インフィニット・ストラトス~終焉の銀河の果てに~   作:とっぷパン

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 鈴音と新たな約束を結んだ一夏。当時の約束を知る為にも、再び激しい特訓が始まる。


第20話~これから始まる特訓地獄

 IS学園・AM・4:45 ランニングコース・海沿い

 

 

 

 

 

 早朝のランニングコースにて、今日も変わることなく訓練に励む者たちがいる。

 

 「うん、今日も朝からいい天気だな~。朝日が気持ち良いし、潮風も良い」

 

 「……そうだな。爽やかな朝には軽いランニングが一番だ」

 

 先頭を走るのは二十台前半の男女で、軽い会話を挟みつつも軽やかに歩を進めている。水平線の彼方から昇る朝日を受けて走る様は、なんとも爽やかで清々しい姿である。

 

 「はは! まったくその通りだな、織斑さん。爽やかな朝日の下で元気に走る。何処に行ってもこれだけは欠かせない特訓だぜ!」

 

 「フッ、楽しそうだなトウマ君。これなら、秘密にしていた私のランニングコースを教えた甲斐があるというものだ」

 

 お互い楽しそうに走るトウマと千冬。もしもこのシーンだけを切り取る事ができたのなら、とても仲のいいカップルの青春風景に写った事だろう。

 

 しかし、世の中は実に無情なもので。

 

 楽しそうな二人の後ろには。

 

 

 「ハァ、ハァ……ハァ。ゲホッ、ち、千冬姉っ……ッハァ……」

 

 今にも倒れそうな一人の少年と――――。

 

 「……ちょっ、……カノウ、さん。少し、休息……を!」

 

 「ほ、ほほ、私……。走り終わったら、ハァ……ハァ、ゆっくりと休むんですの……」

 

 ――疲労に喘ぐ二人の少女がいたのだった。

 

 「お? ははっ、すまないな三人とも。少し大人気なかったかな」

 

 「そろそろ一休みするか、トウマ君。一夏達には、IS学園の建つ島の中でも絶景の眺めを巡るこのコースを走りきるにはまだ早いと思うしな」

 

 トウマが自身の背負っていたリュックサックを下ろして、疲労と息切れの苦しみに喘ぐ少年少女達三人と、軽く息を整えながら立っている千冬に500mlのスポーツドリンクを手渡す。

 

 「ほれ、これでも飲んで休憩にするか。好みの味があったらそれぞれ交換して飲んでくれよ」

 

 「「「やった~~ぁ」」」

 

 ここで、何故一夏達三人がここまで疲れているかを説明してこう。実はIS学園が建つこの島の陸地面積は、巨大な校舎や訓練アリーナが設置されている為に広大な面積を有している。その中を海岸線に沿って走ったり、山道や公園のような場所をぐるりと巡る千冬の秘密ランニングコース。それ故に、身体が出来きっていない少年少女達の体力では到底走りきれる物ではないのである。

 

 「ふむ、さすがにお前達には早すぎたようだな。多めに休息をとった後に、そのまま学園に引き返すか……」

 

 渡されたドリンクを砂漠で見つけたオアシスの水のごとく美味そうに飲み干す一夏達を尻目に、千冬は一旦学園に帰ることを考えながら自身も一口ドリンクを飲み干す。レモンをベースに作られたドリンクが喉を伝い、ランニングで火照った身体に染み渡っていくのを感じる。

 

 「…………むぅ」

 

 しかし、自身が好みとする味とは違った為にすぐに口飽きしてしまった。そこでふとトウマの方を見ると、自身の好みの味であるドリンクを飲んでいるのが目に留まる。

 

 「あ~、身体に染み渡るな~。 実に美味い!」

 

 そして、その隣を見ると、自身の弟が女子達二人に飲みかけのドリンクを交換しようと迫られているのが目に入る。  

 

 「一夏、私のドリンクと交換しないか? 勿論、その飲みかけの物で構わないぞ。っというか、それをくれっ!」

 

 と、箒が大胆かつ必死な形相で迫れば。

 

 「なっ!? 箒さん、いくらなんでもアグレッシブが過ぎましてよっ! 私も負けてはいられませんわね! 一夏さん、私のドリンクと交換してくださいませんか? 勿論、飲みかけでも構いませんので、是非にっ!!」

 

 箒の行動を見たセシリアが、負けじと一夏の飲みかけドリンクを獲得せんと迫っていく。

 

 「なんだよ、二人とも!? いや、ドリンクは一つしかないんだから仲良く分けて飲んで――――」

 

 「「それでは駄目だ(ですわ)っ!!」」

 

 「なんでだよっ!?」

 

 そして、彼女達の行動に軽く引きながらも何とか場を治め様としていた一夏は、何故迫られているのかもよく理解できていないままに圧倒されていた。

 

 「まったく。……いや、これも青春か」

 

 さっきまでの疲れは何処にいったのか、自身の弟が騒ぐ姿を見て呆れつつも青春の言葉を当て嵌める千冬。そして、弟達の騒ぎを尻目にトウマとドリンクを交換する事にしたのだった。

 

 「すまないがトウマ君、こちらのドリンクと交換してはくれないか? レモン味は好みではなくてな、そちらの味と交換してくれるとありがたいんだが……」

 

 「ん? ……ああ、別に構わないぞ。まぁ、飲みかけで申し訳ないけどな」

 

 そう言って、トウマが自身の飲んでいたドリンクを千冬に渡す。半ば半分ほどに減っているドリンクの蓋を開け容器に口を付けようとしたその時、千冬はふと先程の一夏達の光景を思い出した。女子二人はなにを求めて騒いでいた? 一夏の、好意を抱く男が飲みかけたドリンクに間接的にキスを求めていたのではないか? そして、今私は誰のドリンクに口を付けようとしていた?

 

 それは……。

 

 (くうぅぅぅおおぉぉぉぉっ!? よくよく考えてみれば、これはトウマ君との間接キスではないか!? って、いやいやいやいや!! まて、落ち着くんだ千冬。お前は中学生の小娘か!! 今更間接キスが恥ずかしい歳でもあるまい!! ならば、ここは自然に口をつけてドリンクを飲むべき――――)

 

 クールな顔付きをほんのりと朱色で染め、容器に口を付ける手前で固まりながら自問自答をする千冬。当然、そんな不可思議な事をしていればドリンクを渡した相手は疑問を抱く。

 

 「ん? どうかしたのか、織斑さん」

 

 「あっ、いやぁ! そのだな、これはその~……」

 

 しどろもどろになりながらも何とか答えようとする千冬であったが、理由を話すわけにもいかずに結局は羞恥心で顔を俯かせてしまった。

 

 (何をやっているんだ私はっ! たかがドリンクの間接キ、キ――の、飲みまわしぐらいで。そもそもだ。これは友情の証のような行為であって、なにも羞恥を感じる必要などないのだ。 落ち着け、落ち着くのだ千冬よ……。お前は何だ、ブリュンヒルデだろう!)

 

 「…………」

 

 相変わらず顔を赤くして無言のまま百面相をする千冬。トウマはそんな千冬の行動に首をかしげながらも、最終的に気合を入れたところで千冬の中で何かの覚悟が決まった事を悟る。

 

 「……トウマ君」

 

 「ああ、なんだい?」

 

 トウマが返事をしたところで、千冬が容器に口をつけて一気にドリンクを飲みだす。

 

 「んぐんぐ……ぷはっ! ……このドリンクは美味いな」

 

 「そ、そうか。それは良かった」

 

 まだ若干頬の赤みが取れていないが、笑顔でドリンクが美味いと話す千冬に苦笑いで返すトウマ。何故このような状態に陥っているのかを理解できていないトウマは、この答えが精一杯の反応だった様だ。

 

 「じゃあ、俺もこっちを頂こうとするかな」

 

 「……え?」

 

 そして、千冬がドリンクを飲み終わると、今度はトウマが容器の蓋を開けてドリンクを飲もうとした。

 

 (ぬうぅぅぅああぁぁぁぁっっ!? そうだったーっ!! 私とドリンクを交換したんだから、トウマ君にも間接キスの機会があるじゃないかっ!? 目、目の前で自分の飲んだ物に口を付けられるのが、こんなにも恥ずかしい物だったなんて……!?)

 

 そして、無情にも千冬にとって恥ずかしい行為が行われた。トウマがドリンクの容器に口を付け、美味そうに中身を飲みだしたのだ。軽く口を付けただけではあるが、それでもしっかりと間接キスは成立している。

 

 (お? 結構美味いな、このドリンク。次に来た時はこいつを持ってくるか……)

 

 (あ、ああ、ああああっ!? 飲んでる、私が口をつけたドリンクを飲んでいる。あ、あんなに美味そうに飲まなくとも……)

 

 顔を真っ赤にしてアワアワとながらも、黙って飲み終わるのを見守るしかない千冬。トウマは意外と味が気に入ったのか、一気に半分近くまで飲み干してしまった。

 

 「……ぷはっ。うん、中々美味いじゃないか。残りは後で飲むとし――って、どうしたんだ織斑さん」

 

 勢い良くドリンクを飲んだトウマは、笑顔で美味いと宣言する。そして、残りは後で飲もうと蓋を閉めたところで、千冬が顔を赤くして身悶えているのを見て再び首を傾げた。

 

 「……いや、なんでもないんだ。美味かったのなら良かった。……うん、良かった」

 

 トウマの美味い発言に、益々顔の赤みが増す千冬。だが、自身初のライバルとの友情を感じさせる行為に、嬉しさがこみ上げているのを確かに感じていた千冬でもあった。

 

 ちなみに、トウマが間接キスや飲みまわしにさほど頓着が無いのは、戦時中の時にそんなのを気にしていてもしょうがないと言う考えから来ている。さらには、恋人であるミナキとはこういう行為を何回もしているために、今更異性が少し口を付けた程度の事ならば気にならなくなっていると言う事も関係しているのだった。

 

 

 

 

 そして、一夏達はといえば。

 

 

 

 

 

 

 「セシリア! 私にも少しよこせっ!」

 

 「嫌ですわっ! 欲しければ、私から奪い取ってみなさい!」

 

 「……なんでスポーツドリンク一つでここまで騒げるんだ」

 

 いつものように仲良く騒いでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 IS学園・グラウンド AM・5:30・格闘トレーニング

 

 

 

 

 

 

 

 「せいっ! そりゃ! でいやぁぁ!!」

 

 「ふんっ! なんのっ! せりゃぁぁ!!」

 

 あれからすぐに学園へと引き返し、グラウンドに戻った五人はいつもの格闘トレーニングに入った。まずは一夏と箒による素手での組み手稽古。

     

 「最近益々強くなってきたじゃないか、箒っ! さっきの回し蹴りは正直やばかったぞ! っと!」

 

 近距離で拳や足による応酬をしながら、箒の成長に驚きと喜びが同時に湧き上がるのを感じる一夏。自身が幼少の頃からのライバルの成長に、嬉しさがこみ上げてきたのだった。

 

 「せいっ! ……何を言う! お前こそクラス代表戦の時よりも、実力が上がっているではないかっ!」

 

 箒が一夏の側面から全身の筋肉を連動させて拳を打ち込めば、それを腕と体移動で上手く防御する一夏。激しくぶつかり合う二人の実力は、まさに拮抗していたのだった。

 

 「フフ、お二人とも楽しそうですわ。近接格闘が得意ではない私にとっては、少し嫉妬してしまいますわね」

 

 そんな二人を羨望の視線で見守るのは、片手にライフル型のゴム銃を携えたセシリアだった。近接戦闘が得意ではないセシリアは、途中からの参加という事も相まってサポート役として参加している。その内容は、こうして組み手で稽古をしている時に、ある程度時間が経過した後に不意を突くようにしてゴムの弾丸を一夏達に浴びせるというものであった。

 

 「さて、そろそろいきますわ。踊りなさい、セシリア・オルコットの奏でる円舞曲《ワルツ》でっ!」

 

 二人が再び接近したのを見計らって、セシリアの正確な射撃が浴びせられる。念のために急所を守る防具(ISスーツ)や手甲・具足を着用してはいるものの、その衝撃まで防げないものである為に当たったら相当痛い。

 

 「おわっ!? もうそんな時間か!」

 

 「ぬっ!? 相変わらず良い腕だな、セシリア!!」

 

 まずは牽制とばかりに、二人の足元目掛けて数発のゴム弾を打ち込むセシリア。足元の土が弾けた瞬間、一夏と箒はその場から急いで離脱をする。そして、セシリアが放つ弾丸を注意深く見極めながら、再びお互いに激しくぶつかり合う。

 

 「うん、大分動けるようになってきたみたいだな。三人ともに、動作や状況判断が少しずつ上達してきている」

 

 「そのようだな。入学当初に比べたら、段違いの上達振りだろう」

 

 激しくぶつかり合う三人を観察しながら、トウマと千冬が現状の戦力分析を行っている。入学した当初に比べれば、三人共動作に磨きがかかり洗練されてきている。

 

 「だが、それも君がこうやって指導してくれたおかげだ。私や山田君だけではこうは行かなかっただろう。教師という立場は一見権力を持っているように思えるが、家族に対してとことん不利だからな……」

 

 「……確かに。俺に比べると自由度に制限が掛かってしまうからな~。……だが、それでも俺達皆ががんばって努力してきた結果だよ。決して俺一人の手柄じゃないさ」

 

 千冬が一連の指導に感謝を述べると、頭を振って皆の手柄だと返すトウマ。真っ直ぐに子供達を見つめる視線には、懐かしき日のαナンバーズでの訓練風景を重ねているトウマであった。

 

 「……そう、だな。確かに、私たち皆の努力の結果だ……」

 

 子供達を見守るトウマの視線と言葉に、自身の努力も身になっているのだと改めて気づかされる千冬。あまり教師向きでは無い人間だと少なからず自覚している千冬ではあるが、そんな自身でも生徒達の為になる事が出来ていることに安堵を覚えるのであった。

 

 「よし、三人共それまでっ! マッサージをして筋肉をほぐしたら後は見学だ。見ることも大切な訓練だから、しっかりと観察をして休息に専念するように」

 

 丁度それぞれにダメージが蓄積されてきた頃を見計らって、トウマが組み手稽古を終わりにさせる。息を切らせてこちらに向かって歩いてくる三人は、共に良い笑顔で戻ってきていた。

 

 ちなみにトウマは、自分ひとりで出来る筋肉のほぐし方をそれぞれに教えている。自身の体を管理できてこそ一人前。その重要性を徹底的に教え込んだのだった。

 

 「さて、それじゃあ始めようか織斑さん」

 

 「ああ、今日も存分に相手をしてくれトウマ君」

 

 ある程度の距離をあけて静かに構えをとる二人。その場で固まったように動きを見せないまま、お互いの気迫のみが高まっていく。一夏達の感覚でも感じ取れるくらいに高ぶった時、二人の姿が掻き消えたようにその場から消える。

 

 「き、消えた……っ!?」

 

 自分達の眼を疑った次の瞬間、先程二人が立っていた場所の中央にお互いの拳を掴んだまま組み合うトウマと千冬が現れた。そのまま力比べをするようにお互いの力を込めていく。

 

 「ぬうぅぅっ!!」

 

 「はあぁぁぁっ!!」

 

 微かだが地面にひびが走り、足元の土が少しずつ陥没していく。

 

 「「「いやいやいやいやっ!?」」」

 

 二人の気迫と力はどんどん高まっていき、一夏達は自分達の周りの空気が熱くなっていくように感じる。

 

 「もう、何処を目指してんだよ千冬姉はっ!!」

 

 一夏が自身の姉の成長振りに驚きが隠せない中、トウマが一気に脱力し体勢を後ろに崩していく。千冬はいきなり脱力したトウマを押し込む形で前方に体勢を崩す。

 

 「……あらよっと!」

 

 「ぬっ!? ……だが、まだだ!!」

 

 トウマが体勢を崩した千冬に、巴投げを仕掛けようと足を持っていった瞬間。千冬は全力で地面を蹴り、トウマを飛び越え一回転して地面に降り立つ。手は掴んだままの状態でした為に、両者がブリッジの様な体制になった。

 

 「どうぅぅおりゃぁぁぁぁあっ!!」

 

 「うおっ!?」

 

 そして、千冬はその状態から全身ををフルに使ってトウマを後方から放り投げた。意外な力を発揮した千冬に驚きながらも、空中で体勢を建て直し着地する。

 

 「今のは驚いたぞ、織斑さん!」

 

 「フ、驚いた割には綺麗に着地したじゃないか。それでこそ、私がライバルと認めた男だっ!!」

 

 再び地を蹴ってぶつかり合う二人。拳が空気を切り裂く音が鳴り、蹴り足が地面に着く度に砂煙と土が飛び散る。もはや二人のぶつかり合う音が鳴り響くだけで、一夏や箒、そしてスナイパーであるセシリアの目でさえも二人の応酬をはっきりと捉えることができない。

 

 「ホ、ホホホホ……。一夏さん、私はアニメーションでも見ているのでしょうか? お二人の戦う姿が目で追えませんの……」

 

 「ははは、大丈夫だセシリア。……俺の目にも同じ事が起きている」

 

 「フッ。奇遇だな、二人共。私にも同じ光景が見えているぞ。あれは、私達の実力では目で追う事も出来ないレベルで戦っている。……目指す高みは遠いな」

 

 何が起こっているのかが分からない。そんなレベルで戦う二人に、子供達から引きつった笑いが零れる。自分達が目標としている人達は、今の強さよりもさらに上へと進歩している。唯でさえ世界最強といわれた千冬が、トウマという男に出会ってさらに進化し前進している。そして、二人共に共通している事は、この極限とも呼べる戦いの中で楽しそうに笑っている事だった。

 

 「ははははっ! やるな~、織斑さん!」

 

 「フフフッ! 君もな、トウマ君!」

 

 千冬の蹴りが唸りをあげてトウマに迫れば、身体を素早く真半身にして蹴りをかわすトウマ。そのまま蹴り足を左手で掴むと、腰を引き残る右手で千冬の鳩尾目掛けて掌底を放つ。

 

 「せりゃあぁぁっ!」

 

 「くっ!? まだまだぁぁぁああっ!!」

 

 自身の急所目掛けて迫る掌底を、軸足のに力を込めて蹴り上げ防ぐという荒業で凌ぐ千冬。掌底を蹴りで防がれてしまったトウマは、一旦千冬の足を放してその場から離脱する。その間、千冬は体勢をなんとか立て直して、こちらも同じように後方へと下がる。

 

 そして、そこからまた拳の応酬が始まろうとしたその時、一夏達から声が掛かった。

 

 「「「二人共そこまで(ですわ)っ!!」」」

 

 あと少しで拳が相手に当たる寸前でピタッと止まる二人。  

 

 「お? もうそんな時間か」

 

 「む? そうだな。口惜しい気がするが、ここまでとしようか」

 

 何事も無かった様にその場でストレッチを始めるトウマと千冬。一般人の常識では考えられないほどの高度な戦いを見せた二人ではあるが、肝心の戦闘観察をしていた子供達三人からはジト目が向けられている。

 

 「…………カノウさん、千冬姉。二人が凄い事は改めて分かったんだけど、肝心の動きがまったく見えなかったです……」

 

 そんな三人を代表して一夏が大人二人に文句を述べる。観察も大事な事だと言っていた割には、観察などさせる気もない様な動きをしてのけたのだから、文句の一つでも言う権利はあるだろう。

 

 「え? そうだったのか? ……はは、そいつはすまなかったな」

 

 「うむ、あまりにも楽しくて頭から抜け落ちていたな。ははは、許せお前達」

 

 「「「ジトーーーー」」」

 

 トウマはすまなそうに謝っているが、千冬は笑顔で全く謝っている気がしない。そんな千冬に三人の視線が突き刺さるが、本人は全く気にする様子も無くストレッチをしている。

 

 「……ふう。そんな視線を私に向ける暇があるんだったら、少しは目で追えるように実力を付けろ。モンド・グロッソに参加してくる国家代表は……っと、そんなに甘い存在ではないぞ」

 

 「マジで言っているのか、千冬姉」

 

 「経験者が言っているんだ、態々嘘など言わんよ。それに、嘘を言ってどうなるんだ?」

 

 「「「た、確かに……」」」

 

 それでもジト目を向けてくる三人に対して、モンド・グロッソの優勝経験者である千冬がもっともな正論を言う。世界と言うのは自身が思っているものよりも案外広いモノである。そんな経験者の言葉に、一夏達は納得せざるをえなかった。

 

 「では、私の祖国であるイギリス国家前代表のカーン様も、このような戦闘が出来るのでしょうか。もしそうだとしたら、国家代表への道程は険しくも遣り甲斐に満ちていますわね……!」

 

 改めて見せ付けられた国家代表クラスの身体能力に、自身が辿っている道がとても険しい茨の道であることを理解したセシリア。まだまだ道半ばである彼女だが、遣り甲斐のある目標に向けて改めて決意を改めたのであった。

 

 「ん? カーンのやつか……。いや、あいつはそこまで格闘が得意な人間ではなかったぞ。むしろ、素早い回避と精密な射撃が心情の代表だった」

 

 「そ、そうですの? まぁ、良かった様なそうでない様な、複雑な気持ちですわね……」

 

 「うむ、お前はカーンの様なタイプの戦術スタイルだからな。無理に私の様な近接特化の操縦者を参考にせずとも、あいつの動きを参考した方が良い気がするな」

 

 千冬が話の中に出てきたカーンという女性について懐かしそうに語る。話しぶりからすると、モンド・グロッソで戦った事が何度かあるのだろうと他の三人は考えていた。 

 

 「分かりましたわ、織斑先生。ですが、近接戦闘が得意な操縦者の事を知っておく分には、参考とさせていただきますわ」

 

 「……フ、そうだな」

 

 セシリアの話に付き合っているうちにストレッチは終わり、うんっと伸びをして立ち上がる千冬。トウマや一夏達はすでに後片付けに入っている。

 

 「さて、セシリア。私達も片づけを手伝うとしよう」

 

 「はいですわ。お腹も空きましたし、パパッと片付けてしまいましょう」

 

 早朝から行われている訓練によって五人のお腹はもの凄く減っていた。さらにはランニングと証したフルマラソンもどきによって、本日の腹の空き具合は普段の三割り増しで減っていたのだった。

 

 「よ~し、皆! 飯にするぞっ!!」

 

 「「「「おおぉぉうっ!!」」」」

 

 今、解き放たれたすきっ腹の野獣によって、今日の食堂に大食いの嵐が巻き起こることになった。

 

 「めしーっ!!」

 

 「早く食堂へいくぞっ!!」

 

 「「「突撃ーっ!!」」」

 

 本日の食堂ではしばらくの間何かを口にかき込む音と、食堂のお姉さん達の悲鳴と怒号が絶えなかったという。

 

 

 

 

 

 

 

 IS学園・IS合同実施訓練 担当・織斑千冬&キッカ・クレメンティ

 

 

 

 

 

 

 

 「本日は、一組と二組のクラスを合わせてISの合同実施訓練を行う。三時間ぶっ続けで行うので、トイレ休憩などは私かクレメンティ先生に必ず断りを入れるように。なお、それとは別に十分間の休憩を二回挟むつもりだ。クレメンティ先生、何かありますか?」

 

 いつものように織斑さんが生徒達の前で授業内容の説明を行う。しかし、今日の授業はいつもと違い二組との合同訓練である。故に、教師を含めメンツがいつもの倍の人数で行われる。

 

 「とりあえず、私の自己紹介をしますネィ。ハァ~イ! 一組の皆さん。ワタ~シが二組の担任で元イタリア国家代表のキッカ・クレメンティで~ス! よろしくネィ!」

 

 織斑さんの隣で元気よく自己紹介をしている女性はキッカ・クレメンティと言って、二組の担任にして元イタリア国家代表を務めた女傑である。性格はまさに元気を体現したような明るさで、ブルーの瞳に栗色の髪を編みこんで右肩から垂らしている。そして、ややスレンダーなボディをISスーツで包んで仁王立ちしている。

 

 ちなみに、俺の作った料理がお気に入りらしく。会う度に夕飯を作ってくれとお願いしてくる教師の一人でもある。

 

 「皆さ~ん、今日は打鉄とラファールの両方を使用しま~ス。内容としては歩行訓練からPICをつかった浮遊訓練、それと基本的な武装を使った戦闘訓練を行う予定で~ス。グループに分けて訓練しますので、カノウ君以外の生徒は出席番号で組んでくださいィ。以上で~ス!」

 

 俺を抜きに班を構成する。これには理由があり、俺も納得していることでもある。一組は俺がいきなり入学することになった為に、定員よりも二人多いのが現状である。よって、他クラスと合同で訓練を行う際は半端に余るのが目に見えている。それに、技量からしても生徒達と一緒に訓練をしても時間の無駄であるというのが理由であった。

 

 「ヘイッ! カノウ君。食堂で働く決心はつきましたカ?」

 

 「いやいや。呼んでおいて早々それは違うだろう、キッカさん。それに、最近は何かと忙しくてね」

 

 「Oh、それは残念で~ス。ですが~、私達は諦めませ~ン。いつの日か、毎日君の御飯が食べられる事を夢見てがんばりま~ス!」

 

 ……会って早々これだ。料理を気に入ってくれるのは嬉しいんだが、食堂の職員として勧誘するのは勘弁して欲しい。料理は好きだが、毎回作るのはさすがに骨が折れる作業だ。

 

 「……クレメンティ先生。大変魅力的な提案ではあるが、今は授業中だ。カノウ君を勧誘するのは授業外にしてくれ」

 

 見かねた織斑さんが注意をしてくれた。だが、例え授業外であっても勧誘は勘弁して欲しい。

 

 「千冬~。……そうでスねィ~、今は教え子達にISを教えることが先決でス!」

 

 「元国家代表であっても、今は一応教師なんだ。ここにこうして立っているうちは、な」

 

 「ハァ~ア、堅苦しい国家代表から逃れる為に教師になりましたのに~。こっちも中々に窮屈で~ス……」

 

 まぁ、キッカさんは元気を体現したような人だからな。権力がついて回る国家代表や教師は、彼女にとって窮屈で仕方が無いのだろう。   

 

 キッカさんの言葉に少しは感じる所があったようで、織斑さんも苦笑しながら頷いている。同じ様に国家代表を経て教師になったという経歴の二人だ。通じる所も間々あるのだろう。

 

 「それで、俺は何をしたら良いんだ? さすがに、このまま突っ立っているわけではないんだろう?」

 

 クラスの皆がそれぞれグループに分かれている中、特にすることも無い俺は二人に聞いてみた。このまま三時間やる事も無く立っているのは、精神的にも肉体的にもきついからな。子供たちの成長を見てる分には楽しいんだが……。

 

 「勿論、カノウ君にも役割はあるぞ。私達と一緒に生徒の技術指導や、ISを使った実演にも協力してもらうことになる」

 

 「今日はカノウ君も先生ですね~。私達と一緒にガンバリましょう!!」

 

 「おう。よろしくな、二人とも」

 

 授業の内容を説明しながら、教師二人はジャージを脱いでISスーツ姿になる。身長や体格的にも織斑さんのほうが肉付きがよく、キッカさんはアスリートのようなスレンダータイプのボディだ。

 

 まぁ、どちらにしろ長時間見続けられる格好ではないな。スクール水着でも見ているみたいだ。

 

 そんなことを考えつつ、俺もジャージからISスーツ姿になる。男は男でぴっちりとした全身タイプのスーツが、シンジ君達が着ていたプラグスーツを髣髴させるな。でも、一夏君のやつは上下で分かれているんだよな。……何か意味はあるのだろうか? 

 

 「さて、専用機持ちは前に出ろ。これから授業で使用するISの装備を運ぶ手伝いをしてもらうからな。各自ISを展開したら、クレメンティ先生についてAピットのハンガーまで受け取りに行くように」

 

 「「「分かりました、織斑先生!」」」

 

 腕組みをしながら話す織斑さんに向かって、キビキビとした動作で揃って敬礼をする一夏君達。その様は学校と言うよりは、軍の訓練学校を連想させる光景だった。

 

 というか、織斑さんが堂に入りすぎだと思う……。

 

 それぞれにバラエティーに富んだISを展開して、二組のクラス代表である凰ちゃんがキッカさんを抱えてピットに飛んでいく。しかし、今日初めて凰ちゃんのISを見たが、MS《モビル・スーツ》のザクⅡ見たいなパーツがついているな。……あれでタックルされたら痛そうだ。

 

 「さて、じゃあこっちも反対側のBピットにISを受け取りに行きますか」

 

 「うむ。それではよろしく頼むぞ、カノウ君」

 

 「任された!」

 

 素早く雷鳥・改を展開して、織斑さんを抱えながらBピットに向けて飛び立つ。スラスターや推進システムは使わずに、PICの制御だけで飛行する。普通の飛行よりは速度も遅くゆっくりとした物だが、これはこれで鳥になって飛んでいるみたいで中々に気持ちいいものだ。

 

 「う~ん、このまま自由操作にして飛びながら昼寝でもしたい気分だな」

 

 「フフッ。ISに乗って昼寝か。……案外そういう使い方もいいかも知れんな」

 

 俺のある意味斬新な発想に思わず笑いがこみ上げてしまったのか、笑顔で話す織斑さん。

 

 「そうだろう? ミナキに頼んで、PICを使った浮遊ベッドでも作ってもらおうか!」

 

 「そうだな。束のやつにも頼んでみると良いかもしれん。あいつは案外こういうことが好きな性格だからな。喜んで作ってくれるかもしれんぞ」

 

 ははは、篠ノ之博士はノリが良いからな~。それに、どちらかといえばこういう人の為になる事が好きみたいだし。

 

 そんな話しをしているうちに、いつ間にかBピットについていた俺達は早速ISを受け取る。PICの制御だけならば無人のISでも起動できる故に、俺と織斑さんの二人で一気に六機程のISを運ぶことが出来る。各ISに牽引用のワイヤーを括り付け、ゆっくりと浮遊しながらアリーナへと運んでいく。使用するISを運ぶ為に、二回往復することになった。

 

 「ふむ、これで各班分のISが揃ったな。後は、クレメンティ先生達が装備を運んでくるのを待つばかりか……」

 

 「意外と時間が掛かってるな。装備を運ぶにしては人数も足りてると思うんだが……」

 

 「大方、小娘共が騒いでいるんだろう。このまま待つしかないさ」

 

 まぁ、時間的にはまだ余裕があるみたいだからいいけど。IS四機もあってこれじゃあ、いったい何を運んでくるのやら……。

 

 そのまま数分ほど待った後に、キッカさんを先頭にして一夏君達が戻ってきた。一人一人がコンテナラックを抱えて飛んでくる。合計四つのコンテナを地面に慎重に下ろして、ISを纏ったままこっちにやって来る。

 

 「はぁ~。結構疲れたな、二人とも」

 

 「そうですわね。ですが、既存の兵器をIS用に開発したこともあって、装備の種類は豊富になっていますわ」

 

 「確かに。銃器一つとっても、いろんな機種が存在してるからね。あたし達が知らない物も結構あるんじゃない?」

 

 「フッフッフ~! 皆さんはまだまだ知らないことが沢山ありま~ス。ですので~、学園に滞在している期間でより多くの事を学んでくださ~イ!」 

 

 三人の会話を聞いてキッカさんが先生の責務を果たしている。何処か誇らしげに語るのは、国家代表として様々な事を体験してきた為だろうか。

 

 「さて、全員揃った所で早速訓練を開始する。まずは、各班に宛がわれたISを起動させ、歩行訓練から始める。各員12分の搭乗時間を目安にして、その時間内で歩行訓練を完了しろ。出来ない者は放課後等にアリーナで自主訓練に励むように」

 

 全員が班として分かれた所で織斑さんから指示が飛ぶ。キリッとした顔つきで話す織斑さんを、どの生徒も真面目な顔つきで聞いている。

 

 「それと、私から放課後のIS訓練で役立つマメ知識を教えてあげま~ス! 放課後の訓練の為にISの申請をしますが、これはなるべく集団で申請してくださ~イ。そうすれば~、一人で気づけないことも指摘し合えることもできますし、何より申請が通りやすくなりま~ス! これ大事な事で~ス!!」

 

 キッカさんも生徒に意外と重要な事を教えてくれている。何人かの生徒はメモまで取っているように見受けられた。

 

 「それから、専用機持ちは他の生徒達の手助けをしてやるようにな。……それでは、歩行訓練開始!」

 

 「「「「はい!!」」」」

 

 織斑さんの合図で一斉に訓練に励む生徒達。俺達が運んできたISに早速搭乗し、一夏君達のアドバイスや助けを貰いながらも着実にメニューを消化していった。

 

 「皆初めてって訳でもないみたいだけど、結構スムーズにやるじゃないか。高い倍率は伊達じゃないか」

 

 予想していたよりも早く歩行訓練が終わりそうな気配に、俺は驚きと納得を持って頷く。

 

 実際の所、この学園生徒達はあらゆる面で選抜された子供達だ。ISの適正はもちろんの事、身体能力や精神面、頭脳面でも優秀な子供達が集っているのである。普段は歳相応な発言や行動をしている生徒達ではあるが、一旦訓練となればそれぞれ優秀な面を持っている子供達が多い。

 

 勿論必ずしもそうでない子もいるのだが……。

 

 「あ~、トッチ~だ~! ねぇねぇ、ISの事教えてくださ~い!」

 

 「「「「教えてください!」」」」

 

 「お~、布仏ちゃん達。何か分からない所でもあったのか?」

 

 俺がそれぞれの班を観察しながら見回っていると、背後からのんびりとした声と威勢の良い声が掛かった。布仏ちゃん達の班である。     

 

 「とりあえず、搭乗しての歩行はできたんだよ~。でも、この子が乗った時にPICとか簡易フィッティングの設定が変わっちゃったみたいでね~。設定を変更しようとしたらロックが掛かってて、どうしたらいいか分かんなくなちゃったの~」

 

 どうやら、誤って色々設定をいじってしまったらしい。件の子が泣きそうになりながら必死に涙を堪えて俺を見ている。

 

 「あ、あの。二組のイネス・バジェドールっていいまス。私が乗った時に何処を触ってしまったミタイデ、次の子が乗った時に上手く反応してくれなくナッタンデス。お願いデス、カノウさん。助けてくだサイ!」

 

 おっと、とうとう泣いてしまった。まぁ、殆ど機体を触ったことが無い子だと、こんな時にパニックになるからな。不安で仕方が無かったんだろう。

 

 いっちょ、大人の仕事をしますか!

 

 「大丈夫、俺に任せとけ。家電製品の修理工場でバイトをしてた事もあるからな。ミナキにも一通り整備関係は教わっているから、すぐに直してやるさ」

 

 なるべく安心させようと笑顔でポンと肩をたたく。実際の所そんなに難しい操作でもない為に、俺一人でもなんとかなる様な問題だった。唯、誤った設定をした場合の設定変更には教師の許可が必要になるために、生徒達だけでは如何ともし難いのがネックではある。

 

 「織斑さん、ちょっといいかな?」

 

 『どうした、カノウ君』

 

 とりあえず、許可を貰う為に織斑さんにオープンチャンネルをつなげる。すると、織斑さんはすぐに応えてくれたので、何があったのかを一通り話す。

 

 「――――って訳なんだ。だから、音声認識のプログラムを解いてくれないか?」

 

 『……そうか。では、私が今からそちらに行く』

 

 「ありがとう。そうしてくれると助かる」

 

 『なに、君は教師ではないからな。ある程度の自由がある代わりに――――』

 

 一旦通信が途切れ、別の班を見ていた織斑さんが打鉄を纏ってやってきた。その姿を見た女子生徒達からは、黄色い声が次々に上がる。

 

 「――我々の様な権限が無い。お互いに協力し合わんとな」

 

 「ああ。すまないが、早速頼むよ」

 

 「フッ、任された」

 

 俺の隣に降り立つと、そのままクールな笑みを浮かべて作業に取り掛かる。打鉄のコンソールに解除キーを打ち込み、音声認識システムに言葉を話して解除する。

 

 「ふむ、解除は出来た。後は君に任せてもいいか?」

 

 「ありがとう、織斑さん。後は俺一人……いや、せっかくだから皆でやってみようと思う。任せてくれ」

 

 「うむ、これもいい勉強になるな。では、任せたぞ」

 

 軽く手を振って、織斑さんは別の班の所へと飛んでいく。その姿を見送った俺達は、布仏ちゃんやバジェドールさん達と一緒に設定変更に取り掛かった。

 

 「システムが開いていれば、私にもある程度はいじれるよ~。イーちゃんも私と一緒にやってみよ~!」

 

 「う、うん。元はといえばワタシのやった事ですシ、布仏さんと一緒ならできる気がシマス。ガンバリマショウ!」

 

 「「「私達もついてるからね!」」」

 

 お~、皆やる気満々だな。これは下手に手伝うよりも黙って一回やらせてみた方がいいか……。

 

 「じゃあ、分からない事があったら遠慮なく聞いてくれ」

 

 「「「「「はい!」」」」」

 

 「いい返事だ。よし、それじゃあやってみよう!」

 

 布仏ちゃんが普段の挙動からは信じられない速度でコンソールを叩いている。それに合わせて、バジェドールさんが設定の数値を戻していく。他の三人は二人を応援しつつ手元をしっかりと見ている。ISは高性能であるが故に整備も中々に難しい物があるのだが、どうやら心配する必要は無いみたいだ。

 

 「――っと、これで最後~! ポチッとな」

 

 「Magnifico!!《やったーっ!!》 布仏さん、私達にも出来マシタ!!」

 

 「「「すご~い!!」」」

 

 よし、何とかできたようだな。

 

 打鉄を纏って軽く動作確認をするバジェドールさん。自分達だけで出来た事が嬉しいのか、布仏ちゃんを抱えて踊っている。この様子に気づいた他の班も、彼女達を尊敬の眼差しで見ている。これなら、バジェドールさんの失態も塗り替えることが出来たと思う。

 

 「よし。よくやったな、皆! 少しの失敗も皆で挑めば怖くは無い。失敗を恐れずに、これからの実習に取り組んでくれ!」

 

 無事に出来てよかった。これであの子達も自信を持つことが出来たと思う。過信は禁物だが、失敗を恐れて縮こまって動かないのも駄目だからな。適度な自信をつけさせるのは難しいもんだ。

 

 「ありがとうゴザイマシタ、カノウさん。これなら私、少し自信が持てるような気がシマス」  

 

 「そうか。なら、これからの実習も頑張ってくれよ。困った事が起きたら、俺や織斑さん、それにキッカさんを遠慮なく頼ってくれ」

 

 「ハイ! その時はまた頼らせて頂きマス!」

 

 ペコッと深く礼をしたバジェドールさんを微笑ましい目で見る。そして、目を輝かせて班に戻っていくバジェドールさんを見送った俺は、また困っている生徒がいないか探しながら見回りへと戻ったのであった。

                     

 

 

 

 

 

 

 IS学園・放課後 第三アリーナ

 

 

 

 

 

 

 「今日から、何かと多忙なトウマ君に代わって、私がお前のコーチを務めることになった。最低でも瞬時加速《イグニッション・ブースト》は習得してもらうつもりだ。厳しくいくつもりだから覚悟しておけよ、一夏」

 

 今、俺の目の前には千冬姉が竹刀を手にして仁王立ちしている。最近何かの用事で忙しいカノウさんに代わって、クラス対抗戦が開始されるまでの間の特訓を引き受けてくれたらしい。いつものクールな顔を薄い微笑みで飾った千冬姉が、俺に向けてドSな発言をしている。薄く笑っている所が恐怖を倍増させている気がする。

 

 「分かった。確か、イグニッション・ブーストって接近戦の必須事項だった特殊加速の事だよな。俺が、何時かの授業でカノウさんに偶然出来たって言われた」

 

 「そうだ。あの時偶然にも発動させることが出来た急加速現象が、お前にとって必須になる動作だ。これが出来なければ、お前は始めから敗者も同然の三流以下だ。いいか、必ずその身体に教え込んでやるからな」

 

 「は、はい!」

 

 雪片弐型しか武装が存在しない俺のISでは、必然的に相手との距離を詰めなければ勝つ事は出来ない。接近戦が得意なISが相手ならばなんとか戦う事出来るが、中・遠距離を主体とするISの場合は唯の的にしかならない。しかし、この技能を修得すれば雪片弐型一本でも戦えるようになるのだ。それに、白式の単一仕様能力・零落白夜と合わせれば効果は抜群の力となる。まさに、斬り捨て御免の一撃必殺ISとなるのである。

 

 「よし、ではこの技能を修得する上で大事な事は何だと思う?」

 

 「え? それは…………イメージかな?」

 

 千冬姉がいきなり問いかけをしてきたので、俺の中の知識を総動員して答えを出してみた。すると、俺の答えが合っていたのか、多少を驚いた様子で俺の顔をまじまじと見てきた。

 

 「……お前、ちゃんと勉強していたんだな。今までのお前からすると、力技か擬音でどうのこうのと話し出した上で、結局まともな答えが返ってこないものとばかり思っていた」

 

 「…………」

 

 ……我姉ながら、いくらなんでもその想像は酷すぎるだろうと思う。だが、千冬姉に言い返せない自分がいることも確かだ。なんせ、参考書を電話帳と間違えて捨てた男だからな、俺は……。

 

 「……だが、お前の答えは正解だ。やれば出来るじゃないか、一夏」

 

 「お、おう……」

 

 俺が静かに落ち込んでいると、千冬姉が笑みを浮かべながら頭をなでてくれた。こんな風に褒められたのも随分久しぶりだから、一瞬言葉に詰まってしまった。

 

 「……さて、そろそろ指導に戻るぞ」

 

 「……はい!」

 

 優しい千冬姉に撫でられたおかげで気力も回復した。そして、ここからは真剣に訓練に取り組む時間だ。くすぶっていた心に火をつけ、姿勢を正して気合を入れる。泣かせてしまった幼馴染の為にも、俺は本気で勝ちにいくつもりである。

 

 「まず基本となるのは、お前の言ったとおりイメージだ。しかし、イメージだけで如何こう出来る代物でもない。そこで必要となるスキルは基礎的な移動方法だ。加速と停止。この二つを突き詰めていけば、瞬時加速などは自ずと出来るようになる」

 

 結局の所、基礎を重点的にやっていくしか道はなさそうだ。ISは操縦者のイメージを反映できる代物だが、操縦者自身が強ければその技能も反映させることが出来るというトンでも機械である。

 

 「じゃあ、来週のクラス対抗戦までは基礎訓練を徹底的にすることになるのか」

 

 「そうなるな。ひたすら反復練習あるのみだ」

 

 よし、目指す目標が定まった。後は俺の努力しだいといった所か。鈴との約束もあることだし、今はひたすら訓練あるのみだ!

 

 「では、手始めにアリーナの端から端まで加速訓練往復200本。……始め!!」

 

 「よっしゃーーっ!! ……って、200本!? いや、最初からそれは――――」

 

 「つべこべ言わず、さっさと始めろ!!」

 

 「は、はいぃぃっ!!」

 

 千冬姉の竹刀が俺の鼻先に突きつけられる。

 

 ……あれ? なんだが後悔が湧き上がって――――。

 

 「早く、やれっ!!」

 

 「イエス、マム!!」

 

 ちっきしょーー!! こうなったらとことんまでやってやる!!

 

 後悔の念を無理やり吹き飛ばし、白式の翼を広げて地獄の反復訓練に突入した。

 

 

 

 ちなみに、この後俺は久しぶりに千冬姉の事を鬼だと思った……。

 

 

 

 そして、そう思った瞬間。竹刀でISごと吹っ飛ばされた……。

 

 

 

 

 

 

 IS学園・放課後 束ラボ

 

 

 

 

 

 

 「フンフフンフフ~ン。……出来た~!! やっと完成したよ! イエイ! ブイブ~イ!!」

 

 ここは、稀代の天才・篠ノ之束に与えられた特別研究室。学園の地下に設置され、束自身の手によって厳重な警備下に置かれた場所である。

 

 「あら、束さん。アレが完成したんですか?」

 

 そんな厳重な場所に入る扉を開けて、ミナキが大量の資料を抱えて入ってきた。

 

 「おう、ミッチ~! そうなんだよ! やっとあれが完成したんだよ~。もう、束さんはグロッキーです」

 

 「お疲れ様です、束さん。何か飲み物でも淹れましょうか? 健康ドリンクなら丁度ここにありますけど――――」

 

 「っ!? た、束さんは紅茶がいいな~!! 凄く紅茶が飲みたいです!!」

 

 ミナキが懐からいつもの健康ドリンクを取り出そうとした時。束の顔が一気に青ざめて、慌てて別の飲み物を求めた。

 

 「あら、そう? じゃあ、これは後で私が飲もうかな」

 

 束の祈りが通じたのか、懐から半分出掛かった所で戻された。そのことに、安堵の息をつく束。前に、効能に偽装された副作用を知らずに飲んだ為。あの時の記憶がトラウマになっている束であった。

 

 「…………危なかったよ~」

 

 「ん? 何か言った?」

 

 「な、ななななっなんでもないよっ!? 唯の独り言だよ!!」

 

 小さく呟いたはずの言葉に反応したミナキ。それを不自然なまでに挙動がおかしい束が、なんとかミナキの追及をかわす。心臓の鼓動が早まる中、ようやく束の危機は去ったのであった。

 

 「それにしても、態々お願いを聞いてもらってありがとう。これで、上に申請する準備が整ったわ」

 

 「あはははっ。別に、このくらいの労働はヘッチャラだぜぃ。むしろ、こんな面白い出来事が起きた事に感謝してるくらいさ!」

 

 「そう言ってもらえると助かるわ」

 

 「お互い様ってやつだね~」

 

 束の専用デスクの上に置かれた一つのケース。厳重な処理を施した上で、束が不眠不休で製作したISの心臓部である。

 

 「それが、新たに作成したコアなの?」

 

 「そうだよ~。束さんの努力の結晶である、新規ISコアだよ! これで、例の打鉄の代わりが補充できるでしょ~」

 

 そう。束がミナキに依頼された事は、例の打鉄の代わりとなるISコアの開発であった。人格がハッキリと目覚めた打鉄は、三人の女性と一人の男を自身の親と認識している。その為、幼い人格は一人になる事を極端に嫌い、この中の誰かがついていなければ精神が安定しないようになってしまった。それは、幼児が癇癪を起こす事と同じだが。なまじISの力を持った幼児である為に、たかが癇癪と侮れないのである。よって、この現状を打開する為には親である四人の誰かに打鉄を携帯させるしか案は無く。そのために代わりのISコアを束が新規に作成したのであった。

 

 「これならば、上も大人しく案を受け入れるしかないでしょうね。フフッ、IS委員会の人達が驚く様が目に浮かぶわ」

 

 「あははははっ! あいつらの驚く顔か~。是非とも映像で撮って、ネットに上げて拡散させたいねぃ!!」

 

 「ウフフフフッ。 それは名案ね」

 

 黒い笑いで物騒な事を口走る二人。ISを管理する立場にいる人間をよく思っていない二人は、千載一遇のチャンスに黒い思考が抑えられないでいた。

 

 「さて、コアも出来た事だし。束さんはそろそろトッチ~の御飯が食べたいな~」

 

 「そうね。トウマに頼んで作ってもらいましょうか」

 

 「やった~!! そうと決まればさっさと報告書を片付けて、トッチ~の所へ急ぐのだ!」

 

 「おう~!」

 

 黒い思考も美味い飯には敵わなかった様で。先程までの疲れはなんのそのとばかりに、凄まじい速度で報告書を片付ける二人であった。

 

 

 

 

 




 いかがでしたでしょうか。今回は千冬と一夏+αのお話でした。

 今回新たに登場した人物は、ほとんど出番の無い脇キャラです。

 二組担任は原作を読んだ限りでは明かされていない様なので、新規に決めました。

 キッカ・クレメンティ 
 年齢:23 
 体格:スレンダー美人
 栗色の髪を編みこんで、右肩から垂らしている。

 イタリア国家代表を経て、IS学園二組担任に就任。とにかく元気な人。少し日本語の発音が怪しい。トウマの料理がお気に入りな教師の一人。
 第一回モンド・グロッソ、イタリア代表で出場。
 
 戦績:格闘部門・三位
    射撃部門・四位
    総合戦績・四位

 鈴音のクラスメートもよく分からなかったので、新規に考案。

 イネス・バジェドール
 年齢:15
 体格:鈴音と同等
 こげ茶色のショートヘアー

 スペインからの入学生。二組に所属。気弱な性格で、自分に自信が無い。しかし、トウマや本音達によって多少自信が持てた様子。

 尚、これらの人物が今後再登場するかは未定です。

 では、誤字・脱字の指摘や感想など、お待ちしております。



 
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