やる気なしの錬金術師   作:厄介な猫さん

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てな訳でどうぞ。


百七十五話

ウィリアム、グレン、ルミア、オーヴァイ、イヴの五人が閑散とした夜のミラーノを駆ける。

聞こえてくる【子守唄】を頼りに、彼女達がいる場所を目指して駆ける。

 

「うわー……街の人、全員眠ってますよ」

「一戦交えるのは想定済みなんだろうよ」

 

道ばたで不自然に倒れて眠っている人達を流し見るオーヴァイの呟きに、ウィリアムは溜め息混じりに返す。

そうして辿り着いた場所は―――セリカ=エリエーテ大競技場。

昼間、魔術祭典が行われていた場所だ。

 

「確かにここなら、互いに気兼ねなく、全力でやれるわね」

「お敵さんも本気ってことか」

 

イヴの言葉にグレンは肩を竦めて返し、大競技場の壁を蹴り上がって上っていく。

観客席のへりにウィリアム達は降り立ち、中央の競技フィールドを見下ろす。

そのフィールドの中央には、腕組みをして目を閉じているチェイスと、月明かりの空を見上げているヴァン。

そして―――【子守唄】を歌っているルナがいた。

 

まるで見えない観客席に届けるように歌っていたルナは、不意に歌うことそのものはやめる。

彼女達が自分達に気付いたと察したウィリアム達は頷き合い、観客席の最前列へと向かう階段を降りていく。

階段が尽きると、断絶結界が切られていた競技フィールドへと降り立ち、ゆっくりと歩いていく。

約十五メトラ地点でウィリアム達は足を止め、彼女達と対峙した。

 

「……来たわね。今さらだけどね……私達、貴方達を―――」

 

その瞬間、ルナが後ろに仰け反りながら後方へと吹き飛んだ。

 

「ルナ!?」

「姉さん!?」

 

予想外の展開に、チェイスとヴァンが揃ってルナが吹き飛んだ方向へと顔を向ける。

その間に下手人―――オーヴァイが残像さえ残さない速さでウィリアム達のもとへと戻る。

 

「ウィリアム先輩!グレン先生にイヴ先生!ルミア先輩も!さっそく元凶を倒しましたよ!!」

「「ええー……」」

 

既に抜いていた刀を片手に、笑顔で報告したオーヴァイの空気を読まない先手必勝にルミアは当然、グレンとウィリアム、イヴでさえもドン引きしていた。

 

「オーヴァイ……さすがに今のは……」

「え?この人たちを倒さないといけないんですよね?どうせ戦うんですから、先手必勝が一番では?マトモに戦えば苦戦は必須ですし」

「確かにそうだが……今のは……」

「間違ってはいないけど……貴女もリィエル並の突撃思考ね……」

 

イヴはこの瞬間、オーヴァイはリィエルと同類だと確信した。

いや。ある程度頭が回る分、リィエルより質が悪い。

リィエルは良くも悪くも単純なので止めれば一応は大人しくなるが、オーヴァイは逆に相手を丸め込んで突撃していく可能性がある。

実際、言い分だけ聞けば至極真っ当なのだから。

 

「後、残念だけど倒せていないわ。【子守唄】がまだリフレインしているからね」

「言われてみれば確かに……せっかく大金星を上げたと思ったのにぃッ!!」

 

奇襲が無駄になったとオーヴァイが嘆く中、吹き飛ばされたルナは立ち上がりながら額を押さえ、涙目で睨み付けていた。

 

「人が神妙に話している途中で攻撃するってどうなの!?しかも額を思い切り突いたわよね!?私じゃなかったら即死だったじゃない!!」

 

青筋を立てて怒りを露にするルナ。その様子からして、相当ご立腹のようである。

 

「もう頭きたッ!これを見て、心底後悔するといいわ!!」

 

ルナはそう言って、腰の聖剣を引き抜く。同時にルナの背中から極光が華咲き、三対六翼の白い翼が展開される。

その刹那、強大な存在感と圧倒的な法力が膨れ上がり、羽ばたく光の翼が巻き起こす撃風が吹き荒ぶ。

 

「……《戦天使》ッ!?伝説には知っていたけど―――でも、まさかッ!?」

 

明らかに異様で強大な姿に、イヴが震えを禁じ得ない様子で叫ぶ。

《戦天使》イシェル―――エリサレス聖書の旧約神譚録にて語られる、六魔王の《黒剣の魔王》や《葬姫》らと戦った最強の天使。その強大な概念存在の名だ。

 

「確か、二百年前の魔導大戦で活躍した六英雄の中にも居たな!?《戦天使》イシェル=クロイス―――神話の天使と同名だったヤツが!」

「つまり、一種の世襲制……当代の《戦天使》様ってことか!」

「何ですかそれー!?ちょっとズルじゃないですかー!」

「ズルって……オーヴァイさん、それは違うんじゃないかな……?」

 

オーヴァイのずれた文句にルミアは苦笑いする。しかし、状況が変わる筈もない。

 

「そうよ。私は《戦天使》で、チェイスは真祖の吸血鬼。そして―――」

 

ルナはそう言ってヴァンに視線を向ける。

ヴァンは無言で左目の眼帯を外すと―――青い虹彩に角ばった瞳孔をした瞳をウィリアム達に向ける。

同時に法力と魔力……圧倒的な二つの力を滾らせていく。

法力は全身からだが、魔力はその左目から溢れ出ている。

 

「その左目……魔法遺産(アーティファクト)ね?」

「正解ですよ。かつて、聖エリサレス教会で封印管理されていた禁遺物《ミゼアの邪眼》……それを左目に移植した事により、私は“狼男”となった」

 

ヴァンはイヴの質問にそう答え、背中に背負っていた双刃槍(ダブルランサー)を抜いて構える。

その魔法遺産(アーティファクト)の詳細は不明だが……強力無比であることには間違いない。

 

「天使に吸血鬼、挙げ句の果てに狼男……人外のバーゲンセールかよ!」

「これで分かったでしょ?私達全員、人間としての規格を大きく外れた怪物であることが」

 

ルナは勝敗は既に決まっていると言わんばかりに告げる。

 

「最後にもう一度だけ警告するわ。退きなさい!貴方達ただの人間に勝ち目なんて、万が一にもないわ!」

「は!うるせえな、バカ!」

 

ルナの圧力と共に放たれた最後通告を、グレンは受け流しながら堂々と告げた。

 

「お前達にも退けない、譲れない事情があるのと同様に……俺達にも退けない、譲れないもんがあるんだよ!それは荷物の重みや大事さじゃねえ!背負った責任からだ!!」

 

堂々とルナに向かって啖呵を切るグレンに、ウィリアムも拳銃を抜いて告げる。

 

「第一、人間辞めた程度で勝ち目がないなんてほざく時点でズレてんだよ!こちとら、そういった連中に勝ち星拾ってんだからな!」

 

そして、グレンがルミアをちらりと見て叫んだ。

 

「ルミア、頼むぜ!」

「わかりました!私の力、受け取ってください!」

 

ルミアが差し出した両手から眩い黄金色の光が溢れる。

ルミアの力―――《王者の法(アルス・マグナ)》の遠隔付与の光がグレンとウィリアム、イヴとオーヴァイに降り注ぎ、宿っていく。

 

「な―――」

 

膨れ上がったウィリアム達の存在感に、ルナ達は驚愕に震える。

 

「へ!借り物の力で粋がっている奴らが、人間舐めんじゃねーぞ!」

「現在進行形で、借り物の力で粋がっているのはどっちよ……」

 

偉そうに中指を立てるグレンに、イヴが呆れ気味にツッコミを入れる。

 

「俺達はいいの!だって、正義の陣営だから!」

「酷いダブスタだなぁ……」

「グレン先生……発言には一貫性を持ちましょうよ~……」

 

見事なダブルスタンダードなグレンの発言に、ウィリアムとオーヴァイは揃って呆れてしまう。ルミアでさえ苦笑する始末だ。

それでも、意識は彼女達から離していない。

グレンはルナ、ウィリアムはヴァン、イヴとオーヴァイは二振りの長剣を構えたチェイスへと。

 

「“汝、望まば、他者の望みを炉にくべよ”……魔術師らしく、俺達の邪魔する奴らはぶっ潰すぞ!」

「私には……負けられない理由があるのよ」

 

ルナはそう呟くと同時に背中の翼を羽ばたかせ、爆発的な推進力でグレンへと突撃する。対するグレンは拳を振りかざして迎え撃つ。

 

「ハァッ!!」

 

ヴァンは両手で握りしめた双刃槍(ダブルランサー)の片方の切っ先から漲らせた法力によって形成された光の刃―――法力剣(フォース・セイバー)をウィリアムに向かって薙ぎ払うように剛速で振り下ろす。

 

「《解の開放(オープン)》ッ!!」

 

ウィリアムは《詐欺師の楯》をすぐさま取り出して解凍、封印を解除してヴァンの法力剣(フォース・セイバー)を真正面から受け止める。

 

「ふ―――ッ!」

「し―――ッ!」

 

チェイスはまるで闇に消える影のような挙動で迫り、オーヴァイがその場から消えるような挙動で動き、互いの得物をぶつけて合う。

 

「《炎獅子よ》ッ!」

 

そのまま鍔競り合いに持っていかずにすぐにオーヴァイが退いた直後で、イヴが炎の魔術をチェイスに向かって放つ。

こうして、夜の最強決定戦と呼ぶに相応しい、激闘の火蓋が切って落とされた。

 

 

 

――――――

 

 

 

―――駆ける。

(はや)く、(はや)く、(はや)く、駆ける。

チェイスは残像を生むような速度で駆けるのに対し、オーヴァイは姿を消し去るような速度で駆けている。

 

「く―――ッ!」

 

オーヴァイの姿を全く捉えられないチェイスは、魔術師としての実力が高いイヴを先に潰そうとするが、オーヴァイが機先を制するように斬りかかってくる。

 

「し―――ッ!」

 

チェイスは右手に持つ長剣でオーヴァイの刀を受け止め、左手の長剣で斬り裂こうと振り下ろす。

しかし、そこにオーヴァイの姿は既になく、振り下ろされた長剣は虚しく宙を切る。

 

「《吠えよ炎獅子》ッ!!」

 

イヴの黒魔【ブレイズ・バースト】がチェイスを捉える。

灼熱の火柱が空を焦がさんばかりに上がるも、すぐに左右真っ二つに割れる。

 

「そこ!」

「甘い」

 

すぐさま詰めた距離で姿を現したオーヴァイが素早く刀を連続で振るい、チェイスは双剣で打ち払う。

ただ振るわれるだけならチェイスの吸血鬼としての身体能力の敵ではない。

だが、振るわれる度にオーヴァイの位置が大きく変わっているのだ。そのせいで捉えきることが出来ずにいる。

最早、瞬間移動の域である。

 

「はぁああああ―――ッ!!」

 

チェイスはならばと言わんばかりに、周囲を斬り裂くように横薙ぎに剣を振るう。当然、空振りに終わる。

 

「《真紅の炎帝よ・劫火の軍旗掲げ・朱に蹂躙せよ》―――ッ!」

 

そのタイミングでイヴが、黒魔【インフェルノ・フレア】を唱える。

B級軍用攻性魔術(アサルト・スペル)に相応しい、巨大な滝のように燃え盛る灼熱劫火が津波となってチェイスに襲いかかるも―――

 

「かぁ―――ッ!!」

 

チェイスは純粋な腕力による剣の一振りで破り、蹴散らしてしまう。

イヴの超高熱の火炎を斬ったせいで、剣は真っ赤に燃えて、どろどろに溶解しつつある。

チェイスはそれを捨て、何かを念じると、足下の影が立体的にチェイスの手元へと伸びていく。

 

「ッ!?」

 

その影が二振りの鋼の剣に変質すると同時に、チェイスの右脇腹に風穴が空く。

身体を捻っていたチェイスの後ろから少し離れた先には、刀を突き出した構えのオーヴァイが残心している。

 

「くッ!」

 

咄嗟に身体を捻って急所を避けていたチェイスは、双剣を握りしめてオーヴァイに斬りかかろうとするも、その隙を付くように三本の炎剣が背中に突き刺さる。

さすがにチェイスは堪らずにその場から飛び上がり、観客席へと降り立つ。

 

「帝国の魔術に東方剣士(サムライ)の剣技……本当に一筋縄ではいかないものだ」

 

チェイスは背中に刺さった十字架型の短剣を無造作に引き抜きながら、イヴと隣に立ったオーヴァイを見下ろしながらそう言葉を発する。

 

「お褒めに与りどうも」

 

イヴは不敵に言葉を返しながらも、内心では苦い顔をしていた。

 

(イグナイト秘伝の【十字聖火】がまるで効いていないだなんて……)

 

それもルミアの《王者の法(アルス・マグナ)》も乗せた、特別製だ。通常でも並の吸血鬼を十回滅ぼせてお釣りが来るにも関わらず、チェイスに効いている様子が感じられない。

だが、チェイスも内心で苦い顔をしていた。

 

(あの子の動きが全然捉えられないのは厄介だな。東方の【縮地】……それも二つある歩法が噛み合うとこれ程の機動力となるとは……)

 

【縮地】には魔術的な歩法と武術的な歩法の二種類が存在する。特に後者の方は難易度が高いと風の噂で聞いたことがある。

その両方の【縮地】を一寸のズレもなく使えれば―――空間跳躍と見間違う程の域に達することも。

 

(それに一瞬だけ見えた()()()……あれが見えた後の攻撃はマトモに受けるのは避けた方がいい)

 

実際、それが見えた後に受けた右脇腹の傷の治りが悪いのだ。どのような原理なのかは不明だが、万が一が起こらないとも限らない。

故にチェイスは全力で相手にすることを決め、足下から沼のような濃厚な影を広げていく。

そして、その影の沼から、あらゆる動物達を形取った影の魔獣を次々と生み出し、オーヴァイとイヴの周囲を囲っていく。

 

「……どうやら、あちらは全力でお相手するみたいですね」

「そのようね。随分と余裕がない吸血鬼様だこと」

 

オーヴァイは油断なく刀を構え、イヴも冷静に状況を見ながら次に繰り出す呪文を脳内検索していく。

 

「僭越ながら、吸血鬼の闘争というものを教授させてもらうよ」

 

チェイスはそう言って、双剣を閃かせて突撃していく。同時に影の魔獣達も二人に目掛けて、一斉に襲い掛かってくる。

 

「《真紅の炎帝よ・劫火の軍旗掲げ・朱に蹂躙せよ》ッ!」

 

イヴは魔術の爆炎を上げて、影の魔獣達を灼熱の炎へと呑み込んでいく。

その炎をチェイスは片方の長剣で斬り裂き、もう片方の長剣で神速の動きで斬り掛かるオーヴァイを迎え撃つのだった―――

 

 

 




(本当にルミア先輩の力は凄いですね。おかげで本気の【縮地】が使い放題ですよ)
(あの子、いくら何でも疾すぎるでしょ……おかげで戦闘が楽になってるけど)
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