やる気なしの錬金術師   作:厄介な猫さん

6 / 215
出来上がったので投稿じゃい!
てな訳でどうぞ


番外編
リィエルのバイト


とある日の、学院の教職員室にて。

鬼のような形相をしたグレンが、眼前で突っ立ているリィエルを睨み付けていた。

 

 

「どうしたの?グレン。変な顔して」

 

「……リィエル?」

 

 

ぼそりと興味なさそうに応じたリィエルに、ウィリアムはこめかみに青筋を浮かべてその頭に右手を置く。

 

 

「ウィル?」

 

「お前は自分が問題を起こした事をちゃんと分かっているのかな?」

 

「それはウィルの勘違い。わたしは問題なんて起こしていない」

 

「……俺は何時も言っているよな?物は壊すなって」

 

「……そうだっけ?」

 

「それさえ忘れてんのかお前はぁあああああああああああああああ―――ッ!?」

 

 

その瞬間、ウィリアムは右手に力を入れ、万力のようにギリギリとリィエルの頭を締め上げていく。

 

 

「ウィル。痛い」

 

「今週で三度目の器物破損だぞ!?未然に防いだのと合わせれば、十回は余裕で越えてんぞ!?」

 

「そのせいで俺の給料は、監督不行き届きとしてカットされまくりじゃあああああああああああああ―――ッ!!」

 

「あう。痛い痛い」

 

 

グレンも書きかけの始末書を放り投げて参戦し、リィエルの頭を両手の拳で挟み、こめかみをグリグリと抉り始める。

リィエルが教職員室に呼び出されたのは、何時もの一般常識なさからの暴走である。

今回は男子生徒がルミアに付き合ってほしいという告白を、『突き合って』と剣で刺し合うと勘違いを起こしたそうで、その男子生徒に斬りかかり、学院校舎の壁を破壊したのだ。

リィエルの生い立ちから発生する問題行動はグレンとウィリアムの悩みの種となっている。

ウィリアムがリィエルの近くにいる時は物理的に暴走を未然、もしくは最小限の被害で阻止しているが、今回のように近くにいない時は止められる人物がいない為、容赦なく破壊を振り撒いていくのだ。

 

 

「マジでなんとかしないと……このままじゃ精神的疲労で倒れこんじまう」

 

 

どうやってこのバカに一般常識を学ばせるかと頭を悩ませていると。

 

 

「よし、リィエル!アルバイトしろ!」

 

 

突如グレンが閃いたように、リィエルに提案してくる。

リィエルがアルバイトする事自体は決して悪くない提案なのだが、提案した本人はいかにも悪そうな顔で薄笑いしているのだ。

 

 

「……絶対、ロクでもないことを考えてるわね……」

 

「……大方、リィエルのバイト代をピンハネする気だろうよ……」

 

「……十分にありえるわね……」

 

「だけど他に案もねぇし、一番重要なのはリィエルに常識を学ばせる事だ。お金に関しては今回は目を瞑っとこうぜ?」

 

「……そうね。正直、文句を言いたい所だけど……」

 

「あはは……」

 

 

小声でそんな会話をする。

 

 

「よくわからないけど……グレンのいう通り、働く」

 

「やってくれるのか!期待してるぜ!頑張って稼―――勉強してこい!」

 

「ん。頑張る」

 

 

こうして、リィエルに一般常識を身に付けさせる為のアルバイトが決定した。

 

 

「本当にリィエルは素直ね……ウィリアム、しっかり見てあげなさいよ?」

 

「何故そこで俺にふる?」

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

現在、ウィリアム達は学院の薬草園にいる。

いきなり学院の外でアルバイトは無理すぎるということで、最初は学院内の学生向けのアルバイトをやらせる事にした。

それでちょうど学院の法医師、セシリア=ヘスティアが畑仕事のアルバイトを募集していたため、参加したのだが……

 

 

「うっ、げほっ、ごほっ!今年の風邪は厄介ですね……」

 

 

この人は極度の病弱体質であり、ほぼ毎日血を吐いているのだ。

 

 

「この人、死にそう」

 

「言うな」

 

 

そんな先行き不安な状況で、他の生徒達と一緒に畑仕事のアルバイトを始める。

 

 

「ぉおおお……」

 

 

リィエルは鍬二刀流でどんどん畑を耕していく光景に、男子生徒達から驚愕の視線が集まっていく。

リィエルの飛び抜けた身体能力で作業がどんどん進んでいき······

 

 

「み、皆さぁん……そろそろ休憩にしましょう?ごほッごほッ!」

 

 

セシリアが血を吐きながらそう宣言し、終始寝そべっているグレンと頑張って畑を耕すと言ったリィエルをその場に残し、一同は学院のカフェテラスで休憩を取りに行ったのだが·····

 

 

「平和だなぁ……ッ!?」

 

 

カフェテラスでぼんやりとお茶を飲んでいたウィリアムは突如、目を見開いて脂汗を流し始める。

 

 

「ウィリアム?一体どうし―――」

 

 

システィーナの問いかけを無視し、ウィリアムは大急ぎで薬草園へと戻って行く。

実は、念のために正規手順の人工精霊(タルパ)をこっそり具現召喚し、リィエルを監視していたのだが、その人工精霊(タルパ)から見た光景―――リィエルが身体能力強化の魔術を全開にして畑を耕し始めたのだ。……耕してはいけない場所まで。

ウィリアムが向かっている間も、畑は容赦なくリィエルによって耕されており·······

 

 

「リィエルぅううううううううううううう―――ッ!?」

 

「あ、ウィル」

 

 

大急ぎで薬草園に到着した頃には薬草園の全体の半分程が耕されていた。

ウィリアムの叫びにリィエルも鍬を持つ両の手を止め、ウィリアムにへと近づいていく。

 

 

「わたし、皆の為に凄く頑張った。褒めて」

 

「……やり過ぎだど阿呆ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお―――ッ!!!!!!!!!!」

 

 

ギリギリギリギリギリギリギリギリッ!

 

ウィリアムは右手でリィエルにアイアンクローをかまし、容赦なく締め上げていく。

 

 

「すごく痛い」

 

「お前ちゃんと説明聞いてなかったのか!?耕していいのはあの区画だけ!新しく植えた場所やそれ以外は耕したらいけないんだよ!!」

 

「……そうだったの?」

 

「こんのど阿呆がぁああああああああああああああああああああ―――ッ!!!!」

 

「……うるせぇなぁ……静か、に……」

 

 

ウィリアムの叫び声で、畑の畦の上で寝ていたグレンは目を覚まし文句を言おうとするも、畑の光景に言葉を失う。

そんなグレンにウィリアムは、リィエルの顔を掴んだままグレンの方へと近寄り······

 

 

「……」

 

「……言い分は?」

 

「え~と、その……単純な力仕事しか残ってなかったし……おまけに誰もいないから、もうトラブルは起こしようがないと思いまして……」

 

「だから寝ていたと?」

 

「……申し訳ありませんでした!!!!!!」

 

 

ウィリアムから発せられる威圧感を前に、グレンは固有魔術(オリジナル)(笑)【ムーンサルト・ジャンピング土下座】をかます結果となった。

この後も、生徒達に連れられて戻って来たセシリアがショック症状を起こし大騒ぎとなった。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

倒れたセシリアの治療費、薬草園の被害額、支払う賃金の立て替えで、グレンの給料がさらに減給される結果となったリィエルの社会勉強第一弾。

第二弾は………

 

 

「……これでいいの?」

 

 

シックで雰囲気の良い内装の店内で、ウェイトレスの制服を身につけたリィエルがグレンにそう聞く。

ここは魔術学院の外。街で大人気のカフェレストラン『アバンチュール』だ。

第二弾はここでウェイトレスのバイトである。

 

 

「……なんで、私達も働く事になったんですか………ッ!?」

 

 

こめかみに青筋を立てて、リィエルと全く同じ制服を着たシスティーナが問い質す。隣にいるルミアも同様に彼女らと同じ制服に着替えている。

 

 

「リィエルに単独でやらせるとか無理じゃん?俺のお金の為に、お前らがついてフォローしてくれないと……」

 

「本当に最低ですね!?ウィリアムも何で止めなかったの!?」

 

「もう荒療治でやっちまえという投げやり思考と、面倒だったので止めませんでした。後悔は………………ない」

 

「ちょっと。今の長い間は何!?絶対後悔してるでしょ!?」

 

 

そんな訳でウェイトレスのバイトが決行されたのだが。

 

 

「いつからそこにいたの!?」

 

「なんで店員の君が客である僕に注文するの!?」

 

「なんで全部苺タルト!?しかも一つかじられているし!?」

 

「またお皿を割っちゃったの!?」

 

「だからそれ、食べちゃ駄目だってばッ!!」

 

 

……たった一時間の間でトラブル続出であった。

 

 

「やっぱり止めるべきだったか……?」

 

 

グレンとは別の席でジャガイモのミートパイを食べながら戦々恐々として様子を見るウィリアム。コーヒー一杯だけしか注文していないグレンとは違い、ウィリアムは幾つか注文して居座っている。

お金がある者とない者との差が如実に現れており、グレンの方は傍迷惑な客であった。

その後もリィエル関連でトラブルが続出するが、システィーナとルミアのフォローにより何とか致命的なミスは未然に防げている。

次第にリィエルもそれなりに仕事を覚えていき、ミスが控えめになっていき……

 

 

「ん。注文の紅茶持ってきた」

 

 

リィエルが、ウィリアムのラストオーダーである紅茶をテーブルの上に置く。

ウィリアムはあの後も、ジュース、パスタ、チップス等を散発的に注文してずっと居座っており、今日の手持ちの懐はかなり軽くなっていた。

対するグレンは最初のコーヒー一杯だけと、最低最悪なお客様の典型図を完成させていた。

 

 

「ありがとさん」

 

「ん。食べ終わったお皿、片付ける」

 

 

リィエルがウィリアムの食べ終わったお皿を片付けようとした時、それは起こった。

 

 

「―――きゃあっ!?」

 

「大げさじゃのう、お嬢ちゃん、ちょっと手がお尻に触れただけで……ぐふふふ……」

 

 

ルミアがガラの悪いチンピラ数人に絡まれており、ルミアを無理矢理自分達の席へと座らせようとしている。

システィーナが猛然と向かって行くが、三人の大男に囲まれてしまう。

 

 

「……リィエル」

 

「……何?」

 

 

その光景を前にウィリアムはウーツ鋼製のフライパンを二つ錬成し、表情が僅かに強張っているリィエルにへと渡す。

フライパンを受け取ったリィエルはウィリアムを見て頷いて、チンピラ達へと向かっていき―――チンピラの一人の脳天を右手のフライパンで叩き落とし、地面にへと沈めた。

 

 

「ルミアとシスティーナをいじめるやつは、許さない」

 

 

フライパンを両手にその場に佇むリィエルに、チンピラ達はなけなしのプライドでリィエルにへと仕掛けていった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

あの大乱闘から数日後。

件のカフェレストランにて、例のウェイトレスの制服を着たグレンが働いていた。

グレンは乱闘を穏便に収めようと介入しようとしたが、チンピラ達に何度も殴り飛ばされた為、堪忍袋の緒が切れ、乱闘に乱入し、店に被害を出したのだ。

その被害金額分を返済するために、グレンは恥ずかしい格好でバイトする事となったのだ。

リィエルの方はバイト代から天引きされた事で無罪放免に落ち着いており、現在店内で苺タルトを満足そうに頬張っている。

 

 

「社会常識をアルバイトで身につけさせる作戦は失敗だな……」

 

「乱闘を手助けしたあんたが言うんじゃないわよ」

 

「まぁまぁ、時間はたくさんあるから、焦らずゆっくりやっていけばいいよ」

 

 

こうしてアルバイト作戦は失敗に終わった。

 

ちなみに、『アバンチュール』には「フライパンを手に持って戦うウェイトレスがいるらしい」という噂が流れ、『アバンチュール』には迷惑な客は来なくなり、来ても店員に絡む事は無いというプラス効果がもたらされる結果となった。

 

 

 




ウェイトレス姿のリィエル可愛い·······
感想お待ちしてます
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。