インフィニット・ストラトス~終焉の銀河の果てに~ 作:とっぷパン
IS学園・三日目 食堂・朝食
「大丈夫か、一夏。昨日の特訓で大分体にきているみたいだが……」
「痛みが結構酷いけど、何とか飯は食べれるよ」
晴れ晴れとした朝日が差し込む食堂で、日替わりの和風定食を食べる一夏と箒。一夏は周りの生徒達よりも、遥かに食べる速度が遅かった。そして、その訳は今朝の目覚めの時間に遡る。
昨日の特訓が一夏の体に筋肉痛をもたらし、今朝はベッドから起きる時に軽く悲鳴を上げた。その悲鳴で目を覚ました箒はあわててベッドからはね起き隣のベッドを見てみれば、同居人である一夏が泣き笑いをしながら痙攣していた。
パニックになった箒は、急いで寮長である千冬に連絡を入れて助けを求めたのだった。
そして、千冬に連絡を入れてからわずか数分。一夏と箒の寮部屋に、学園の保険医である「ナディア・チェルノフ」先生と千冬が走りこんできた。
ナディアはどうやら寝ていたらしく、服が所々乱れて普段ならばきれいな金髪もボサボサの状態でブルーの瞳も半開きで非常に眠そうだ。
「……患者は誰なの?」
「チェルノフ先生、こちらの男子生徒が患者です。……篠ノ之、織斑はどの様な症状だったんだ?」
「は、はい、私が一夏の悲鳴で目を覚ました時は、もうこの様な状態でした。手を上に突き出して、腰を跳ね上げて痙攣していました」
箒が必死になって状況を説明する中、ナディアは眠そうにしながら一夏を診察している。ある程度診察が終わると、ナディアは千冬の方を見て、
「診察が終わりました……診断結果は、全身筋肉痛です。……もう帰っていい?」
と、診断の結果を伝えたのだった。
「筋肉痛、ですか……良かった」
「……まったく心配させおって、この馬鹿者が。チェルノフ先生、朝早くにありがとうございました」
「ふぁ……お大事に。あとで、湿布薬を出しておきますので取りに来てくださいね……お休み」
あくびをかみ殺しながら部屋を出て行くナディアを見送った千冬と箒は、いまだベッドの上で痙攣している一夏に視線を移しため息を零した。
「……まぁ、何事も無くてよかったな。篠ノ之、後は頼んだぞ。私はカノウ君の所に行って、相談をしてくる。これからの特訓の内容も、大幅に変更しなくてはならなくなりそうだからな」
「分かりました、織斑先生。一夏の方は私が見ておきますので、カノウさんによろしくお伝えください」
箒にそう言い残し、気だるそうに部屋を出て行く千冬。朝早くから電話でたたき起こされて、挙句に筋肉痛との診断結果で一気に疲れてしまった様子だった。
「とりあえず着替えて、朝御飯の準備でもするか。…………ところで一夏、わ、私が着替えさせてやろうか?」
「お、お願いします~」
若干顔を赤らめて質問をする箒に、情けない格好のままお願いをする一夏だった。
という騒動が早朝にあり、今の朝食での現状に繋がるのであった。
一年一組・基礎授業 担当教師・ミナキ・トオミネ
「――――であるからして、ISは宇宙空間での活動を前提に作られていますので、操縦者の皆さんは全身を特殊なバリヤーで包まれて保護されています。また、生体機能も補助する役割があり、ISは常に操縦者の肉体を安定した状況へと保っているのです。これには、心拍数、脈拍、呼吸量や発汗量、脳内エンドルフィンなどの管理が挙げられ――――」
「はい、トオミネ先生。それって大丈夫なんですか?なんか、体の中をいじられているようで怖いんですけど……後遺症の心配とかは無いんでしょうか?」
クラスの女子生徒が不安げな面持ちで尋ねる。その質問に、ミナキは優しげな笑顔で返答した。
「そうですね、ちょっと怖いですけども難しく考える必要はありません。これは、宇宙空間では大変重要な機能なんですよ」
一度言葉を切り、クラスの皆を見渡すミナキ。宇宙空間での活動がどれだけ大変かを説明するために、若干怖い顔をしながら話し始めた。
「皆さん、宇宙と言う所は本当に過酷な空間です。もし、宇宙空間でISの解除、または宇宙服を脱いだら、皆さんの身体は一瞬のうちにミイラになってしまいます。空気が無いために血液が常温で沸騰し、さらには蒸発して無くなってしまうからです。この現象を回避するために、皆さんはISを纏っているのです」
予想以上に怖い話に、生徒達の顔は引きつっていた。トウマや千冬、真耶などはミナキの話に頷いてる。
「今は、競技用、戦略的価値の強いISですが、いずれは宇宙開発用としての本来の目的に価値がシフトしていくでしょう。ですから皆さん、絶対に今の話を覚えていてくださいね」
最後は笑顔で締めくくり、クラス皆の表情が柔らかな物に変わる。質問をした生徒はあからさまにホッとしていた。
「では、授業を続けますね。ISを扱う上で、もう一つ覚えてほしいことがあります。ISには意識が存在している様で、操縦者との関わりを長く持つほど成長していきます。つまり、操縦者の特性を理解して、機体を合わせてくれるんですね」
ミナキの説明に生徒達から関心の声が上がる。
「そして、この手順を踏むことによってよりISの性能を引き出せる様になるのです。ですから、ISはただのTool《道具》と言うよりは、自分と一緒に成長するパートナーと思ってください」
すると、また一人女子生徒の手が上がり、こんな質問をするのだった。
「はい、先生ー。それって、彼氏彼女の様な関係ですかー?」
「…………貴女がどういう風に男女の付き合いを理解しているかは知りませんが、今は大事なお話をしているんですよ。それを分かった上での質問ですか?」
と笑顔で答えるミナキ。口調こそ優しいものの、目は完全に怒っていた。
「す、すみません……」
ミナキに対する印象が笑顔の素敵な女性教師だった女の子は、意外な反撃を喰らい一気にテンションが下がり萎縮してしまう。
その姿を見たミナキは、ため息を一つ吐き生徒達を見回してISについて話し始めた。
「……皆さん。ISは、玩具やファッションなどのアクセサリーではありません。ISの本来の姿は、人類を宇宙と言う何が起きても不思議ではない空間で活動するために、篠ノ之博士が作られたパワードスーツです。宇宙と言う過酷な場所で活動するには、必然と兵器と呼ばれる強力な物を使わなければなりません。兵器と言う物は、皆さんが考えているものよりずっと恐ろしく危険で強力な物です。核兵器などがいい例ですが、一発の核爆弾で大勢の人を死に至らしめることが出来る物なのです」
「「「「…………」」」」
ミナキの真剣な表情と現実的な話に、自分達が扱うIS及び武装の危険性をやっと認識した生徒達は静かに話を聞いている。トウマは、若干浮ついた雰囲気であった生徒達が一気に真剣な顔つきになったことを、ミナキの話を聞きながら内心喜んでいた。
「そんな強力な兵器から身を守ってくれる役割があるISを学ぶ場所が、皆さんが入学したここIS学園なのです。……いいですか、真面目に授業を受けてください。ここで学んだことは必然的に皆さんの将来に関わることです。整備員志望の方も、決して人事ではありません。パイロットが操縦する物が、どんな危険が付きまとう物かを知らなければ必ず後悔をします」
後ろで授業を聞いていた千冬や真耶も自身が扱ってきた物の危険性に改めて気づき、千冬は目を瞑りながら深く頷き、真耶は生徒達と同じように真剣な眼差しで聞いている。
「ですから、ISの授業では皆さんの命を守るために必要なことを私達教師が教えているのです。変なちゃちゃを入れたりしないで、皆さん真剣に聞いてくださいね。分かりましたか?」
「「「「「はい!すみませんでした、トオミネ先生!!」」」」」
代表候補生であるセシリアや教師である真耶までもが、クラスの生徒達と一緒に元気よく返事をしていた。千冬はかろうじて堪えていた様だが、口が開きかけて手も挙げかけていたことに気づき顔を赤らめていた。
「はい、皆さんいい返事ですね、先生は嬉しいですよ~。……では、授業を続けます」
こうして、一旦は止まりかけた授業は、ミナキの笑顔と共に再開されたのだった。
IS学園・一年一組 休み時間
「ねぇねぇ、トオミネ先生かっこよかったね~」
「ほんとよね。私達生徒のことを、あんなに真剣に考えてくれてるとは思わなかった~」
「「ほんと、ほんと!」」
先ほどの授業で、厳しくも優しくISを扱う危険性を教えてくれたミナキの話で盛り上がる女子生徒たち。それを尻目にトウマと一夏、そして箒の三人は、今日の特訓の内容を話し合っていた。
「カノウさん、昨日の特訓だけで体が悲鳴を上げているんですが……」
「あらら~、こいつは参ったな。織斑先生から聞いてたけど、全身湿布だらけじゃないか」
「笑い事じゃありませんよ、カノウさん。これでは、特訓など出来ないのではないですか?」
一夏の現状を見て笑いながら計画の見直しをしているトウマに、幼馴染を心配そうな顔で見ていた箒から今後の特訓内容をどうするのかを聞かれる。
「まぁ、放課後になったらマッサージでもしてやるか。自慢じゃないが、近所のおばちゃん達からは奇跡の手を持つバイトさん、とマッサージ店で言われていたからな。それなりに、心得はあるぞ!」
「「バイトで!?」」
バイトのわりに仰々しい二つ名を持っているトウマに、一夏と箒からもっともなツッコミが入る。バイトにして店主の技量を上回っていたトウマは、明るい性格とその技量で地域のお年寄りやおばちゃん達から絶大な人気があったのだ。
それから数分トウマと話していた一夏と箒だが、会話が途切れた時にいつの間にか周りに集まっていた女子生徒から声がかかった。
「ねぇねぇ、織斑君!」
「はいはーい、質問ですよ篠ノ之さん!」
「トッチー、お腹すいた~。なんかなーい?」
約一名可笑しな声が上がったが、概ね話題の人物の家族、または本人に興味があるようで矢継ぎ早に質問をなげかけているのだった。
「君は、布仏 本音さんだったかな。残念だが今お菓子の持ち合わせが無くてね、放課後に何かお菓子をご馳走してあげるからかんべんな」
「本当!わーい、トッチーからお菓子ゲットだぜ~!!」
「わははは、元気な子だな~」
のんびりとした会話が流れる中、お菓子をゲットだ~とはしゃぐ本音とその様子を見て心と顔を和ませるトウマ。一夏と箒は姉達のことを聞かれて四苦八苦している時に、トウマ達の周りは別世界のように微笑ましい時間が流れていた。
「千冬お姉様って、御自宅ではどんな様子なの!?」
「え?案外だらしな――――」
一夏が自身の姉のプライベートを口走ろうとしたその時、いつの間にか教室に来ていた千冬が静かに手を振り上げ、気合と共に手がぶれて見えるほどのスピードで出席棒を振り下ろしたのだった。
「ふん!!」
「ぐげっ!?」
ものすごい破裂音と共に、崩れ落ちる一夏。極寒の様に凍てついた視線で、自身の秘密をばらそうとした弟を見下ろす千冬。場が一気に緊張し凍りついたように固まる生徒達をジロリと見回し、静かな闘気を纏った千冬はいまだ机にへばり付く様に気絶している一夏を再度叩いて覚醒させる。
「人のプライベートを気安く喋るなよ、織斑。……休み時間は終わりだ、散れ」
「「「「「はい!!」」」」」
底冷えするような声で話す千冬に、クラスの女子生徒が蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
「まったく、毎年毎年疲れる。…………それはさて置き、織斑。お前のISだが準備まで時間がかかる」
「へ?」
「学園に予備のISが無いために、外部の倉持技研から専用機用のISコアを用意するようだ。それを束が引き取って、お前専用のISにすると上との会議で決定した」
「えっ!?束さんが、担当してくれるんですか。…………絶対ピーキーな物が仕上がってくるな」
衝撃の事実が千冬の口からもたらされ、クラス全体がざわつき始める。
「せ、専用機!?一年のこの時期に!?」
「しかも、篠ノ之博士自らが手がけた専用機よ!?」
「いいな~、私も早く専用機がほしいな~」
驚きの声がクラス中から上がる中、絶対に変わり者のISが自身に届くことを確信した一夏は一人沈んでいたのだった。
「さて、重要な話は以上だ。授業を始めるぞ、山田先生」
「そうですね、織斑先生。……皆さん静かにして、席に着きましょうね!」
千冬から遅れること数分で教室に顔を出した真耶が、声を大きく上げてざわつく生徒達を静める。しかし、中々静まらない生徒達に痺れを切らした千冬が、鋭い視線とプレッシャーで生徒を黙らせやっと授業が始まるのであった。
IS学園・一年一組 休み時間
「貴方に専用機がつくお話に驚きましたが、これで安心しました。篠ノ之博士が御作りになったISならば、私とフェアに戦えることでしょう」
昼休みの時間になってすぐに一夏のもとに来たセシリアが、さっきの話を聞いての感想を述べていた。腰に手を当てて大様に話すその様は、実に優雅な雰囲気を纏って彼女に似合っていた。
「勝負は、何が起こるか最後まで分からないものの、訓練機用ISでは私の専用機・ブルー・ティアーズには到底敵いません。まして、貴方はISに関しては素人の男性。……今回の学園の処置には感謝することですわね」
「……そんなことは、言われなくても分かってるよ。俺は千冬姉や束さんから護られて、今この学園で安全に過ごせている。だから、オルコットさん。俺は、俺を信じて見守ってくれている人達の為にも、必ず見返してやるからな!」
勢い良く啖呵を切り、セシリアを強い意志をこめた瞳で見返す一夏にクラスの女子達から感嘆の声が上がる。
その啖呵を聞いたセシリアはスッと目を細め、口角を上げて挑発的に笑った。
「今の言葉、しっかりと聞きました。その言葉が唯のこけおどしにならないように、私に喰らい付いてみなさい。……それでは御機嫌よう、織斑さん」
颯爽と教室から出て行くセシリアを、好戦的な笑みで見送る一夏。
二人の間には好戦的な雰囲気はあるものの険悪な雰囲気は無く、かつての宿敵バラン・ドバンとの関係を垣間見たトウマであった。
「まぁ、何はともあれ飯の時間だ。織斑君、篠ノ之さん。さっさと食堂に行って、うまい飯でも食おうか」
「「はい、カノウさん」」
昼飯を食べる前にちょっとした啖呵の切り合いが起きたが、腹が減っていたトウマ達は食堂に行こうと席を立つ。
「トッチ~。私も一緒に食べたいな~!」
「はいはーい!私達も一緒に行きたいです!」
「「私も、私も!!」」
すると、本音や相川 清香といった女子が我先にと手を挙げトウマ達を誘い、その様子を見たほかの女子達が話題のクラスメイト達と一緒に昼ごはんをしようと一斉に立ち上がった。結局、食堂につく頃には他クラスの女子生徒も加わり、50人ほどの団体で食べることになるのであった。
IS学園・放課後 トレーニングルーム
「じゃあ、織斑君。そこのベッドに、うつ伏せで寝転んでくれ」
「よろしくお願いします、カノウさん」
本日の授業も無事に終わり、本来ならば一夏には特訓が待っている。しかし、昨日の特訓で全身筋肉痛になってしまい、ろくに運動が出来ない始末だった。
そこで、休み時間にトウマが提案したマッサージを行うために、IS学園内にあるトレーニングルームに来たのだった。
「しかし、マッサージでこの筋肉痛が治りますか?」
「そこは俺を信じてもらうしかないな、篠ノ之さん。なに、筋肉痛を治すことは出来ないが、この痛みを和らげることぐらいならできるさ」
うつぶせにベッドに寝そべる一夏に、手をワキワキさせながら自信満々に答えるトウマ。若干箒が引いている様子を尻目に、早速マッサージを始めた。
「……なるほど、大分筋肉が疲労しているようだな。なら、最初は優し目にするか……ふん!!」
「ぐえっ!?……カノウさん、優し目って言いながら結構痛いです!!」
「なーに、最初だけだって!……そい!!」
「うぎゃーー!?」
バキッ、ポキッという音と共に、一夏の悲鳴が上がる。目の前で行われるマッサージと言う名の苦行に、ドン引きしながらも心配そうな顔で見守る箒。トウマは爽やかな笑顔と共に、一夏の全身をくまなくマッサージするのであった。
一時間後
マッサージはその後も一時間に渡って続き、ベッドの上ではぐったりとした一夏が横たわり気絶していた。
どうやら、自信の体から出る擬音と痛みに耐えかねて、いつの間にか気を失っていたようだった。箒が静かに寄り添い、マッサージ後の状態を確かめている。
「……後は、明日になってからのお楽しみだな。織斑君も気絶しているようだし、自分が君達の部屋に運ぼうかね」
「そこまでしていただく訳にはいきません、と言いたい所ですが、今日の所はカノウさんの好意に甘えさせていただきます」
「なはははは、君達はまだまだ若いんだから遠慮しなくていいんだよ。むしろ、もっと大人を頼っていいんだ。……よっと、じゃあ行こうか」
気絶している一夏を抱えて、トレーニングルームを後にするトウマと箒。トウマが言った言葉に嬉しさを感じた箒は、一言礼を言うのだった。
「ところで、篠ノ之さん。織斑君の着替えとか食事の介護を、手伝ってあげてね。明日まで指一本動かせないだろうから」
「えっ!?」
トウマの言った言葉に、今朝の事を思い出したのか赤面して答える箒。もじもじしながら赤面して身悶える箒を見ながら、トウマは何だか甘酸っぱい青春のにおいを感じたのであった。
「甘酸っぱいな~、まったくもって青春だ!」
「声が大きいですよ、カノウさん!?」
ニヤニヤと笑うトウマに、赤面したまま悲鳴を上げる箒。
「あっ!?見つけたよ~、トッチ~!お菓子をくださ~い!」
何処からか現れた本音がトウマを見つけ、お菓子の催促をする。なんとも平和な時間の中、トウマは楽しそうに微笑むのだった。
いかがだったでしょうか。今回はのほほんさんこと布仏 本音さんと、オリジナルキャラクターのナディア・チェルノフ先生の登場でした。
ナディア先生はロシア出身の22歳、彼氏なしの金髪のスレンダーな人です。この後も、ちょくちょく登場しますので、皆様覚えてやって下さい。
そして、二次創作では人気の本音ちゃん。アニメでは隠れ巨乳で話題になりました彼女が、満を持しての登場です。彼女も、この作品では良く登場する事になるキャラクターの一人にするつもりですので、よろしくお願いします。
では、誤字脱字・感想などお待ちしております。