やる気なしの錬金術師   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


百七十一話

女王陛下との極秘会談も終わり、グレンとルミア、ウィリアムは、アルベルトの先導で、領事館の外へと向かって館内を歩いていた。

 

 

「そういえば、リィエルとエルザは元気か?」

 

 

ウィリアムは、今は軍にいる彼女達のことをアルベルトに尋ねた。

 

 

「ああ、リィエルも息災だ。抜擢されたヴィーリフも、そろそろ軍の訓練課程が終了する頃合いだ。おそらくだが、護衛の件はリィエルとヴィーリフに任命されるだろう」

 

「確かに。リィエルはルミアの護衛もあるし、自然に代表団を護衛するならそれが妥当だろうな……」

 

 

その分、一応、監視されるウィリアムの心労は大幅に上がってしまうだろうが。具体的には修羅場の中心に立たされるという意味で。

もっとも、監視任務の方は事実上、形だけであり、勧誘の方に移行しかけているが。

 

 

「そうか……俺としてはお前もこっちに回ってくれたらなぁ……そうなれば、あんなイカれた狂信者のクソ共に、目に物見せてやれるんだが……」

 

「グレン。すまないが……」

 

「わぁーってるよ。あの嫁き遅れヒス女も、最近はちったぁ信用できるみてーだし、こっちはこっちでなんとかするさ」

 

 

やれやれ、といった感じで肩を竦めるグレン。この二人は、本当にいつも通りである。

 

 

「しっかし、お前らも本当にご苦労様だよな。女王陛下の護衛は……まぁ、妥当なんだろうが、最近、お前らばっかりコキ使われてねぇか?他の特務分室の連中はどうしたよ?」

 

「…………」

 

 

アルベルトは少し押し黙り、声を潜めて言った。

 

 

「最近、帝国上層部では、陛下の敵が多い」

 

「……敵?」

 

「……どういうことだよ?」

 

 

不穏なアルベルトの言葉に、グレンとウィリアムが揃って眉を顰める。

 

 

「そうだ。グレン、以前も言ったが、俺達は一枚岩ではないのだ。誰が味方で、誰が敵なのかわからぬ状況……陛下が完全に信頼できる人材は、限られている」

 

「馬鹿な。あの陛下に敵だと?今、帝国上層部で一体、何が起きて―――ッ!?」

 

 

グレンが少し声を荒げてアルベルトに詰め寄ろうとしたところで、通路の向こう側から、一人の赤毛の男が悠然と歩いて来ていた。

 

 

(確かあのおっさんは……)

 

 

新聞に取り上げられていた、女王府国軍大臣兼、国軍省統合参謀本部長、アゼル=ル=イグナイト卿。

帝国軍のトップにて……イヴの実の父親だった筈だ。

ウィリアムはグレン達と共に壁際に寄り、儀礼的な一礼をして、すれ違うイグナイト卿をやり過ごす。

 

 

(……そういえば、例の蒼天十字団(ヘヴンス・クロイツ)を運営していたバートレイという人物を殺ったのも、このおっさんだったな……)

 

 

イグナイト卿を無難にやり過ごした後、ウィリアムはぼんやりとそんな事を考える。

生かして捕らえることもなく、イグナイト卿に抹殺されたバートレイ。

運営者がいなくなったにも関わらず、危ない橋を渡ろうとしていた蒼天十字団(ヘヴンス・クロイツ)

 

リィエルの『パラ・オリジンエーテル』のデータ解析に対する疑問。

まるで口封じのように獄中で殺されたサイラス達と、行方不明のイリア。

そして……あの一件で一番得をしたのは誰なのか。

 

 

(……まさか、な……)

 

 

もしそうなら、質の悪いマッチポンプである。

そして、これが事実なら、イリアはイグナイト卿の駒である可能性が高い。天の智恵研究会の手先とするには、あまりにも回りくど過ぎる。

 

ウィリアムは考え過ぎだとは思いつつも、一応は警戒しておくことを心に決め、アルベルトの後に従って歩き続ける。

そして、領事館の外にて、アルベルトと別れる運びとなった。

 

 

「俺達も可能な限り即応出来るよう、色々と準備はしておく。ここは帝国領内ではない以上、何が起きても不思議ではない。……お前達もくれぐれも気を抜くな」

 

「……肝に銘じておくぜ」

 

「了解」

 

「ありがとうございました、アルベルトさん」

 

 

アルベルトの忠告を受けながら、グレンとウィリアム、ルミアは踵を返し、その場を立ち去ろうとする。

 

 

「……グレン」

 

 

だが、意外にもアルベルトが、グレンを引き留めてた。

 

 

「なんだ?」

 

「…………。……女王陛下について……お前に少し話しておきたい事がある」

 

「女王陛下ぁ……?なんだよ、いきなり?」

 

 

アルベルトにしては珍しく、言葉を選ぶように瞬巡して言った言葉に、グレンは眉を顰めるも、アルベルトはそのまま、歯切れの悪い物言いで言葉を続けていく。

 

 

「帝国王家の……ひいてはアルザーノ帝国の根幹に関わることだ。正直、眉唾ものの話だが……お前の見解も聞いておきたい。今は論じている暇は互いに無い……ゆえに、今回の件が終わったら、改めてお前に話す」

 

「ま、まぁ……別にいいけどよ……」

 

 

グレンが訝しみながらも了承したことで、アルベルトはその場を去って行くのであった。

そして、アルベルトと別れたウィリアム達は他愛ない話に興じながらホテルへと戻っていると……

 

 

「あれ?」

 

「ん?どうした、ルミア?急に立ち止まって?」

 

「え、ええと……あそこ……」

 

「あそこ……って、マリア!?」

 

 

その道中で、周囲をキョロキョロしながら、行き交うふ人達を縫うように、マリアが一人、通りを歩いているのを見つけた。

 

 

「あのバカ、一人で何をやって……ッ!?なるべく皆と一緒にいろって、言っただろうが……ッ!」

 

「先生、ウィリアム君、追いましょう!」

 

 

そんなわけで、何故か単独行動をしていたマリアの後を追いかけ始める。

幸い、ウィリアムが視覚を同調させた人工精霊(タルパ)で上空からマリアを追跡したので、マリアを見失うこともなく、加えて、必死に追い縋ったこともあり、マリアが聖ポーリィス聖堂の中へ入っていくのを目撃していた。

 

 

「……妙だな。道中で他にも聖堂があったはずなのに」

 

 

疑問に首を傾げるグレンの言う通り、ここへ向かう道中でも、大小様々な聖堂・寺院があった。

にも関わらず、マリアは迷うことなくこの聖堂へと足を運んだ。

そんな疑問を感じつつも、マリアを確保しようと、ウィリアム達は聖堂の中へと入る。

 

 

「―――天にまします我らの神よ、願わくは―――」

 

 

聖堂の中で、件のマリアは、普段のウザさが嘘のように一心不乱に祈りを捧げていた。

そして―――

 

 

「……真にかくあれかし(ファー・ラン)

 

 

マリアの祈りは終わり、胸元で二度十字を切った。

二度の礼拝、祈りの後に二度切った十字、エリサレス教カノン派―――“旧教”の聖堂。

ここまで揃えば、確定だろう。

マリアは、旧教信者の人間だ。

 

 

「は、はぅうううううううううううーーッ!?」

 

 

そんな事をウィリアムが考えていると、マリアの素っ頓狂な声が聖堂内に響き渡る。どうやら、自分達に気付いたようである。

 

 

「な、な、な、なんで!?どうしてここに!?」

 

「どうしてじゃない。一人でほっつき歩くなアホ。いくら評判良くないカノン派だからって、単独行動を起こすな」

 

「え、ぇええええええ、えーっと……な、な、な、何のことですか?私、あの芋臭いガチ信者じゃないデスヨー?」

 

 

呆れながらウィリアムが答えるも、マリアはわざとらしくすっとぼけようとする。

だが、グレンが止めを差した。

 

 

「誤魔化さなくていいぞ、マリア。全部最後まで見てたし、帝国でも、少数とはいえ旧教信者はいるんだからよ」

 

「う、ぅううぅ……ぅうううううう…………だって、あんまり可愛くないじゃないですか……せっかく、垢抜けた都会派の女の子を目指していたのに……」

 

「安心しろ。お前は宗教関係なく、最初から可愛くない、ウザいだけの女の子だ」

 

「酷いですウィリアム先輩!!やっぱり、ウィリアム先輩は悪魔ですぅ!!流石、グレン先生と同じ女の子を泣かせる女の敵―――」

 

 

ギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリッ!!

 

 

「ひぎゃぁああああああああああああッ!?痛い痛い!!アイアンクローは止めてくださぁ~~~いッ!!!」

 

「誰が女の敵だ、ウザい後輩」

 

 

本当にこの後輩はウザいと、義手でアイアンクローを続けながら、ウィリアムはじっとりとした目つきで睨み続けるのであった。

 

―――その後。

 

マリアの身の上話でウィリアム達が気持ちを新たにした後、ホテルに帰ったマリアはシスティーナとイヴに大説教をもらい、試合前とは思えない地獄の特訓を課せられることになるのだった。

 

 

 




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