やる気なしの錬金術師   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


百六十九話

開会セレモニーの事前打ち合わせはつつがなく終了。程なくして、ついに魔術祭典開催の運びとなった。

楕円形のフィールドをぐるりと囲む観客席は世界中から集まった観光客達でいっぱい。空にはひっきりなしに花火が打ち上げられ、その花火の音すら聞こえない観客の大歓声を上げる程、活気と熱気に包まれている。

 

何十年ぶりに開催された魔術祭典は、規模こそ縮小気味だが、その期待は過去最高のものではなかろうか。

やがて、フィールドでショータイムが始まり、何百人からなるダンサーやサーカスが次々と芸を披露していく。

それが終わると、パレードと共に、各国の代表選手団が入場していく。

 

緊張のあまり、フランシーヌがコレットを巻き込んで転んでしまうというハプニングが起きもしたが、各国の代表選手団は観客達に顔を見せるようにフィールドを一周し、中央で整列。

やがて、式典が始まり、魔術祭典組織委員長、ミラーノ市長、各国来賓による、開会宣言やスピーチなどが始まる。

 

その中で、アリシア七世女王陛下と、レザリア王国の聖エリサレス教会教皇庁フューネラル=ハウザー教皇聖下が、大衆の前で握手を交わし合うという会場が騒然となるパフォーマンスまであった。

 

 

「いや~、無事に開催されて良かった良かった。開催前に乱闘が起きて流血騒ぎなんぞになったら、大変面倒になるとこだったからなぁ」

 

『みんな、凄い賑わっているのー!!』

 

「そうですねー。本当に賑わってますねー」

 

 

そんな気の抜けたことを宣いながら、エルを抱きかかえたオーヴァイと共に歩いていた。

諸々の手続き関係から、最初はイヴとエレンと共に行動し、ある程度手続きに目処がついたので、ウィリアムとオーヴァイは先にセレモニーを先に観戦しているグレンとルミアの下へ向かっている。

 

 

「代表の先輩方も、ますます気持ちが引き締まるでしょうねー」

 

「そうだな―――」

 

 

オーヴァイの言葉に、ウィリアムが頷きかけていた―――その時。

 

 

「ッ!?」

 

 

不意に、背中に悪寒が走った。

ウィリアムは反射的に背後へと振り返りながら、隠し持っていた拳銃を構えた。

 

 

「先輩……ッ!?」

 

 

オーヴァイはウィリアムの前触れのない行動に最初は訝しみかけるも、いつの間にか、本当にいつの間にかウィリアムの背後に立っていた一人の少年に気づき、瞬時に距離を取った。

 

 

「へぇ……私に気付きますか。その反応と勘は素直に称賛しますが……」

 

 

眉間に拳銃を突き付けられた黒い髪に紫の瞳、左目を聖十字の意匠があしらわれた眼帯で隠し、グレーのコートを身に纏った少年は、柄の両方に刀身をあしらえた長物の武器―――双刃槍(ダブルランサー)を既にウィリアムの首筋に当てていた。

 

 

「どっちが速いでしょうね?―――もっとも、私の眉間に傷一つ付かないでしょうが」

 

「くっ……」

 

 

涼しげに告げる少年の言葉に、眉間に拳銃を突き付けているウィリアムは苦々しい表情で唸る。

《詐欺師》として修羅場を潜ってきたウィリアムの直感が容赦なく告げているのだ。

―――この少年は規格外の化け物だと。

 

 

「お前は……何者だ?」

 

「聖エリサレス教会聖堂騎士団・第十三聖伐実行隊(ラスト・クルセイダース)所属。ヴァン=ヴォーダン」

 

「っ……」

 

 

少年が明かした正体に、ウィリアムは益々苦々しい表情になる。

第十三聖伐実行隊(ラスト・クルセイダース)

聖エリサレス教会教皇庁聖堂騎士団が誇る、異端者、悪魔、不死者を、片端から苅り尽くすという絶殺機関にして、最強最悪の切り札(ラスト・カード)

その実力は、帝国宮廷魔導士団特務分室を上回ると噂されるほどだ。

 

 

(なんでそんな連中がここにいるんだよ!?)

 

 

意図的に殺意と殺気、威圧感を徐々に放ち始めていくヴァンに、ウィリアムはヴァンに隙を見せないように周囲を探っていく。

観客席の人間は……全く気付いていない。おそらく、認識操作の結界が既に展開されているのだろう。

 

「君のことは色々と調べさせてもらったよ。《詐欺師》ウィリアム=アイゼン。かの《愚者》のことと一緒にね」

 

「…………」

 

「確かに人間のわりにはそれなりにできるようだけど……やっぱり幾ばくか誇張されただけのようだね。所詮、運が良く、恵まれただけの犯罪者だよ、君は」

 

「……?」

 

 

ヴァンの言葉に、どこか個人的な感情が含まれていることに、ウィリアムは内心で首を傾げるしかない。

だが、この状況でそんな疑問に頭を回す余裕はない。

 

オーヴァイはウィリアムが動いた瞬間に瞬速召喚(フラッシュ)した刀をいつでも抜けるよう、抜刀術の構えを取ってエルを庇うように自身の後ろへ移動させているが、その額からは脂汗が滲み出ている。

 

彼女も、ヴァンが規格外の存在だと理解しているからだ。

その上、観客席の方からも規格外の存在を二つも肌で感じ取れているのだ。

限りなく、最悪に近い事態だ。

 

 

「……何が目的だ?」

 

 

喉奥から絞り出すように、ウィリアムはヴァンに問いかける。

 

 

「そうだね……それは、向こうと交えて話そうか」

 

 

ヴァンが事も無げにそう言った瞬間。

身体がぶれて見える程の速さで、ウィリアムの鳩尾を空いていた腕で殴り飛ばした。

 

 

「ぐほぁ―――ッ!?」

 

 

殴り飛ばされたウィリアムはそのまま吹き飛ばされ、観客席を横断する通路まで飛ばされてしまう。

 

 

「ゲホッ!ゴホッ!」

 

「ウィリアムッ!?」

 

 

何とか受け身を取り、殴られた鳩尾を押さえながら咳き込むウィリアムに、グレンが驚きと焦燥を露に叫ぶ。

 

 

「あら?丁度いいタイミングだったわね、ヴァン」

 

「そのようですね。ルナ……さんにチェイスさん」

 

 

白い法衣に身に包んだ金髪の少女―――ルナの嬉々とした言葉に、ルナの近くに降り立ったヴァンは何てことのないように返す。

 

見れば、ルミアはまるで金縛りにあったかのように動きが止まっており、そのルミアの背後には黒ずくめの灰のような髪色の青年が立っている。

予想以上の最悪の状況に、ウィリアムは歯噛みするしかない。

 

 

「それで、総監督さんへの“頼み”なんだけどね……()()()()退()()()()()()()()()()?」

 

「……は?」

 

「なんだと?」

 

 

冷笑と共に突き付けられたルナの意味不明な要求に、グレンとウィリアムは呆気に取られてしまう。

 

 

「正直、困るのよね……貴方達が試合に勝ち残るとさぁ?」

 

「まぁ……こちらの“頼み”を突っぱねるのでしたら……()()()()をするだけですが」

 

 

ヴァンはそう言って、ルミアに視線を移す。

それだけで、見せしめの意味を理解した。

 

 

「……ッ!」

 

「てめぇ……ッ!」

 

「素直に折れた方がいいわよ?ヴァンは可愛い女の子の臭いに欲情し、涎を垂らして見境なく貪るケダモノだし、チェイスに至ってはそういう女の子を切り刻んで血を啜るのが大好きな変態よ?どう?そんなの嫌でしょう?……ま、異端者のクソ雑巾どもがどれだけ死のうが、知ったことじゃないけどね……ふふふ……」

 

 

どこまでも酷薄な笑みを浮かべるルナに、グレンとウィリアムが睨み付けた―――その瞬間だった。

 

ごッ!

 

唐突に猛火が巻き起こり、観客達を巻き込んでウィリアム達を呑み込んだ。

だが、グレンとウィリアム、ルミア、観客達には火傷の一つもなく、むしろ観客達は突然の炎に困惑して周囲をキョロキョロしていた。

 

 

「グレン、ウィリアム、構えなさいッ!!」

 

 

この炎を放った人物―――観客席を横断する通路に現れたイヴが何時になく引き締まった顔でこちらを見下ろしていた。

そして、攻撃の対象だったルナとヴァン、チェイスと呼ばれた青年は、イヴが立つ通路の二十メトラ先に、いつの間にか移動していた。

 

 

「へぇ?()()()デキるようね?あの赤髪の女は……いいわよ?遊んであげる。格の違いを見せてあげるわ。平和ボケした軟弱な帝国人の貴方達に、ね……」

 

 

ルナはそう言って、余裕の佇まいで煌びやかな装飾が施された籠柄(スウェプトヒルト)十字鍔(クロスガード)の細身の長剣―――聖剣を構える。

 

 

「言葉が過ぎますよルナ……さん。今回はあくまで()()に来ただけなのですから」

 

「ヴァンの言う通りだ。それに、さっきの炎で結界にかなりのヒビも入っている。これ以上の荒事は、観客達にバレてしまう」

 

 

だが、そんなルナをヴァンとチェイスが引き留めていた。

 

 

「……分かっているわよ。とりあえず警告はしたから、しっかり辞退してよね?辞退しなかったら……貴方達にきっと不幸が降りかかるわよ」

 

 

ルナは不服そうにしつつも素直に剣を納め、そのままチェイスが足下に展開した沼のような影の中に、ヴァンと共に潜るように姿を消すのだった。

 

 

「……はぁ……ッ!」

 

「……ふぅ……ッ!」

 

 

三人の気配が完全に去ったことを確認し、グレンとウィリアムは揃って息を吐いた。

 

 

「大丈夫ですか!?先生!」

 

 

金縛りが解けたルミアが、顔を蒼白にさせてグレンの下へと急いで駆け寄る。

 

 

「……素直に引いてくれて助かったわ。この状況で連中とやり合うのは得策じゃなかったからね」

 

「……イヴの先公……エルとオーヴァイは?」

 

「二人は私が張った結界に保護してるわ。オーヴァイの話を聞いた時は、本当に肝が冷えたわよ……教会の異端狩りの切り札がでしゃばるなんてね……」

 

「そうか……ありがとよ、イヴの先公」

 

「別に礼なんかいらないわよ。今の私は教師なのよ?生徒の安全を確保するのは教師として当然でしょ?」

 

 

ウィリアムのお礼を、イヴは髪をかき上げながら、澄まし顔で平然と返す。

 

 

「厄介ごとは、本当に勘弁してもらいたいんだが……」

 

「この魔術祭典……確実に、何かが起きるぜ?」

 

 

忌々しげに会場を見下ろしながら、確信とともに放たれたグレンの言葉は、大歓声の洪水に呑み込まれるのであった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

自由都市ミラーノの、夜の、とある人気のない薄暗い路地裏にて。

 

 

「どうだった!?私の追い込みは!あれだけ圧をかければ、軟弱な守銭奴の帝国人どもなんかに舐められないでしょ!?」

 

「……はしゃぎ過ぎだよ、ルナ()()()。後……」

 

 

無邪気な様子ではしゃぐルナに、ヴァンはムスッとした表情のまま、ルナの脇腹をつまみ上げた。

 

 

「誰が“可愛い女の子の臭いに欲情し、涎を垂らして見境なく貪るケダモノ”だよ。完全に盛ってるよね?後、やっぱり少し太ったよね?」

 

「ちょっ!痛い痛い!義理の姉に対して何てことをするのよ!?しかもまた太ったって言ったわね!?それと、女の子の臭いに興奮するのは事実でしょ!!」

 

「だとしても盛りすぎだよ!!涎も垂らさないし、貪りもしないし!!後、()は知ってるんだよ!姉さんがほぼ毎晩、ある人の来ていた衣服の臭いを嗅いで胆嚢していること!どう見ても姉さんの方がケダモノだよ!!」

 

「ちょっ!?何で知ってるのよ!?」

 

 

ギャンギャンと互いに吠えたてるルナとヴァン。その光景は、さながら姉弟喧嘩である。

 

 

「まぁまぁ……僕なんか“女の子を切り刻んで血を啜るのが大好きな変態”なんだよ。後、ルナも程々にしてね。色々と複雑な気分だからさ……」

 

 

そんな二人を、チェイスは呆れながら宥めるのだった。

 

 

 




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