てな訳でどうぞ
とある日の学院アリーナにて。
「今日は何の集まりなんだろうな?」
「さぁ?」
「急だから何か大変な事でも起きたのかな?」
「確かに……先生達の態度がどこかおかしいし……」
学院アリーナに集まっている全生徒の口から急に開かれた集会に対しての困惑が洩れ続いている。
「ふぁ~……何だってんだよ急に……」
壁際にいる教職員はどこか気が重い雰囲気を漂わせている中、グレンだけは欠伸をかいていつも通りである。
そうして、壇上中央に据えられた講壇の前にリックが悠然と立った。
―――巨大マリモと見間違える程のアフロヘアーで。
「「「「…………は?」」」」
「「「「…………ッ!?」」」」
明らかに普段の髪型ではないリックの姿に生徒の半数以上は目を瞬かせ、それ以外の生徒は何かに気づいたように脂汗を流し始める。
そんな一同の前で―――
「HEY!!」
リックは妙にテンションの高い声と共にポーズを決めた。
「「「「ブフッ!?」」」」
リックのその奇行に、半数以上の生徒達、ついでにグレンから笑い声が洩れる。その瞬間―――
「いんッ!?」
「あ痛ァッ!?」
「痛ぇ!?」
笑った者全員の尻に棍棒で叩かれたような衝撃が走った。
「ゴホンッ。もう気づいたと思うが今年もあれを開催する事となった」
さっきとは売って変わって真面目な声でリックは語り始める。
「魔術師は常に自身の感情を
リックが告げた瞬間、場は静寂に包まれる。そして―――
「な、何だってぇええええええええええええええ―――ッ!?」
「今年もやるのかよ!?」
「先生達の様子が変だったのはそういう事だったからか!!」
「あれが今日やるとわかっていたら、仮病を使って休んでいたのにぃいいいい―――ッ!!」
「え?え?本当に何が始まるの!?」
「す、凄く嫌な予感がひしひしと感じるんだけど!?」
多くの生徒が狂騒と困惑の渦へと一気に呑み込まれていった。
「ま、マジで何が始まるんだよ……?」
「ああ、そういえばお前は知らなかったな」
自身のお尻を擦って疑問をこぼすグレンに、隣にいるセリカがニヤニヤとした表情で答え始める。
「この行事は三年前から始められていてな。今日の放課後までは“感情が一定値に達する、もしくは笑うと尻に棍棒で叩かれたような衝撃が走る”という『特異法則結界』が働いているんだ。勿論、結界が働いている間は学院から出ていくのは不可能だ」
「なんですと!?」
「そして、一番尻を叩かせた教員には金貨五十枚の賞金が与えられ、一番叩かれなかった生徒には一ヶ月の間、学食の料金が免除されるのさ」
「ようしっ!今日は何が何でもあいつらの尻を叩かせて賞金を手に入れてやるぜッ!!ダーッハッハガァッ!?」
セリカからもたらされた賞金の金額に、グレンのテンションは上がり、興奮して高笑いし始めるがすぐに尻に衝撃が走って中断される。
「念のために言っておくが、授業をほったらかしてそればかりやったり、肉体的接触で叩かせるのは減点対象だ。一番笑わせても最下位になるくらいにな」
「それだとやらない奴がいるんじゃねぇか?例えばバールン先輩とか」
「その場合は叩かせる不幸が襲いかかるな。例を上げるなら突然転んで地面に突き刺さったり、髪型がいつの間にか愉快な形になっていたりとかな」
「強制参加かよ……マジウゼェけど……賞金が美味し過ぎるからな……」
グレンはそのままどうやって笑わせようかと考えを巡らせていく。
その間も―――
「―――では、諸君の健闘を祈る」
リックは最後にそう締めくくり、アフロヘアーを取り外した。
カツラであったアフロヘアーを外したリックの毛髪は―――頭の天辺の一本だけであった。
「「「「……ぶっ!」」」」
まさかの二重カツラに多くの生徒と教員が笑った瞬間、再び尻に衝撃が走った。
「あいつも中々やるなぁ。去年は付け髭で笑わせていたからな(ニヤニヤ)」
「そういえばセリカは何で普通に笑えてんの?」
「一応、病人とか具合が悪い人物は免除されるのさ。代わりに不参加扱いだがな」
「マジずりぃ……」
――――――――――――――――――――――――
―――そんな訳で。
集会が終わった二年二組の教室は微妙に重い空気が蔓延していた。
「今日は嫌な一日になるなぁ……」
「本当にくだらないな。こんな事に一日も使うなんて」
「学食の代金が一月タダになるのは魅力的だけど、割に合わないよなぁ……」
「女の子に笑わされるならご褒美……ハァハァ」
「はぁ……本当に嫌だなぁ……」
「全くですわ……」
「あはは……」
そんな中、ウィリアムとリィエルは―――
「zzz……」
「すぅ……」
寝ていた。ウィリアムは机に突っ伏し、リィエルはそんなウィリアムの肩を枕代わりにして。ある意味正しい対応である。
そして授業開始十分前で教室前方の扉が開き、グレンが入ってくる。
―――整髪用の香油でしっかりと髪を整え、目元に丸い銀縁眼鏡をかけ、ローブをかっちりと着こなした、授業参観の時に見せた真面目な格好で。
「「「「ブフゥッ!?」」」」
てっきりキテレツな格好で現れると思っていた一同は、まさかの不意討ちに笑ってしまう。
「先生……それ、ズル……ププッ……てぇッ!?」
「お尻だけじゃなく、お腹も……ククッ……たぁッ!」
普段のギャップの違いからどうしても笑いが込み上げており、次々と餌食となっていく。
「皆さん、授業の準備は出来てみゃすか?」
「「「「……ぷっ」」」」
グレンは丁寧な言葉遣いで噛んだ事で一同は再び笑い声が洩れる。当然、尻に再び衝撃が走る。
「本日だけ皆さんと一緒に授業を受ける子がいますので、紹介致しますね……どうぞ入ってきて下さい」
グレンの呼びかけで教室前方の扉が再び開き、入ってきたのは―――
「皆、久しぶりーッ!ロリカだよぉーッ♪」
制服を着た金髪の幼女―――に変身したセリカであった。
「「「「―――ッ!!!!!」」」」
「「「「ロリカちゃぁああああああん―――ッ!!!―――あいたぁッ!」」」」
またしてもまさかの
「そーだ!皆にこれを聞かせるよう、ママに頼まれていたんだった♪」
そう言ってセリカ―――『ロリカ』は懐から魔晶石を取り出し、教壇にいつの間にか設置されていた音声再生用の魔導器にセットする。
そして、音声再生機のホーン部分から―――
『ん……くすぐったい……』
聞き覚えのある少女の声が響いてきた。
『あっ……そんなに舐めないで……そんなに―――食べたいの?……ん。……美味しい?…―――気持ちいい……もっと―――耳―――触―――いい……とても―――』
「「「「………………」」」」
圧倒的な静寂が訪れた教室内で再生された音声が響き続ける。
そして―――
「「「「ウィリアムぅううううううううううううううう―――あだぁッ!?」」」」
男子生徒達から一斉に怒声が上がり、同時に尻に衝撃が走る。
「うぃうぃうぃうぃウィリアムぅんッ!?一体いつリィエルとそんな事をひゃうんッ!?」
「システィ、一回落ち着こう?ほら、深呼吸、深呼吸」
「ルミア!?システィーナはあちらですわよぉんッ!?」
女子生徒達もパニックとなり、同様に餌食となっていく。
「皆どうしてこんなに大騒ぎしてるのかなー?」
ロリカはわかっていながら子供っぽい仕草で惚ける。
もちろん、この音声は意図的にカットして編集されたもの。つまり、断じてそのようなものではないのだが……
『ウサギ……かわいい……』
悲しい事に、混乱真っ只中の生徒達には音声再生機から流れたオチの声が届かなかった。
その為―――
「ウィリアムぅ……今日の帰り道は背中に気をつけろよぉ……?」
「いや……今すぐ始末すべきだ……」
「……ふん」
「ケダモノ……ケダモノですわ……」
「…………」
手酷い誤解が蔓延することとなった。
そして、当の本人達は―――
「zzz……」
「すぅ……」
未だ夢の中であった。
二人が目を覚ましてすぐに例の録音が再生され、その時に誤解だと判明し、大騒ぎした一同は一気に疲労感が襲いかかることとなった。
ちなみに……
「全員揃ってるな?それでは、本日も授業を始める!」
「「「「……ぷっ!」」」」
去年は参加せず散々な目にあった為、今年はグルグル模様の丸眼鏡をかけて現れたバーテンダー(?)の姿に、一組の口から笑い声が吹き出ていた。
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