インフィニット・ストラトス~終焉の銀河の果てに~   作:とっぷパン

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 日が暮れて夕食の時間となった時、少年にささやかな宴が待ち受けていた。そして、その頃トウマ達は――――


第18話~少年の宴とその後の少女

 IS学園・放課後 一年寮・食堂

 

 

 

 

 

 「――と言う訳で! これより織斑君のクラス代表就任を祝って、ささやかながらパーティーを開くことになりました!!」

 

 「いよっ! 御大臣!!」

 

 「おめでと~!」

 

 パーティー用のクラッカーが咲き乱れ、一年寮の食堂には多くの女子生徒と二人の男子生徒が集まっていた。各々が手にジュースやお菓子を持って盛り上がっている。まぁ、男子といっても子供は俺しか居ないけどな。

 

 俺の頭に降って来た紙テープが、実質以上の重さになって心に圧し掛かる様だ。何でこんな事になったんだっけか?

 

 「織斑一夏クラス代表就任パーテー……。何故かな、ちっとも嬉しくないや」

 

 そうだ、俺が負けたのがそもそもの原因だったな。仕方が無い事ではあるけど、任されたからには頑張らないとな。何時までも沈んだ顔はしていられない。

 

 「……よし、受け入れよう。俺はクラス代表。俺はクラス代表。俺は――」

 

 「何をぶつぶつ言っているんだ、一夏よ」

 

 「一夏さん、気分でも優れないのですか? もし宜しければ、私が医務室まで付き添って差し上げますわよ?」

 

 おっと、俺が現実を受け入れるためにぶつぶつと呟いていた所為か、箒とセシリアの二人が心配そうな目でこちらを見ている。セシリアにいたっては、体調の心配までしてくれている。

 

 だが。

 

 「うん、二人とも心配してくれているのは分かるんだ。だけどな……」

 

 二人とも共通している事がある。

 

 「何で、二人とも口の周りをべっとりと汚しているんだよ!!」

 

 「「ぎくっ!?」」

 

 そうなのである。二人ともと言うか、この食堂に居る生徒全員に言える事なのだが。殆どの生徒が、何かしらの料理のソースやら食べかすでデコレーションされている。もう見事、という他ないほどの汚れっぷりの生徒も居る。というか、の、のほ?…………! そう! のほほんさんだ! あの子は全身がお菓子まみれで、白が基調の制服がマーブル模様になっている。

 

 「いくら料理が美味いからって、皆体裁を気にしなさ過ぎだろう! 分かるよ、料理を作ったのはカノウさんだからな。皆が夢中になるのも頷けるさ。……だけどな」

 

 そう、今日の料理は全てがカノウさんのお手製で、一般的な家庭料理を各国ごとに一品ずつ用意している。その他にも、ケーキからジュースに至るまでその殆どがカノウさんと食堂のお姉さん達との合作である。

 

 「一応このパーティーの主賓である俺を差し置いて、何故に皆が先に料理に手を付けているんだよ!! そこは俺が一口食うまで待つ所だろうが!!」

 

 何で皆先に食べてるんだよ! 俺だってぼうっとしていたのはいけない事だと分かっているけど、それでも俺に何か一言言ってくれよ……。

 

 「い、いやぁ、一夏。コレはだな、なんと言うか……」

 

 「ほ、ほほほ、これはですね。その、何と申しましょうか……」

 

 慌てて口元を必死に拭う二人をジト目で睨みながら、傍にあったジュースを一口飲む。既製品では決して出せないフレッシュで濃厚な味わいに感動しつつ、にわかに慌てだす女子達をジト目で睨み続ける。

 

 「「「「……すみませんでした」」」」

 

 「……謝罪は受け取った。だが、もう一つ言いたいことがある」

 

 「「「「え!?」」」」

 

 皆からの謝罪を受け取ったにも拘らず、ジト目を止めない俺に皆がざわつき出す。皆は気づいていないようなので、ジト目を止めて軽くため息をつきながら教えてやった。

 

 「……皆さ、いい加減口元を拭こうぜ。特にのほほんさん、君は着替えが必要だと俺は思う」

 

 「「「「え゛っ!? きぃやぁぁぁぁぁ!?」」」」

 

 やっと自分達の姿に気づいたのか、各々に鏡を見ながら絶叫する女子達。箒やセシリアも多分に漏れず、小さな手鏡を取り出して自身の顔を見ながら石のように固まっている。

 

 「なんだかな~、もうどうでもいいや。……飯でも食おう」

 

 慌てて騒ぎ出す女子達を尻目に、目の前にある料理を食べる。鳥のもも肉を使ったから揚げは確りと肉に味が染みていて、仄かに香るにんにくの香りとそれを洗い流すレモンの酸味が絶妙な味を醸し出しておりもの凄く美味かった。

 

 「うお~い、おりむ~。楽しんでるか~い」

 

 「おう、のほほんさ――って、まだ着替えてないのかよ!?」

 

 「ん~?」

 

 いや、ん~? って可愛く首を傾げられても……。色々と人前では見せられないような格好なのだが、件ののほほんさんはのんびりと食べ物をむさぼっていた。俺が言う事でもないかもしれないが、年頃の女の子として何も気にならないんだろうか。俺が異性の前でこのソースまみれの顔と服だったら…………。うん、きっと死にたくなるだろうな。いくら鈍感だの唐変木だのと散々言われて来た俺ではあるが、人前でこの醜態は晒せないな。

 

 「顔くらい拭いたらどうだ、のほほんさん」

 

 「ん~、後で拭くからいい~。あむっ、うまうま~」

 

 なんというマイペースっぷりなんだ。異性の目もお構いなしとは、一人の人間として恐れ入るぜ。

 

 俺の周りにある料理を一通りつまんだのほほんさんは、さらに服を汚しながらご機嫌な様子でパーティーを楽しんでいる。

 

 「そっか……。のほほんさんが良いなら、俺はこれ以上言わないよ」

 

 「それで、OKなんだよ~。じゃあ、私はあっちの料理も食べたいから。アデュ~」

 

 あらかた食べ終えたのか、ジュースを片手に隣の席へと旅立っていった。なんという胃袋だろうか、彼女の身体は不思議に満ちているな。

 

 「一夏、汚れは取れただろうか?」

 

 「一夏さん、ソースは取れまして?」  

 

 おっと、箒とセシリアが復活したか。

 

 さっきまで石のように固まっていた二人だが、どうやら俺がのほほんさんと話している内に再起動を果たした様だった。ハンカチで顔を拭きながら手鏡で確認し、大体拭き終わった所で声をかけてきた二人に向き直る。

 

 「ん~~、うん。二人とも綺麗になったようで安心したよ」

 

 「そうか、よかった」

 

 「本当ですか? なら良かったですわ。……私、英国貴族として恥ずかしい限りです」 

 

 二人ともホッとしたように一息つき、箒は照れたように微笑み、セシリアは恥ずかしそうに俯いている。共通しているのは頬が紅潮している事位か。

 

 「今日はお前のための宴だった事を、目の前に広がる美味しそうな料理で記憶から追出されてしまった。すまなかったな、一夏」

 

 「いや、それは別に気にしてないよ。っていうか、俺が逆の立場だったら同じ事をしてそうだし」

 

 「あらあら、でしたら私達は怒られ損でしたわね、箒さん」

 

 「フッ、どうやらその様だな」

 

 まったく、怒られ損はないだろうに……。まぁ、これ以上言っても仕方が無いし、今は素直にパーティーを楽しむとするか。

 

 「……一夏よ。食べないのなら、そのから揚げを譲ってくれないだろうか。っというか、私に食べさせてくれ」

 

 「箒さん、抜け駆けは許しませんわよ。せっかくのパーティーなのです、ここはフェアに行きましょう!」

 

 「ぬっ……、気づかれては仕方が無い。一夏、私達にあ~んをしてくれ。あ~んを!」

 

 え? 何この展開。いやいやいや! 公衆の面前であ~んとか恥ずかしすぎるだろう! っていうか、まだ食べるのかこいつ等は!?

 

 「いや、それは勘弁し――――」

 

 「はいは~い! イチャついている所悪いけど、新聞部でーす。話題の新入生、織斑一夏君に特別インタビューに来ましたよ~!」

 

 おお! ナイスタイミングだぜ、名も知らぬ新聞部の人!

 

 突然の乱入者に、あ~んをねだっていた二人は揃って残念そうな表情になる。しかし、新聞部のインタビューと聞いてすぐに元のすまし顔と貴族スマイルに切り替えたようだ。

 

 「あれ? カノウ・トウマさんが居ない様だけど、何処にいるのかな?」

 

 「ああ、カノウさんなら先生方に料理を届けに行きましたよ。せっかく作ったんだから、皆で楽しんで貰いたいからな! って言ってました」

 

 実は、カノウさんは料理をテーブルに並べた後、すぐに職員室に行ってしまった。よって、この食堂には男が俺しか居ないのだ。

 

 「ありゃりゃ、それはバッドタイミングだったな~。……まぁ、織斑君にインタビュー出来るだけでも良しとしますか。あ! コレ私の名刺ね!」

 

 そう言って、新聞部の女子生徒は一枚の名刺を俺に渡した。さっそく渡された名刺を箒とセシリアの三人で見ると、「黛 薫子、二年三組、新聞部在籍、役職・部長」と書いてあった。なんて画数が多い名前なんだ。小学生で漢字を覚え始めるにあたって、自分の名前で挫折しそうになる気がするな。

 

 「新聞部部長、黛 薫子です。よろしくね、後輩君」

 

 「はい。よろしくお願いします、先輩」

 

 差し出された手を取って、黛先輩と軽く握手を交わす。テンションは高めだが、礼儀作法はきちんとしている人の様だ。学園の先輩でもあるし、こっちも敬意を持って対応するべきだな。

 

 「そっちの二人もよろしくね。たしか、イギリス代表候補生のセシリア・オルコットちゃんに、篠ノ之束博士の妹さんで篠ノ之箒ちゃんだったよね。二人にもインタビューするから、織斑君はキメ台詞でも考えておいて!」

 

 「はいですの。イギリス国家代表候補生、セシリア・オルコットです。よろしくお願い痛いしますわ」

 

 「篠ノ之箒です。黛先輩、是非御手柔らかにお願いします」

 

 先に挨拶をしたセシリアは優雅に、後に挨拶をした箒は何処かぎこちなく挨拶を返した。セシリアは代表候補生の仕事や、名門オルコット家の当主としての経験があるからこその挨拶の仕方だろう。それに比べると、箒は社会的な経験が出来ない立場にあった様だから、何処か余所余所しい挨拶となってしまった様だった。 

   

 「ふふ~ん、箒ちゃんは少し緊張しているのかな? セシリアちゃんの様にとまでは言わないけど、リラックスしてインタビューを受けてね。……変な事は聞かないから」

 

 「ありがとうございます、先輩。こういう事は余り経験が無い者でして、そう言ってもらえると助かります」

 

 「なははは、ラフにいこうよ。記者に緊張するのは、謝罪会見と離婚会見の時だけで十分だよ」

 

 う~む、対応が大人だな。さすが二年生といった所か。箒は目に見えてホッとしているし、学生でもプロの技が光って見えるな。

 

 「さて、ずばり織斑君に聞いちゃうけど。一組のクラス代表になった感想は?」

 

 手にしたボイスレコーダーを俺に向けて、目を輝かせながら最初の質問をしてきた。

 

 「えーとですね。最初は流されるがままに代表決定戦で戦うことになったけど、結果的にセシリアから負けた上でクラス代表を譲られました」

 

 うんうんと頷きながら俺の話を聞いている黛先輩。ボイスレコーダーはテーブルの上に置いて、手にメモ帳を持ちながら何か書いている。

 

 「代表候補生であるセシリアがクラス代表になった方が、セシリア本人も一組としても良かったんだろうけど……。クラスの皆もセシリアの提案を受け入れてくれた事だし、引き受けたからには精一杯代表として努力していきたいと今は考えています」

 

 これが今の俺の素直な気持ちである。最初はよく分からないままこの学園で過ごす事になるのかと思ったりもしたが、いざ代表になってみるとこれはこれで新たな一つの課題になった気がする。俺の目標は、あくまでも大切な人達をこの手の届く限り守りたいという事。カノウさんという凄く強い頼もしい人も味方になってくれている今、このISの世界で生きていくためにはまず力をつける事が最優先事項だと俺は感じている。 

 

 「そうか~、そんな成り行きだったんだね。メモメモっと……。それじゃあ、次はセシリアちゃんに聞いちゃおうかな。ズバリ、代表候補生である貴女から見て、織斑君はIS乗りとしてはどんな感じかな?」

 

 俺の感想と心境をメモし終わった黛先輩は、次の標的としてセシリアに質問をぶつけた。しかし、俺がセシリアにどう思われているのかには興味がある。セシリアはIS乗りとしてはずっと先を行く先人だ。しかも、イギリスの国家代表候補生でもある訳だから、セシリアが感じた事はそのまま参考に出来ると考えても良いだろう。

 

 セシリアは軽く目を瞑った後、暫しの時間考えてから話し始めた。

 

 「そうですわね……。まず、一夏さんはIS乗りとしては幸運に満ちていらっしゃいます。世界最強といわれた織斑千冬先生を姉に持ち、その御友人である篠ノ之姉妹ともお知り合いの関係にある」

 

 確かにセシリアの言うとおりだ。考えてみれば、他の一般生徒よりも恵まれた環境に居るな。幸か不幸かは別物だったが……。    

 

 「さらには第二の男性操縦者であるカノウさんとの仲も良好で、体力面や技術面での師事も受けていらっしゃいます。ここ数日彼の訓練に同行してまいりましたが、あれを受けきる事ができる人ならば必ず成長が出来ると感じました」

 

 そう、代表戦が終わってからの特訓は前の二割り増しになったんだ。白式という俺専用のISが来た事により、俺の訓練内容にISの操縦が加わった。しかし、今まで行ってきた肉体訓練の時間は減っていないんだよな~。

 

 「それを踏まえてお答えいたしますと、一夏さんは大器晩成型の操縦者だと思いますわ。今の時点では白式の機体スペックに頼りがちですが、技術の方が追いついてくればワンオフ・アビリティーの効果と相まって先代のブリュンヒルデ、織斑千冬先生の様な操縦者に化けるかもしれません」

 

 おおう、千冬姉みたいなれるかもしれないか……。うん、それはまだまだ先の話だな。っていうか、カノウさんと出会ってからどんどん強くなっているみたいだし。なんかすっげぇ遠い目標な気がする。

 

 「ふむふむ、中々高評価な意見だね。でも、簡単には貴女も超えさせてあげないでしょう?」

 

 「ええ、もちろんですわ。これでもイギリス国家代表候補生ですので」

 

 はは、やっぱりそこは代表候補生なんだな。でも何時かは勝てるようにならないと、男が廃るぜ。

 

 にこやかに話をしめてセシリアのインタビューは終わった。色々情報が取れたのか、黛先輩はメモ帳にたくさん書き込んでいたようだった。

 

 「よーし、だんだん盛り上がってきたわね。じゃあ、最後に箒ちゃんへインタビューして〆にするか。ずばり、普段の織斑君はどういう人なのかな?」

 

 「プライベートな時間の事ですか? う~ん、そうですね……」

 

 おい、変な事を言わないでくれよ。一応、幼馴染なんだからな。

 

 箒は軽く目を瞑りながら腕組みをし、頭の中で考えを纏めている様だ。

 

 「ふむ、ざっと頭の中て整理した結果ですが、普段の一夏は何処にでも居る普通の学生と言った所ですね。健康志向が強いのと鈍感な所がありますが、優しい男だと私は思います」

 

 ううぅ~、恥ずかしー!! 何だこれ、新手の羞恥プレイだろうか……。

 

 「ほうほう。健康オタクに鈍感装備っと。極めつけはイケメンで優しい、か……。強敵な様だね、お二人さん?」

 

 ん? 何のことだ? 黛先輩がウインクをしながら箒とセシリアを見て苦笑している。そして、その言葉を向けられた二人もうっすらと頬を赤らめながら先輩と同じく苦笑している。なんだろう、俺の事なのに俺がはぶられているこの事態は……。

 

 「さて、そろそろ終わりに――――ってもう一つあったわね。最後の最後で三人に一つ質問だけど……。ずばり、カノウ・トウマさんとはどんな人?」

 

 カノウさんか……。改めて考えてみると、あの人はどんな人間なのだろうか?

 

 「う~ん、凄く強いよな」

 

 「そうですね、料理がプロより上手い」

 

 「年上にたいしても年下にたいしても、どちらにたいしても面倒見がよろしいですわよね」

 

 おおう、良い所がどんどん出てくるな。

 

 「マッサージがプロより上手いバイトさん!」

 

 「カノウさんが作る御飯はとても美味しい!」

 

 「ISの操縦も、国家代表の様にお上手ですわ!」

 

 うん、カノウさんて得体の知れない凄さがあるからな。俺達の知らない事がまだまだあるだろう。

 

 「身体能力が尋常じゃない!!」

 

 「カノウさんが作るお菓子は絶品だぞ!!」

 

 「毎日の訓練内容が、一般的な軍人の三倍ですわ!!」

 

 「「ついでに付き合う俺(私)達も三倍だけどな!!」」

 

 今の所はこんな事しか分かっていないが、あの人を理解するにはまだまだ時間が足りない気がする。

 

 「OKOK。もう、お腹一杯になったからその辺でいいわよ。っていうか、箒ちゃんは料理が上手い事しか言っていないじゃないの……。まぁ、大まかに纏めると。強くて、料理が上手。面倒見が良くて、ISの操縦も国家代表並み。身体能力が尋常じゃない、訓練内容が三倍の人、か……。うん、とにかく凄い人の様ね」

 

 おおう、結局凄い人で片付いてしまったぞ。俺達の発言は何だったんだ……。

 

 「じゃあ、最後に写真撮らせてくれないかな? 勿論三人一緒にやつだよ」

 

 インタビューの締めとして、新聞に掲載する写真を撮ることになった。黛先輩が首に掛けていた一眼レフのカメラを手に取り、俺達三人をレンズに収める為に後ろに下がる。

 

 「出来ればでいいから、自然な笑顔で写させてね。ポーズは……。織斑君をセンターにして、両脇を二人で固めて手を重ね合うやつで行きましょうか」

 

 俺が真ん中か。よし、堂々としようじゃないか。今日の主役はあくまでも俺だからな、可笑しな笑顔にならないように気をつけよう。

 

 「一夏よ。今日は楽しかったか?」

 

 三人でポーズをとっている中、左隣にいる箒が話しかけてきた。視線は前を向いたまま、周囲には聞こえない位の声だ。

 

 「ああ、最初はアレだったけど、皆が俺の為にわざわざ開いてくれたからな。楽しかったよ」

 

 「それは良かったですわ。私も有意義な時間を過ごせましたのに、主役の一夏さんがつまらなかったら意味がありませんもの」

 

 俺が素直に楽しかったと伝えると、今度は右隣のセシリアが貴族スマイルでそう話す。

 

 「セシリアの言っている事に同感だ。始めはグダグダになってしまったが、お前が楽しかったと言うのならパーティーの開催を進言した甲斐があった。な、セシリア」

 

 「そうですわね、箒さん」

 

 にっこりと微笑みながら二人は俺の方を見る。そうか、このパーティーは二人が主催してくれたのか……。はは、全く二人には世話になりっぱなしだな。 

 

 「はーい、じゃあ撮りますよ~。織斑君、キメ台詞言ってみようか!」

 

 嬉しさで笑顔になるのを感じながら、インタビューの時に考えていた台詞を思い出す。ここはバッチリ決めないとな!

 

 「目指すは世界最強のIS操縦者! 世界で一つだけの物語の始まりだ!!」

 

 この学園に集まった人達との世界を目指す物語が、今始まる。   

 

 「OK! その台詞、いっただきー!!」

 

 カメラのフラッシュが眩く照らし、俺達の青春の一枚を鮮やかに写した。

 

 

 

 

 

 

 

 IS学園・職員室 その頃の大人達

 

 

 

 

 

 

 「待たせたな皆。パーティーの料理のおすそ分けに来たぞ!」

 

 「「「「いやったーー!!」」」」

 

 家庭で扱うには少々大きめのワゴンに料理をこれでもかと載せて遥々職員室まで来た俺を出迎えたのは、職員室に集ったIS学園の教師たちの期待に満ちた視線と大きな拍手と喝采だった。

 

 「すまないな、トウマ君。私達に為に態々来てもらって」

 

 「なーに、気にする事はないさ。俺が好きでやってるんだ。それに、どうせならすまなそうな顔じゃなくて笑顔でありがとうって言って欲しい所だな」

 

 「……そうだな。ありがとう、トウマ君」

 

 教師達を代表して苦笑交じりに礼を言ってきた織斑さんだが、どうやら俺の言葉に納得してくれた様だ。苦笑を貼り付けた顔を笑顔に変えて、今度は嬉しそうに礼を言ってくれた。うん、いい笑顔だ。

 

 「あら、少し遅れてしまったかしら。トウマ、お料理ご苦労様」

 

 「ふおおぉぉぉぉ!! いい匂いがするよっ! ギリギリギッチョン、なんとか宴には間に合ったぜぃ!」 

 

 各教師達が自分の分のお皿に料理を取り始めた頃、職員室のドアを開けてミナキと篠ノ之博士が姿を見せた。ミナキは笑顔で労い、篠ノ之博士は目を爛々と輝かせながら楽しそうに集まりに加わっていく。

 

 「例の仕事は片付いたのか、ミナキ」

 

 「ええ、今はだいぶ落ち着いてきているから急いでこっちに来たのよ。まだ課題は残っているけど、計画自体は順調よ」

 

 新しい発見をした子供の様に目を輝かせながら、笑顔である計画の進み具合を語るミナキ。この世界に来てからは毎日のように見ている表情だが、恋人補正もあることを含めてもとても魅力的に俺の瞳に映ったのだった。

 

 「そうか、順調そうで良かった」

 

 「うん、毎日がとっても充実しているわ。寝るのが惜しいくらいにね」

 

 楽しそうなのは良い事だが、無理をするのもいけないからな。特に、ミナキにとっては徹夜は親友みたいな物だからな。

 

 「でも、あんまり根を詰めすぎないでくれよ。心配するからな」

 

 「ええ、ありがとう。いつも心配かけちゃってるね、トウマ」

 

 「はは、惚れた弱みだよ。よく言うだろ、最初に惚れた方が負けってな」 

 

 「あら、そうだったわ。思い返せばトウマが先に私に惚れたんでしたね」

 

 軽くミナキとイチャつきながら二人分の料理をお皿に盛り付ける。腕によりを込めて調理した食材たちが職員達の胃袋を刺激して、あちらこちらから腹が鳴る音が聞こえる。

 

 「よーし、皆に行き渡ったか? なら、今から夕食会の始まりだ。皆遠慮せずにどんどん食ってくれよ!」

 

 「「「「いただきまーす!!」」」」

 

 元気な挨拶と共に、職員たちが一斉に料理へと喰らいつく。美味そうに食べてくれるその姿こそが、料理を作った人にとって最高の喜びだ。俺はこの笑顔が大好きなんだ。

 

 「トウマ君、一夏の様子はどうだった?」

 

 「ん? 一夏君ならボーっとしていたよ。周りの女の子たちは我先にと料理に喰らいついていたけどな」

 

 「そうか。せっかく篠ノ之とオルコットから懇願されて私が許可したんだから、せいぜい楽しんでくれるといいんだがな……。うん、美味い」

 

 ホンワカする笑顔で料理を食べる織斑さんは、一夏君がパーティーで息抜きをしてくれる事を期待して許可したそうだ。

 

 ほんとに弟思いの優しいお姉さんだぜ。 

 

 「そういえば、篠ノ之博士はどうして遅れてきたんですか? あむっ……、美味しい」

 

 「ああ、その事なら観察に行って来たんだよ~。明日来る筈の中華娘が、さっき学園についちゃったって連絡を貰ったからね!」

 

 「ええ!? 中国の代表候補生さんが来ちゃったんですか!? どうしましょう……。学園の迎えも無しに歩いたら、この広すぎる敷地内では迷子になってしまうかもしれませんよ!?」

 

 う~む、転校生の話のようだな。山田さんが大慌てで確認の電話をしようとしているが、慌てているためにうまくボタンを押せないで焦っている。

 

 「真耶さん、そんなに慌てなくても大丈夫ですよ。私がここにくる途中で偶然彼女に遭遇しましたので、総合受付まで案内してきました。今頃は、もう寮の部屋で休んでいるんじゃないかしら」

 

 「ほ、本当ですか? よかったです~。危うく中国の方と問題になるところでした」

 

 ほう、そんな事があったのか。まぁ、着いて早々迷子じゃあ可哀想だからな。ミナキと出会えてよかったという所だろう。

 

 「そうそう、ミッチーが受付まで連れて来てくれてね。そこで、束さんが扮した受付のお姉さんが応対したわけですよ。まぁ、今時の子にしては礼儀正しい良い娘だったよ!」

 

 「そうか……。確か名前は凰・鈴音と言っていたな。一夏の知り合いで同級生だった、あの小生意気な娘か……。どうやらこの一年で急成長したらしいな」

 

 「そうですね。たった一年で代表候補生にまでのし上がるなんて、並大抵の努力じゃあありませんからね。きっと、血の滲む様な特訓を重ねてきた努力人なのでしょうね」

 

 ふむ、どうやら凄い逸材が転校して来たらしいな。それに、一夏君の知り合いか。また、もれなく厄介な事になりそうな気がするな。

 

 そんな風に他愛のない話をしながら、皆と食事を楽しんでいた時だった。職員室のドアがノックされ、ドアの向こうから泣きべそをかいたの一人の女子が現れた。

 

 「ずみばぜ~ん、誰か寮の場所を教えてくださ~い。うぅ、ヒック、迷子になっちゃいました~」

 

 そう、今しがた話題に乗っていた女の子、凰・鈴音ちゃんだった。

 

 

 

 

 

 

 

 IS学園・職員室 迷子の少女を保護

 

 

 

 

 

 

 うぅ、良かった。やっと職員室まで辿り着けたわ。

 

 「あら、凰さんじゃないですか。また迷子になっちゃったんですか? もう大丈夫ですよ」

 

 「あい、ありがとうございます。篠ノ之博士が去って行った後、私また迷子になっちゃって……。日は暮れて真っ暗になってくるしお腹も空いてくるわで……。心細くて迷っていた時に、大勢の話し声が聞こえたから嬉しくなって……」

 

 「ふふ、安心してくださいね。ここには丁度美味しい物が沢山ありますから、好きに食べても構いませんよ」

 

 うわ~ん! やっぱり良い人だよ、トオミネ先生!! っていうか、何でこんなに料理があるのかしら? どれもおいしそうだし、宴会でもしていたのかな。まぁ、これで一安心だ。

 

 「おう、鈴ちゃんじゃないか! さっきぶりだねぇ~」

 

 あ! 篠ノ之博士だわ! ここで教師をしているのって本当だったんだ。さっきは寮の場所を聞きそびれちゃったけど、今は素直に会えた事が嬉しいかも。

 

 「はい、さっき振りです! また会えて嬉しいです、篠ノ之博士!」

 

 「よしよし、美味しい料理でも食べて楽しくやろうぜぃ! ブイッ!」

 

 「はい! ブイッ!」

 

 博士がよそってくれた料理を受け取って、笑顔でブイサインを返した。ああ~、博士も優しいんだな~。

 

 「久しぶりだな、鈴音。元気にしていたか?」

 

 おう、今度は千冬さんの登場だわ。なにここ、メッチャビッグな人達のオンパレードじゃない。それに、最後に会った時より千冬さんが優しい顔をしているわ。うん、やっぱり笑顔の千冬さんて美人だわ。怒るとメッチャ怖いんだけどね。

 

 「お久しぶりです、千冬さん。見ての通り、私は元気でやってますよ」

 

 「フッ、どうやらその様だな。あの小生意気な娘が、よくここまで成長したものだと驚いているぞ」

 

 「ふっふ~ん、これでも沢山努力しましたから! もう、一夏と一緒に叱られていた私じゃないですよ!!」

 

 フフッ、どうやらやっと千冬さんを見返せたみたいね。今日まで地獄の特訓を積んできた甲斐があるわ!

 

 「二組に配属されたようだが、実習科目では一緒になることも多いだろう。これからよろしくな」

 

 「はい、こちらこそ! ブリュンヒルデの実力、たっぷりと実感させてもらいます!」

 

 「お手柔らかにな、鈴音」

 

 何か雰囲気変わったわね、千冬さん。明らかに態度が柔らかくなって、優しさが表面に見えるようになった。

 

 ついに彼氏でも出来のかな? ……って、そんなわけ無いか。あの千冬さんに似合う男がそうそう見つかるわけ無いしね。

 

 「ところで、この料理はどうしたんですか? 凄く美味しいんですけど、先生方で宴会でもしてたんですか?」

 

 ここに辿り着く事が出来たのも、この料理のお陰なのだろう。できれば、美味しい料理を作ってくれた人にもお礼が言いたいわね。

 

 「うむ、実はな。今日の放課後に一夏の為にクラス代表就任パーティーをしているんだが、その宴の料理を私達も御相伴に預かっているわけだ。ちなみ、料理を作ってくれたのはそこにいるトウマ君だ」

 

 千冬さんが理由を話してくれたけど、トウマって名前は何処かで聞いたような覚えが……?

 

 「よう、迷子の代表候補生さん。俺がカノウ・トウマだ。これからよろしくな!」

 

 カノウ・トウマ? 男? …………って、もしかして!?

 

 「貴方が第二の男性操縦者の!? 中国国家代表候補生の凰・鈴音です! よ、よろしくお願いします、カノウさん!!」

 

 あちゃ~、すっかり忘れたわ。カノウ・トウマって言えば、最近見つかった第二の男性操縦者じゃない。まさかこんな所で出会うなんて……。代表候補生としてメッチャ恥ずかしいわ!!

 

 「トウマでいいよ。それより、沢山食ってくれよな。俺は一組で一夏君と同じ授業に出ているから、困ったことがあったら遠慮なく頼ってくれ」

 

 「はい! これからお世話になると思いますから、その時は頼らせていただきますね!」

 

 「ああ、存分に頼ってくれ。それが大人の仕事だからな」

 

 笑顔でそう語るトウマさんがメチャメチャかっこいい。一夏のやつもトウマさんみたいに成長してくれてたらいいのにな~。

 

 って、それは無理よね。なんせあの一夏だし。

 

 

 

 それから私はとても楽しい時間を過ごした。先生たちは皆優しいし、これならここで暮らしていける気がしてきた。

 

 明日から始まる学園生活に私の心はウキウキしている。明日が早く来ないかと思うほどには、私は楽しみで仕方が無かった。

 

 待っててよ、一夏。必ず私に振り向かせてあげるからね!!

 

 

 

 

 

 

   




 いかがだったでしょうか。今回はクラス代表就任のパーティーと、迷子の少女・鈴ちゃんのお話でした。

 いやぁー、本来なら原作でもこうあって欲しかった。そんな事を考えつつ書いてみました。息抜きは大切ですよね。

 箒もセシリアも、暴力表現は余りしない方針です。普通だったら嫌われてしまいますものね。

 鈴ちゃんは書いていて楽しいキャラクターですね。喜怒哀楽がはっきりしていると非常に書きやすいです。本作では迷子属性を装備しておりますので、これからも彼女は迷子になることでしょう。

 それでは、誤字脱字・感想などをお待ちしております。


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