やる気なしの錬金術師   作:厄介な猫さん

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こっちは二年ぶりの投稿ですね。
てな訳でどうぞ。


百七十四話

ハラサ代表選手団との激闘を制した、その夜。

アルザーノ帝国代表選手団が宿泊しているホテルにて―――

 

「えー、まずはお前ら。初戦突破お疲れさん~」

「「「「乾杯~っ!」」」」

『なの~っ!』

 

そこは、ホテル内にある高級感溢れる談話室。

テーブルに、屋台で買ってきたジュースやら軽食やらを並べ、ウィリアム達はちょっとした祝賀会を開いていた。

 

「いや~、無事に一回戦突破おめでとうございます!」

『みんな凄かったのー!』

 

オーヴァイとエルが笑顔でシスティーナ達を褒め称える。

 

「そりゃそうだ!あたしがいるんだからな!」

「そうですわ!わたくしがいれば、一回戦の勝利も当然ですわ!」

「……試合開始直前まで、ガチガチに震えていたでしょうが」

 

褒め称えられて気が大きくなったコレットとフランシーヌに、ジニーのいつもの毒舌が炸裂する。

 

「まったく……気を抜きすぎだろ。まだ一回戦に勝利しただけというのに」

「息抜きは必要よ。貴方もよく頑張ったわ」

「…………まぁ、イヴ教官がそう言うなら」

 

ギイブルは不機嫌そうに言葉を洩らすも、イヴに(たしな)められて素直に引き下がる。

 

「システィ!一時はどうなることかと思ってたけど……やっぱり、レヴィンみたいな口だけ男とは大違いだね!」

「エレン……す、少しは従兄妹に対する配慮を……」

「システィに、一度でも勝ってから言ってね☆」

 

システィーナにべったりするエレンの言葉に、レヴィンは苦笑いの表情で苦言を呈するもあっさりと一蹴される。

 

「しっかし、あの奇跡の大逆転劇!やっぱ、システィーナはスゲェよ!」

「せやせや!素晴らしい写真もこの―――」

「没収ですわ!」

「あーッ!?」

 

カッシュの称賛に便乗するようにチャールズが魔導カメラを掲げた瞬間、ウェンディにすぐさま取り上げられる。

 

「ふふ、お疲れ様です、ジャイル、ハインケル」

「ふん」

「……どうも」

 

リゼが寡黙組のジャイルやハインケルに声をかけたりと、皆が思い思いに一時の休息を楽しんでいた。

 

「いやぁ、それにしても、本当にしんどかったですぅ!それにしても、あの飛竜さん……どう考えても動きがおかしかったですよね?システィーナ先輩ばっかり狙って……一体なんだったのでしょうか?」

「……さあな?」

 

マリアの疑問に対し、横にいたグレンは気まずそうに言葉を濁す。端で聞いていたウィリアムも視線を横へと逸らす。

あれが第十三聖伐実行隊(ラスト・クルセイダース)の妨害工作だと、皆に明かすわけにはいかないのだから当然だ。

さすがにその一人であるヴァンと対面したオーヴァイは察しているが、口止めしていたので黙ってくれている。

 

「あ、あの……先生、お客さんです」

 

そんな中、ルミアがある人物を連れて、グレンの前へとやってくる。

その人物は―――ファイス司教枢機卿であった。

 

 

 

――――――

 

 

 

グレンとファイスは談話室の外のベランダで、向かい合う。

イヴも硝子越しで二人の様子を窺う中、ウィリアムもこっそりと人工精霊(タルパ)を召喚し、聴覚を同調させて盗み聞きをしていた。

 

(何であのオッサンはこのタイミングで現れたんだ……?)

 

第十三聖伐実行隊(ラスト・クルセイダース)の妨害を受けて間もないにも関わらず、グレンに会いに来た理由が分からない。

 

「では、皆さんの勝利祈願の意も込めて、舞を披露しますね!!」

 

オーヴァイが鞘に納められた刀と扇子を手に舞を披露する中、ファイスが現れた理由がファイス自身からもたらされた。

 

『……やはり、警戒されいるようですね。無理もありません。我々の手の者が、貴方達に大変な迷惑をかけて申し訳ない』

 

人工精霊(タルパ)越しに伝わる、ファイスの申し訳なさそうな言葉。そこに打算と思惑は感じ取れなかった。

 

『……なるほど。少なくとも表向き、昼間のアレはアンタの本意じゃねえってことか』

『ええ。信じていただけないかもしれませんが……私は今回の首脳会談、両国の平和の為に是非とも成功させたい……本気でそう考えています』

 

ファイスはグレンに腹を割って話すと言い、第十三聖伐実行隊(ラスト・クルセイダース)は教皇庁教皇聖下の認可で司教枢機卿であるファイスが動かす独自の部隊であること。

 

その彼女たちが先日から連絡がつかなくなっており、今の第十三聖伐実行隊(ラスト・クルセイダース)の手綱を握っていそうな人物は、教皇庁強硬派の筆頭であるアーチボルトである可能性があることをグレンに明かしていく。

話の流れからして、強硬派は帝国と戦争がしたいようだ。

 

(向こうの切り札(ラスト・カード)をどういった手段で取り込んだのかも気になるが……今はアーチボルトの“狙い”の方が重要だよな)

 

今回の妨害は確かに帝国への警告にはなるが、第十三聖伐実行隊(ラスト・クルセイダース)を使うにしては弱い。むしろ、その圧倒的な力を利用して人質等といった強行策を取る方が普通だ。

にも関わらず、アーチボルトは回りくどい手を取った。つまり、狙いは別にある可能性が高い。少なくとも、直接的な首脳会談の破談が狙いとは考えにくい。

 

『アーチボルトの本当の目的……アンタなら知っているとまではいかずとも、何か心当たりはねーか?』

『……いえ。正直、彼の考えは、まったく想像もつきません』

 

グレンもその辺りをファイスに投げ掛けていたが、ファイスは心当たりはないと返していた。

声だけでは本当に知らないのか、知っている、もしくは心当たりがあるが隠しているのかのどちらなのか、判断がつかない。

 

―――がたんっ!

 

『誰だッ!?』

『ぴゃあああああああああーーッ!?』

 

人工精霊(タルパ)越しの物音とグレンの鋭い声。そして、情けない悲鳴を上げるマリアの声にウィリアムは思わず滑りそうになった。

良く見れば、談話室にはマリアの姿がない。というか、誰もマリアがいなくなっている事に気付いていない。オーヴァイの舞に目が向いているからであろう。

 

硝子越しに様子を窺っていたイヴも同じようで、軽く溜め息を吐いている。

こうなった以上、話し合いを続けるのは困難だろう。下手に追い返せば、いらぬ不安を与えかねないからだ。

ウィリアムはそう判断し、向こうの話は聞き流す程度に引き下げ、オーヴァイの舞へと目を向ける。

 

(確か……東方舞踊の剣舞、だったか?)

 

(よこしま)な気を祓い、己が精神と剣気を高める。うろ覚えだがそういった舞踊だった筈だ。

中々様になっており、『社交舞踏会』とも『銀竜祭』の時とも違う踊りに感心していると―――

 

キン―――

 

そんな耳鳴りが何の前触れもなく鳴ると同時に―――世界が変わった。

 

「……ッ!?」

 

ウィリアムは思わず耳を押さえるも、歌が聞こえてくる。

 

―――La…LaLaLa,Lala…Ah,LaLaLa,Laha…♪

 

意味がまったく取れない、得体の知れない言語の歌。

にも関わらず、歌の意味が理解できる。

 

―――ALa,…EleElelalala,Lala…AhAa,LaLa…♪

 

眠れ、眠れ、安らかに、安寧に。

眠れ、眠れ、安らかに、揺り籠の中で。

そんな子守唄のような歌が、魂に直接浸透するように響いていく。

 

―――LaLa,…AaLaLa,LaLuLu…Ah,LaLaLa,Aaha…LaLaLah…♪

 

暴力的な睡魔が、ウィリアムを襲う。

眠ってはならないと、その不自然過ぎる眠気に抗おうとするも、意識がどんどん暗転していく。

ウィリアムはその場で膝を付き、抗え切れずにそのまま意識を……

 

『ウィリアム!私と、セコい上に自堕落な引きこもり以外の神性に簡単に心を持っていかれるんじゃないわよ!』

 

―――手放そうとしたところで脳内で叩き起こすような叱責が飛び、ウィリアムの意識は覚醒する。

 

(今の声はナムルス!?)

 

あの遺跡限定の幽霊少女の叱責に、ウィリアムは頭を振りながら周囲を確認する。

 

「な……ッ!?」

 

ナムルスの姿は見えなかったが、ルミアとオーヴァイ、イヴ以外は不自然な体勢で眠ってしまっていた。

 

「システィ!?しっかりして!」

「皆さん!?どうして急に眠ってしまわれたんですか!?」

 

ルミアとオーヴァイは眠ってしまった彼らを揺すって呼び掛けるも、目覚める気配が微塵もない。

例の歌声は未だ脳内に響き続けているが、先程までの不自然な眠気はもうない。

 

「まさか、この歌声が原因なのか……?」

「その可能性は濃厚でしょうね。すぐにグレンの方へ向かうわよ。あの馬鹿の状態も確認しないと駄目だし」

 

イヴの言葉にウィリアム達は頷き、グレンがいる外のベランダへと向かうのであった。

 

 

 

――――――

 

 

 

眠り落ちていなかったグレンとファイス、マリアと合流し、ウィリアム達アルザーノ組はファイスから今起きている事態の説明を受けていた。

今、脳に直接流れ込むように聞こえてくる歌は、天使言語魔法(エンジェリック・オラクル)の【子守唄】―――ルナ=フレアーの術であること。

 

天使言語(エンジェリッシュ)は『原初の魂』―――原初の音(オリジン・メロディ)により近い音であり、それによる天使言語魔法(エンジェリック・オラクル)は恐ろしく高射程で強力無比。特定の相手に狙い打ちすることも高範囲を無差別に制圧することも可能であること。

そして、一度術に囚われると術者を叩かない限り絶対に逃れられず、囚われている時間が長いほど深い眠りとなる事を説明していく。

 

(……全員、人外に足を踏み込んでいるのかよ)

 

吸血鬼に続いて、人間には決して扱えない天使言語(エンジェリッシュ)。もはや、疑いようがない。

 

「さすがは音に高き魔導大国、アルザーノ帝国の方々ですね。まさか、彼女の【子守唄】に抵抗できる方が、こんなにいるとは……」

 

ファイスの言葉に、ウィリアムは内心で引き攣る。危うく【子守唄】にやられかけていたからだ。

 

(イヴの先公とグレンの先公は当然として……ルミアも精神防御は高いから妥当。オーヴァイは祓いの効果もある舞を踊っていたから抵抗できていたんだろう。ファイスのオッサンも抵抗できて不思議じゃないが……)

 

ウィリアムは視線をマリアに向ける。

 

(なぜ、このウザい後輩も抵抗に成功したんだ?)

 

精神力が強いジャイルだけでなく、成長が著しいシスティーナまでもが【子守唄】にやられたのだ。少なくともあの不意討ちに耐えきれるとは思えない。

正直気にはなるが、言及する暇はない。

 

向こうは狙いはメイン・ウィザード―――システィーナの不参加による帝国の不戦敗。アーチボルトの狙いがますます不明となるがこのままという訳にもいかない。

 

「なら、さっさと連中をブチのめすぞ。このくだらねえバカ騒ぎを終わりにしないといけないからな!」

「ふん、今回ばかりは素直に同意するわ。あの連中に目にもの見せてやろうじゃない?」

 

グレンは拳と掌を合わせて力強く告げ、イヴも髪をかき上げながら不敵な笑みで同意する。

 

「俺も行くぞ、グレンの先公。三人も相手にするのは無理がありすぎるからな」

「私もお手伝いいたします!」

「それなら私も!身体の調子も良いですし、皆さんの足は引っ張りませんよ!」

 

ウィリアムが拳銃片手に申し出ると、ルミアとオーヴァイも続くように名乗りを上げる。

ルミアの《王者の法(アルス・マグナ)》はあの三人と戦うには必須だし、オーヴァイも体質を除けば上位に入る実力者だ。

 

「ああ、頼むぜ」

「どちらも実力は申し分ないわ」

 

グレンとイヴが頷いたことで、マリアが腹を括った表情をする。

 

「あ、あの……っ!だ、だったら私も―――ッ!」

「駄目です、マリアさん。貴女はここに残りなさい」

 

ファイスはマリアの実力はグレン達の領域に達してはいないと彼女を窘め、ルナの【葬送歌】等といった直接的な攻撃から【子守唄】で眠っているシスティーナ達を守る為にこの場に残ることを告げる。

 

グレンは真意を探るように睨み付けていると、マリアは根拠はないけどファイスは信用できるとグレンに訴える。

結果……

 

「ファイスさん。俺はあんたを信用する」

「……信用していただき、ありがとうございます。グレン先生」

 

こうして。

ホテル内に結界を張った後、ウィリアム達は結界の維持や後のことをファイスとマリアに任せ、夜の街へと飛び出すのであった。

 

 

 




『すー……』
「エルちゃんもぐっすり眠ってるね……」
「非常事態ですけど、可愛い寝顔ですねー」
「ええ。幼き者の寝顔は、本来は素晴らしいものです」
「可愛い過ぎて、頬擦りしたくなっちゃいだだだだだだっ!?」
「白猫の親父さんばりの親バカだな……ウィリアム」
「馬鹿やってないで、早く結界を張りなさい」
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