朝の一悶着も何とか収め、午前の授業も嫉妬と興奮が漂う空気の中で終わりを告げる鐘が鳴り、女子学生達は食堂や中庭に向かい、男子学生達は獣耳三人娘を記憶に焼き付けようとガン見している中―――
「ウィリアム先ぱーーいッ!!!一緒にお昼を食べましょう!!」
「え、ちょっ―――」
二組の教室に再び訪れたオーヴァイが大きめのバスケット片手にウィリアムを昼食に誘い、返事も聞かずにウィリアムの腕を引っ張って連れ出していった。
「本当に積極的ね……」
「あはは……そうだね……」
オーヴァイの行動力にシスティーナとルミアは頭の獣耳をピクピクと無意識に動かしながら若干羨ましそうに呟く。スノリアの銀竜祭の時は今とは違う理由であったにせよ、ウィリアムとリィエルに平然と混じって祭りを楽しんでいたのだ。恋する乙女になってからは、その行動力にある意味拍車がかかっている。
一例を上げると、一緒にフェジテに帰る際、リィエルより早くウィリアムの左腕に自身の腕を絡ませて列車に乗るくらい積極的になっていたのだ。席に座る際もオーヴァイはウィリアムの左側をちゃっかりと確保したのだが……
『……リィエル。何で俺の膝の上に座るんだ?』
『……ここに座りたいから』
リィエルはその上をいく、ウィリアムの膝の上に陣取るという行動に出た。そして―――
『リィエル先輩。普通にウィリアム先輩の右側に座ったらいいんじゃないですかー?』
『……大丈夫。わたしはそんなに邪魔にならないから』
オーヴァイはにこやかな顔で、リィエルはいつもの眠たげな顔で互いを見つめ合い、火花を散らすという状態へと突入していったのだ。
そんな二人の最初の修羅場を思い出しながら、システィーナとルミアはリィエルがいた場所に顔を向けると―――
「あれ?リィエル?」
「……どこにいっちゃたんだろう?」
その本人はいつの間にか姿を消していた……
―――――――――――――――――――――――――――
「おいオーヴァイ!!一緒に食べてやるからそんなに引っ張るな!!」
「えー?別にいいじゃないですかー。もうすぐ中庭につきますし」
ウィリアムの抗議をオーヴァイはさらりと受け流しながらウィリアムの左腕を引っ張って中庭へ向かって歩いていく。
「……むぅ」
そんな彼らの後ろには、少し小さめのバスケットを持ち、ほんの少し眉根を寄せたリィエルが追従していた。心無しか獣耳と尻尾の毛が若干逆立っている。
そんな彼らが皆の憩いの場である中庭へと到着し、最初に出迎えたのは―――
「「「「……チッ!!!!」」」」
モテない男子達の舌打ちであった。
そんな周りの嫉妬の空気等、オーヴァイはお構い無く突き進み、池の近くで漸く足を止めた。
「それではここで食事にしましょう。もちろん、リィエル先輩もご一緒で」
「まぁ、一緒に食べてやると言ったしな」
「ん……」
ウィリアムは仕方ないといった感じで腰を降ろし、リィエルも続いてウィリアムの左側に座ろうと―――
「……そこはわたしの位置。だから退いて」
「残念ながら早い者勝ちですよー」
「むぅ……」
オーヴァイが一足早くウィリアムの左側に座ったので、リィエルは退くように言うもオーヴァイの切り返しで若干むくれてウィリアムの右側に座り直した。
「それでは、ご開帳です!!」
オーヴァイはニコニコしながらバスケットの蓋を開ける。
バスケットの中身は滅多に出回っていない“コメ”―――東方や南原の主食を三角形の塊に形を整え、海苔と呼ばれるものを巻いたものがバスケットの約半分を埋めており、残りは薄い黄色い衣に包まれた海老や魚の切身に野菜、具が一切入っていない四角い小さなオムレツ、黄色い半月状に切り分けられた野菜が詰まっていた。
「見たことないもんばっかだな」
「ふっふーん!これらは東方の料理、おにぎり、天ぷら、卵焼に沢庵です!!(……沢庵は食べ飽きてますが……)」
最後の方だけ小声で呟いてオーヴァイはバスケットの中の料理を胸を張って説明する。
「まぁ、せっかくだしいただくか」
「……ん」
ウィリアムは苦笑しながら、リィエルはどこか機嫌が悪そうにおにぎりを手に持ち、噛みつく。
「ん?中に肉を入れているのか?」
「ハイ!おにぎりの中には具として鶏の揚げ物を入れたんです!お味はどうですか?」
「初めて食べるもんだが、美味いぞ」
「良かったです。頑張って作った甲斐がありました」
「…………」
ウィリアムの素直な感想をオーヴァイは微笑んで受け取り、リィエルは無言で黙々とおにぎりを食べている。リィエルがはむはむとおにぎりを頬張るその姿は、耳と尻尾も合わさって完全に栗鼠と化していた。
「天ぷらはレモンをかけて食べるといいですよー。本当は醤油が一番いいのですが、残念ながら調達出来ませんでしたので」
「へー、そうなのか」
「…………」
ウィリアムはオーヴァイの言葉を聞き流しながらパプリカの天ぷらを口にし、リィエルは海老の天ぷらを食べていく。
「リィエル先輩。お味はどうですか?」
「……美味しいけど、何故か悔しい」
オーヴァイの感想を求める言葉に、リィエルはその瞳を難しげに揺らしながら料理を褒めた。そんなリィエルの反応にオーヴァイは少し苦笑しながら発破をかけ始める。
「悔しいんでしたら、頑張って料理の腕前を上げればいいんじゃないですかー?」
「……ん。そうする」
オーヴァイの言葉にリィエルは素直に頷いて再びおにぎりを頬張っていく。
ちなみにシスティーナとルミアから聞いた話だが、リィエルの料理の腕前はその経験がなかったからとはいえ、最初の頃は相当酷かったようだ。
包丁ではなく大剣で食材を切ろうとしたり、調理道具を使用不可能にする程ダメにしたり、砂糖や塩等の調味料を容器や袋ごと全部投入したり、食材を全部焦がしたり、逆に火が通ってなかったりと、一人でやらせると悲惨な光景になっていたそうだ。
一番最悪だったのは、捕まえた蛙や蛇、虫を料理に使おうとしたことだったそうだ。
それも、システィーナとルミアの血の滲む努力のおかげで大分マシとなっており、まだ一人でやらせるのは不安だがそこそこはできるようになったと、二人は若干遠い目となって語り、それを聞いたウィリアムは二人に労いの言葉を送る事となった。
「そういえばリィエル。今朝はシスティーナと一緒に台所に行っていたよな?ひょっとしてそのバスケットの中身は……」
ウィリアムはそう言って、リィエルが持ってきていたバスケットに目を向ける。
「……ん。システィーナに見てもらいながら作った」
「そっか……開けていいか?」
ウィリアムの質問にリィエルはコクンッと頷いたので、ウィリアムはバスケットを開ける。
リィエルが持っていたバスケットの中には、少し不恰好なパイが入っており、そのパイをバスケットから取り出し、中に入っていたナイフで切り分けていく。
「へー、アップルパイか」
「ん……」
「美味しそうですねー。私も甘いのは大好きなのでいただいていいですか?」
「ん」
ウィリアムとオーヴァイは切り分けたアップルパイをそれぞれの手に持ち、一口かじる。
「…………」
「……うん。美味いな」
感想を待っていたリィエルに、ウィリアムは短い感想を口にする。本来ならもう少しコメントすべきなのだが、尻尾が左右にフリフリと動いているのでお気に召した事が容易に窺える。
「本当に美味しいですねー。頑張って作ったのがわかりますよ」
「ん……ありがと」
そんな二人の誉め言葉を貰ったリィエルは、いつもの表情ではあったが尻尾が左右にフリフリと動いているので相当嬉しかった事が一目でわかる。
((((……可愛い))))
そんな光景を遠目で眺めながら食事取っていた女子学生やカップル達は小動物を見つめている気分となり……
「本当に羨ましい……」
「……爆発しろ、ウィリア充」
「ここは……『
男子生徒達は呪詛の言葉を吐きながら、野獣のようにかぶりついて食事するのであった。
一方その頃……
「きゃん!ちょっとそれ以上は……!」
「ひゃん!!」
「本当に触り心地がいいですわね……」
「フサフサして凄く気持ちいいですね……」
システィーナとルミアは、我慢の限界を迎えて爆発したクラスメイトの女子達に耳と尻尾を触れており……
「うおおおおおッ!?」
「本当に敏感なんだなぁ?先生……?」
グレンは嫉妬に狂う男子生徒達に耳と尻尾を乱暴に触られており……
「……どうすれば美味しくなるのかしら?」
イヴは学院の裏手に隠れ、メシマズである自身の料理を食べていた……が。
「イヴ先せ~い!そんな所にいたんですね?一緒にご飯を食べましょうよ!」
「え、ちょ―――」
イヴを探していた生徒達に見つかってしまい、公の場で食事する羽目となった……
獣耳成分が少ない·····けど、これもありな筈!
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