ソードアート俺ライン   作:きのみ

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05.最後の晩餐

 第七十五層コリニア主街区にて、迷宮区の作戦会議が行われていた。前の層から俺はジーノを迷宮区のボス戦に出すようになった。ジーノが空を飛び、敵に攻撃できることは攻略組にとって大きな戦力となった。

 俺はこの層で一人も犠牲者を出さないと決めていた。その為に死ぬほどレベリングをして、キリトと同等かそれ以上に仕上げた。ジーノのレベルも俺と同じなので、何とか乗り切れることを祈るばかりだった。

「では、明日の午前十時に迷宮区前に集合だ。皆、頼んだぞ」

 血盟騎士団の団長ヒースクリフがそう言って纏めた。

 攻略組のメンバーは明日に備えて各々、準備に向かった。俺はヒースクリフの元に向かう。

「なあ、ヒースクリフ」

「ん? 君は風林火山のテイル君だね。何か用かい?」

 ヒースクリフは意外そうな表情で俺を見る。俺はにやりと不敵な笑みを浮かべた。

「なあ、あんたの準備が終わったら、ちょっと付き合ってくれないか?」

「ああ、構わないよ」

 俺たちはフレンド登録をして、別れた。俺は最後にヒースクリフ……茅場晶彦と話をしてみたかったのだ。

 俺は明日の為に準備をし、軽くレベリングしてからヒースクリフとの約束の時間を待った。

 六時、主街区の待ち合わせ場所の時計台に俺はいた。五分早く着いた為、まだヒースクリフの姿はない。

 空が赤みがかった紫から濃い青へとその色を変えていく様を眺めていると、ヒースクリフがやってきた。

「待たせたみたいだね、テイル君。いつも一緒にいるドラゴンはいないのかな?」

「ホームに置いてきたんだ。じゃあ、行こうか」

 俺はヒースクリフを連れて第二十四層オーケストにやってきた。裏路地にあるバー【メロチカル】に入り、一角に座った。

「いらっしゃいませ、ご注文をどうぞ」

 黒いベストを纏ったスタッフの女性……ミラが声を掛けてきた。俺はいつもこのバーにいるので、店の店員や店長の名前を把握している。

「俺はシルバー・ブレットを」

「では、私は……スティンガーで」

「畏まりました。テイル様、今日もピアノはご利用になられますか?」

「ああ、頼む」

 ミラは頷くとバーカウンターへと向かった。

「君はピアノを弾くのかね?」

「ええ、現実ではピアニストとして世界で活動してましたから。これでも有名なんですよ?」

「名前を聞いても?」

 俺は口元に笑みを浮かべ、人差し指を当てた。

「秘密です」

 そんな話をしていたら、注文したカクテルが運ばれてきた。シルバー・バレットは魔除けや厄払いの酒として有名だ。スティンガーは針や毒牙、あるいは毒舌家を意味する。何故、これを選んだのだろうか、ヒースクリフは。

「では、明日の攻略組勝利を願って、乾杯」

「乾杯」

 俺たちはカクテルのグラスを合わせた。

 そこにミラがやってきた。

「テイル様、ピアノの準備が完了しましたので、お好きな時にどうぞ」

「ありがとう。今から弾くよ」

 俺はそう言うと、ヒースクリフに断りを入れて、ピアノの元へ向かった。今晩はこの曲だと思って決めていた一曲がある。

 深呼吸をして、精神統一をすると、俺は鍵盤に手を乗せた。

 俺が弾くのはショパンのノクターン第二番変ホ長調op.9-2。ショパンのノクターンと言えば真っ先にこの曲が思い浮かぶ筈だ。それくらい有名な曲だ。難易度は高くないが、俺はこの曲が気に入っていた。

 優美な旋律が夜の空気にとてもよく似合っていて、聞く人の心に沁みる。そんな印象を俺はこの曲に持っている。願わくば、ヒースクリフの心に届くといい、と俺は思っていた。

 俺は弾きながら、この曲の旋律の優しさに聞き惚れていた。やっぱり、ショパンのノクターンはこうでなければと思う。

 あっという間に演奏は終わり、俺は元いたヒースクリフの横に座った。

「ショパンのノクターン、とても良かったよ」

「ありがとう」

 俺はシルバー・ブレットを一口飲んだ。一口で香りが広がった。ドライな口当たりなので何杯でも飲めそうだが、アルコール度数が高いので、一杯だけにしておこうと俺は自重する。

「……七十五層迷宮区のボスは今までと同様であれば相当強いだろうな」

 ヒースクリフとの共通の話題はSAOのことしか無い。なので、必然的に攻略の話になってくる。

「ああ、だろうね……でも、倒さなければならない」

「このゲームから出る為にはな」

 俺はピアノを眺めながら、そう言った。現実でのピアノの旋律とゲームはやはり少し違う。だから、早く現実に戻ってピアノを弾きたいと俺は思うのだ。

「もし、現実に戻ったら、俺のピアノを聴かせてやるよ」

「……機会があれば、聴きに行くよ」

 ヒースクリフは苦笑を浮かべた。

「あ、そうだ、腹減ってないか?」

「ああ、少しは空いているが……」

「じゃあ、注文しようぜ、おーい、ミラちゃーん! 注文お願い」

 ミラからメニューを貰い、各々、美味しそうなステーキや魚のソテーを注文した。

 ここの料理はどの層の店の料理より美味しい。

 ヒースクリフはこれが最後の晩餐になることを知らないだろう。そんなことを思いながら、会話に花を咲かせた俺は笑顔を浮かべるのだった。

 

 翌日、俺とジーノの活躍により、原作では十四人の犠牲者が出たが、犠牲者を出さずに七十五層の迷宮区を攻略した。

 原作と同様、キリトによってヒースクリフの正体が暴露され、キリトの英雄的行動により、このゲームはクリアされた。

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