インフィニット・ストラトス~終焉の銀河の果てに~   作:とっぷパン

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決意を固めた少年に待ち受ける特訓とは……。


第12話~トウマの特訓、その成果

 IS学園・五日目 早朝

 

 

 

 

 朝靄がかかる早朝のグラウンドに、四人分の息遣いが聞こえる。二つは激しく消耗した息遣いで、もう二つがまだまだ余裕のある息遣いである。朝日に照らされて四人の顔が朝靄の中から浮かび上がり、澄み渡る青空に四人の声が飛んでいく。

 

 「どうした、一夏君。君の覚悟はその程度の物か!」

 

 「い、いえ、まだいけます! まだ、ハァ、ハァ、お、俺は走れます!!」

 

 全身汗だくでふらつきながら走る一夏を叱咤するのは、同じ距離をまったく同じペースで走り抜けながらもほとんど疲労を見せないトウマであった。

 

 「カ、カノウ、さん、そろそろ、わ、私は限界のようです……ハァ、ハァ」

 

 「私はまだまだいけそうだが、もうすぐ時間だな。ランニングはこの辺で仕舞いにしないか?」

 

 一夏と同じように汗にまみれながらも何とか一緒に走っていた箒は、自身の限界を訴えてペースを下げようと速度を緩め始めた。一方、箒の隣を走っていた千冬はトウマと同じようにまだ余裕を持っているが、もうすぐ朝食の時間が迫っている事を告げてランニングを仕舞いにしようと提案をする。

 

 「ふむ、もうこんな時間か。よし、 今日のランニングはお仕舞いにしよう。最後に、俺と織斑さんの組み手をやって終わりだ」

 

 「うむ、それが妥当だな。それじゃあ、少し休憩を挟んでからやるか」

 

 「やっと、きゅ、休憩か。はは……ははは、本当に死ぬかと思った…………でも、俺は生きてるぞー!!」

 

 「本当に、地獄を見た気分だな。一夏に付き合うとは言ったが、今は少し後悔してるぞ……ハァ、ハァ」

 

 箒が、早朝から行われている朝錬についての感想を漏らす。一夏は大の字になってグラウンドに寝そべり、荒い呼吸を整えながら疲れ果てておかしくなった思考で笑っていた。

 

 しかし、一夏や箒がこうなってしまうのは勿論訳がある。昨日の授業中に強くなりたい宣言をした一夏であったが、その日の放課後に行われた特訓は一夏の限界ぎりぎりまで追い込む内容だった。だが、その後のアフターケアによって翌日の朝には軽い筋肉痛程度で済むという不思議な事が起こったため、今日は朝から特訓をしているわけである。

 

 朝の特訓メニューは早朝五時から始まって、トウマ式スローストレッチ、軽い筋トレ、加圧式ボディスーツ着用の上での十キロマラソンをしている。いくら十五歳の伸び盛りとはいえ、この運動量では疲労が溜まってしまい当日に使い物にならなくなるだろうと思うが、そこは数々の超技術で溢れかえっている世界の住人であるトウマとミナキがサポートにつき徹底的に管理して筋肉の疲労や精神の磨耗を防いでいる。

 

 「そろそろいいかい、織斑さん。俺の方は準備万端だ!」

 

 「こちらも同じくだ。……フフ、今日も良い試合になりそうだ」

 

 そんな中、少しの休憩を挟んでトウマと千冬の組み手が始まる。広いグラウンドの中で二人の立つ所が別の空間に思えるほどの緊張感に包まれ、少し離れてみている一夏と箒は固唾をのんで見守っている。

 

 思えば今日までの五日間で、二人はトウマの実力を見ていなかった。初日の時点で千冬から強者であると言う事が語られているだけで、はっきりと自身の目で見るのは始めてである。

 

 「そういえば、カノウさんの実力を見るのは初めてだよな。千冬姉ぇって生身でもかなりの強さだからな~、どんな試合展開になるのか予想がつかないな」

 

 「それは、私達のレベルでは分からないぞ。強者同士の戦いは見るだけでためになる。目をさらにして見ないと、下手したら一瞬で決着がつくかもしれないぞ!」

 

 一夏は、自身の姉の強さを思い出し一瞬震えがくる。

 

 …………幼少の頃、やんちゃをして傷だらけで家に帰ってきた時などは、ゲンコツを落とされた上で説教をされた事を思い出したようだ。そのために幼少時代の一夏は喧嘩事は好まずに、どうしても喧嘩をしなければいけない時を除いて取っ組み合いのもめ事は控えるようになったのだった。

 

 ちなみに、幼馴染である箒を助けた時は特にお咎めは無く、逆に褒められた事を良く覚えている。あの時ばかりはさすがの千冬も頭にきていたらしく、その頃すでに親友であった箒の姉である束と一緒に学校へ怒鳴り込んで行こうとしたのを自分と箒で必死に止めていたこともあった。

 

 「さて、カノウ君。不完全燃焼は欲求不満に繋がる、一夏達の参考とするためにも全力でやらねばな」

 

 「おう、安心してくれよ織斑さん。…………始めっからそのつもりさ」

 

 トウマの言葉を皮切りに、両者の緊張が一気に高まり周囲を重く威圧し始める。そして、緊張が極限まで高まったその瞬間、二人同時に動き出した。

 

 トウマが懐に飛び込み鋭く右正拳を打ち込めば、千冬が左の手で払い自身の右足で回し蹴りを放つ。鞭のように鋭く迫る右足を、トウマはバックステップで回避してまた反撃の蹴りを放つ。

 

 目にも留まらぬ速さで繰り広げられる攻防を、文字通り目を点にして見つめる一夏と箒。自分達が予想していた強さを軽く凌駕する二人の組み手に、だんだんと心が熱く燃え上がるのを感じる二人。変なところで姉弟は似るらしく、いつの間にやら自分の顔に笑みが浮かんでいる事に気づく一夏。二人の大人が自分達のために本気で戦っている事に、深い感謝の念とそこまで自身のことを考えてくれていることに自責の念が同時に心に沸き起こる。

 

 「はははっ、楽しいなカノウ君! やはり、君と戦える事で今以上に自分が成長している事がはっきりと感じる!」

 

 「なんとまぁ、嬉しい事を言ってくれるね!」

 

 千冬の放った裏拳を身を屈めてかわし、そこから一気に下から腹部めがけて掌底を打ち込むトウマ。当たれば確実に意識を絶つであろう掌底は、千冬の右足でガードをされてその身に大きなダメージを与えられずに防がれる。

 しかし、完全に勢いを潰す事ができずに後方へ大きく後退させられる。だが、その場で後方へ一回転して体勢を立て直し着地すると、素早い足運びでトウマに接近して上に跳び勢いに載せた踵落としを放つ千冬。

 

 「千冬姉ぇが跳んだ!!」

 

 「なんて跳躍力なんだ!3mは軽く超えている!?」

 

 人間真上からの攻撃には弱い者、この事実に基づいて千冬の攻撃はかわすか防ぐしかないと思っていた子供達二人は次のトウマの行動に驚愕させられる。

 

 「……ふん!!」

 

 「そうきたか!?」

 

 「「ええ~~~~!?!?」」

 

 なんと、トウマはかわすどころか高度から迫る踵落としめがけて、自身も上段蹴りで迎撃したのであった。しかも、きっちりと踵落としの威力を潰してその上でさらに上へと蹴り上げたのだった。

 その後を追うようにトウマも大きく跳躍し、蹴り上げられた千冬を追い越して高く空に舞う。空中で右足を高く上げ、無防備な千冬の体めがけて踵落としを仕掛ける。

 

 しかし、千冬も黙ってやられるわけにはいかない。何とか空中で身をひねり、蹴りの打点を少しでもずらそうと足掻く。

 

 「必殺、ライジングメテオ! …………ってな!」

 

 空中で身動きがうまくとれない千冬に、必殺の蹴りが届く寸前に右足をおもいっきり振りぬき神速の蹴りが生み出す風圧で地面に吹き飛ばすトウマ。

 

 「実際に蹴りは受けていないのにこの威力か……。この蹴りが当たっていたと思うと、冷や汗が止まらんなカノウ君」

 

 「……本来なら、この技は敵を倒すために血のにじむ特訓を通して身につけた必殺の一撃なんだ。もしも生身でこの技をくらったら、よほど鍛えていなければ確実に死に至る危険な技を組み手で使うわけにはいかないからな」

 

 なんとか地面に激突する前に体勢を立て直す事に成功した千冬は、自身を襲った蹴りの風圧の威力に冷や汗を流しながら正直な感想を呟く。

 その身で受け止めた衝撃は凄まじく、若干身体が震えている事に気づく千冬。その場から多少離れた所で観戦していた一夏と箒は、自分達の目の前で起こった非現実的な戦闘に放心状態で動けないでいた。

 

 「なんだったんだ今の技は……? 千冬姉を蹴り上げた後に、跳躍して追い抜いた? 俺は……夢でも見てるんだろうか、箒」

 

 「いや、私の目にも同じ物が映ったぞ一夏。残念ながらこれは現実の光景だ、現実の人間が真上に7~8メートル跳んだんだ。それに加えて、足の力だけで衝撃波を創り出して攻撃したんだ。ははっ……まるで漫画の世界だな」

 

 自分達が教えを乞う男の実力に驚愕し、その男が放った技を受けてもなんとか体勢を立て直した千冬に改めて尊敬の念が湧くのだった。

 

 「さてと、もう少し続けたい所だけど……」

 

 「そうだな、もう時間が厳しいか。……残念だが今日の所はこれでおしまいとするか、カノウ君」

 

 「ああ、腹が減って今にも倒れそうだよ。軽く汗を流して、さっさと朝御飯を食べようか」

 

 「今日の朝御飯はなんだったか、とにかくいつもより多く頼む事になりそうだ」

 

 さっきまでの緊張感は何処に逝ったのか、笑顔で朝御飯の内容を話し合う大人二人に子供二人はなんともいえない顔で呆れていた。

 

 「……笑顔で飯の話なんかしてるぞ、箒」

 

 「ああ、千冬さんも大概変わっていないな。うちの道場で修行していた時を思い出したよ、姉さんとの打ち込みが終わった後は大体御飯の話をしていたな」

 

 「現実に戻って来い。目が死んでるぞ」

 

 懐かしそうに昔を思い耽っている箒だが、よく見るといつも凛々しい光が輝いている目に力が無くどんよりとした目になっている。色々と衝撃的な物を見た後一気に弛緩した空気になったために、いろんな感情が一緒くたになって渦巻き現実逃避を選択してしまったようだった。

 

 「おーい、二人とも! 速く来ないとおいてくぞ~!」

 

 「速くこい、お前達! 私は腹が減っているんだ、さっさと来ないとお前らの分まで私が食べてしまうぞ!」

 

 「あっ! 今行くから待ってくれよ千冬姉ぇ! 箒、しっかりしろ! このままだと腹をすかせた千冬姉ぇに襲われて、朝飯が全部食われてしまうはめになるぞ!?」

 

 「……ハッ!? そうだ、お腹を空かせて機嫌が良い時に千冬さんは普段の五倍は食べるんだった!」

 

 急いでトウマ達の後を追う一夏と箒。普段凛とした大人の女性である千冬の意外な事実を思い出すも、感傷に浸っている暇は無く急がなければ自分達の朝飯が危うい。朝の特訓だけでへとへとになった体を少しでも回復させるために、疲労が溜まった体に再び力を入れて一目散に食堂に向かう一夏達であった。

 

 

 

 

 

 

 

 IS学園・授業 担当・篠ノ之 束

 

 

 

 

 

 

 「はーい、今日は天才・束さんが皆にISの事をおしえちゃうぞー! 心して聞くように!!」

 

 「「「「「はい! よろしくお願いします!!」」」」」

 

 束がIS学園に来てから初めての授業が、今一年一組で開かれようとしていた。新年度が始まってから五日目になるが、いまだにどの学年でも束は授業を行ってはいなかった。理由としては授業内容を決めるのにかなりの時間が必要とされた事と、一夏のISの開発を昼夜問わずに行っていたことが挙げられた。前者の理由については全学年の予定を決めねばならず、最初の三日間で全てを決めてしまった。そして、問題だったのは後者の一夏のISの開発であった。男性初のIS操縦者である一夏のISとなればそれ相応のスペックと武器をつけなければ、各国の政府機関やオファーがあった研究所の職員達が納得しないからである。

 

 現在世界で研究開発されているISは主に第三世代と呼ばれるもので、操縦者とISをイメージ・インターフェイスで繋ぎ主導操作で行うよりも遥かに早く目的動作を行う画期的な装備を積み込んだ使用となっている。

 一夏の対戦相手のセシリア・オルコットの専用ISブルー・ティアーズにも、第三世代装備の脳波コントロール式射撃武器ブルー・ティアーズを実装している。なお、機体名はこのビット兵器からそのまま使用しているようだ。

 

 「じゃあ、今日はISの歴史を勉強するぜい。教科書の~52ページを見なさい、ここに大まかな歴史が書いてあるよ~。まあ、これは世界的な歴史のほんの一部だけどね~」

 

 サラッと重要な事実を言った束であったが、あまりにも自然に言った為に誰も疑問に思わず頷いている。

 

 「もともとISは宇宙開発のために私が開発したことはもう知っていると思うけど、一番最初のIS白騎士は世界各国の核ミサイルが日本に向けて発射された事件、通称『白騎士事件』の時に武力面を押し出しすぎた所為か本来の目的からずれて世界に認知されてしまった」

 

 少し悲しそうな顔で語る束に、クラスは静まり返る。普段ハイテンションな人が悲しそうな面を見せると、普段の人物像とのギャップも相まって余計に感傷を誘う結果になるようだ。妹である箒はあの当時の姉の姿を思い出したのか、束以上に悲痛な顔をしている。

 

 「あの時は凄かったよ~、いろんな意味でね。学会にプレゼンした時は鼻で笑われたのに、いざISの力を見ると手のひらを返すようにこっちに擦り寄ろうとするんだ。最初はざまあみろ! て思ってたけど、だんだん怖くなってきてね。コアだけ作ったら私は逃げたんだ、世界各地の様々な場所に……ね」

 

 当時14歳の少女が背負うには大きすぎる感情に、クラスの誰もがずっしりとした重い不快感を抱いた。

 

 「まぁ、今はどうでもいいけどね。理由は言えないけど、まだまだ楽しい事がいっぱい見つかりそうだし。なにより、これだけ世界中に広がってしまったIS達をほっといて、開発者である束さんが先に死ぬわけにはいかないからね! 可愛い我子供達が独り立ちできるまで、母親として見守っていくのが束さんの責任なんだよ!」

 

 力強い言葉と瞳で語る束の姿に、悲しみの色は欠片もなかった。まさに天真爛漫と言うべき笑顔で生徒達を見る束、彼女が背負った物の重さに負けないくらいに輝く笑顔はこの歪んだ世界を包む太陽となるべき象徴にトウマとミナキは感じるのであった。

 

 「さてと、束さんの話はここまでにして……。授業を元に戻すと、世界のIS産業は今第三世代を主な主軸として開発されているんだ。このクラスにもイギリス代表候補生の子がいるけど、その子が専用機として配給されているISも第三世代の機体だよ~」

 

 ビシッと指先をセシリアに向けて席を立つように仕向ける束。世紀の天才から指名されたセシリアは、緊張しながらも優雅に立ち上がる。少し震えているのはご愛嬌だろうか。

 

 どうやら英国のお嬢様と言えど、自分達の扱うISの生みの親ともなれば緊張は隠せないようだった。

 

 「はいですわ、篠ノ之博士。」

 

 「ふむ、では早速君に問題を出そうかな~。うん、ずばりISの世代別に特性をいってみてくれないかい?」

 

 「はい、お答えしますわ。ISは第一世代、第二世代、第三世代といった世代分けがあります。第一世代は兵器としての――――」

 

 束からの問題に一呼吸おいて答えるセシリア。優雅にかつどことなく気品すら感じさせる問答は、さすが英国貴族といったところだろうか。

 

 「――――といったように、ISは各世代によって目指した特性に違いがあるのです。以上ですわ」

 

 「はい、OKだよ~。やるじゃないか、オルコッちゃん。さすがはイギリスの代表候補生、伊達や酔狂でその肩書きは名乗れないか」

 

 「お、お褒めに預かり光栄ですわ、博士」

 

 束から褒められた事で頬を赤くして席に着くセシリア。

 

 「……なんだか、オルコットさん可愛いわね」

 

 「そうだね、普段のお嬢様っていう感じじゃないね」

 

 普段の凛とした気品あふれる彼女からでる憧れの存在から褒められた事に対する照れで身悶える姿に、妙な親しみを感じる生徒達であった。

 

 「そこそこ、私語は慎むようにしなきゃだめだぜい。それじゃ、次の問題は君達に答えてもらおうかな~?」

 

 「「すみません、私語は慎みます!!」」

 

 「フフフ、よろしい。じゃあ、授業を続けるよ~。ISの世代別の特徴は今説明してもらったけど――――」

 

 私語を注意された生徒は慌てて立ち上がり謝罪をし、それを笑顔で受け入れてすぐに授業は再開されるのであった。

 

 

 

 

 

 

 IS学園・放課後 剣道場・剣道特訓

 

 

 

 

 

 

 「せい!」

 

 「なんの!」

 

 放課後の剣道場に一組の男女の声が響く。正面からの面打ちを仕掛けるのは、剣道着と防具の他に全身に重りを着けた状態で竹刀を振っている一夏。そして、その相手をしているのは剣道着姿の箒である。

 

 「腕の振りが大きすぎる、もっとコンパクトに腕の筋肉を締めていけ!」

 

 「足運びがもたついているぞ! すり足の基本を思い出せ織斑!!」

 

 「あら、二人ともがんばってますね」

 

 「はわわわ、どっちもがんばってくださ~い!」

 

 「箒ちゃん、成長したね~!でも、まだまだ体の動かし方が甘いぞ~!」

 

 激しく打ち合う子供達に指導とアドバイス・声援を送るのは、トウマや千冬を初めとしたいつもの大人陣たちだ。

 

 「ぬん!」

 

 「うおっと!」

 

 面打ちからの抜き胴に一瞬体を硬くする一夏であったが、なんとか竹刀を挟んで防御に成功する。しかし、抜き胴の衝撃を受け流す事に失敗し、大きく後退させられることになった一夏。だがなんとか踏ん張り体勢を立て直す事に成功し、間を置かずに箒へ向かっていく。

 

 「筋肉の疲労を考えて動け! 常に自分と相手の状態を俯瞰的に見ながら、次の相手の動きを予想して戦うんだ!」

 

 「抜き胴を見切る速度が遅いぞ、織斑! 手の動きだけを見ないで、肩や腰などの人体で最初に動く場所を見て予想しろ!」

 

 トウマと千冬から的確に指摘される助言を、必死になって自分の動きに取り入れようとする一夏。改めて見ると、特訓初めの時の動きより多少重りで制限されているものの、それを抜きに見ても明らかに全ての動作に磨きがかかっていた。

 

 「ほえ~、中々良い動きをするようになってきたんじゃないかな?かな?」

 

 「そうなんですか、束さん。私にはよく分かりませんけど、こんなに短期間で違いが分かる物なんですか?」

 

 「もっちろん、束さんにはいっくんの脅威の成長?が分かってます!……って言っても、録画していた画像と照らし合わせて比較しただけなんだけどね~。あっ、まやっちも食べるかい?」

 

 「あ、ありがとうございます。って、いつの間に録画なんかしてたんですか~!? ダメですよ盗撮なんて!」

 

 外野にいる束とミナキ、それに真耶の三人は井戸端会議のように話し合っていた。束にいたってはせんべいとお茶まで用意して、完全に観戦モードに入っている。ミナキも何処からか取り出した急須で自前の湯飲みにお茶を注いでいる。

 

 「せいやっ!」

 

 「せいっ!」

 

 箒の面打ちを打ち払い、竹刀をそのまま箒の手元に払い小手を仕掛ける。しかし、すぐに竹刀を戻して払い小手を防ぐ箒。正に一進一退の攻防に、場内に押しかけている生徒達から歓声が上がる。

 

 「や、やるな、一夏。始めの頃の動きとはぜんぜん違うじゃないか、やっと勘も戻ってきたようだな!」

 

 「はっ! 確かに少しはましになってきたけど、こんなんじゃあオルコットにはまだ届かない事くらい分かってるさ!」

 

 お互いに面を取りに行った為に、激しく竹刀をぶつけ合う二人。闘志を燃え上がらせてお互いの技と意地を真っ向からぶつけ合う二人の姿に、自然と周りも触発されて熱くなっていく。いつの間にやら、場内は熱気に包まれていた。

 

 「まだ、読みが甘いぞ!正面からぶつかる事ばかり考えないで、虚実織り交ぜて戦うんだ。今の君のレベルでは、真っ向勝負で勝てるほど相手は弱くは無いぞ!!」

 

 「常に考えて戦え! 戦いで大事な事は、思考する事をやめないことだ! 相手を分析して次の行動を予測しろ、様々なパターンを作り上げてどれが来ても対処できるように作戦を立てろ!」

 

 一夏の動きがよくなってきた事を尻目に、指摘する事もどんどん高度な物になっていく。指摘した物をどんどん吸収していく一夏に、トウマと千冬の機嫌も良くなり指導にも熱が入る。ふと気がつけば、当初の一夏からみたら、比べ物にならないくらい動きに鋭さが生まれていた。

 

 「とったぞ、箒!」

 

 「しまった!?」

 

 一夏の振り下ろした竹刀が、ついに箒の面を捉える。パァンッという乾いた竹刀の音が、熱気で包まれる場内に響き渡る。

 

 「一本、それまで! 勝者、織斑!」

 

 審判の宣言の後、一瞬の静寂の後にワッと場内に歓声が沸く。イギリス代表候補生に挑む男性操縦者として学園内で嵐のような勢いで噂が広がった事で、多くの生徒が特訓風景を野次馬感覚で見学しに来ているのであった。

 

 「よし、今日の特訓はこれで終わりにしよう。あとで、マッサージと併せて反省会をするから先に汗を流しておけよ。織斑さんから何かありますか?」

 

 「うむ、最後の面は中々良かった。だいぶ感覚が戻ってきたようだな、後半は動きが大分良くなったぞ。これなら、すぐにやられる事は無いだろう」

 

 試合が終わり汗だくになってトウマ達のところに戻ってきた一夏と箒に、この後の予定と試合の感想をつげる。トウマと千冬に褒められた事に、満面の笑顔になる一夏。

 

 「あ、ありがとうございます。大分勘の方も戻ってきたし、体も前に比べて動きやすくなったみたいです」

 

 「ふう、とうとう一本取られてしまったな。全力で戦って負けたんだから悔しさはあまり無いが、随分と早く成長したな、一夏」

 

 汗を拭きながら正直な感想を言う箒。正直言って一夏の成長速度は、異常と言ってもいいくらいだった。たった四日間の特訓で錆び付いていた感覚を取り戻せるほど、武道の鍛錬は甘い物ではない。

 しかし、これにはトンデモ異世界から来たトウマとミナキが係わっていた。

 

 「ああ、それは俺の所為なんだ」

 

 「カノウさん、がですか?」

 

 「一番初めの特訓の後に酷い筋肉痛になって、俺がマッサージしてやっただろう。実はあの時に経絡の点穴の中でも、人間の体がもっている内なる力を解放する所を一緒に突いていたんだ」

 

 「点穴ですか。……確かにその様な物が存在する事は知っていましたが、こんなにも効果がでる物ですか」

 

 まさか、マッサージの効果でこんなにも早く成長できるとは思っても見なかったようで、経絡の事を軽く聞きかじっていた箒は驚きの声を上げた。

 

 「ふむ、今回は特別さ。それに、いくら効果があるといってもあまり長くやると効果がなくなってくるからな。どちらにしても、基礎体力の向上くらいにしか役立たんよ」

 

 「そうですか、わかりました。やはり、頼れるのは自分の力で作り上げた物だけですからね、これからも精進します!」

 

 「ああ、がんばれよ一夏君。何をするにしても、君が努力しなけりゃ始まらないからな」

 

 はいっと元気良く返事を返す一夏に、微笑ましさを感じるトウマ。昔、トウマが未熟だった頃に指導してくれた人たちの気持ちが分かった事で、また一つ自身も成長できたような気がして喜びを感じるトウマであった。 

 

 「じゃあ、今日の所は解散するか。また後でな、一夏君」

 

 「トウマ、今日の御飯はどうしましょうか。私は和食がいいです」

 

 トウマとミナキが連れ立って御飯の話をしながら、熱気がこもった場内から出て行く。

 

 「ふむ、山田君。私達も仕事に戻るとするか。今日はさっさと仕事を片付けて、ゆっくりと御飯が食べたいからな」

 

 「そうですね、先輩。明日は午前中までですから、仕事を残したくはありませんからね!」

 

 「束さんもいこうかな。トッチーの御飯が食べられるなら、残りの仕事もさっさと片付けちゃおうかな!」

   

 その話を聞いた千冬達は、目を輝かせながら仕事を片付けようと気合を入れて去っていく。後に残された一夏達は、御飯に釣られて気合を入れて仕事に戻る千冬達を苦笑いと共に見送るのだった。

 

 「千冬姉ぇ……」

 

 「姉さん……」

 

 「「飯に釣られるって、いったいいくつなんだ……」」

 

 試合後の熱気に包まれた場内に、一夏と箒のツッコミが漂っていた。

 

 

 




 いかがだったでしょうか。

 今回はやっと束さんが出せました。この小説内では篠ノ之 束というキャラクターを、宇宙に夢見る一人の天才科学者と位置づけしております。原作のような非社会性はなりを潜めた、テンションの高いお姉さんになっております。

 また、冒頭の組み手のシーンはちょっと描写不足になってしまったかもしれません。そこは、これからの課題として精進していこうと思います。

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