ、お前が、勝手な教義を作って至高神に泥を塗った、裏切り者のアルザーノの連中か……予想通り、隠しきれない悪徳が顔に出ているよ。この場で聖伐されない幸運を、我等が神に感謝して欲しいな」

 

 

「なっ……ッ!?」

 

 

壮絶な侮辱。それをいきなりぶつけられたシスティーナは呆気に取られてしまっている。

 

 

「まぁ、異端者は異端者同士で仲良くやっているがいいさ。ああ、こんな悪魔の手先の群れの中で待ってろだなんて、気分が悪いったらありゃしない」

 

 

システィーナが我慢して黙っているのをいいことに、徳が全く無さそうな僧服の少年は容赦なく侮辱し続ける。

たちまち、その場の雰囲気が悪くなっていく。

 

 

「やれやれ、どうして、旧教の人間はいつもそうなんだろうね?」

 

 

この空気に耐えかれたのか、頭にターバン、全身をマントで包んだ浅黒い肌のエキゾチックな美少年―――砂漠の国、ハラサの代表選手がシスティーナの代わりに反論していた。

 

 

「我等が神は、その慈悲深さと高徳さゆえに、他宗教に対して寛大だというのに」

 

「は?間違った神を奉ずる悪魔共に、配慮する必要がないだろ?」

 

「……()()()()()……だと?」

 

 

僧服の少年の返しに、サハラ代表の少年の眉がたちまち吊り上がった。

 

 

「おい……我等がエル=ラドの神への侮辱だけは、死をもって償わなければならないぞ?」

 

「……()()と侮辱したのは君が先なんだがね?穢らわしい異端者が」

 

 

サハラ代表の少年が腰の刀の柄に手をかけ、僧服の少年が手に持っていた聖書を開く。

二人の間に、壮絶な殺気と圧力が漲り、会場全体の気温が氷点下まで下がった。

―――その時だった。

 

ドパァアアンッ!!

 

 

「「!?」」

 

 

突然の耳をつんざく銃声に、件の二人は勿論、止めに入ろうとしていたシスティーナと陰陽師と呼ばれる正装に身を包んだ黒髪の少女も思わず身体を膠着させてしまう。

 

 

「おいこら。ここでドンパチしようとすんな。周りに迷惑がかかるだろうが」

 

 

そして、その銃声を放った張本人であるウィリアムは、右手の硝煙がまだ上っている拳銃を掲げたまま、ジト目で件の二人に近寄っていた。

 

 

「……今のは君が……?」

 

「そうだけど?後、空砲だから音以外は何にもないぞ」

 

 

サハラ代表の少年の問いかけに、ウィリアムは拳銃をガンスピンさせながら呆れた表情のまま答える。

こんな面倒ごと、本当なら進んで関わりたくない。だが、流血沙汰にでもなったら流石に洒落にならない。そんな光景は、エルの教育に悪影響でしかない。

 

 

「ふん。そんな玩具を使うだなんて……帝国はよっぽど地に堕ちているようだね?流石、人の皮を被った悪魔の手先だ」

 

「これは俺個人のだから、これで測られても困るんだけど?」

 

 

僧服の少年の侮辱に、ウィリアムは特に何てことのないように言い返す。

それが癪に触ったのか、僧服の少年は眉を吊り上げていく。

 

 

「穢らわしい異端者のくせに随分と余裕じゃないか?……ああ、そういえば、お前はそこの穢れの塊と一緒にいた異端者だな?本当に、愚劣極まりない悪魔達だよ」

 

 

僧服の少年は侮蔑を含んだ視線をオーヴァイに抱かれているエルに向け、嫌悪感を露に容赦なく吐き捨てる。

対して、ウィリアムは―――

 

 

「僻み精神か?もっと心に余裕を持ったらどうだ?いくら緊張してるからって周りに当たるなよ」

 

 

内心では、その幸が皆無そうな顔をぶん殴りたい衝動を堪えながら、心底呆れたように言葉を返していた。

ウィリアムのその返しに、システィーナと黒髪の少女は苦笑い。サハラ代表の少年は毒気を抜かれたようにちょっと間抜けな顔になっていた。

 

 

(……これ、絶対に向こうが手を出したら、容赦なくやる気だわ……)

 

 

……ウィリアムのこめかみに、うっすらと浮かんでいる青筋に気づいたシスティーナは内心で引き攣っていたが。

 

 

「……ッ!……言うじゃないか。この異端者風情が」

 

 

僧服の少年は今にも襲いかからんばかりに睨んでいたが。

 

 

「そこまでにしておきなさい。マルコフ」

 

 

そんなマルコフと呼ばれた僧服の少年を宥めるように、いつの間にかいた一人の司祭が、後ろからマルコフの肩に手を置いていた。

 

 

「マルコフ。魔術祭典は平和の祭典です。なのに、このようなことは本末転倒です。“己を愛するが如くに、隣人を愛すべし”……主の教えを忘れましたか?」

 

「……ファイス司教枢機卿猊下ッ!!」

 

 

マルコフが、どこか非難するような目で、後ろの司祭―――ファイスを睨む。

だが、ファイスはそんなマルコフに構わず、サハラ代表の少年とウィリアムに向かって深々と頭を下げた。

 

 

「……こちら側に非礼があったようですね。本当に申し訳ありませんでした」

 

「……いえ。こちらこそすみませんでした。つい頭に血が上ってしまって……」

 

「あー……司教様が悪いわけじゃないから頭を下げないでください」

 

 

エリサレス旧教の枢機卿が頭を下げるという有り得ない光景に、頭が冷えていたサハラ代表の少年も深々と頭を下げ、ウィリアムは困ったように言った。

 

 

「猊下ッ!?なぜです!?なぜ、そんな愚劣な異端者共、特に裏切り者のアルザーノの人間に頭を下げるのですか!我等が神の正義は―――ッ!!」

 

「黙りなさい」

 

 

マルコフが糾弾の叫びを上げるも、ファイスの有無を言わせない迫力の叱責を前に、悔しげに押し黙る。

 

 

(この状況になっても、トップに頭を下げさせた申し訳なさより敵意が勝つのかよ……)

 

 

ウィリアムはそんなマルコフに怒りを通り越して、顔に出さず内心で心底呆れていたが。

そして、ファイスは会場を見渡しながら、穏やかに言った。

 

 

「さて、才気に溢れる若き魔術師の皆さん。遠路はるばる、今回の魔術祭典にご参加いただき、ありがとうございます。皆様のご活躍とご健闘が、これからの世界をより良い方向へと導く礎となることを、私は願っております。早速ですが―――」

 

 

こうして。

ファイスの大人の対応によって、場を包んでいた緊迫感は完全に解かれ、開会セレモニーについての説明と打ち合わせが始まるのであった。

 

 

 




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