やる気なしの錬金術師   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ


百七十二話

次の日。

 

 

「……くぁあああ~~……」

 

 

まだ日も昇りきらぬ早朝。グッスリと寝てスッキリした気分のウィリアムは体を起こして背伸びする。

そして、隣にはグッスリと眠っているエルと―――

 

 

「……うへへへへへ~~……」

 

「…………」

 

 

……割り当てられた部屋で寝ている筈のオーヴァイがいた。

ウィリアムは清々しい気分から一転、能面のような表情で眠っているオーヴァイを見下ろし……

 

 

「むひゃひゃ……いひゃいいひゃいれすぅ~~~~ッ!!」

 

 

その頬っぺをおもいっきり引っ張って、叩き起こすのであった。

 

 

「オーヴァイ。色々と聞きたいことがあるが、先ず一つ。どうやって部屋に入った?」

 

「も、もちりょんひっきんぐで……いひゃいいひゃい!ウィリアミュせんぴゃい、ちかりゃをつりょくしないひぇ~~ッ!」

 

『……すぅ……』

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「今回のルールは、端的に言えばメイン・ウィザードを戦闘不能にした方が勝ちとなる。フィールド内には、召喚術で支配召喚された多くの魔獣が放し飼いにされている。召喚された魔獣達は、人を見たら殺さない程度に襲うように命令されている」

 

「まぁ、簡単にまとめれば、魔獣を撃退、もしくはやり過ごしながら、いかに相手のメイン・ウィザードを撃破するか……いかに、自分達のメイン・ウィザードを守るか……これが勝負の鍵になる。以上が、俺達の初戦で行われる、試合内容とルールだ」

 

 

セリカ=エリエーテ大競技場の選手待機室にて、グレンとウィリアムは今朝になって通達された、初戦の試合内容とルールを説明していた。

 

 

「後、ハラサは《星天術》と呼ばれる魔術を使う。《星天術》は“誓約”……まぁ、分かりやすく言えば“不利なルール”を自分に課して、その“不利なルール分”の力を発揮する魔術だ。自分に課したルールが厳しければ厳しい程、《星天術》は強い力を発揮するんだ」

 

 

加えて、ウィリアムは亡き師匠、ユリウスから教えてもらっていたハラサの魔術についても説明していた。

ユリウスは大陸のあちこちを旅していたので、様々な国の知識を持っていた。その知識を、知っておいては損はないとウィリアムに教えており、今回、それが見事に役立っていた。

 

 

「しっかし、通達された時から思っていたけど、なんつうルールだ……下手すりゃ死人が出るぞ……このルールを考えたやつは、ドSのアホだろ」

 

「グレン。魔術祭典で死傷者が出るなんて、別に、昔からままあったことでしょう?」

 

「まぁ、戦いという性質の勝負上、死傷の可能性は常について回るしなぁ。運営側も、その辺りのフォロー態勢は可能な限り敷いているようだし」

 

「そういうこと。即死でもない限り、なんとかなるから、面倒臭い過保護はやめてよね?グレン」

 

「わぁーってるよ。ここにいる連中は覚悟してこの場に立ってんだからな。覚悟決めて戦いに挑むやつに、俺がどうこう言う資格はねぇよ」

 

 

グレンはそう言って、溜め息交じりにシスティーナ達に振り返る。

 

 

「だから、俺からお前らに言うことは一つ。気をつけろよ?特に白猫、お前はな」

 

「……あ、はい。大丈夫です」

 

「……やっぱり、お前、緊張で頭が働いてねぇんじゃねーのか?普段なら、噛みついてくるくせに……」

 

 

グレンが言葉少ないシスティーナに訝しげな視線を向けた―――次の瞬間。

 

ばぁんっ!

 

 

「ようっ!先生ぇ~~ッ!!」

 

「無事に間に合って良かったですわ!!」

 

 

カッシュとウェンディを筆頭に、テレサ、セシル、リン、チャールズが勢いよく入室してきた。

 

 

「はぁあああああーーッ!?」

 

「……一応聞くが、どうしてお前達がここにいるんだ?」

 

 

カッシュ達の唐突な登場に、グレンは驚きまくり、ウィリアムは呆れたような顔で理由を問い質した。

 

 

「決まってるだろ!?休学届け出して、応援に来たんだよ!」

 

「移動は、私の実家の伝手を利用して……ね」

 

「で、可愛いマネージャーさん達に頼んで、通してもろうたんや!!」

 

「このわたくしを差し置いて選ばれたんですから、きっちり優勝していただかないと、納得できませんわ!!」

 

「やっぱり、皆が活躍するところを、僕もこの目で見たくてさ……」

 

「うん……が、頑張ってね……」

 

 

カッシュ達が、口々に激励の言葉を送る。

 

 

「……ふん、相変わらず暇な連中だ」

 

 

ギイブルは口こそ相変わらずだが、満更ではなさそうである。

男のツンデレなぞ、需要は無いが。

 

 

「で?どうよ?レヴィンさんよ?調子は?自信の程は?」

 

「ふっ……まぁまぁ、でしょうかね?」

 

「コレット、フランシーヌ、貴女達は大丈夫ですの?」

 

「ぜ、ぜ、全然、おっけーだぜ!?な!?」

 

「も、もちろんですわ!?わたくし達にかかれば、こんな試合―――」

 

「マリアさんも、ジャイルさんも、応援しますから頑張ってくださいね?」

 

「あ、ありがとうございますぅ~~ッ!!感謝感激雨嵐!!」

 

「……ふん」

 

 

思わぬ応援団の駆けつけにより、待機室はにわかに騒がしくなり、システィーナ達の緊張が良い感じにほぐれていく。

 

 

「……うぅ~~……」

 

『よちよち』

 

 

ちなみに、涙目のオーヴァイは、今朝の無断侵入の件でイヴにこってり絞られた後、頭にタンコブ(作り物)を乗せた状態で部屋の隅で正座させられ、エルに頭を撫でられて慰められていた。

……オーヴァイが反省しているかどうかは微妙であるが。

 

 

「……なぁ、なんであの子は隅で正座させられているんだ?」

 

「……節度のない行動を取ったからです」

 

「……ウィリ野獣の関与は?」

 

「あります」

 

「死ねぇええええええええええーーッ!!ウィリ野獣!!」

 

 

レヴィンから話を聞いたカッシュは、鼠の幻影を背に、血涙を流して、リィエルに匹敵する瞬発力でウィリアムに襲いかかっていく。

―――十秒後。

 

 

「……おぶふぅ……」

 

「いい加減、懲りろ」

 

 

非殺傷弾と義手のアッパーのコンボで、仰向けに倒れる鼠の幻影を横に、ビクンッ!ビクンッ!と床に倒れて痙攣する白目を剥くカッシュに、ウィリアムは呆れたように呟くのだった。

 

 

「うふふ。本当に彼は人気ですね」

 

「アハハ。ハイ、ソウデスネ」

 

 

ちなみにマリアは、例の如くはしゃいでウィリアムに制裁を貰った後である。

そんな感じに、和気藹々としていると。

 

 

「そろそろお時間です。本日の試合に挑むアルザーノ帝国代表選手団の皆様、試合会場への移動をお願いします」

 

 

係の者が待機室にやって来て、移動を促してくる。

いよいよ、世界を舞台にした戦い……その第一戦が始まろうとしていた。

 

 

「システィーナ……頑張れよ」

 

「はいっ!行ってきます、お師匠様!なぁんてね♪」

 

 

グレンのエールに、システィーナは不敵に笑っておどけたように敬礼し、部屋を後にするのであった。

システィーナ達を見送った後、ウィリアム達は選手関係者の観客席へと向かう。

観客席から見えるフィールドは、魔術で空間を歪めているので、その光景はまるでミニチュアだ。

 

それ故に、会場の空にはまるで窓のような映像が、光の魔術で無数に投射されている。

それらは、選手視点の映像だったり、フィールド視点の映像だったりと、あらゆる種類の映像があって、試合や全体の流れを誰もが把握できるようになっている。

加えて、フィールドには断絶結界が敷かれており、観客席からの干渉は不可能だし、しようとすれば筒抜けである。

 

 

「……超望遠で撮影なら、なんとかいけるで。これでベストショットを―――」

 

「《死になさい》」

 

「あちゃああああああああああああ―――ッ!?」

 

 

……後ろで露骨に写真を撮ろうとしていたバカは、イヴに燃やされていたが。

 

 

「一先ずは大丈夫そうですね。一昨日の人達の妨害も、今のところはなさそうです」

 

「ああ。複雑だが、試合中はあの連中に対しては安全だな。干渉すれば、一発でバレるからな」

 

 

エルに聞こえないよう、小さな声で言い合うオーヴァイとウィリアム。その気分は、とても複雑である。

 

 

「あ、皆さん、索敵と掃討の二手に分かれましたね」

 

「魔獣は、自分の領域(テリトリー)を守るからな。縄張りと安全地帯の把握は、早々に知っておくべきだからな。これは好判断だな」

 

 

頭上の映像に映し出される光景を見ながら、システィーナの判断を賞賛する。

 

 

「対して、あちらは中途半端ですね」

 

 

オーヴァイがそう言いながら、ハラサのチームが映し出されている映像に視線を向ける。

ハラサのチームは、攻勢的な動きではなく、かと言って、メイン・ウィザードを大事に守る穴熊作戦でもない。

オーヴァイの言う通り、実に中途半端な立ち回りだ。

 

 

「……ん?」

 

 

なんともおかしい、ハラサのチームの立ち回りに疑問を感じながら頭上の映像を凝視していたウィリアムは、一枚の映像を見つけ、それの意味を理解して、顔を手で覆って天を仰いだ。

 

 

「……バカだろ、アイツ。いや、ルールを鑑みれば、アリと言えばアリなんだが……」

 

「へ?……ああ、成る程。大将の特攻ですね?」

 

 

呆れたようなウィリアムの呟きに、オーヴァイは最初こそ首を傾げたが、すぐに理解して曖昧に笑いながら問いかけた。

 

実際、システィーナのいる掃討班に、マルコフと一触即発寸前だったハラサの少年―――メイン・ウィザードのアディルが単騎でシスティーナ達の前に立ちはだかったのだから。

加えて、左手に持っていた四つの宝玉で断絶結界を張って、見事にシスティーナとのタイマンに持っていったのだ。

 

 

「正解。加えて、あの結界は直接破壊することはできないだろうな」

 

「例の“誓約”……というやつですね」

 

 

実際、コレットとフランシーヌが結界を破壊しようと魔闘術(ブラック・アーツ)やマルアハでぶん殴ってもびくともせず、他のハラサの選手が掃討班に襲いかかっている。

 

 

「あのアディルとかいうやつ……本当にアホだろ」

 

「貴方が言えるのかしら?そのアホなことを、毎回やっていが貴方が」

 

 

頭を押さえるグレンの呟きに、イヴがばっさりと切り捨てる。

 

 

「システィ!!そこ!後ろ!きゃあああああ!?あっ!そうだよ、やったぁあああああああああーーッ!?」

 

『みんなぁあああ、ファイトなのーーッ!!』

 

 

エレンとエルは、きゃーきゃーはしゃいでいるが。

しかし、状況はあまり楽観はできない。

事前に聞いていたとはいえ、アディルの頭上に描く星図に、奇妙な韻を踏む呪文―――初めて見る《星天術》にシスティーナは戸惑っている。

 

いつ、勝負がついてもおかしくないが、システィーナは不敵な笑みを浮かべながらアディルに向かって魔術を放っていく。

どちらに勝負が傾くか、それは予測がつかないものであった―――

 

 

「……そろそろかな」

 

 

大競技場の某所に佇む、一人の男以外は―――

 

 

 




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