インフィニット・ストラトス~終焉の銀河の果てに~ 作:とっぷパン
IS学園・九日目 早朝・特別トレーニング室
「フッ……フッ……フッ……ほいっと、これで最後」
「さすがだな、トウマ君。生身でこれを全てかわせるのは、君ぐらいのものだろう。私はまだ半数ぐらいが限界だしな……」
「……ふー。織斑さんだって、いずれは出来るようになるさ。っていうか、一週間ぐらいでこの速度についてこられるんだから、中々どうして大したもんさ」
今私達は、早朝トレーニングの一環であるトレーニングをしていた。一夏の初戦が無事に終わり、あいつも自分がどれほどの強さかを認識できただろう。まったく、世界で初の男性操縦者などと大そうなレッテルを貼られなければ、今頃は普通に高校生をしていただろうに。何の因果か、こんな世界に入らせる事になったのは姉としては痛恨の極みだ。
「次は私の番だな。トウマ君、計測を頼む」
「おう、任せてくれ。怪我には気をつけてな、織斑さん」
「ああ、それではよろしく頼む」
目の前にいるこの男性、トウマ・カノウ。彼がミナキさんとこの世界に現れた時から、私、いや、私達の運命は間違いなく変わった。
束に付き合ってISを広めるために力を尽くしていこうと決めたあの日、白騎士事件と呼ばれることになったあの事件によってISの運命は歪んだ物になってしまった。そして、その日から私達は歪んでしまったISの運命を正すためにそれぞれの立場で力を尽くしてきた。
「それじゃあ、始めるぞー! 準備はいいかー、織斑さん」
「おうっ! いつでもいいぞ、トウマ君!」
だが、所詮は女二人の身。いくら力を尽くそうと、いくら世界最強などとモテはやされても、世界の認識の壁を壊すには至らなかった。
「じゃあ行くぞー! ……始め!!」
しかも、第二回モンド・グロッソでは一夏が拉致される始末。あの時ほど、自分が憎らしいと思ったことはない。なんとか無事に助け出す事ができたものの、一夏の心には大きな傷を残す結果となってしまった。
「フッ……フッ……クッ……フッ!」
それからすぐに選手としては引退を表明し、ドイツでの訓練教官などを経てこの学園に教師として赴任する事になった。当時は世間に色々と騒がれてしまって、一夏のやつにも迷惑を掛けてしまった。
「フッ、フッ……ぐっ!?」
そして、ついには男性操縦者として世界に出てしまった一夏。なんという運命だろうか、本当に神様と言うやつは信用できない。
「どうした、織斑さん。まだ、始まったばかりだぞ!」
「……大丈夫だ、続けてくれ」
そんな絶望とも呼べる運命に、トウマ君とミナキさんが現れた事によって不思議なものに運命が変化していっている気がする。音信不通の束が突然現れたり、世界最強の私にはじめてのライバルが出来た。
「フッ、フッ、……フッ」
ミナキさんは同い年とは思えないほど成熟した大人の女性だ。たまに天然じみたことをやらかす以外は、とても優しい人である。
「フッ、……フッ、フッ……ふんっ!」
トウマ君と腕を組んで歩いている姿を見ると、同じ女性として嫉妬してしまうほど絵になっている。まるで、長年連れ添ってきた夫婦のように楽しそうなのである。
「フッ……くっ!……フッ、せいっ!」
「よし、それまで! ……やるじゃないか、織斑さん。さっきよりも被弾した数が減っているぞ!」
そして、そんなミナキさんに愛されているトウマ君。彼はとても優しい男だと思う。少なくとも、私が二十四年生きてきた人生の中では一番好感の持てる男だろう。しかも単に優しいだけではなく、ダメな事はちゃんと注意してくれる意志の強さも持っている。
「ああ、ありがとう。一歩でも君の力に確実に近づけている、そんな実感が持てるよ」
「はは、それは良かった」
今も訓練の終わった私に、タオルとドリンクを差し出してくれている。この世界の男は、私のことを世界最強の女としか見ていない節がある。よって、私に言い寄る男は人体実験目当てのイカレタ科学者か、私の名声目当てのゲスなやつばかりだった。
「しかし、改めてこの特訓の内容を考えてみると、軽く自殺行為な気がしてならないな」
「まぁ、一般人から見たらそうだろうな。360度で囲んだゴム銃の壁からでるゴム弾2千発をかわし続けるのは、常人の思考では自殺行為だよな~」
そして、一夏のやつが結婚がどうのこうのといっていた時に反論してしまったが。あの時に一番最初に浮かんだ男がトウマ君だった。というか、彼しか浮かばなかった。そのことに気づいた瞬間、私の頭は真っ白になり、ついで身体の中心から暖かな熱が広がった。その熱がなんなのかが理解できないまま全身を駆け巡っていき、顔に伝わってきた時に赤面という形で顔に出てしまった。
「まったく、君の世界はファンタジーの要素が強すぎる」
「そうだな、そうかもしれない。でも、あの時俺が生き残りあらゆる命の為に戦うにはこうでもするしかなかったんだ」
「……そう、だったな」
理解できない初めての感情が身体を支配し、どこかふわふわした気分のままに可笑しな所で嫉妬心を表に出してしまう。この間の布仏の時がそうだった。たかだか15の小娘が彼の大きな背中に抱きついているのを見た瞬間、言い表せないほどの嫉妬心が私の身体を突き動かしていた。
「さてと、後片付けをして飯にするか」
「そうだな、もう腹が減ってしかたがない。早く片付けよう」
これが、ライバルとしての嫉妬なのかそれとも違うところから来ているのか、今の私には判断できない。だが、この思いを大事にしていきたい私がいる事も事実だ。
この先この思いがどんな物に変化するのか、私には想像もつかないが……。
とても楽しみである事だけは確かだ。
IS学園・朝 食堂
穏やかな日差しが差し込む食堂で、いつも通りの時間に食事をとる私。できれば授業が始まる前に、先生方にお話したい事があったのですけれど……。
「ミ、ミナキサン。それはいったい、何なんですか!?」
「フ~ン、フン、フ~ン。これですか? これはですね~、私が作った特製御飯です!」
「み、見た目が、謎の物質なんですけれど!?」
「フフフ、見た目はアレですけれど、味と栄養面は優秀なんですよ?」
私のクラス、一年一組の副担任のお二人が食事をしていらっしゃいました。ただし、トオミネ先生が御作りになれたモノに、山田先生が慌てていらっしゃいます。
「あ、あの、先生方。私もご一緒してもいいでしょうか?」
「ああ、オルコットさん! いいですよ、是非一緒に食べましょう! ね、ミナキさん!!」
「? いいですよ、一緒にいただきましょう」
洋風のモーニングセットを手に持ち、トオミネ先生の隣に座ります。焼きたての香ばしい香りが漂うクロワッサンと少量の瑞々しい野菜サラダ、それにふっくらとしたオムレツと紅茶がついた食欲をそそるモーニングセットが今日の朝食である。
「先生方、実は少しお話したいことがありますの。食べながらでかまいませんので、聞いてくださいますか?」
「お話ですか? いいですよ、私に出来る事でしたらなんでも相談してください!」
ムフー! っと言う音が聞こえそうなくらい嬉しそうに話す山田先生。失礼な事かもしれませんが、童顔でいらっしゃる事もあいまって同世代の少女に見えますわ。
「それで、お話とはなんですか?」
「はい、では早速本題から入らせていただきます。それは――――」
トオミネ先生に促されて、早速本題から話させていただきました。おいしい朝食をいただきながら、なにやら奇妙? 珍妙? とも言うべきトオミネ先生の朝食を出来るだけ視界に入れないようにしてお話しました。
「……本当にそれでいいんですね、オルコットさん」
「はいですわ、トオミネ先生。昨日一晩考えた上で、私が決断いたしました。本国にも連絡を入れて了解も得ました。ですから、、どうか私が言ったとおりにお願いいたしますわ」
「……そうですか、分かりました。ではその様に取り計らいましょうか、山田先生」
「そうですね、本人がいいのならば反対する事もないですし、彼ならば反対意見もないでしょう」
どうやら私の意見は通ったようですわ。昨日一晩じっくり考えた事ですから、反対されたらどうしようかと思いました。
「ありがとうございますわ、先生方。これで、胸のつかえが取れました」
「……青春ですね、オルコットさん」
「ほんとですね~。恋、してますね~」
「え!?」
な、なぜでしょうか。いきなりお二人にばれてしまいましたわ!? わ、私の恋心から来た物だという事が、なぜお分かりになったのでしょうか。
「そ、そのことはどうか御内密にお願いしますぅ」
「ええ、わかってますよ~。ね~、ミナキさん」
「そうですね。いつの時代でも、女の恋は秘めたる物と相場が決まっていますから」
にっこりと微笑むお二人に、急速に恥ずかしさが出てきた私は食事もそこそこにこの場を離れる事にしました。
「……わ、私、そろそろお暇いたします。あ、ありがとうございました、ですわ!」
「は~い、またあとでね。がんばれ女の子!」
「廊下は走っちゃいけませんよ~」
は、恥ずかしいですわ~!!
「行っちゃいましたね、オルコットさん」
「命短し、恋せよ乙女。朱き唇、褪せぬ間に。熱き血潮の、冷えぬ間に。明日の月日は、ないものを……」
食堂から慌てて去っていくオルコットさんを見つめながら、ミナキさんが何かの歌を優しく口ずさんだ。どこかで聞いたことのあるその歌は、私の耳にすんなりと馴染んで聞こえた。
「ミナキさん、その歌は?」
「……はい、この歌は私達の世界で旧世紀、所謂西暦と呼ばれた時代の日本。大正という元号で呼ばれた時代に流行した、『ゴンドラの唄』という歌謡曲だそうです」
「そうなんですか、そちらの世界にも大正時代が……。ゆっくりとした曲調ですけど、どこか懐かしくさせる歌詞ですね~」
私の感想に優しく微笑むと、ミナキさんはまた歌い出す。穏やかな日差しが差し込む食堂に、彼女の歌声が優しく流れていく。
「命短し、恋せよ乙女。いざ手をとりて、かの舟に。いざ燃ゆる頬を、君が頬に。ここには誰も、来ぬものを……」
目を閉じて聞き入ると、その時代に生きた人の様子が目に浮かんでくるようです。当時は今と違って、人の寿命は遥かに短く。尚且つ、変動激しい時代だったと小さな頃に習いました。
「命短し、恋せよ乙女。黒髪の色、褪せぬ間に。心のほのほ、消えぬ間に。今日はふたたび、来ぬものを……」
そんな時代を懸命に生きた人達の、恋の心を表現した歌なのでしょう。少なくとも、私にはそう感じられます。
「……真耶さん」
「なんですか?」
歌い終わると、ミナキさんはこちらを向いて私の名前を呼んだ。
「恋、してますか?」
「ふぇ!? こ、恋ですか?」
突然の問いかけに、思った以上に狼狽する。あれ、私今まで恋なんてした事あった? いやいやいや、いくらなんでも一度くらいは……。
「…………あ、ありましぇん」
「え?」
「私、恋なんてしたことにゃいんですよ~!?」
「あらあら、真耶さん泣かないでください」
なんと言う事だろうか。私はこれまでの人生で、一度も恋愛というものを経験した例がない。もう22歳なのに、女として恋の一つも経験がないなんて空しすぎる……。
「……私、恋できるでしょうか?」
「大丈夫ですよ、きっと真耶さんにも運命の人がいます」
「だといいですけど……。ほんとに、切実にそう願います」
男性が苦手な私にもいつの日か恋する時が来ることを、今は願うしかない。できれば、二十代で結婚したいな……。
命短し、恋せよ乙女。朱き唇、、褪せぬ間に、か。昔も今も、いつの時代でも女の盛りは短かったのでしょうね……。
「あ、私の御飯食べます?」
「け、結構です!」
ホントに命が縮みそうです。
IS学園・一年一組 授業・担当 ミナキ・トオミネ
「――では、一年一組のクラス代表は織斑一夏君に決定しました。あら、良く見ると一繋がりで縁起が良さそうですね」
「!?……え?……あれ、おかしいな。俺の目と耳がおかしくなったのかな?」
一時間目の授業始めにトオミネ先生が突然重大発表がありますと言って話し始めた内容に、クラス中、いや、正確には一夏と私二人が驚愕に染まった顔で驚いていた。トオミネ先生は笑顔で話し、クラスの女子生徒はこの話題に盛り上がっている。カノウさんは……、うん、驚いていた。トオミネ先生とオルコットの方を何度も見て、頭に?を浮かべながら首を傾けている。
安心しろ、一夏。私にも同じ光景が見えるし聞こえるぞ。
「あの、トオミネ先生」
「なんですか、織斑君」
当然のごとく一夏が手を上げて発言を求める。そうだ、一夏。是非とも真相の究明をするんだ!
「あの、俺は昨日の試合で負けましたよね。なのに、なんでクラス代表になっているんでしょうか?」
「そうですね、当然の疑問です。それでは、件のオルコットさんから事情を聞いてみましょうか」
「ふぇ!? わ、私ですか?……お、おほん。分かりました、説明させていただきますわ」
トオミネ先生から名指しされたオルコットは、なぜか狼狽して頬を紅潮させている。何故だろうか、私にとってとても面白くない事が起きる気がする。
「では、改めまして。私と戦い、一夏さんは敗れました。これは仕方のないことです。私はイギリス国家代表候補生として、今まで多くの時間を費やして訓練をしてきたのですから年季が違います」
うむ、それはそうだろう。さすがに、ISに関しては素人の一夏では到底勝てはしないだろう。
「ですが、あの試合で一夏さんは私にこの世界で戦っていく覚悟を見せ付けてくれました」
うむ、うむ。そうだな、いい事言うじゃないか。さすがは代表候補生だな。
「そして私は考えたのです。この弱肉強食の世界で、一夏さんが生き残るためにはどうしたらよいか」
ん? なんだ、何故それをオルコットが考える必要があるんだ?
「それは、このIS学園に在学中している時間で徹底的にISについて鍛え上げる事だと、私は考えました。そして、そのためには戦闘経験が必須事項なのですが、このまま私がクラス代表に納まってしまえばその機会が減ってしまいます」
むむ、一理ある。しかし何故オルコットが……?
「ならば、これからの事を考えて私が一肌脱ごう! っと考えた次第ですわ」
おおう、最近まで清楚で可憐なお嬢様だったのだが、一皮剥けた? のか。清楚なお嬢様は何処へ?
「近接格闘に関しては、カノウさんや篠ノ之さんといったお相手がいます。しかし、どうやら中・遠距離の対戦相手はいらっしゃらない御様子」
確かに、一夏の相手は私とカノウさんしかいない。織斑先生は教師だから、そう何度も個人に指導するわけにもいかないだろう。
まさか……!
「そこで、この私が中・遠距離の訓練相手として、一夏さんに協力して差し上げますわ!!」
そうきたか!! 何てことだ、反対する意味が微塵もない。それに、オルコットのあの目。あの目は恋する乙女の瞳ではないか!
「お、おう。そういうことだったのか。それなら、俺からも反対する事は出来ないな~」
くっ! 本当にしてやられた。だが、あくまで一夏はブレード主体の近接格闘専門。なら、いくらオルコットが訓練相手に加わっても私のほうが接近するチャンスがある。これを生かして、少しでも一夏との距離を縮めねば……。
「そうか、オルコットさんも手伝ってくれるのなら助かる。共に一夏の相手として、鍛え合っていこうではないか」
「あら、篠ノ之さん。一夏さんのご友人は私にとっても大事な方、私の事はセシリアと呼んでくださいな」
「なら、私のことも箒でいいぞ」
もう、恋の争奪戦は始まっている。その証拠に、セシリアの目が笑っていない。
「ウフフフフ」
「ハハハハハ」
「なんだ、二人とも目が笑ってないぞ! こ、怖いんですけど!?」
昔から想っていた私に、そうやすやすと勝てると思うなよ! セシリア!!
「は~い、二人とも。痴話喧嘩は授業後、存分にやって下さいね。わ・か・り・ま・し・た・か?」
「「ひゃい、分かりました(ですわ)!!」」
「…………」
トオミネ先生の目が笑っていない、顔はいつもの笑顔なのに……。背後に般若が見えるようだ。一夏も恐怖で顔が引きつっている。
「はい、では席についてくださいね。以上をもちまして、一組クラス代表は織斑一夏君に決定しました」
クラスの女子達から拍手が上がる。彼女達からしてみれば、男である一夏の方が何かと話題も上がるのだろう。
「じゃあ、授業を始めますね。教科書と参考書を準備してくださいね」
「「「「はい!」」」」
何事もなかったように開始される授業を聞きつつ、今後の恋愛展開、もとい、特訓の内容を考える。セシリアよ、一夏の隣は渡さんぞ!!
「篠ノ之さん。授業はちゃんと聞きましょうね?」
「ひゃい、しゅみましぇん」
くう~!! トオミネ先生怖い。真面目に聞かなければ、あのドリンクを飲まされるかもしれん……。それだけはなんとか回避せねば!!
IS学園・放課後 トウマの私室
本日も、いつものように集まって会話を楽しんでいる。今日は一夏君の事で驚かせられたが、オルコットさんの変化にも驚いたな~。まさに、恋する乙女。篠ノ之ちゃんも大変だな、こりゃ。
「それで、トウマ君。これからの戦闘訓練には、オルコットのやつも加えていく方針になるんだな?」
「ああ、そういう事になると思う。まぁ、こちらから見てみれば良い対射撃訓練が出来るから、まさに願ったり叶ったりの展開だな」
本当に、今日の事は渡りに舟だった。なんせ、まともに銃を扱えるのが山田さんしかいないからな。織斑さんは剣術主体の格闘型だし、俺は当然手足を使った近接格闘型。どちらも、射撃の事を教えるには向いていない。
「しかし、今朝ミナキさんから聞いたときは驚いたぞ。クラス代表としては申し分ない実力を持っていたから、まさか一夏にその役目を譲るとは思わなかった」
織斑さんが俺と別れた後に聞いたと言う話に、心底驚いたと語る。
「話を聞くと、イギリスの政府に直談判してまでの推薦だそうじゃないか。代表候補生としては、自国のアピールになったものを……。いやはや、恋ってのは凄いな」
今日感じたのは、オルコットさんが一夏君に対して恋心を抱いていることだった。何が切っ掛けかは分からないが、間違いなく一夏君に惚れていた。
「ふふ、トウマでもそう感じましたか。私も聞いたときには吃驚しましたが、同時に若い恋の力に感心しました」
「ふ~ん、あのオルコッちゃんがね~。ホントに大したものだね! ……っていうか、もしかして箒ちゃんピンチかな~?」
ミナキがなにやら失礼なことをサラッと言っていたが、確かに俺でも気づける程の分かりやすさだった。それが二人も居るんだが、とうの一夏君は全くと言っていいほど気づかない。篠ノ之博士の疑問については、そうでもないと思う。
「そうでもないと思いますよ、博士」
「お~、その訳はなんだね、まやっち!」
おっ、どうやら山田さんも俺と同じ意見のようだな。
「いままでの織斑君の反応を見るに、やはり幼馴染の得点は大きいですね。オルコットさんは、今の所良い競争相手、もしくは新たな仲間といった様子に感じました」
うん、うん。そうなんだよな~。なんだかんだ言っても、篠ノ之ちゃんの幼馴染の特権? が効いている。一夏君にとっては女の園で唯一の気の許せる女性であり、彼のことを良く分かっているのも肉親である織斑さんを除けば篠ノ之ちゃんぐらいだろう。
「ほう、そうなのか~。なら、束さんとしても安心していられるね~」
「そうですね、現状では比較的安心していられるでしょう」
まぁ、そうだろうな。山田さんが言ったとおりに、現状では篠ノ之ちゃんの一人勝ちだろう。……現状ではだが。
「まぁ、何にせよだ。一夏の味方になりそうな人間が、一人でも増えるのなら私は嬉しい。今回のオルコットの件は、少なくとも悪いことではないな」
「それに関しては、事実だな。彼女が加わってくれることによる戦闘経験の蓄積は、俺達だけよりも遥かに効率が良くなるだろう」
「トウマの言うとおりですね。彼女が協力してくれるならば、戦闘経験の蓄積は大幅に加速します。それと同時に、一夏君の戦術パターンも増やせるでしょう」
うん、良い事尽くめといったところか。実際の所そう上手くいくとは限らないが、訓練相手のバリエーションが増えるのはいいことだ。自分にどんな癖があり、苦手なことがあるのか。逆に、何処が長所で伸びやすいのかを見極める為にも必要なことだと思う。
「しかし、一夏君の仲間が増えるのはありがたいが、このまま行くと篠ノ之ちゃん達にとっての恋敵まで増えそうなのが難点だな」
「フフ、違いない。あいつは無自覚に女を惚れさせるし、生来の鈍さなのかまったく気づかないからな。……惚れた女が浮かばれんよ」
両手を挙げ、降参だといわんばかりのポーズで苦笑しながら話す織斑さん。きっと、小さい頃からこの手のことで手を焼いてきたんだろう。普段は凛とし佇まいの織斑さんが、真っ白に燃え尽きたように見える。
「昔からいっくんには手を焼いていたもんね、ちーちゃんは!」
「それは……、なんと言ったらいいか。お疲れ様です、先輩」
「フフフ、もう慣れっこさ」
ホントに、苦労したんだな織斑さん。そういえば、αナンバーズでも鈍いやつはたくさん居たな~。逆に、凱とか一矢みたいに惚れ込んだら一直線! 見たいなやつも居たけど。それぞれの周りが、四苦八苦して騒いだりしていたっけ。
「まぁ、一夏君の女性関係は一先ず脇においてだ。明日からの早朝特訓には、見学という形でオルコットさんに加わってもらうことにしよう。どうだろうか、織斑さん」
「確かに、初めから参加させるわけにもいかないからな。見学という形が無難だろう。それに、君の特訓風景に対するオルコットのリアクションが楽しみでもある」
「「「ハハハ、確かに!」」」
はは、明日からが楽しみだ。オルコットさんがついて来れるといいんだが……。まぁ、ついて来れなくとも乙女の意地で喰らいついてくるだろうがな!
いかがだったでしょうか。今回は、後日談的なお話でした。
千冬の心情に始まり、セシリア、箒、トウマで〆ました。本当は、ミナキの心情も書きたかったのですが、今回は歌を歌ってもらいました。大正の歌は風情と浪漫、それに歌詞がいいですね。その時代を反映した歌謡曲だと思いました。
ゴンドラの唄:1915年・大正4年 発表
次回からは、いよいよ皆の二組こと、凰・鈴音ちゃんの章に突入します。束さんがまともな分ゴーレムの扱いに困りますが、なんとか書き進めていこうと思います。
では最後に、誤字・脱字、感想などお待ちしております。