束さんとスピード・スター。   作:すすす

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残念ながらここにスピード・スター要素はないです。
当分続く間にもしスピード・スター的描写があるかどうかも不明。


プロローグ:1

 篠ノ之束は、退屈していた。

 この世に生を受けてから、13年と6ヶ月。楽しいことは少なかった。

 確かに。織斑千冬や可愛い弟妹達と戯れることは、楽しいことに含まれるように思える。でも、それは戯れるという範疇で、特段面白いわけでもなかった。

 自身と同じように頭脳が飛び抜けた人間が居ないか、自身と対等に対話出来る科学者が居ないか。彼女は12歳を超えた辺りから探し始めていた。

 そして、絶望し始めていた。

 

 身体能力では、織斑千冬は私<篠ノ之束>へと匹敵するだろう。でも、その頭脳は一般のそれと変わらなかった。弟妹達は、周りの普通の人達と幾分も違わないように感じる。

 他の研究者へ問題を送ってみたりもした。これに返信できれば、もし、もし、正しい答えを返信してくるようなら、それは私に匹敵する、とまで言えるかは分からないが、その頭脳は一般のそれを遥かに超えていることを裏付けてくれる。

 そして、それだけの頭脳があるのならば、私の退屈と孤独を埋めてくれるだろうと。

 

 だが、結果として正しい答えを送ってくるような研究者は居なかった。様々な人間へ大量に発信したそれは、回答不可能な設問と解釈され、罵詈雑言やこちらが理解不能な回答が面白半分に送られてくる始末。

 

 上記すべてのことが、彼女の絶望を加速させていた。

 

 *

 

 ある日、私はいつも通り、自身のラップトップを開き、自身が出した設問用のメールボックスをチェックする。

 そこには、毎日毎日飽きもせずに送ってくる暴言だらけのメールや自信に満ち溢れたであろう理解不能な回答の数々。

 

 「……あー。こんなのばっかりじゃ。空<宇宙>へ行く人間が減るわけだよ」

 こんな普通の人間ばかりが集まっても、未知が溢れた宇宙へ行って、調査や開拓なんて難しいに決まってる。いつも通りの失望。

 

 でも、その日は少し違っていた。

 

 メールボックスの新着欄。最も新しく送られてきたメッセージには、設問の回答が私が考えたときよりも簡潔に述べられており、そして<一般的な>現在の技術では解凍不可能であろうファイルが添付されていた。

 

 「!????????????????」

 これを見たときの私の驚きようったらなかった。もう私以外に誰も本当の知性を持った霊長なんて居ないんじゃないか、と絶望していたときに送られてきたこのメール。

 

 正しい回答に私ですら理解できない圧縮形式、暗号化形式で添付されたファイル。

 

 こんなの心が踊らないはずがない。

 

 世界はまだ広くて、私はまだ絶望するには早かったみたい。

 

 ……でも、これって解読するだけでも、私の部屋にある計算能力じゃ足りなくないかな?

 

 *

 

 

 「……全部運び終わったぞ。束」

 ちーちゃんが私の研究室から出てくる。解析用のチップを作ったまでは良かったんだけど、冷却装置を含めると、私じゃ運べなかったんだよね。

 私は、最近で、いやこれまでの人生でちーちゃんに出会ったときと同じぐらいに興奮していた。

 

 「ありがとっ!ちーちゃん!これであの相手に連絡が取れそうだよ!」

 私がちーちゃんへと抱きつこうと飛びかかると、彼女は邪魔そうに避ける。

 地面に激突する私。それでも私の機嫌は一切変わらない。まだまだ私は上機嫌!

 

 「もー!何で避けるのさ!」

 「妙に束が元気で怖いんだ。これまでずっと無気力だったかと思えば、お前の出した問題を解いたとかいう相手を見つけた瞬間にやる気満々。世界大戦でも起こさないか心配しているところだ」

 「大丈夫だよ、ちーちゃん。私は、ただ空<宇宙>に行きたいだけなんだもん。そのために同じことが語れる友人が欲しいんだ……。ちーちゃんは友達だけど、私とは、天才のベクトルが違うでしょ?」

 織斑千冬は、静かに束の独白を聞いていた。彼女の孤独を千冬は知っていたから。いつも学校でも、家でも、自身の考えは進みすぎていて誰も理解してくれない、そういった苦しみを抱えて、世界で一人のような孤独感をいつも抱えていることを知っていたから。

 もし、その相手が本当に彼女と対等に話ができるような天才であることを、千冬は願ってやまなかった。

 

 「……私も願ってるよ、束。良い友人が出来るといいな」

 千冬は、束に聞こえないよう、小さな声でそう呟いた。

 

 

 *

 

 

 『ヘロー、ハロー、ハロー?』

 解読したファイルは、プロジェクションで投影される映像だったらしく、束は即席のプロジェクタを通して、その映像を見ることとした。

 束は、投影されたプロジェクションを無言で見つめた。メガネを掛け、洒落たハットを被った男が眼の前に立っているように見える。

 データの厚さと即席とはいえ、束製のプロジェクターだ。そこに居るように錯覚してしまうレベルの投影だ。

 

 『こんにちは。問題の出題者さん。この問題を出し、解くことが出来るものであれば、おそらく私がメールを送ってから、半年も掛からずにこのファイルを開けていることだろう』

 驚愕とまではいかなかったが、この男の予想通り5ヶ月程かかってしまっていた。

 『一応メールアドレスからの推測で日本語を使い、話しているが、もし英語や他の言語が良ければ、同梱されている他のファイルを開いてみてくれ。主要な言語分は入っているはずだ』

 

 『……うむ、本当にあの問題を解くのは楽しかったよ。わざと君は二段目の主要データに不要なものを混ぜておいたね。あれは良かったと思う』

 自身の問題を褒められて嬉しくなった。こんな気持ちになったのなんて、何年ぶりだろうか。

 『多くの人々が、この問題を解けないか、間違った解答へと辿り着いていると思う。私は解けた。そう、そこがポイントだ』

 そう、その通り。相手に見えていないにも関わらず、束は首をガクガクと高速で縦に振っていた。この人は、この男は、こいつは、解けたのだ。私の出した意地の悪い問題を。

 

 彼の言った通り、それが大事なポイントだ。

 

 『私が推測するに、君は本物の天才を探している、ということだろう』

 そう!そうなんだよ!束は、自身以外誰も居ない研究室とも呼べない自室で大きな声を上げた。

 

 『それならば、私が最適だ。自分でいうのもなんだが、普通の人達よりも頭脳に関しては、優れていると断言できるだろう。私に話したいこと、相談したいこと、研究したいこと、なんでも話すといい』

 彼の会話はもう終盤に差し掛かろうとしていた。まだ私は彼の名前も、場所も聞いていない。折角見つけた同じ”人間”なのに!そう思ったのも、杞憂だったようで。

 

 『それでは……おっと、私の名前と場所を伝え忘れていた。私の名前は、ハリソン・ウェルズ。セントラル・シティーのスターラボで所長をしている。いつでも連絡してくれ』

 彼は自身の帽子を少し上下させて挨拶すると、プロジェクションの撮影を終えたようで、動かなくなった。

 その瞬間から、横にあるメインのワークステーションでは、ハリソン・ウェルズと検索して出てくる内容が大量のマルチモニタ――12枚程――に映し出されている。

 

 「絶対に逃さないよ!ハリー!」

 束さんは今日も絶好調。同類を見つけた私に不可能はない、彼女はそう想い、願った。

 

 

 *

 

 

 篠ノ之束がプロジェクションを見て、ハリソン・ウェルズについて調べている頃、その彼は、スター・ラボ内に存在する<マップ上は存在しない>隠し部屋でAIと会話していた。

 小部屋にある台座に彼が片手を置くと、目の前に半透明の顔が浮かび上がる。

 

 『ハロー。Dr.ウェルズ』

 無機質な女性系の声はAIであることを物語っていた。21世紀に完成できるものとは到底思えないレベルの完成度だが。

 

 「GIDEON、タイムラインに変化は?」

 彼が”GIDEON”と呼んだAIに聞いた。聞かれたAIは自身のプロジェクションで投影している半透明の顔を消し、一枚の電子版新聞の画像を大きく表示する。

 

 そこには一面に大きく【篠ノ之束博士、自殺。白騎士コアを自壊させる 11-24-2024】と書かれており。

 続く文には、束の遺書が半分程載せられている。世界に対する恨みつらみ。インフィニット・ストラトスを何故平和的に使えないのかについての考察。こんな野蛮な猿達に強大な兵器を与えてしまって申し訳ないという、謝罪文が最後まで大量に書かれていた。

 

 それを見て、ウェルズは少し顔をしかめるが、すぐに平静へと戻り、AIへと話しかけた。

 「……この程度では、タイムラインに変化は起きないか。ありがとう、GIDEON」

 いえ、Dr.ウェルズ。といい、AIは消えた。

 

 そして、ウェルズも部屋から立ち去った。足並みに少しの苛立ちを感じさせながら。

 

 




ありがとうございました。
続きは生活が落ち着いたら、少しづつ更新していきます。
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