インフィニット・ストラトス~終焉の銀河の果てに~   作:とっぷパン

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厳しい特訓に耐え、ついにこの日を迎えた一夏。はたして、イギリス国家代表候補生の実力とは……。


第14話~クラス代表決定戦

 IS学園・八日目 一組クラス代表決定戦前・第三アリーナAピット

 

 

 

 

 

 

 「…………お、遅いな」

 

 「姉さんが一夏の為に作ってくれたというISが、いまだに届かないとは……。姉さんは、いったい何をしているんだ?」

 

 イギリス国家代表候補生と、世界初の男性操縦者の戦いが始まる数分前。俺と箒の二人は第三アリーナの機体搭乗口であるAピットに、専用ISが手元に届くのを、今か今かと首を長くして待っていた。

 

 すでに、対戦時間は大幅に過ぎている。その間、対戦相手のセシリアは観客であるクラスメート達に、パフォーマンスをかねた準備運動を見せているが、そろそろ時間的に限界に近づいていた。 

 

 「そいいえば、今日の朝方に目元にすごいクマが出来た姉さんから連絡が入って――――」

 

 

 『いっくんのISだけど~、もしかしたらチョッチ遅れるかもしれないけど期待して待っててね~! アハハハハハッ!!』

 

 

 「――――っと普段の何倍も高いテンションで言っていたんだ。もしかしたら、何か調整しているのかもしれないな」

 

 「そうか、ならその調整が早く終わってくれる事を祈るばかりだな」

 

 俺の専用ISが届かない原因が束さんだと判明した為に、ささっと諦めをつけて出来上がりを待つことにした一。正直、どんなトンでもISが出来上がるのか不安ではあるが、現状としては待つ事しか出来ない。

 

 

 

 「織斑く~ん、貴方の専用機が完成しましたよ~!」  

 

 「こら、山田先生。いくら緊急の要件だとしても、生徒の前では走らないようにしなさい」

 

 「あ、はい、すみません先輩!……って、先輩だって全力で走ってるじゃないですか~!」

 

 Aピットの荷物搬入口から全速力で走りこんできたのは俺の姉である千冬姉と、大きな胸を弾ませながら走ってきた山田先生の二人であった。二人共に、開始時間をオーバーしている事に気をとられているのか、若干焦り気味で駆け込んできた様だ。

 

 「千冬姉、いくらなんでも遅すぎだ――ゲペッ!?」

 

 「織斑先生と呼べと前にも言った筈だがな~、織斑」

 

 「痛って~! いくらなんでも、これから試合をする生徒を殴る事は無いだろう!」

 

 千冬姉による容赦の無い鉄拳制裁で叩かれた頭をさすりながら文句をたれるが、ここは俺が悪いのでさっさと諦めをつけることにした。

 

 「ふん、お前がいつまでも公私混同で改めるそぶりを見せないからだ。……っと、こんな事をしている暇は無かったな。山田先生、説明をお願いします」

 

 「は、はい。少し、ハァ、待って、ハァ、い、頂けますか?」

 

 全力で走りこんできた為に、息が切れ切れの山田先生。平然と隣に立つ千冬姉とは、やはり体力面で大きな差があるようだ。

 

 「も、もう大丈夫です。それでは、改めまして織斑君の専用ISのお披露目です!」

 

 山田先生の掛け声と共に重い扉が開くような音がして、ピットの搬入口が開く。斜めに噛み合うタイプの防壁扉は、重い駆動音をピット内に響かせながらゆっくりと開いていく。

 

 

 

 ――――そこには、一つの『白』がいた。

 

 

 

 何ものにも染まっていない純粋なる白が、操縦者となる者を待ち構えて鋼鉄の装甲を開放していた。

 

 「これが、……俺のIS」

 

 「はい! 織斑君の専用IS『白式』です! もう時間が切迫していますので、早く搭乗して下さい!!」

 

 一見無機質に見えるそれは、どこか意思のようなものを感じさせる風体である。それと同時に、俺と出会うことを運命付けられたかのように、物言わぬ機械の体の奥から歓喜するような感情が見えた気がした。

 

 「時間があれば、フォーマットとフィッティング済ませた上での実戦だったのだがな。まぁ、そこは許せ、織斑」

 

 「…………」

 

 「……どうした、織斑。早く機体に乗って準備をしろ」

 

 千冬姉の声は聞こえていた、だが俺の意識は目の前の白式に集中していて頭に入ってこなかった。

 

 「…………やはり、こうなったか」

 

 「? 織斑先生、どうかしましたか?」

 

 「……いや、なんでもない篠ノ之。おい、織斑! いい加減にISに乗って準備をせんか!!」

 

 なにやら千冬姉が意味深に呟いていた気がするが、次に頭頂部に走った衝撃と痛みに悶絶する羽目になった。

 

 「ングッ!? ……ぐおぉぉぉ!? いって~~~っ!!」

 

 「さっさとしろ、でなければ今すぐに死ね」

 

 く~~~っ! 今のは効いた~~! っていうか、実の弟に向かって死ねはないだろ、死ねは! そんなんだから彼氏とかが出来ないんだ、きっとそうだ!

 

 「馬鹿な弟がしっかりと一人歩きできるまでは、私の身を固めるなんて夢のまた夢だ。それに、お前さえしっかりしてくれたら、見合いでも結婚でもすぐにできるさ。…………うむ、け、結婚ぐらいすぐにできるさ……」

 

 何か、千冬姉が急に顔を赤らめて声が小さくなったぞ。よく分からんが、千冬姉がおとなしくなってる間にさっさと乗り込んでしまおう。

 

 「あれ……?」

 

 初めてISに触れた時のように、電撃が走ったような感覚が無い。ただただ体に馴染み、頭で理解できる。

 

 これが何で、何の為にあるのか。これは、この白式が待っていた者は――。

 

 「機体に背中を預けるように、そうだ、座る感じでいい。あとはシステムがお前に合わせて最適化してくれる」

 

 千冬姉が言うように装甲が開いてる部分に体を滑り込ませ、後はISが自動で装甲を閉めて体に合わせ始める。空士を抜くような音がピットに響き、俺と白式が繋がっていく。生まれた時からすでにわが身の一部だったかのような一体感が、頭からつま先に至るまでの全身を包む。

 

 一気に解像度を上げたかのようにクリアーな感覚が、視覚を中心に広がっていく。各種センサーの類が報告してくる数値は、どれも普段から見ているかのように理解できる。

 

 『戦闘待機状態のISを確認。――情報を検索――表示――。操縦者、イギリス国家代表候補生《セシリア・オルコット》専用IS、中距離射撃型、《ブルー・ティアーズ》特殊兵装有り――』

 

 「これが、IS白式。俺の専用機か……」

 

 表示される情報は、今日の対戦相手のオルコットさんだ。中距離射撃型は分かるけど、特殊兵装ってなんだろう? 何か凄い武器が積まれているんだろうか……。

 

 「ISの各種センサーは問題なく動いているか? 一夏、気分は悪くなったりしていないか?」

 

 千冬姉の声が震えているのが、ISのセンサーを通して伝わってくる。……ああ、やっぱり心配してくれてるんだな、千冬姉。

 

 「大丈夫だよ、千冬姉。いつでもいける」

 

 「そうか、大丈夫なんだな」

 

 ホッとしたような声で、普段は凛々しい顔をほんの少し和らげる。世間では世界最強だの何だのと言われているが、俺にとっての千冬姉は厳しい事も言うがちゃんと俺のことを考えてくれている良い姉さんなんだ。

 

 「一夏、準備は出来たのか?」

 

 「ああ、バッチリだぜ、箒」

 

 次に話しかけてきたのは、やや心配そうな面持ちの箒だった。いつもはキリッとした形のいい眉が、心配そうに柳眉を下げている。

 俺が笑顔大丈夫だと返すと、心配そうに下げられていた眉を元に戻しホッとしたように笑顔になる。

 

 「箒、行ってくるぜ」

 

 「ああ! オルコットのやつに眼に物見せて来い!」

 

 「おう!」 

 

 箒の言葉に力強い返事をし、ピットにある射出ゲートに向かう。軽く体を傾けるだけで、ISは浮遊しながら前に進む。

 

 クリアーな視界の片隅では白式が膨大な量の情報を処理し、早く俺の為に機体を合わせようとフォーマット《初期化》をしている。ただピットの射出口に佇むこの瞬間にも白式は表面装甲を変化・形成している様なので、視界の片隅に移る数値の桁が途方も無い数になっていた。

 

 『フォーマット及びフィッティング終了まで、あと二十七分三十一秒』

 

 視界に映し出された情報を見ながら、ゲートが開いていくのをセンサーが捉えて情報が頭に流れてくる。

 

 『織斑君、ゲート開放しました。いつでもどうぞ!』

 

 「白式は、織斑一夏。出ます!」

 

 白の機体が一気に加速し、俺はオルコットさんの待つアリーナに飛び込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 クラス代表決定戦・織斑一夏vsセシリア・オルコット

 

 

 

 

 

 

 「すまない、機体の調整に時間がかかったようだ」

 

 本来の開始時間より30分を過ぎようとしていたその時、私のブルー・ティアーズにISの反応が感知されAピットの発進ゲートから織斑さんが現れました。

 

 「あら、随分とレディーを待たせるのですね、織斑さん? それでは紳士として失格ですわよ」

 

 「その失態は戦ってから取り戻すさ、準備は出来てるんだろオルコットさん」

 

 「モチロンですわ、織斑さん。誰かさんが随分とお時間を下さったおかげで、準備運動はとうの昔に出来ています」

 

 この一週間、本当に待ちましたわ。貴方という男性を見極める為に、普段の接触は控えて観察に徹しておりました。

 

 「それは良かった、というべきか? まぁ、何にしても今日はよろしく頼むぜ、オルコットさん」

 

 「ええ。その願い通り、私が貴方の最初の壁になって差し上げます。……ですから、貴方も全力を持って足掻きなさい」

 

 私というISにおいて上に立つ存在に挑む姿を見れば、もしかしたらイギリス政府の意向とは別に私自身の目的も果たせるかもしれない。私の父親が最後に見せた姿は本当だったのかはすでにこの世にいないから分からないけれど、母が残してくれたあの言葉が真実かどうか――――

 

 「それじゃあ、ゴング開始だな!!」 

 

 「このセシリア・オルコットが、貴方を見極めて差し上げますわ!!」

 

 貴方を通して見極めます!!

 

 「まずは、私の奏でる円舞曲《ワルツ》で踊ってもらいますわ」

 

 「へっ、生憎と踊りは盆踊り以外苦手でね!」

 

 私はスターライトMK―Ⅲを素早く構え、スコープに彼を捉えるとすぐさまエネルギーの銃弾を浴びせかける。耳元で独特の発射音が鳴り、こちらに向かってくる彼が踏鞴を踏む様にその場に縫い付けられる姿を確認した。

 

 「くっ!? 予想以上に速い射撃だ!」

 

 「フフ、どうしたのですか? まだまだ始まったばかりですわよ」

 

 エネルギーの雨を何とか掻い潜ろうと必死に機体を動かす彼に、私は容赦の無い射撃を浴びせかけると同時にISを複雑に動かし彼を奔走させる。

 

 「なにか、装備は無いのか!? ……あった、これは剣か!」

 

 「フフフ、射撃型の私に近接武器で挑みますの?」

 

 被弾を避けながら彼が拡張領域から取り出した物は、一振りの剣でした。

 

 「? ……って、これ一個しかないのか!?」

 

 粒子となって保管されていた剣が光と共に具現化し、彼の手に収まると戸惑った様子の声が聞こえた。

 

 「? ……なにやら混乱してるご様子ですが、今は勝負の最中。敵に隙を見せるものではなくってよ!」

 

 若干混乱している彼に、再びエネルギーの銃弾を浴びせかけるように撃つ。戦いの場で気を抜くとどうなるか、それを今彼が体験・実証してくれた。

 

 「おわぁっ!? ――――クソッ、こうなったら一か八かやってやる!!」

 

 「そうです、その調子で私に見せてください。貴方の力を!!」

 

 エネルギーの雨の中を掻い潜って接近してくる彼と、接近させないように撃ち続ける私の戦いは激しさを増していく。

 

 「そろそろ、こちらも違う装備を使わせていただきますわ。お行きなさい、ブルー・ティアーズ!!」

 

 「これ以上増えるのか!?」

 

 スターライトMK-Ⅲだけの射撃に慣れて来たのか、先ほどまでよりも被弾する割合が減ってきた頃を見計らって新武装を出す。中距離射撃型実験機ブルー・ティアーズという名前の由来になっている兵器、独立型射撃兵器・『ブルー・ティアーズ』通称・『Bit』。

 

 「くっ! 板みたいなのが四つも増えたか。それに――――」

 

 一つ一つは板のようなビットだが、それが四つ別々の場所へ動き攻撃する。本来ならば、もっと多角的に動かさせれば理想なのだが、今の私にはあらかじめ決めておいたパターンの動きしか出来ないのが悔しい所である。

 

 「――――別々に動き回って、攻撃しにくい」

 

 「どうです、イギリス特製のビットのお味は?」

 

 クッ! 意外と当たりませんわね。素人にしては動きだけは良い、これは厄介ですわ。

 

 攻撃は出来ないようにある程度試合を制御できてはいるが、こちらの攻撃もクリティカルヒットしている物は多くは無い。ビット自体のエネルギーにも限りがある為に、必ず充填のために戻す瞬間が訪れる。彼にしてみたら、そこが狙い目になるはず……。

 

 ですが、それはこちらも承知の事実、それを補う術も私は持っている。後はタイミングだけ間違わなければ、確実にダメージを与えられるだろう。

 

 「だんだん分かってきたぞ、このビットの動きが!」

 

 彼の言葉と共に、ビットの一つが剣によって切り払われる。破壊されたビットは、爆散しながら地上に落ちていく。

 

 「もう対応してきましたか……。意外と、侮れませんわね」

 

 地上に落ちていくビットを視界に捉えながら、自身の戦術パターンを切り替える。異常と言ってもいいような速度で戦闘中に上達してくる相手に、私はこの時はっきりとした脅威を感じました。

 

 「それに、このビットを動かしている時は銃が使えないんだろ? さっきからそのでっかい銃からの攻撃が止まってるぜ!」

 

 さらに切り裂かれる二つ目のビットを見ながら、軽く唇を噛みしめる。これは、ビットの数が二つになった事で、スターライトを使った銃撃ができるようになった事を喜ぶべきか迷う所ではある。

 

 「よくやりますわね、たった一つの剣だけで。まさか、素人の貴方にビットを破壊されるとは思いませんでしたわ。ですが、その勢いもここまでです」

 

 「なんだと、まだ隠し玉があるって言うのか?」

 

 「モチロンです。この程度の実力が、イギリス国家代表候補生の実力だと思われたらいい恥さらしですわ。おいきなさい、ビット達!!」

 

 先ほどと同じように人間に死角をついた場所にビットを配置し、再び射撃を仕掛けるように見せかけながら静かにスターライトを構える。

 

 「わかっているっていっただろ。……そこだ!!」

 

 今ですわ!! ビットの射撃に併せて、スターライトの引き金を引く。少数のビットの操作なら、手に持ったスターライトと共に扱えるのです。

 

 「っ!? くっ! ビットじゃない、だと」

 

 クリティカルヒット、ですわ!!

 

 「甘く見ましたわね、織斑さん! これからが本番です、かかって来なさいですわ!」

 

 思ったとおりの展開に笑みを隠さずに挑発する。ヒットした浮遊装甲箇所は見事に吹き飛び、相手のシールドエネルギーを大きく削る事に成功した。

 

 「同時に攻撃してきただと。……くっそ~! 完全にしてやられたぜ」

 

 完全に予想外だった様で、吹き飛んだ装甲を気にしながら回避に専念している。ビットの多角的な射撃のほかに、私自身の射撃を気にしながら戦うのは中々に骨が折れる事だろう。素人の彼が相手にするにはこの状況は辛いものがあるだろうが、私のイギリス国家代表候補生としての矜持を守る為にも全力で行かせて貰いますわ! 

 

 

 

 

 

 第3アリーナ・管制室

 

 

 

 

 

 「はぁぁ~、中々持たせますね~、織斑君も」

 

 アリーナのピット内にあるモニター管制室に、真耶のため息と素直な感想が響く。

 

 「たしかに、射撃型のオルコット相手によく持っている」

 

 真耶の感想に肯定し厳しい目で見守っているのは、先ほど一夏を心配していた千冬である。

 

 「ですが、最適化が終わるまで持たせる事ができるかはわかりませんね。正直、入学試験のときよりも、オルコットさんの腕が上がっているように感じます」

 

 「ふむ、実力をセーブして戦っていたという事だろうな。さすがは、次期イギリス代表の候補の一角といったところか。他の生徒とは実力が違いすぎるな」

 

 セシリアの実力に驚きを込めて、そう評価する二人。事実、セシリアは国家代表候補生としての力を十分に有しているといえた。

 

 「へぇ~、これがオルコットさんですか?」

 

 管制室のドアが開き、ミナキが手に資料とドリンクの入った水筒容器を持ちながら入室してくる。

 

 「トオミネ先生、織斑が今しがたピンチになってきたところですよ」

 

 「そうなんですか、織斑くんも大変ですね~。あ、これが頼まれていた資料です。後で確認しておいてくださいね、山田先生」

 

 「確かに受け取りました。お疲れ様です、トオミネ先生」

 

 一夏のピンチを、大変ですね~の一言で片付ける。彼女にとっては、この程度の不利な状況は何度も見てきている為に、それ以上の感想が出てこない。それに、この一週間自分達が鍛え、管理してきたのだから、あとは結果がどうなるかだけである。

 

 「そうだ、私飲み物を持ってきたんですけど……。お二人ともお飲みになりますか?」

 

 試合を観戦しながら、二人に向かってそう問いかけるミナキ。先ほど入室する時に持っていた水筒を手に持ちながら笑顔で聞いている。

 

 「では、お言葉に甘えて一杯だけ」

 

 「私にも頂けますか、トオミネ先生」

 

 お茶か、コーヒーの類だろうと予想を付け、職務中であることも考慮して一杯だけ貰う事にした千冬と真耶。ミナキがドリンクをコップに注いでいる間も、モニターに映る戦いの様子から目を逸らさずに答えた。

 

 

 

 それが、最大の失態だと気づいたのは後のことである。

 

  

 

 「はい、お二人ともどうぞ」

 

 部屋に備え付けられた紙コップに、七分目ぐらいに注いだ飲み物が二人に渡される。薄暗い室内ではっきりと見えない事もあってか、渡された飲み物に躊躇無く口を付ける二人。

 

 「お、……中々うまい、な?」

 

 「そうですね、若干不思議な味がしますけどおいしいで、す?」

 

 最後の言葉が疑問系になっているのはなぜだろうか。自身が呟いた言葉に疑問を持つ二人。

 

 「あら、おいしいですか? 私が作った特性健康ジュースなんですけど」

 

 「トオミネ先生が、ですか?」

 

 「へ~、ちなみに、どんな物を入れたんですか?」

 

 段々気持ちが安らかになってきた気がする二人は、笑顔で材料を尋ねた。

 

 「材料ですか、とにかく健康にいいものです。セイヨウサンザシ、ホンオニク、ローヤルゼリー、ナルコユリ、グレープフルーツ、ドクダミ、ショウガ――――」

 

 「ま、まぁ、今の所は健康的だな?」

 

 「そうですね先輩、今の所は健康ですね?」   

 

 比較的ポピュラーな健康食材に、納得したように頷く二人。しかし、レシピはまだ続く。

 

 「ウナギ、マグロの目玉、梅干、セロリ、マソタの粉末、ムカデ、イモリ――――」

 

 「「え?」」

 

 段々品目がおかしくなってきた事に、戸惑いの声を上げる二人。

 

 「マムシの粉末、アガリクス、冬虫夏草、紅茶、キノコ20種類の粉末、スッポン――――」

 

 「「ちょっ!?」」

 

 「オットセイエキス、中国茶葉数種、ハバネロ、ステビア、などといった物が入っています。健康的でしょ」

 

 「「マジですか?」」

 

 「? マジですよ」

 

 笑顔で?を浮かべるミナキの様子に、今挙げられた物が否応無しに真実だと思い知る二人。さっきから意識が薄くなっている事に今更気づく。いろいろ言いたい事がある二人だが、すでに口を動かす事も億劫になっている。

 

 そして次の瞬間。

 

 「「…………」」

 

 バタンッっと、無言で白目をむいて倒れる二人。

 

 「あらあら? どうしたんですか、お二人とも」

 

 倒れた二人に声をかけるミナキ。しかし、完全に気を失った二人は、決して目を覚ます事のない眠りに落ちてしまったかのようにピクリとも動かない。

 

 「失礼します、織斑先生。只今戻りました――……って、どうしたんですか二人とも!?」

 

 「あら、篠ノ之さん。お花摘みの帰りですか?」

 

 「トオミネ先生! 二人はどうしたんですか、まさか緊急性の病気か何か――」

 

 管制室から少しの間離れていた箒は、自身がいない間に起こった変化に驚き取り乱している。

 

 「落ち着いてください、篠ノ之さん。お二人は、私が作った健康ドリンクを飲んでお休みになっているだけです」

 

 「け、健康ドリンクですか? そうですか、てっきり緊急性の病気かと……。なら、このまま寝かせておいておくより、そこのソファーに移しましょう」

 

 「そうですね、篠ノ之さん手伝ってくださいますか?」

 

 ミナキから聞かされた事実であって若干違う事実に、とりあえず納得し床に寝ている二人を近くのソファーに移す事にした二人。ぐったりとした体を運ぶには中々苦労したが、なんとか運ぶ事に成功する。

 

 「ところで、姉さんはここに来ないんですか?」

 

 「篠ノ之博士でしたら健康ドリンクを飲んで、そのままお休みになられました」

 

 「え? 織斑先生達の様にですか?」

 

 「はい、そうです」

 

 ミナキの屈託の無い笑顔に、だらだらと汗がにじむのを感じる箒。もし、自分が予想している事が事実ならば、原因は間違いなく健康ドリンクという名の劇物だ。もし今勧められたら、姉と同じ道をたどるだろう。

 

 「? どうかしましたか、篠ノ之さん」

 

 「いえ、なんでもないです。なんでもないったら、なんでもないです」

 

 「そうですか、では、織斑君の試合を一緒に見ましょうか」

 

 「は、はい、一夏の試合をみ、見ましょう」

 

 若干震えた声で、ミナキに返事をする箒。声もそうだが、いつの間にか体全体が震えている。

 

 (がんばれ、一夏。私が生きているうちに……)

 

 心の内で自身の無事を祈り、アリーナで戦う幼馴染の試合を見守る箒であった。

 

 

 

 

 

 第三アリーナ・織斑一夏vsセシリア・オルコット

 

 

 

 

  「二十七分ですか…………。良くここまで持たせました、イギリス国家代表候補生として貴方に敬意を表しますわ」

 

 「ハァ、ハァ……へっ、国家代表候補生からそう言って貰えるとは光栄だな」

 

 IS学園の第三アリーナで執り行われている、一年一組クラス代表決定戦。世界初の男性操縦者とイギリス国家代表候補生の戦いは、もうすぐ佳境を迎えようとしていた。

 

 「貴方は、ISに関して素人であるにもかかわらず、私相手に二十七分も持たせたのです。これは誇ってもいい事ですわ、織斑さん」

 

 「……自分でもそう思うよ。正直な所、イギリス国家代表候補生であるオルコットさんに勝てるとは思ってなかった。実際に、決定的なダメージは一つも与えていないしな」

 

 アリーナの広い空間にに堂々と浮遊する、蒼い雫の様なイギリス製の第三世代IS・ブルー・ティアーズ。正に威風堂々とたたずむその姿は、英国女王を連想させるほど美しく立派な佇まいだった。

 

 そして、その王者に対するのは全身余すことなくボロボロになった姿の一夏であった。元は白く美しい白色であっただろうその機体は、所々パーツが砕け煤にまみれたダメージレベルC一歩手前の状態だった。

 

 「……だけど、どうやらツキは俺に味方してくれて様だ」

 

 「? ……何を言っているのか分かりかねますが、そろそろ幕引き《フィナーレ》といたしましょう。覚悟はよろしくて、織斑さん?」

 

 満身創痍の一夏に向けて、ブルー・ティアーズの専用武装スターライトMK―Ⅲの銃口を向けるセシリア。動く度に破損した箇所からスパークを放ち、移動する事にも支障をきたすであろう満身創痍の機体では、その強大なエネルギーの閃光からは逃れられないだろう。

 

 しかし、それでは一夏が薄く笑みを浮かべている意味が理解できない。何かが起こる可能性を頭の隅に置きつつ、セシリアはスターライトMK―Ⅲの引き金を絞ろうとその指を動かそうとしたその時。

 

 「……来た」

 

 一夏の呟きと共に、纏っているISが突如光を放ち始めた。

 

 「これは…………。そういうことでしたのね、織斑さん。確かに、ツキは貴方にあったようですわね」

 

 セシリアが呟いているその瞬間にも、光は輝きを増していく。

 

 「しかし、戦いの女神がが貴方に微笑みを向けるのならば、私はその女神のハートごとブルー・ティアーズで打ち抜くだけですわ!」

 

 「うおおおおぉぉ! 俺に力を貸してくれ、《白式》!!」

 

 眩いばかりに輝くISと共に咆える一夏に向かって、スターライトmk―Ⅲから一筋の閃光が放たれた。

 

 

 

 

 

 

 第三アリーナ・管制室

 

 

 

 

 

 

 「一夏!……」

 

 モニターを見つめていた箒は、思わず声を上げる。眩しく輝くモニターでは、一夏の姿がどうなっているかを確認する事ができない。

 

 「……うん」

 

 若干光が収まってモニターに移った一夏の姿を見たミナキは、先ほどと変わらずに笑顔で頷いている。  

 

 「どうやら賭けには勝ったようですよ、篠ノ之さん」

 

 眩い輝きの中、その中心には純白の機体がいた。

 

 その真の姿をさらして――――

 

 

 

 

 第3アリーナ・クラス代表決定戦

 

 

 

 

 

 『フォーマットとフィッティングが完了しました。確認ボタンを押してください』

 

 無機質な音声ガイダンスが、ブルー・ティアーズのハイパーセンサーを通してセシリアの耳に届く。

 

 「戦いの女神は貴方を選びましたか、それもいいでしょう」

 

 光が収まってくると、やがて先ほどの姿とは少し違うシルエットが浮かび上がる。

 

 「……これが、白式」

 

 最初の姿よりもさらに洗練されたシルエット。新しく形成された装甲は、まだうっすらと光を纏っている。今まで受けたダメージは綺麗さっぱりと消え、より美しい姿をさらしていた。

 

 「……これが貴方の真の力なのですね。初期設定の機体で、よく私と戦い生き残れました。改めて、貴方に敬意を表しますわ」

 

 手に持っていた剣も変化を見せ、日本刀のような刀身はその中央から根元に向かって折り畳まれるように展開し、エネルギー状の刃を形成している。

 

 「雪片弐型? 雪片……。そうか、束さんが期待しとけって言っていたのは……」

 

 「雪片ですか。たしか、織斑先生が現役時代に使われていたという一撃必殺の近接特化ブレード。その後継機ですか」

 

 「フフ、俺は世界で最高の姉さんを持ったもんだ」

 

 手に持つ雪片弐型を両手で握り締め、喜びの感情で震える体に気合を入れる。

 

 「その武器を扱う意味が分かってますのね。今の貴方からは、戦う者の覚悟がひしひしと伝わってきますわ」

 

 「もちろんだ、千冬姉が使っていたこの雪片の後継機。手にしたからには、世界最強を狙う気持ちで行くぜ。でないと、千冬姉に憧れている人達の為にも、これを作って渡してくれた束さんの為にも、俺を心配してくれて特訓に付き合ってくれた箒の為にも――――」

 

 本来ならば攻撃してもかまわない所でも、彼の覚悟を聞く為にあえて静かに目を閉じて聴くセシリア。

 

 「そして、なにより俺を今まで守ってくれていた千冬姉と俺自身の為にも。俺はこの剣で、大切な人を守れる男になる!!」

 

 嘘偽り無く、自身が思っていることを素直に伝える一夏の姿に、閉じていた目を見開き嬉しそうな微笑みを向ける。

 

 「貴方の覚悟、このセシリア・オルコットが確かに聞きました。世界最強、大切な人、どれもすばらしいですわ。しかし、その目標を目指すというならば、この世界の洗礼を受けなさい!!」

 

 手に持つスターライトを構え、銃口を白式に定める。

 

 「いくぜ、白式! 俺達の力を見せてやる!!」

 

 同じ機体の加速とは思えぬほどのスピードで、一気に間合いをつめていく白式。高速で迫る白式に対して、セシリアはすぐさまビットを飛ばし牽制する。

 

 しかし、スピードを増した白式はビットの攻撃を難なくかわし、前方にいるセシリアとの距離を詰めて行く。

 

 「クッ、なんという速度!?」

 

 自らも射撃の雨を降らせるが、そのことごとくをかわされてしまいヒットした数は僅かに二つ。

 

 「うおぉぉぉ!!」

 

 残りのエネルギーが百をきったその時、一夏の視界に一つのステータス画面が映し出される。

 

 『ワンオフ・アビリティー《単一仕様能力》零落白夜、使用可能、展開開始』

 

 セシリアの放つエネルギーの閃光が眼前に迫る中、刀身が強い光を放ちだした雪片で被弾を防ごうと振り抜いたその瞬間。

 

 「なっ、なんですって!?」

 

 刀身触れたエネルギーの閃光は霧散し消えてしまった。そのままセシリアへと迫る一夏。その片隅に見えるエネルギー数値がなぜか急速に減っていくのに気づいた一夏は、エネルギーが尽きる前にセシリアへと辿り着こうと加速する。

 

 「これで、終わりだぁーー!!」

 

 ついに、その煌めく刃を当てる事の出来る距離に肉薄した一夏。しかし、次の瞬間にハイパーセンサーを通して己の瞳が捉えたのは、射撃が出来ない距離にもかかわらず余裕の笑みで自身を見ているセシリアと、腰部にある筒状の物がこちらに向いた状態で蓋を開いている光景だった。

 

 「フフ、本当に良くやってくれましたわ。ですが、やはり戦いの女神は私に微笑んでくれたようです」

 

 「な、に?」

 

 雪片弐型を真上から振り下ろす為に完全に身体が伸びきった状態へ向けて、腰部の筒から小型のミサイルが至近距離で発射される。

 

 「マジかよ……」

 

 「切り札は最後まで取っておくもの……、それがプロフェッショナルですわ」

 

 次の瞬間、二人は爆風と閃光に包まれた。

 

  

 

 

 

 『試合終了。勝者、セシリア・オルコット――――』

 

 

 

 

 試合終了のブザーがアリーナに鳴り響き、割れんばかりの拍手喝采と共にクラス代表決定戦の勝者が告げられたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 IS学園・第3アリーナ 選手控え室

 

 

 

 

 

 

 「いっち、にー、さん、しー、っと」

 

 

 十畳ほどの広さの選手控え室に、ストレッチをしながら出番を待つ男がいた。

 

 「ごー、ろっく、しち、はち」

 

 全身を適度にほぐしながら、一組のクラス代表決定戦が終わるのを待っている。最後にうんっと伸びをしてストレッチが終わった時、控え室のドアが開きミナキが姿を見せた。

 

 「クラス代表決定戦が終わりましたよ、トウマ」

 

 「ミナキ……、それでどっちが勝ったんだ?」

 

 「勝者は、セシリア・オルコットさんですね」

 

 「……そっか」

 

 試合の結果を聞き一言そう呟く、トウマ。試合の結果を聞いて少し残念そうに眉を下げるが、予想通りの結果に納得して頷く。

 

 「一夏君は健闘したかい?」

 

 この質問にミナキは笑顔で、もちろんっと答える。

 

 「結果としては残念でしたが、本当に健闘しましたね~。今は疲労で気絶していますが、篠ノ之さんが診ていますしその内気がつきますから心配は要りません」

 

 「そっか、よくがんばったな、一夏君」

 

 「本当に、がんばりました。後で声をかけてやってくださいね、トウマ」

 

 ミナキの言葉に笑顔で頷くトウマ。自分達が力を貸して鍛えた少年の健闘ぶりに、思わず笑みがこぼれるのを自覚する二人。国家代表候補生相手に健闘できたのだから、一夏としても周りに力を示すいい機会になった事だろう。

 

 「さて、この様子だと俺の出番は午後くらいから、か?」

 

 「そうですね、トウマの言う通りになるでしょう」

 

 「なら、軽く腹ごしらえに行くか、ミナキ」

 

 「はい。一緒に行きましょう、トウマ」

 

 一夏達の試合が長引いた事もあって、一夏の体調を見計らって午後からの日程にずれ込む事になる事を見越して昼ごはんに向かう二人。いつものように連れ立って歩く姿は、どこかいつもより楽しそうに見えたのだった。

 

 

 

 「ところで、篠ノ之博士や織斑さん達はどうしたんだ?」

 

 「ああ、彼女達なら医務室で休んでいますよ」

 

 「なにかあったのか?」

 

 千冬達が医務室で休む原因が思い当たらないトウマは、ミナキに何があったのかを尋ねる。すると、ミナキは笑顔でこう答えた。

 

 「はい、私が作った健康ドリンクを飲ませて差し上げたんですよ。そうしたら、皆さん安らかにお眠りなってしまいましたので、とりあえず医務室に運んでおきました」

 

 「えっ? ミナキが作った健康ドリンクって……、まさか!?」

 

 「はい、以前クスハさんから教えてもらい、クスハさんと二人で改良を施した。『クスハの健康ドリンク、ミナキスペシャル』です!」

 

 ミナキから告げられた言葉で、自身の体に震えが走る。今思い出してもトラウマ物のドリンクの味とその後に訪れるドリンク効果を思い出し、複雑な思いを抱くトウマ。

 

 「ハ、ハハハ、アハハハハ、そ、そうか。三人とも目を覚ましたら元気百倍だな!」

 

 「はい! 効果は抜群の健康ドリンクですから、疲労なんて吹っ飛びます!」

 

 自信を込めてそう言い張るミナキに、空笑いでごまかすしか出来ないトウマ。

 

 「ハハハハ、ついでに記憶も吹っ飛ぶけどな……」

 

 「? 何か言いました?」

 

 「なんでもありません! サー、イエッサー!!」

 

 「? 早く御飯に行きましょう、トウマ」

 

 彼女達が目を覚ましたら、とりあえず侘びを入れなければ。そう思うトウマであった。

 

 

 

 

 

 




 いかがだったでしょうか。 今回は一夏とセシリアのかっこいい?お話でした。

 原作を読みながら自分の解釈を基に書きましたが、非常に長くなってしまいました。一夏の心理描写が主な原作ですが、そこにセシリアを加えてみました。途中セシリアの心理描写で父の事と母の言葉が云々の描写がでてきましたが、その真相は次回以降のお話で明らかになりますのでお楽しみに。

 感想でありましたクスハ汁を、今回クスハの健康ドリンク、ミナキスペシャルという形で使わせていただきました。
 ちなみに、クスハはα以降大きな対戦には関わることなく、ブリット君と毎日イチャラブしています。トオミネラボのご近所に、二人で一戸建ての家に暮らしているそうです。

 これからも、感想欄での提案、指摘などはよく読み物語に使えそうな物は使わせていただきます。

 では最後に、誤字・脱字、感想など、お待ちしております。
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