やる気なしの錬金術師   作:厄介な猫さん

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初投稿です。どうぞ

*読みやすくするついでに、多少加筆修正する事にしました


第一章・やる気なしとロクでなし
一話(改)


北セルフォード大陸に存在するアルザーノ帝国。

その帝国の南部、ヨクシャー地方にはフェジテと呼ばれる、北セルフォード大陸でも有数の学究都市があり、その都市にはアルザーノ帝国魔術学院が設置されている。

常に時代の最先端の魔術を学べる最高峰の学舎として名高く、時の女王アリシア三世の提唱で設立された四百年の歴史を持つ由緒ある学院の東館校舎二階の奥、魔術学士二年次生二組の教室で―――

 

 

「zzzzz……」

 

 

制服を着崩した一人の男子学生が机に突っ伏して寝ていた。うたた寝というレベルではない、まごうことなき爆睡だ。

本来、この学院に在籍する者達の意識は高く、遅刻や居眠り、サボり等の事態等滅多に起きないのだが、この少年に関しては遅刻こそないものの、居眠りとサボりの常習犯であった。

 

 

「起きなさいウィリアム!」

 

 

そんな爆睡している紺髪の少年に、銀髪の少女が怒りを露に声を上げて起こしにかかる。その銀髪の少女の隣にいる金髪少女は、苦笑いしてその光景を見守っている。

 

 

「…………んが……システィーナか……何の用だ?」

 

 

起こされた少年―――ウィリアム=アイゼンは目の前の銀髪の少女―――システィーナ=フィーベルに問いかける。

 

 

「何の用だ?じゃない!何時まで寝ているつもりなのよ!?って言ってるそばから寝ようとするんじゃないわよ!」

 

「まだ教師が来てねえから授業は始まってないだろ?」

 

 

ウィリアムの言葉に金髪の少女―――ルミア=ティンジェルが答える。

 

 

「ウィリアム君、もう授業自体は始まってるんだよ?」

 

「ならなんで教師がいねえんだよ?」

 

「アルフォネア教授が来て、今日から非常勤の講師がくるって言っていたんだけど……」

 

「つまり初日から遅刻していると」

 

「全く!来たら絶対にガツンと言ってやるわ!」

 

 

システィーナが怒りを露にそう息巻いていると、教室の扉が開き一人の黒髪の青年男性が入って来る。

 

 

「悪ぃ悪ぃ、遅れたわー」

 

「やっと来たわね―――って、あ、あ、あ―――貴方は―――ッ!?」

 

「……違います人違いです」

 

 

システィーナとずぶ濡れで着崩れた服、擦り傷、痣、汚れだらけ黒髪の青年のコントのようなやりとりをよそに、ウィリアムは顔こそいつも通りだが内心では驚いていた。

なぜならその青年をウィリアムは知っていたからだ。

 

グレン=レーダス。

 

帝国宮廷魔導士団の一人である目の前の青年の名前であり、向こうから仕掛けてきた厄介な相手だからだ。

 

 

(何で《愚者》がここにきてんだよ!?)

 

 

顔にこそ出てはいないがウィリアムの内心は焦っていた。

まさか、()()()()()が連中にバレ、真偽を確かめる為に来たのではないかと焦燥に駆られたが、グレンの行動と態度でその焦りは一気に霧散する。

 

 

―自習―

 

 

『…………は?』

 

「眠いので本日の授業は自習にしまーす……」

 

 

黒板に大きく『自習』と書き、グレンはそう言って教壇に寝そべり寝始めた。

十秒もしない内に、グレンからいびきが響き始め……

 

 

「って、ちょおっと待てぇえええええええ―――!?」

 

 

圧倒的な沈黙から我にかえったシスティーナがグレンに向かって吠える。対してウィリアムは―――

 

 

(……焦って損した)

 

 

グレンのやる気なさと、興味無さげな死んだ魚の目のような瞳を見て、自分の考えは杞憂だったと安堵していた。

そして―――

 

 

(……寝るか)

 

 

システィーナの叫び声を子守唄に、再び寝ようと机に突っ伏した。

 

 

「って、あんたも寝ようとするなぁあああああああ―――ッ!!!!!」

 

 

それを見たシスティーナは、そうは問屋が下ろさないとばかりに分厚い教科書を両手に持って立ち上がり、大声で吠える。

 

 

「うるせぇなぁ……静かにしろよな」

 

 

システィーナの大声で睡眠を邪魔され、目を覚ましたグレンは気だるげなまま、システィーナに一見マトモな注意をするも―――

 

 

「貴方がそれをいいますか!?」

 

「アハハ……」

 

 

当然、自身を棚に上げた注意にシスティーナはツッコミを入れ、彼女の隣に座っているルミアは曖昧に笑うのであった。

その後、分厚い教科書が寝ようとした二人の脳天に直撃し、結局、脳天に巨大なタンコブを乗せたグレンは渋々と授業自体はすることになった。

が、その授業内容は間延びした声で要領を得ない魔術理論の講釈を読み上げ、黒板には判読不能な汚い文字を書くという、やる気が一切ないグダグダとしたもので、最低最悪な授業であった。

ちなみにグレン同様、システィーナから一撃を喰らったウィリアムは―――

 

 

「zzzzz……」

 

 

巨大なタンコブを脳天に乗せながらも、年季の違いから物ともせずに普通に寝ていた。

 

 

 

これがロクでなしとやる気なしの一方的な再会である。

 

 

 




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