インフィニット・ストラトス~終焉の銀河の果てに~   作:とっぷパン

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 クラス代表戦が終わり、トウマ達はまた訓練の日々を送る。そこに、新たなる風が吹こうとしていた。


第二章~吹き荒れる中華の嵐、凰・鈴音編
第17話~新たなる風、凰・鈴音疲れる


 IS学園・IS実施訓練 担当教師・織斑千冬

 

 

 

 

 

 「では、これよりISの基本的な飛行訓練に入る。織斑とオルコットの二人は前に出ろ。お前達二人には、他の生徒の為に見本となってもらう。それと、カノウ君も前に来てくれ」

 

 クラス代表戦から早二週間位が過ぎ、四月も下旬となっていた。ISについての基礎知識も、その大半が実施訓練を伴うことで理解する物に変化している。要は、実際にISを活用しないと理解できない感覚的なものなのである。

 

 「織斑、いい加減に展開の感覚を覚えろ。熟練した者は、展開時間が一秒と掛からないぞ」

 

 生徒達の前に出て緊張しながら意識を集中している一夏君に、容赦なく注意する織斑さん。たとえ肉親であろうが、ISを理解させるためには容赦なく指導するのが彼女らしい。

 

 「一夏君、ISの展開はイメージが鍵だ。素早く展開するには、教科書通りじゃなくてもいい。自分に合ったイメージでやるといいぞ」

 

 「あ、ありがとうございます、カノウさん。…………俺なりのイメージ、か……!」

 

 俺がアドバイスを送ると、一夏君は右腕にある自身のISである白式の待機状態部分に触れた。集中する事数秒で彼の身に光の粒子が集まり、IS・白式が展開される。少し遅いが、全体的は及第点と言ったところだろう。

 

 「ふむ、まだまだ遅い。……が、イメージそのものは固まったようだな」

 

 「……幾つか候補があった物では、この仕方が一番しっくりくる気がする」

 

 「後はその感覚をひたすら磨け。地道で辛い反復練習こそが、素早い展開をするための一番の近道だ」

 

 「はい!」

 

 一夏君が元気良く返事をし、織斑さんがその様子を見て一つ頷く。そして、一夏君を指導した後はオルコットさんの番だ。

 

 「では、次にオルコット。お前が代表候補生として手本を見せてやれ」

 

 「はい、織斑先生」

 

 織斑さんからの指示が飛んで返事をした次の瞬間には、IS・ブルー・ティアーズが展開される。その展開時間は一秒にも満たない程短い。

 

 「お前達、これが代表候補生の集中力だ。そして、織斑。お前が目指す速度がこの領域だ、良く覚えておけ」

 

 「「「はい!!」」」

 

 オルコットさ……、もとい、セシリアちゃんが手本を見せて、織斑さんが生徒達に目標を示した。セシリアちゃんの展開速度まで行けば、確かに合格だろう。 

 

 「すげーな、セシリアは……」

 

 「これぐらい、訓練すれば誰でも出来る様になりますわ。反復練習あるのみです、一夏さん」

 

 一夏君が感嘆し、セシリアちゃんが得意げに胸を張って微笑んでいる。なんとも微笑ましい光景で、俺の中に眠る青春の心が刺激される。

 

 「では、次にカノウ君。国家代表以上の展開速度を見せてやってくれ」

 

 「おいおい、あんまり持ち上げないでくれよ。変に緊張するじゃないか、織斑さん」

 

 やたらとハードル高く上げられた上で織斑さんに指名され、変に緊張してくるのを感じる。いくらαナンバーズで鍛えられたからと言って、ここ一ヶ月くらいしか学んでいないISでは勝手が違うと思うんだが。

 

 「私並みか、それ以上の実力者がよく言う……。並みの国家代表など、君の敵ではあるまいに」

 

 「へっ、それは分からないさ。やってみなけりゃ、な」

 

 顔を近づけてヒソヒソと小さく呟く織斑さんに、俺は曖昧に答えを返す。実際の所、十年位ISと共に駆けて来た織斑さんと、たかだか一ヶ月程度の俺ではまだまだISの扱いに関しては差があると思うんだが……。 

 

 まぁ、それは脇に置いといて、今は生徒達に見本を見せるとしようか。

 

 「よーし、じゃあ皆。瞬きせずにちゃんと見てろよ!」

 

 「「「「……ゴクリ」」」」

 

 精神集中、イメージ構築。

 

 「こい! 雷鳥!!」

 

 頭の中でイメージか固まると同時に、相棒の名を勢いよく叫ぶ。すると、周囲に鳥の鳴き声が響き、一瞬にして雷鳥・改が展開される。稲光りを纏いながら身体の各部位に展開される装甲やパーツは、従来のISとは違いより人に近い構造になっている。その分他のISに比べて、幾分か小さくなってしまうのは少し残念な所でもある。

 

 「「「「おおーっ!!」」」」

 

 「なんというか、俺達のIS展開に比べて、カノウさんの雷鳥・改の展開は神秘的なところがあるよな」

 

 「本当ですわね、一夏さん。あのISからは力はもちろんのこと、神秘的な雰囲気が感じ取れます。私達のISとは何かが決定的に違う、そんな感じがいたしますわ」 

 

 おっと、意外と鋭いな二人とも。この雷鳥・改の異質さに気づきかけている……。まぁ、気づいた所で確認のしようも無いんだがな!

 

 「しっかり見たな、お前達。これが、オルコットや他の代表候補生の上を行く存在だ。実力については先の戦いを見ても分かるだろうが、各国家代表と比較しても遜色が無い実力だ。故に、お前達がもっとも身近で見れる国家代表級の人物が彼だ」

 

 なんとまぁ、持ち上げてくれちゃって……。織斑さんの説明を聞いた生徒達の目が、マジンカイザーの光子力ビーム並みに輝いてるぞ。

 

 し、視線が痛い……。

 

 「は、はは。まぁ、少し大げさかもしれないけど、皆の参考になれば俺は嬉しいよ」

 

 「フフ、そう謙遜するなカノウ君。君の実力はブリュンヒルデの私が保証するんだ、それは誇ってもいいことだぞ」

 

 や、やめてくれ、織斑さん。これ以上生徒達を興奮させないでくれ、視線で悶え死んでしまう。こら、一夏君! 君まで光子力ビームを乱射するんじゃない! セシリアちゃんは一見微笑んでいるように見えるが、細めた目の奥に他の生徒たちと同じ光が宿っているのが俺には見える。

 

 「……さて、そろそろカノウ君をいじるのはやめにして、授業の続きをするか」

 

 「おい、こら。やっぱりわざとだったのか、織斑さん」

 

 からかう様なな顔つきから一転して、真面目で凛々しいいつもの織斑さんに戻る。しかし、いくらキリッとした顔で言っても、俺をからかっていた事実は変わらない。

 

 「ククッ、言っている事は嘘ではない。ちょっとした茶目っ気だよ、カノウ君」

 

 「……勘弁してくれ、織斑さん。俺にも人並みの羞恥心があるんだ……」

 

 いくら銀河を救ったって言ったって、元々は普通の一般人だったんだ。どんなに強くなっても、大勢の人から注目されるというものには中々慣れないな。人より度胸は有るつもりなんだが……。

 

 「では、先に展開した二人は上昇した後にその場で待機。カノウ君は二人が上空で待機が完了した後に、比較対象として同じ事をやって貰う」

 

 「「はい!」」

 

 「了解だ」

 

 さて、お遊びはここまでにしてここからが本番だ。今日の授業の本題は、初心者、代表候補生、初心者なのに凄い男の三人による比較を目的とした内容になっている。基本的な動きによって、どの程度の差が出るのかを知るために企画した授業だ。生徒達はもちろんのことだが、実質的には一夏君のための授業といっても過言ではない。

 

 「よし、では上昇開始!」

 

 「いくぜ!」

 

 「行きますわ!」

 

 織斑さんの合図に合わせて、二人がPIcを制御しながらアリーナのバリアが展開されている10m手前まで上昇していく。やはり、上昇一つとっても差が出るようで、二人は徐々に離れていく。もちろん、一夏君が遅れている状態だ。

 

 「よし! そこで待機しろ!……この様に、上昇一つとっても訓練をしている者とそうでない者では差が出る。たとえ専用機のスペックで分があろうとも、実力の差で違いがでる。では、次にカノウ君に見せてもらう」

 

 「おう、じゃあ言ってくる」

 

 織斑さんが二人のISの操縦を解説した後に、俺が上昇を開始する。PIcを上昇の操作に切り替え、真っ直ぐ上昇していく。ハイパーセンサーを通してみる景色が、見る見るうちに空の青色一色に染まっていく。このアリーナはバリアが張られている限界が大体上空1050m付近で、大きさは1050×680=714000平方メートルの巨大なドーム型の訓練場だ。その巨大なアリーナの上空限界まで、数秒と掛からずに上昇しきる。

 

 「さ、さすがに速いですね、カノウさん。俺とはぜんぜんスピードが違うし、上昇体制も安定してる」

 

 「はは、こればっかりは訓練あるのみさ。さっきも言ったと思うが、イメージが決め手になる物は自分自身で構築しなければダメだからな、一夏君」

 

 「でも、己の前方に角錐をイメージするって説明から考えると、どうにも上手く感覚が掴めなくて……」

 

 一夏君はどうにも教科書や参考書を基本にして考えているようで、まだ自分の中でのイメージが出来ていないようだった。まぁ、自分の前方に角錐をイメージするなんて言われてもピンと来る筈も無いからな。

 

 「一夏さん、所詮参考書などに書かれている記述は、あくまでも参考程度に捉えた方がよろしいですわ。御自身の中で創造し構築しなければ、頭も身体も覚えてはくれませんもの」

 

 「うーん、そうは言ってもな~。空を何もしないで漫画みたいに飛ぶって感覚が掴めてないからさ、どういう風にイメージしたら良いか解らないんだ」

 

 セシリアちゃんのアドバイスに、頭をひねりながらそう答える一夏君。自身の機体を見ながら、うんうんと唸りながら考えているようだ。

 

 「ははは、イメージは何でもいいんだ。翼を持った鳥でもいいし、飛行機や戦闘機でも良い。それを自分に当て嵌めて突き詰めていけば、自分に合った物が見つかるはずさ」

 

 「……ってことは、結局の所」

 

 「そう、訓練有るのみだな!」

 

 俺がそう言うと、一夏君はがっくりと肩を落とした。わははは、上達するには近道なんて無いんだよ一夏君。

 

 「がんばりましょう、一夏さん。私達がついていますわ」

 

 「ははは、……お願いします、セシリア大明神様!」

 

 「大明神って、中々に古い言葉を知っているな……」

 

 「だいみょうじんですか……。なにやらよく解りませんが、頼りにされている事は理解できましたわ!」

 

 ムフー! っと満足そうに胸を張るセシリアちゃん。一夏君は空中で土下座をしそうな勢いであるが、そろそろお喋りを止めないと……。

 

 『こら! いつまで無駄話をしている!』

 

 「「ひゃい、すみません!」」

 

 ほら、織斑さんから雷が落ちた。

 

 「すまない、織斑さん。そっちの解説が終わるまでのつもりだったんだが、つい話し込んでしまったな」

 

 『そうか、気をつけてくれよ。今は授業中だぞ、カノウ君』

 

 「ああ、分かった。これからは気をつけるよ、織斑さん」

 

 織斑さんの怒声に萎縮してしまっている二人に代わって、俺が無難に織斑さんをなだめる。一夏君は普段から叱られる立場にいるから条件反射で縮こまり、セシリアちゃんは憧れのブリュンヒルデからのお叱りに縮こまっている。

 

 『さて、次に行ってもらう動作は急降下、完全停止の二つだ。これは、オルコットから先にやって貰う。次に織斑、カノウ君と続くように。なお、完全停止の目標は地面から10センチとする』

 

 どうやら織斑さんをなだめる事には成功したようで、次の動作訓練に移るようだ。叱られた二人も、ホッと息をはいて真剣な顔になる。

 

 「了解しました。それでは、早速私から行かせて貰いますわ。一夏さん、カノウさん、お先に」

 

 俺達にそう言うと、セシリアちゃんはすぐさま急降下に入る。肉眼では追えない様なスピードを出しながら降下していき、見事に地面から10センチの所で停止することに成功した。下で見ていた生徒達から歓声が上がる。

 

 「次は俺か……。カノウさん、逝って来ます」

 

 「ん? 何か字面が違って聞こえて――――」

 

 俺が話し終わる前に、一夏君がもの凄いスピードで降下していく。その速度は、明らかに先に降下したセシリアちゃんを上回っていたが……。

 

 「うわああぁぁーー!?」

 

 一夏君が悲鳴を上げながら落下していく。アレは拙い!!

 

 「うおおぉぉーー!!」

 

 あのまま行くと、確実に生徒や織斑さん達に影響が出る。そう考えた瞬間に、雷鳥・改の全スラスターと推進バーニアを全開にして急降下していく。地面まであと10メートルをきった所で、白式を追い抜き前方に回りこむ。

 

 「カ、カノウさん!? 危ない、このままじゃぶつかる!!」

 

 「そのまま、真っ直ぐ落ちて来い! 軌道を逸らさないようにな!!」

 

 地面との衝突まで後5メートルを残した所で、雷鳥・改が白式を正面から受け止める。くっ! 思ったよりもパワーがある!

 

 「ならば!」

 

 「え? うおっ!?」

 

 白式の有り余るパワーを正面から受け止めるには、地面との距離が近すぎて衝突は避けられない。それが分かった時、俺は白式のパワーを逆に利用することにした。

 

 「せい! せい! せい!」

 

 「ちょ!? カノウさん、目が回る~!?」

 

 白式の腕を掴んで、ジャイアントスイングの要領でパワーを逃がしながら振り回す。一夏君には悪いが、地面と激突するよりは遥かにマシだろう。

 

 「せーーい!!」

 

 「うわああぁぁーー!!」

 

 最後に、全出力をつかって白式を上空に投げる。

 

 「さて、もう一頑張り!」

 

 真っ直ぐに上空へと投げ出された白式は、先ほどの落下よりは遅いスピードで上昇していく。それを受け止めるべく、俺はもう一度上空へと飛び上がった。

 

 「ほいっと。大丈夫だったか、一夏君」

 

 「は、はい~。目が回っていること意外は、なんとも無いみたいです~。あ~あ~、世界が回る~」

 

 「はは、どうやら無事なようだな」

 

 目を回している以外は、体に異常もなさそうだ。まぁ、なんにしても誰も怪我をしなくて良かった。

 

 俺は白式を脇に抱えたまま、ゆっくりと降下していく。下では、心配そうな顔つきで待っている生徒達がこちらを見ていた。その中でも特に心配そうな表情なのが、箒ちゃん、セシリアちゃん、織斑さんの三人だった。

 

 「無事か、一夏!」

 

 「大事はありませんか、一夏さん!」

 

 「…………」

 

 地上についた俺達は、心配して駆け寄ってきた三人に囲まれた。箒ちゃんとセシリアちゃんが心配そうに尋ねてくる中、織斑さんは無言で触診などをして怪我が無いか確かめている。

 

 「……ふむ」

 

 そして、怪我無い事を確かめた織斑さんは、おもむろに立ち上がり右手を上に上げた。あ、これはもしかして……。

 

 「……私達を殺す気か! 馬鹿者!!」

 

 「ぐべらっ!?」

 

 天に向かって掲げた右拳を、もの凄い怒声と共に振り下ろす。ガンッ! っという音と共に、一夏君が地面に殴り付けられる。

 

 「「織斑先生!?」」

 

 「まあ、こればっかりは仕方が無いか……」

 

 突然の織斑さんの怒声と拳骨に、心配そうに見ていた箒ちゃん達は混乱しているようだ。でも、こればかりは自業自得といったところで、俺も織斑さんを止めようとは思っていない。

 

 「ぐっ……、ち、千冬姉?」

 

 「お前はISを纏っているから良いものの、下に居る私達は生身の人間だ。そんな所に、イグニッションブーストで特攻をかけるやつがあるか!!」

 

 「ご、ごめん、千冬姉……」

 

 やはりあの時の異常な加速は、イグニッションブーストによる急加速だったか。それじゃなきゃ、雷鳥・改を押し切る力を今の一夏君が出せるわけが無いからな。

 

 「いいか、他の者達もよく覚えておけ! 操縦・操作を一歩間違ったら、ISは人を殺める事の出来る兵器だ!!」

 

 「「「「…………」」」」

 

 「以前、トオミネ先生が言っていた事がコレだ。宇宙空間というとてつもなく苛酷な環境での活動を目的に開発されたパワードスーツが、地球上で活動をしたら当然こういう事態が必ず起きる」

 

 織斑さんは、篠ノ之博士と共にISに関わってきた初期の人物だ。それ故に、ISの持つ危険性も強く感じてきたのだろう。普段見ないほどの剣幕で生徒達に教えている。

 

 「それを未然に防ぐために、確かな操縦技術を教えるのが此処IS学園だ。いいか、この学園に在籍する三年、もしくは六年間みっちり勉学と訓練に励め。でなければ、お前達は何時か人を殺すことになる」

 

 ふむ、ミナキが前に教えたことを上手く理解出来ていなかった子も多いようだな。多くの生徒達が、織斑さんの剣幕に萎縮している。

 

 「だから、そうならない為にも必死に学べ。そして織斑、お前は人一倍の努力が必要だからな」

 

 「「「「はい、織斑先生!!」」」」

 

 最後は皆を諭すように優しい声で話したお陰で、萎縮していた生徒達も真剣な表情になり返事をした。

 

 「ほら、立てるか一夏」

 

 「うん。……ごめん、千冬姉。それと、心配してくれてありがとう」

 

 「ああ、心配したぞ。お前に怪我無くてよかった」

 

 「カノウさんのお陰だよ、千冬姉」

 

 さっきまでの怒りの剣幕はなりを潜め、一転して家族を心配する姉の顔で話す織斑さん。やはり、かなり心配していたようだ。

 

 「ありがとう、トウマ君。今回は本当に助かった」

 

 「なに、コレも大人の務めさ。誰も怪我が無かったんだから、俺としては何も言うことはないよ」

 

 本当にすまなそうにお礼を言われたが、俺としては今回の出来事は必要不可欠な出来事だったと思う。それが偶々一夏君に割り当てられただけで、この事は誰にでも起き得る事だと感じたからだ。

 

 「それに、ちゃんと織斑さんが叱ってくれたからな。俺がこれ以上叱る事もないさ」

 

 「フッ、そうだな。今回出来事で、あいつらも認識が出来ただろうしな。己が扱うISという物の危険性について少しでも理解してくれれば、この馬鹿がやったことも一つの価値が見出せる」

 

 弟の頭を小突きながら話す織斑さんに、いてっ! っと言いながら複雑な顔で苦笑いしている一夏君。織斑さんに心配させてしまったことの悔しさと、皆の為になったことで複雑な心境になっているみたいだな。

 

 「良かったな一夏君。偶然とはいえ、まだ未修得のイグニッションブーストも出来たし。皆の知識もより深い物になった。正に、怪我の功名だな」

 

 「からかわないでくださいよ、カノウさん。あの時は滅茶苦茶怖くてよく覚えていないし、結果的には皆の為に成ったって言っても失敗には違いが無いし……」

 

 「わははは。それこそ、特訓有るのみだな!」

 

 がっくりと肩を落とす一夏君。色々と心に効いたようだが、彼の目はやる気に満ちているようだった。

 

 「さて、織斑。一つ課題が出来た所で、お喋りは終わりだ。授業に戻るぞ」

 

 「はい、織斑先生!」

 

 「お前達もお喋りは終わりだ。次の指導に移る」

 

 「「「「はい!!」」」」

 

 さて、次の授業に集中するとしますか。

 

 

 

 

 

 「では、織斑。次は武装を展開して見せろ」

 

 「分かりました、織斑先生」

 

 さっきはカノウさんに助けられて事なきを得たが、今度は成功させる自信が有る。この時期というか、一年生はあまりアリーナの使用時間が多くは貰えずにいる。

 

 「よし、では始めろ」

 

 だが、広さが十分に取れる場所で、尚且つ学園の教師が居る時ならば、アリーナ以外での武装展開は認められている。

 

 そのことを千冬姉に教えられてから、早朝トレーニングの時間に武装展開の訓練をカノウさんに頼んで入れてもらった。カノウさんは笑顔で賛成してくれて、セシリアと一緒に苦手克服の為に努力してきた。

 

 「…………」

 

 精神を集中し、自分の中で雪片弐型のイメージを作り上げる。右手を突き出し、手の中に鋭い武器を呼び出すイメージを固める。右手に光が集まり、一瞬にして雪片弐型が形成される。

 

 「よし。合格だ、織斑。訓練をした甲斐があったな」

 

 「いえ、先生や仲間が居たお陰です」

 

 珍しく、千冬姉が人前で褒めてくれた。公衆の面前で褒められるのは、嬉しくもあり恥ずかしくもあるな。猛烈に面映くなってきた。

 

 「ふむ、その気持ちと展開の感覚を忘れずに、これからも励むように」

 

 「はい、分かりました!」

 

 はは、照れくさいことこの上ないな。せっかく千冬姉が教えてくれたんだ、もっと早く展開できるように訓練しなければ。それに、もっと鍛えていけばまた褒めてくれるだろうし、照れくさいけどそれ以上に嬉しい。

 

 「次ぎ、オルコット。各武装の展開をして見せろ」

 

 「はい、ですわ」

 

 おっと、変な妄想をしている場合じゃないな。セシリアの番だ。

 

 セシリアはまず、主兵装であるスターライトなんちゃらを展開した。我ながら情けない事ではあるが、いまだによく覚えていない名前である。

 

 「よし、ポーズも問題は無い。前回指摘したことを、ちゃんと改善できたようだな」

 

 「ありがとうございます、織斑先生」

 

 「では次に、近接兵装を展開してみろ」

 

 千冬姉に言われた次の瞬間には、セシリアは右手にインターなんとかを展開していた。俺の雪片弐型とは違い、西洋の近接用ショートブレードを模した実態剣である。

 

 「ふむ、ブレードの展開も素早くなったな。初めて訓練をした時とは段違いに成長した。合格だ」

 

 「お褒めに預かり光栄ですわ、織斑先生」

 

 セシリアも、千冬姉に褒められて嬉しそうに微笑んでいる。一緒に訓練した仲だから分かるが、最初の訓練で二人とも千冬姉にボロクソ言われたからな。カノウさんは爆笑していたし、メッチャ恥ずかしかった事を覚えている。 

 

 「では、最後にカノウ君。君が見せてくれ」

 

 「ん? 一応軽く基本武装は積んで有るけど、それを出す感じでいいのかい?」

 

 「ああ、それで構わない。早速やってくれ」

 

 「そんじゃまぁ、一通りメドレーでやってみるか。……まずは、これだ」

 

 千冬姉からそう言われると、カノウさんはまず打鉄の日本刀型ブレードを展開した。一瞬の内に集中し、瞬きをする間も無く展開を終える。本当に速い展開速度だった。

 

 「ほい、次はコレだ」

 

 そう軽く言うと、一瞬でブレードを量子格納して新たな武装を展開した。次は、同じ量産型ISであるラファール・リヴァイブの中距離射撃型武装、ガルムだった。さっきはブレードを展開したのに、まったく変わらない速度でアサルトカノンを展開している。

 

 「さらに、コレだ」

 

 そして、次々といろんな種類の武装が展開されていく。だが、展開速度は微塵も変わらない。

 

 「コレで最後かな」

 

 そして最後に、ゴツイ鉄球を取り出してフィナーレとなった。……あれ? あんな鉄球あったかな?

 

 「見事だ、カノウ君。速度、ポーズ、多様性。どれを取っても合格点だ」

 

 「ありがとう、織斑さん。今日の為に色々積んどいたから、もう拡張領域はパンパンだよ」

 

 「すまない、ISにも無理をさせたようだな」

 

 「なに、汎用性が高いのが売りの機体でね。コレくらいは大丈夫な仕様さ」

 

 千冬姉は疑問を持っていないようだし、きっとどこかの会社で作成した武装なのだろう。うん、そうに違いない。

 

 「はぁ~あ。やっぱり凄いな、カノウさん」

 

 「そうですわね、一夏さん。さすがの私も、アレだけの武装を同じ速度で展開するにはまだまだ訓練が足りません。ですが、いつか必ずあの領域に達してみせますわ!」

 

 「そうだよな。俺達だって、一歩でも近づけるように訓練しなきゃな!」

 

 カノウさんは、あらゆる面で俺の先を行く先輩だ。操縦技術だけじゃなく、精神的な面、肉体的な面でも今の俺では足元にも及ばない。正に、目指すべき目標がカノウさんである。

 

 「よし、キリの良い所で終わりにしよう。今日の実習はコレまで。明日までに、今日の実習のレポートを提出するように。解散!」

 

 「「「「お疲れ様でした!!」」」」

 

 でも、俺だって男だ。今は無理でも、いつか必ずカノウさんや千冬姉に追いついてみせる。高い壁を乗り越えた先にはきっと良い景色が広がっていることを信じて、今はひたすらに訓練に励もうと、そう思ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 IS学園・夕刻 正門前

 

 

 

 

 

 

 「ふぅん、此処が天下のIS学園か~。広すぎでしょ、ここ」

 

 夜とは言いがたいが、夕方とも言いがたい時間に、私、凰・鈴音はIS学園にいた。一般的な女性としては小柄な身体に、肩からボストンバッグをぶら下げて辺りを見回す。

 

 長く伸ばしている自慢の髪をツインテールにして、その髪が夜風? に舞っている。うん、我ながら絵になる描写だわ。

 

 「えーと、総合受付って何処にあるんだっけ?」

 

 お気に入りの上着から、くしゃくしゃになってしまった地図を取り出す。此処にくる前に何回も見直したから、もはや和紙に近い手触りとなっている。まぁ、私が大雑把なだけなんだけど……。

 

 「本校舎一階事務受付……ねぇ。何処にあるのか、皆目見当がつかないわ」

 

 地図を見た時でさえ広いと感じたけど、実際来て見るととんでもなく大きい施設ね。これからの学園生活が不安で仕方ないわね。私、迷子にならずに過ごせるかしら。

 

 「誰かいないかしら。事務員とか、学園の教師とか……。あっ! 第一学園人はっけ~ん!」

 

 薄暗い電灯が点いている道に、私とは反対側から歩いてくる女の人がいた。うん、間違いなく此処の教師だわ。見た目優しそうだし、あの人に聞いてみようっと。

 

 「すいませーん、学園の関係者の方ですか~」

 

 「え? あ、はい、そうですよ。私はIS学園の教師、トオミネ・ミナキです。貴女は?」

 

 良かった。どうやらこれで、着いて早々迷子にならなくて済みそうだ。

 

 「はい、今日中国から転入してきました、凰・鈴音です。よろしくおねがいします、トオミネ先生」

 

 「あら、貴女が中国国家代表候補生の凰・鈴音さんだったのね。学園から迎えが出る予定だったのだけど、どうやら時間より早く着いてしまったようですね」

 

 「すみません、待ちきれなくて先に来ちゃいました」

 

 優しそうな先生だったから、つい本音が出てしまった。く~! 恥ずかしい失態だわ。

 

 「あらあら、それではしょうがないですね。じゃあ、私が学園を案内してあげましょうか?」

 

 「はい、是非お願いします。……実は、本校舎一階事務受付って所が分かんなくて困っていたんです」

 

 「フフ、迷子ってやつね。それも仕方ないわ。だってこの学園は、人が住むには広すぎる敷地ですからね。初めて来た人には不便でしょう」

 

 「……お恥ずかしい限りですが、その通りです」

 

 迷子って言葉を言われた瞬間に、また顔が赤くなるのが自分でも分かる。は、恥ずかしい~!! 大人の女性に指摘されるのがとても恥ずかしいわ。

 

 顔を赤くしたまま、私とトオミネ先生は歩き出す。私は恥ずかしさのあまり、終始顔を俯けて歩いていた。

 

 「……あの、トオミネ先生。一つ聞いていいですか?」

 

 「なんですか? 私で答えられる事なら答えますよ」

 

 「あの、織斑一夏って居ますよね。男の子で男性操縦者の織斑一夏」

 

 「ええ、居ますよ。彼は一組に在籍しています」

 

 そっか、一組か。同じ組になれるといいな、一夏とは。知り合いだし、幼馴染だし、す、好きな人だし!

 

 「そうですか。……あの、あいつ元気にしてますか? 一組で孤立とかしていないですか? 恋人とかまだ居ませんよね?」

 

 「あらあら、そんなにいっぺんに聞かなくても、ちゃんと答えてあげますよ」

 

 「す、すみません!」

 

 慌てて色々聞きすぎた私を、トオミネ先生が優しくたしなめてくれた。優しくて、綺麗で、スタイルもいいなんて、女として羨ましすぎるわ。私とは全然タイプの違う人だ……。

 

 「まず、一夏君は元気にしていますよ。一組で孤立もしていませんし、今の所恋人関係になった人も居ません。まぁ、惚れられている女の子は何人か居るようですけどね。貴女のように、ね」

 

 「ふみゃ!? な、何故それを?」

 

 何故? 初対面なのに、思いっきりばれているのは何故? もしかして顔に出てたのかしら。私、顔に出やすいタイプだから……。

 

 「顔に出ていますよ、っと言いたい所ですが。正確に言うならば、雰囲気や言動、その他もろもろから分かりました」

 

 「そ、そうですか。よく見ていますね」

 

 「えっへん! コレでも科学者ですから、どんなに小さな反応でも見逃しませんよ!」

 

 そう言って、トオミネ先生はムフーっと自慢げに胸を張った。大きな胸が強調されているポーズに、私は羨望を禁じえなかった。いいな~、大きな胸の人は……。

 

 「……いいな~」

 

 「ん? 何か言いましたか?」

 

 「い、いえ! なんでもないです!!」

 

 おっと、うっかり声に出していたようだ。拙い、拙い。ほんとに色々出やすいな、私は。

 

 しばらく他愛もない会話をしながら、学園の夕闇の中を二人で歩く。話しやすい人に出会ったことで、色々とお喋りをしてしまった。私と一夏の関係性や、恋心、何故この学園に来たかなど、恋する心がばれてしまったこともあってか随分話し込んでしまった。

 

 「さて、此処が一階事務受付です。後は事務の職員さんに聞けば分かると思いますから、私はこの辺で失礼させていただきますね」

 

 「いえ、案内していただきありがとうございました。此処からは私一人でも出来ますので」

 

 「そうですか。それでは、また授業で会いましょうね。凰・鈴音さん」 

 

 「はい、また授業でお世話になります。ありがとうございました」

 

 笑顔で去っていくトオミネ先生を見送りながら、私は受付の方に向き直る。やっと着いたわね、ほんとに広すぎるわよ此処。

 

 「すみません、明日からお世話になる凰・鈴音です。転入手続きをお願いしたいんですが」

 

 「はい、ようこそIS学園へ。中国国家代表候補生、凰・鈴音さん。すでに、大方の手続きは中国軍広報特別対策室の劉・小燕様が行っていますので、後はこの書類に記入していただくだけです」

 

 「さっすが、劉さん! 相変わらず仕事が速いわ」

 

 すでに面倒な手続きは劉さんがやってくれていて、私がやることはこの紙一枚に名前を記入することだけだった。本当に良い人で、私の密かな憧れの女性である。スタイルも良いし、美人だし、性格もとっても良い人だ。まぁ、独身であることだけが憧れることが出来ない所ではあるが……。

 

 「はい、これで手続きは完了しました。改めまして、IS学園にようこそ。凰さんは二組に所属となります。これから頑張っていきましょうね!」

 

 「ありがとうございます。これから色々とお世話になります」

 

 はぁ~、一夏と同じ組にはなれなかったけど、同じ場所に居るんだから一気に距離を縮めてみせるわ。私の名誉を掛けて!!

 

 

 

 

 

 「所で、お姉さんの名前はなんていうんですか?」

 

 「あ! そういえば言ってませんでしたね。では改めて自己紹介させていただきます」

 

 ん? なんだろう。お姉さんが自分の首もとに手を掛けて……?

 

 「ふ、ふ、ふ。あるときは学園の事務員のお姉さん。またあるときは普通の一般人」

 

 え? え? なに、なんなの? って、イヤー!? お姉さんの顔の皮がはがれていく~!?

 

 「しかしてその実態は! 学園に来た世紀の天才科学者、篠ノ之 束さんだよ~ん! いえぃ! ブイ、ブイ!!」

 

 「えぇーー!!?? 篠ノ之 束博士!?」

 

 顔に貼り付けていた変装用のマスクを剥ぎ取った中から出てきたのは、IS業界では知らないものはいない有名人。天才・篠ノ之 束博士その人だった。

 

 「ほほ~ん、君が鈴ちゃんか~。いっくんを好きな箒ちゃんのライバルだってね~」

 

 「え? なにがどうなっているの? 私、夢でも見てるのかしら?」

 

 いきなり起こった事態に、私の脳がパンクしてしまっている。何で此処に博士が? あれ? 今サラッと重要なことを言わなかった? あ~も~う! わっけ分かんない!!

 

 「ふむふむ、元気そうな子だね~。礼儀も良いし、態度も合格だ。うん! 箒ちゃんの恋のライバルに申し分ないね! 合格、合格~!!」

 

 「はぁ。ありがとうございます、篠ノ之博士」

 

 着ていた服も完全に脱ぎ去り、中からファンタジーな服があらわになった。いつの間にか頭にメタリックなウサ耳が付いていて、見た目がえらいファンタジーな人が出来上がった。こ、これが、あの天才篠ノ之博士か。

 

 「じゃあ、束さんは満足したから帰るね~。ばいば~い!!」

 

 「あ、はい。さようなら、篠ノ之博士」

 

 「あははははー!!」

 

 そう言うと、篠ノ之博士はもの凄いスピードで走り去っていった。はは、本当に自由な人だな。私の意志は完全に置き去りだわ。

 

 「……なんかどっと疲れたわね。さっさと寮の部屋に行こう」

 

 学園に来て出会った二人の人物が極端に違いすぎて、私はいきなり疲れてしまった。

 

 「劉さん、私ここで上手く暮らせるのかな~」

 

 今は遠い祖国にいる劉さんに向けて不安を零し、私のIS学園最初の出来事は幕を下ろしたのだった。

 

 う~、不安で胃が痛くなってきたわ。生きて無事に卒業できるかしら、私……。

 

 

 

 




 いかがだったでしょうか。今回から新な章に突入です。

 原作で何気なく流された一夏の墜落シーンですが、本来だったらこんな事も有り得たんじゃないだろうかという訳で、千冬さんの説教が入りました。

 いよいよ、我らが二組の凰・鈴音ちゃんの登場です。原作、アニメ共に出番が少ないといわれている不憫な子ですが、この小説内では輝かせてやれるようにしたいです。

 そして、何気にまた登場した劉さん。万能な姐御キャラとなっております。姐御肌っていいですよね。私は憧れます。

 ではいつもの様に、誤字脱字、感想などお待ちしております。

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