やる気なしの錬金術師   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


百七十話

第十三聖伐実行隊(ラスト・クルセイダース)に帝国代表団の辞退を要求された、次の日。

自由都市ミラーノに設けられた、アルザーノ帝国領事館にて。

 

 

「死ねい!!ウィル坊ぉおおおおおおおおおおおおおおおおお―――ッ!!!」

 

 

一人の老人が怨嗟の声を上げながら、紅蓮の炎を纏った拳をウィリアムの顔面目がげて放ってきていた。

 

 

「危なッ!?」

 

 

部屋に入って早々、憎悪を瞳に宿したバーナードの襲撃に、ウィリアムは咄嗟に身体を捻ってその拳を避ける。

 

 

「……翁」

 

「バーナードさん……」

 

 

部屋にいたアルベルトとクリストフはそんなバーナードに呆れたように溜め息を吐いており、今回密かに面会しに来たアリシア七世女王陛下も困ったように笑みを浮かべていた。

 

 

「え?え?」

 

「何やってんだよ、ジジイ……」

 

 

無論、ウィリアムと一緒だったルミアは目を瞬かせ、グレンもアルベルト達同様に呆れていたが。

普段ならグレンも参加して煽るところだが、女王陛下の手前、流石に悪ふざけできるほどグレンの精神はそこまで図太くなかった。

 

 

「いきなり何すんだ!?」

 

「リィエルちゃんと甘々な日々を送りおって!!一発殴らんと儂の気が治まらんのじゃ!!」

 

「嫉妬かよ!?それで魔闘術(ブラック・アーツ)で殴ろうとすんなよ!」

 

 

どうやら、バーナードは大人気ない嫉妬心と憎悪でウィリアムに襲いかかったようである。血涙を流さんばかの修羅の形相が、それを物語っている。

 

 

「加えて、リィエルちゃんにあんなエロチックな事をしおったお主は一度地獄に―――」

 

 

―――その瞬間、空気が凍った。

 

 

「……《隠者》のじいさん。そのエロチックな事ってなんだ?」

 

 

まるで絶対零度の世界の如く、重く、寒くなった空気の中、ウィリアムの声がよく響く。

そんな空気を、嫉妬に駆られてか、全く気付いていないバーナードはそのまま地雷を踏み抜くこととなる。

 

 

「聞かんでも分かるじゃろ!?白猫ちゃんの家で、ベッドの上でやっていたことじゃ!!儂だって、若いキャワイイ子と―――」

 

「……何で酒に酔わされてやってしまったことを、じいさんが知っているんだ?まさかとは思うが……監視していたのか?」

 

「…………」

 

 

その瞬間、バーナードは口を滑らせたことと底冷えした空気に気付くも既に遅い。むしろ、その沈黙が逆にウィリアムの質問を肯定していた。

 

 

「……オーケー。その記憶、今すぐ抹消してやる」

 

 

忘れ去りたい黒歴史をバーナードが知っていると確信したウィリアムは、圧縮凍結してあったある魔導器を解凍する。

その魔導器は、長銃(ロングライフル)の形状をしている。表面には無数のルーン文字が刻まれており、銃口は普及している銃の十倍近い大きさであった。

 

 

「……何じゃそれは?」

 

「新しい魔導器だ。《魔銃ケヴァルト》……それがこいつの名称だ」

 

 

《魔銃ケヴァルト》は《魔銃ディバイド》とは違い、雷加速弾(レールガン)を高威力で放つことのみに重点を置いた魔銃だ。魔杖《蒼の雷閃(ブルーライトニング)》の増幅機構を組み込み、電撃系統の魔術を極限まで増幅させられる事が可能だが、雷閃を放つことは不可能な作りにしている。加えて、弾の装填方法は錬金術の使用を前提にしている、かなりビーキーな仕様である。

そして、この魔銃の真髄は杭を錬成することで近接戦を行えることである。

 

 

「待つんじゃウィル坊!!それは流石に洒落になっとらんぞ!?」

 

「安心しろ。硬質ゴム製の杭を頭にぶちこむぶちこむだけだ。百回もやれば、流石に記憶が飛ぶだろ?」

 

「完全に儂を殺す気じゃろ!?」

 

 

その物騒なものの銃口を、バーナードの顔面に向けながらにジリジリと近寄っていくウィリアム。バーナードもそれに合わせてジリジリと後退していく。

もはや、逃げられないと悟ったバーナードは……

 

 

「クリ坊だって監視しとったのに!」

 

「ちょっ!?バーナードさん!?」

 

 

道連れという、仲間意識の欠片もない選択をとるのであった。

 

 

「……本当か?」

 

 

当然、ウィリアムは幽鬼の如く、ゆらりとクリストフに顔を向ける。その据わった目が、嘘は許さないと如実に語っている。

 

 

「……は、はい。ですが……()()に関してだけは、バーナードさんだけ監視して……バーナードさんが書いた報告書もアルベルトさんが焼却処分しました……」

 

 

素直に喋ったクリストフへの判決は……

 

 

「……そうか。なら、絶対に他言無用だぞ?もし、誰かに喋りでもしたら……地獄の果てまででも追って、その記憶を抹消してやる」

 

「わ、わかり、ました……」

 

 

脅しであった。バーナードは?もちろん有罪である。

 

 

「な、なぁ、ウィル坊。儂も―――」

 

 

ズゴォンッ!!

 

 

「ブホァッ!?」

 

「……向こうの馬鹿二人は放置して話を進めるぞ。時間も限られているしな」

 

 

ウィリアムとバーナードを放置して今回の極秘会談の一番の理由である、第十三聖伐実行隊(ラスト・クルセイダース)の要求について話し合っていく。

結論としては、首脳会談のためにも、帝国代表選手団の魔術祭典の辞退は許可しないとのこと。

 

母として、人として失格でも、女王としてやらなければならないと。

そして、自身の護衛兵力の一部を、自身へのリスクを承知で代表選手団に回す事を決める。

 

 

「しかし、随分と厄介な連中に絡まれたな。第十三聖伐実行隊(ラスト・クルセイダース)……敵対するとしたら、これ以上最悪の相手は他に無い」

 

 

あのアルベルトさえ、そこまで言わせる者達であることに、ルミアは驚きを露にする。

 

 

「あの人達って、そんなに凄い人達なんですか?」

 

 

そんなルミアの疑問を、アルベルトの代わりに、クリストフが説明を始める。

 

 

「ええ、その通りです。エルミアナ王女殿下。第十三聖伐実行隊(ラスト・クルセイダース)……聖エリサレス教会教皇庁が誇る聖騎士団の中でも、最強の処刑部隊です……本来はたった二人からなる隊ですけどね」

 

「二人……?」

 

「本来はということは……三人いるのは普通じゃないということか?」

 

 

クリストフが明かした情報にルミアが首を傾げ、やり取りはちゃんと聞いていたらしいウィリアムも疑問を露に会話に参加する。

バーナード?錬成で作った壁に、半分顔が埋まってビクンビクンッ!と痙攣している。

 

 

「はい。ですが、たった二人でも、何百、何千騎からなる他の部隊を押しのけて、そう呼ばれているのです。それが今は三人……その力は推して知るべきでしょう」

 

「くそ、ふざけやがって……教皇庁に文句入れてやろうぜ!?」

 

 

グレンが教皇庁に今回の件を抗議するよう、至極真っ当な意見を出すも、アルベルトが第十三聖伐実行隊(ラスト・クルセイダース)は表向きは()()()()()()()()な為、連中を捕まえて、決定的な証拠を掴まない限りは知らぬ存ぜぬで突っぱねられるだけだと返される。

 

 

「あいつらを捕まえるとか無理ゲー過ぎるわ!」

 

「せめて、連中の素性と能力くらいについてわかればいいんだけどなぁ……」

 

 

ウィリアムは肩を落としながら、空中に配列した宝石で作った魔術法陣―――簡易の魔導演算器(マギピューター)を凝視しているクリストフに視線を向ける。

 

 

「駄目ですね。霊脈(レイ・ライン)回線を通して、帝都の情報局緊急アクセスしましたが……確かに聖堂騎士団の中にルナ=フレアー、チェイス=フォスター、ヴァン=ヴォーダンの名は確認できたのですが……記録上では、四年前に戦死しているんです」

 

「四年前……現・教皇フューネラルが、教皇選挙(コンクラーペ)で奇跡の勝利を収めた頃か」

 

「それはどうでもいいが、戦死!?連中、ピンピンしてたぞ!?」

 

「いや、表向きは存在しない部隊だから、それくらいの偽装はするだろ」

 

 

グレンに対して、至極真っ当なツッコミを入れるウィリアム。この分だと、連中を捕まえても無駄骨に終わる可能性が高そうだ。

 

 

「それに、もう一つ気になる点が。チェイス=フォスターは、確かに聖堂騎士団でもその名を馳せた凄腕中の凄腕―――エース格だったようで、ヴァン=ヴォーダンは十一歳という若さで騎士団に入団し、当時から頭角を現していた期待の聖堂騎士だったようです」

 

「天才かよ……」

 

「だろうな。めっちゃ強者の風格だったし」

 

「ですが……ルナ=フレアーは、情報によれば、聖堂騎士としては三流で……言葉を濁さずに言えば、落ちこぼれの騎士だったそうです」

 

「……おい、どう考えてもデータが狂ってるぞ。情報局の連中も当てにならんわ」

 

「……四年前に急激に強くなったとか?」

 

「いや、流石に無理がありすぎるだろ」

 

 

そもそも、第十三聖伐実行隊(ラスト・クルセイダース)が、帝国代表選手団の出場辞退を要求してきた理由は何なのか。

アリシア女王陛下は、王国側の和平反対派が暴走し、首脳会談の帝国側の心証を下げるためと、素直に読んでみたが、理由としては少し弱いとのこと。

 

そもそも、あの異端絶殺機関が、警告だけで済ませたのも妙である。出場されると困ると言っていたが、都合の悪い人物がいたからなのか?

その可能性が一番高いのはルミアだが、連中はルミアにあまり感心を持っていなかったので違うだろう。

 

誰もが次々と考察を続けるも、どれも憶測の域を出ず、決定打は出てこなかった。

バーナード?床で陸に打ち上げられた魚のように痙攣したままだ。

 

それでも、やることは変わらないので、アリシア女王陛下は深々とグレンに頭を下げて彼らを守ってくれるようにお願いした。

そんなアリシア女王陛下に、グレンは慌てて首を振って、アリシア女王陛下の要請を引き受けるのだった。

 

 

「ウィリアム。貴方もグレンの力になってあげてください……お願いします」

 

「わかりました。女王陛下」

 

 

ウィリアムも、慇懃に礼をしてアリシア女王陛下の要請を引き受けるのであった。

その後、ルミアとアリシア女王陛下の親子の会話では……

 

 

「……誘惑して押し倒すくらいでちょうど良いと思いますよ?先に事実を作れば、貴女の勝ちです」

 

「お、おおお、お母さん!?」

 

「それに、ちょうど参考にできる出来事もあったのでしょう?それを元に彼に迫れば……」

 

「む、むむむ、無理だよ!?それは心の準備が―――ッ!!!」

 

 

色々と、とんでもない発言で、ルミアは顔を真っ赤にして動揺しまくるのであった。

 

 

 




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