インフィニット・ストラトス~終焉の銀河の果てに~   作:とっぷパン

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 トウマ達が学園で忙しく過ごす中、世界では人の悪意が動き出そうとしていた……。


第21話~動き出す悪意、対抗する者達

 五月・国際IS委員会

 

 

 

 

 大きく薄暗い部屋の中で、ホログラフィックによる国際IS委員会の議会が開かれていた。長テーブルに設けられた映像投影装置付きのイスには、様々国から選ばれた委員達が一様に渋った顔つきで座っている。

 

 『……まったく、面倒な事態になったものだ。唯でさえ絶対数が不足している欠陥品のくせに、自我を持つ兵器など……。兵器を扱う者にとっては、欠陥品以上の邪魔者以外何ものでもない』

 

 ある書類を見ていた軍人の格好をした男が、ため息をつきながら愚痴を零す。しかし、もはや愚痴というよりも罵倒だった。その意見を聞いた者達が、皆一斉に彼へと視線を向ける。

 

 『コイツの御蔭で、我々軍人の肩身が狭くなった。……特に、今まで身体を張って国を守ってきた男達の肩身がな』

 

 皆の視線を集めながら、軍人の男がさらに愚痴を零す。今度は罵倒ではなく、何処か悲哀の情が見て取れる顔で言葉を紡いでいる。

 

 『……君の言うことも一理ある。世界的にも軍備の縮小は進んでいる傾向にある。それを扱う諸君ら人材もな……。しかし、我々技術者から見れば、彼女の御蔭で科学技術が飛躍的に進歩したことも事実だ』

 

 軍人の意見を聞いた一人の技術者の男が彼の意見を認めたうえで、ISがもたらした数々の超技術が与えた技術進歩の事実を述べる。事実、国を守る戦士である軍人達の雇用が減っている事は世界的な現象である。しかし、それを補って余りあるほどの技術がもたらされた事も一つの事実である。それに、軍人の雇用が減っているとは言っても、そこまで過激な軍備縮小は行われていない。その原因の一つは、先程軍人の男が言ったISの絶対数の少なさからだった。

 

 『そうだな、貴方が言う事も事実ではある。それに、有事に備えて軍人の雇用減少はそこまで拡大していない。貴方方男性にとって少し分が悪くなっただけで、世界的に見れば大したことなど無い瑣末な事象と言えるさ』

 

 技術者の男の言葉に頷き、さらに事実を付け加える女性。この国際IS委員会唯一の女性委員である彼女は、軍人の雇用減少は瑣末な事だと切り捨てる。

 

 『だが! 我らの雇用問題は兎も角としても、兵器に余計な物が付いていいることは事実であろう。そのあたりはどうお考えか?』

 

 女性委員の発言が軍人の神経に触ったのか、自分達の雇用問題はさて置いてでもISの兵器としての不安定さに言及する軍人。

 

 『……ふむ』

 

 軍人から言及に、女性委員は鋭い目つきを一瞬彼に向けてからゆっくりと黙考する。ピンク色の髪をいじりながら、黙って己の考えを纏める。

 

 『これは、私の元国家代表としての意見だが……。貴方が仰るとおり、ISの不安定な事象はこれまでもいくらか確認されている。暴走などの事態はいまだに確認されてはいないが、自我を持つ事は篠ノ之博士が初めから言及していたことでもある。いずれ、今のISが全て自我を持ったときを考えると、兵器としての側面から見れば厄介極まりないことだろう』

 

 軍人の言葉を認めるかの様な女性委員の意見に、軍人の男はそれ見た事かと嘲笑を浮かべる。その笑みをちらりと目で確認した女性委員は、その口端に小さく笑みを浮かべた。

 

 『フッ……だが、しかし!』

 

 その笑みは、軍人の浮かべた嘲笑と同じ笑みだった。

 

 『ISとはスポーツでもなければ、戦争をする為の兵器でもない。その本質は、宇宙開発の為の作業用兵器である事を貴方は忘れておられるのではないかな、委員?』

 

 『……なんだと?』 

 

 軍人やその他の男性委員達も彼女の言葉に耳を傾ける。数十人といる委員会議ではあるが、いまや視線を独占しているのは彼女唯一人だった。

 

 『フフフッ! 言葉の通りだよ、委員。……本来ならば、軍事兵器と切り分けて扱うべきだったものを兵器に転用している所為で、軍備の縮小をもたらしている。これら全ては、ここに居る貴方方がISを正しく理解できていなかった所為で起きた、言わば自業自得のような物。スポーツだの兵器だのと言っても、所詮は地球上で扱うものとしては些かオーバースペックな代物だったのだよ』

 

 きっぱりとした女性委員の言葉と刺す様な視線に、慌てて目をそらす男性委員達。当時の世界的な風潮に乗せられてしまった自覚があるのか、渋った顔つきをさらに渋らせている。

 

 『……どうやら、各委員共に自覚が御有りの御様子。ならばこれ以上の議論は必要ありますまい』

 

 嘲笑するような笑みを浮かべる女性委員の言葉に、ろくに反論できない他の男性委員達。その様子を一通り見回した女性委員は、ため息を吐きながら呆れた視線を投げかけた。 

 

 『さて、どうやら今日は此処までの様だ。……私はこれで失礼させてもらうとするよ』

 

 結局何も言い返せない男性委員達に苦笑を零しながら、他に議題とすることも無いのでホログラフィックを切って通信を遮断する女性委員。それに合わせて次々と通信を切っていく委員達。やがて、暗い室内に二人の男性委員が残る。その二人は会議では特に発言をせず、議題に載った話を静かに聞いていた財閥の御曹司を思わせる男と、ボサボサの頭髪に胡散臭くも鋭い目付きをした科学者風の老爺だった。

 

 『……フフッ。今日も彼女の独壇場でしたねぇ、博士?』

 

 『ふんっ! 全く情け無いものだ。これだけ裏表の代表が揃って、たった一人の子娘の意見に負かされるとは……。所詮は人間の限界か』

 

 『なに、彼女が特別なだけですよ。彼らもそれぞれの分野では名の知れた者ばかり、本来ならたかが元国家代表の女一人に負かされる者は居ませんよ』

 

 先程の会議の様子を見て、他の男性委員に対して容赦なく罵倒する老爺。それに対して、彼らを擁護しながらも女性委員が突出していると話す御曹司風の男。もっとも、御曹司風の男が言った事は正しい。たった一人の女性委員に言い負かされた彼らではあるが、軍人の男を始め、各分野においては右に出るものは居ないと称される人物ばかりなのである。故に、そんな傑物たちを相手に舌で完璧に負かした彼女は天才と呼べる人物なのであろう。

 

 『……まぁよい。そんな瑣末な話をする為に態々私を残したのではあるまい。本題はなんだ?』

 

 御曹司風の男の話を黙って聞いていた老爺は、話を聞いた上でばっさりと一言で終わらせる。そして、自身をこの場に残した理由を問いかけた。

 

 『フッ、やはり一筋縄ではいかない御人だ。……いいでしょう。では、早速本題に入るとしましょうか』

 

 老爺に促されて、早々に本題へと入る事にした御曹司風の男。口元に温和そうな笑みを浮かべながらも、目の奥には怪しい光が宿っている。姿勢を前かがみにして腕を組み、老爺に残ってもらった訳を話し始めた。

 

 『博士。貴方が開発を主導しているプロジェクトの中で、あるISシステムプログラムの開発がありましたよねぇ。その開発に、是非とも私の財閥も参加させて欲しい』

 

 『…………』

 

 『勿論、それ相応の見返りは弾ませて頂きますよ。資金面での助力も惜しみませんし、必要とあれば人材もこちらで用意します。……どうでしょうか、博士?』

 

 『…………』

 

 老爺は沈黙を持って御曹司風の男に応える。しばらくの間薄暗い室内を沈黙が支配し、二人の間に剣呑な雰囲気が漂う。

 

 『……どこから嗅ぎ付けた、と聞くのは藪な質問か。良かろう、お主の提案に乗らせてもらう』

 

 暫しの間殺伐とした空気が漂うも、先に折れたのは老爺だった。閉じていた眼を開け、相変わらず鋭い目付きで御曹司風の男を睨みつける。

 

 『……フフフフッ! いいお返事が聞けて何よりですよ、博士』

 

 老爺の刺すような視線にも全く動じない御曹司風の男は、胡散臭い笑みを浮かべながら喜んで見せた。その笑みを見た老爺は渋い顔つきになるも、すぐに元の仏頂面で睨み返した。

 

 『それで、お前さんが欲しい物は何だ? 金か? システムか? ……先に言っておくが。システムを寄越せと言われても、私は絶対に譲れ――――』

 

 『いいえ、そのどれでもありません』

 

 『――なんだと?』

 

 老爺の言葉を遮り、話の中に出た可能性をばっさりと否定する御曹司風の男。その返しは想像していなかったのか、目を見開いて驚く老爺。実際の所、この老人が開発しているシステムは現在のIS事情にとっては革新的な物なのだが、それを分かった上で否定した御曹司風の男に驚きと同時に疑問を持つのであった。

 

 『フフフ。私が望んでいるのは混沌。それも、世界を巻き込み飲み込むほどの大きな混沌ですよ……』

 

 『……!? まさか、私の開発したシステムを使って……』

 

 『ええ、そうです。それに、今の時期だと丁度いい実験場所がありましてね。博士の開発したシステムの試験場にうってつけの舞台が、彼のIS学園で開かれるんですよ』

 

 御曹司風の男がなにやら手元で操作をすると、老爺の前にあるデータが表示される。

 

 『……クラス対抗戦、か。真にもってくだらない行事ではあるが、お主の言うとおりの舞台ではあるか……』

 

 『そうでしょう? 実は私も、彼の学園に出資している中の一人でしてね。この催し物に招待されているんですよ』

 

 データを見ながら色々と確認をしている老爺を尻目に、御曹司風の男は自身がIS学園に出資している事を教える。

 

 IS学園は元々日本が建設したものではあるが、広大な土地と巨大な施設の維持には多額資金が必要な為に、外部から出資者を募って運営している状況である。御曹司風の男は、その出資者の中の一人でもあったのだ。

 

 『その中でもある特権がありましてね。外部から一人だけ招待させる事ができるのですよ』

 

 『その特権を使って、私とシステムを会場に持ち込む心積もりか……。ふむ、策としては妥当な所だろうが、何かあったら真っ先に疑われるのは私達だぞ?』

     

 『勿論そこは仕方がありません。ですが、上手くいけば件の男性操縦者のデータが取れる上に、ブリュンヒルデが出張ってくれるかもしれません。そうなれば、貴方の開発したシステムの実証データとしては申し分の無いものが取れるでしょう』

 

 御曹司風の男が言っている事に一理あるのか、リスクとリターンを天秤に掛けて悩む老爺。ハイリスクではあるが、確実に自身の研究に役立つハイリターンでもある事が老爺の頭を悩ませていた。

 

 『……もし、学園に怪しまれるのがお嫌いでしたら、此方としては身代わりの方でも構いませんよ。他の出資者も誰かしら連れて来るでしょうし、リスクとしては軽いものだと私は考えていますが……』

 

 中々踏ん切りのつかない老爺に、その背を押すように笑みを浮かべながら御曹司風の男は語りかける。一見爽やかな笑みではあるが、見る者が見ればその邪悪さに気がついたことだろう。

 

 『……よし、分かった。私も共に行こうではないか。やはり、この目で見るものが一番信頼できる情報であるからな。得られるモノに比べれば、この際多少のリスクは仕方あるまいて』

 

 誘いに乗ってきた老爺の言葉に、爽やかな笑みをニタリとした邪悪な笑みに変える御曹司風の男。目を閉じてリスク云々を考察している老爺は、御曹司風の男が浮かべた笑みを見逃してしまった。

 

 もしこの時、その邪悪な笑みを見ることが出来ていたならば、後の老爺の運命は別な物となった事だろう。

 

 『フフフ、よく決断してくれました。これで私と貴方は運命共同体も同然。共にこの腐った世界を変えて見せましょう。……青き清浄なる世界の為に』

 

 『世界を、か。……気に入った。 フフフッ、ハーハッハッハッ! 必ずや私のシステムで世界を変えて見せるわ!!』  

  

 

 『では、博士。詳細はまた後ほど……』

 

 『うむ! 私も色々と準備が必要なようだからな。この場所に連絡をくれ……』

 

 老爺が端末機器を操作すると、御曹司風の男の元にある場所の地図が表示される。その情報を見た御曹司風の男は一つ頷き、表示されているデータを受け取った。

 

 『分かりました。では、明日には連絡をいたしますよ。それでは……』

 

 『うむ……』

 

 お互いに頷き合い、ホログラフィックの映像を切る。室内が暗闇に包まれ、誰も居ない室内には沈黙が訪れた。

 

 しかし、その闇の中でうごめく影が一つ存在した。その影は部屋の中央にある大きなテーブル下の床から這い出て、周囲に人の気配が無いことを探る。

 

 「…………」

 

 しばらく息を潜めてあたりの気配を探っていた影は、そのまま部屋の天井へ向けて鋼糸ワイヤーの付いた鏃飛ばす。そして、天井のある部分の板をずらして部屋から脱出する。

 

 「…………」

 

 しばらく闇に包まれた天井裏を進むと、この建物全体に張り巡らせているダクトの大きなパイプを見つける影。すると、腕の時計状の腕輪からレーザー光線を照射して、ダクトのパイプに人が通れる位の穴を開け始める。割と高出力のレーザーなのか、数分の時間も掛からずにパイプに穴を開け終える事に成功する。

 

 ある程度レーザーによって焼き切られたパイプの熱が下がった後、影はスルスルとパイプに中に入っていく。配管は複雑に入り組んでいたが、影は迷う様子も無く進んでいく。

 

 「…………」

 

 ここは、国際IS委員会の会議を開く場所の一つである。故に、盗聴やハッキング、施設などに侵入する者対する対策は当然してある。通気孔一つ取っても、赤外線センサーが幾重にも仕掛けられている。

 

 黒い覆面に取り付けられた暗視ゴーグルを赤外線対応に切り替え、背負っていたリュックサックの中から小さな鏡が付いている物を取り出す。その道具を躊躇う事無く赤外線のセンサーが照射されている所に翳し、赤外線を鏡で屈折させながら道具を固定して自身が通れる様に隙間を作っていく。

 

 「…………」

 

 ある程度の通れる隙間が出来た所で、影はスルスルと間を通り抜けてることに成功する。

 

 その作業を何回か繰り返した後、建物の外へと繋がるダクトの出口に到達する。ダクト出口で一旦息を潜めて周りの気配を探る影は、周囲に誰も居ないことを確認すると自身の身体に光化学迷彩処理を掛ける。一瞬にして周りの景色に溶け込み見えなくなった事を確認した影は、ダクト出口の金具を外して夜の闇に出る。

 

 「…………」

 

 辺りを見回して建物を後にする影。建物の周りは木々が鬱そうと茂る森が広がり、人が住んでいる所まではそれなりの距離がある場所である。

 

 その月に照らされた夜の森をひたすら走る影。

 

 草木を掻き分けながら一時間ほど走ると、遠くに街の明かりが見えてきた。

 

 「…………あと少し」

 

 光化学迷彩を掛けている影の口から、女性のものと思われる声が零れる。街に入るまでは迷彩を解く気は無いらしく、只管に街へ向けて端を動かす。走ること数分で街の中に入る事に成功した影は、人気のある公園のある公衆トイレに飛び込む。そして、それなりの人が行きかう中で数分の時が流れると、女性用トイレの中から一人の女性が姿を現した。

 

 「…………」

 

 周囲の人々の中でも美人の部類に入る彼女は、歩いている周りの男女問わず視線を受ける。しかし、その視線を涼しい顔で受け流し、颯爽とした足取りで公園を後にする女性。ピンク色の髪を風に靡かせながら、ヒールの低い靴で街を歩く。

 

 そして、ある通りまで差し掛かると女性の目の前に黒塗りのベンツが止まる。

 

 「…………」

 

 「どうぞ……」

 

 運転席から初老の男が降りてきて、女性の為に後部座席のドアを開ける。開け放たれたドアから無言で車に乗り込むと、運転手と見られる男は静かにドアを閉めて自身も運転席へと乗り込んだ。

 

 「手間を掛けたな、セロ。だが、首尾は上々だったぞ」

 

 車内に入って初めて口を開く女性。その声は若干低いものの、彼女の容姿と合わせれば魅力的なものへと変化していた。

 

 「それはよう御座いました。……しかし、このセロ。我主の実力を知っていながらも、心の臓が止まってしまう様な気持ちで居りました。どうかその御身、大事にしてくださいますようお願い申し上げます」

 

 女性からセロと呼ばれた初老の男は、自身の主の行いに対して自重を求める。

 

 「フフッ。そう言ってくれるな、セロ。今回の作戦で得られた情報は大きい。ついに、あの男が動き出したのだ。こちらも多少のリスクは負わねば、やつの計画は止められまいて……」

 

 セロの言葉を嬉しく思いながらも、自信が今回自ら乗り込んで掴んだ情報を話し始める。その言葉に眉をピクッと反応させて、バックミラー越しに己の主を見るセロ。車のアクセルを静かに踏み、滑る様にしてその場から移動を開始する。

 

 「では、やはりあの方は……」

 

 「おう。黒も黒、真っ黒だったよ。国際IS委員会の一委員である陰険な博士を誑かして、この世界に混沌をもたらすそうだ。……まったく、これだからインテリぶった男は嫌いだ」

 

 「……心中お察し申し上げます」

 

 深いため息を一つ吐いて、先程の御曹司風の男と老爺の会話を思い出す女性。その姿を見たセロは、自身の主に対して同情の念を禁じえなかった。

 

 「さて、せっかく手に入れたこの情報を何の色もなしにくれてやるのも勿体無いな。精々あいつから、今回の仕事の対価として彼の情報でも手に入れるか……」

 

 鬱屈な気分をため息と共に追い出すと、何やら仕事のクライアントとの報酬を計算し始める女性。報酬の部分で彼と言った事から察するに、どうやら男性の情報の様だ。

 

 「失礼ながら、彼とは誰の事ですかな?」

 

 その言葉に即座に反応したセロは、主に対して平静を装いつつ質問してみる。すると、女性はセロの心情を理解したのか、若干苦笑を交えながら答えた。

 

 「フフッ、そう怖い顔をしてくれるな。彼とは、例の男性操縦者の片割れの事だよ。勿論歳の近い方の、な」

 

 「左様ですか。……しかし、何故彼の男性操縦者の情報などをお求めになるので? 必要でしたら、我々だけでも調べる事は可能ですが……」

 

 「確かにそうだが、もしかしたら私の知り合いである可能性がある。お前と同じような、な」

 

 最後の言葉に驚きを隠せ無いセロ。自身の主が言った言葉の意味を理解したセロは、真剣な顔つきをしながら車窓から外の景色を眺める主を見やる。

 

 「……そうでしたか。その可能性には至りませんでした。……と言う事は、何れは直接お会いになる所存ですかな?」

 

 「ああ、その心算だ。もし彼が私の知っている人間ならば、あの時果たせなかった約束を叶える事が出来るからな。それに……」

 

 「……どうされました、主様?」

 

 途中で言葉に詰まって綺麗な顔を薄らと朱に染めた女性を見て、セロはニヤつきながら主をからかってみせる。

 

 「う、うううるさいわっ! これは極めて個人的な感情だ。例え長年の付き合いなお前といえど、下手に介入したら分かっているだろうな?」

 

 若干震えている声で話す主をちらりと見ると、思った事をそのまま口に出す事にしたセロ

 

 「……声が震えておりますぞ、っと」

 

 「その口を閉じろっ! この不躾な俗物がぁぁぁああっ!!」

 

 「はーはっはっはっ! いやー、ついに我主様にも色恋の時が来たのですな! 不肖このセロ、主様の色恋沙汰と聞いては全力でサポートいたしますぞっ!!」

 

 後部座席に座る女性羞恥に塗れながら脱いだ靴を投げ飛ばし、飛んできた靴を見事な反射神経で掴み取るセロ。先程までのシリアスな雰囲気が一気に霧散し、ギャーギャーと騒ぎながら二人を乗せたベンツは街から消えていった。

 

 「主様! 噛み付きは反則ですぞっ!? あ痛ーっ!?」

 

 「うるひゃいっ!! ひゃっひゃとわひゅりぇりょっ!!」

 

 「ああっ! 主様からのお仕置き……。俄然やる気がおきてきましたぞっ!!」

 

 「こ~の、変態趣味の俗物がぁぁぁぁぁああああっっ!!」

 

 闇を街明かりが照らす静かな夜に、女性の罵声と初老の執事の恍惚に満ちた声が響いていく……。

 

 

 

 

 

 

 




 こんにちは、お久しぶり、初めまして。この物語の作者であるトップパンです。 

 今回は少し短いながら、トウマ達を取り巻く世界の現状について触れてみました。劇中に出て来る女性委員とその執事さんは、これからの物語に大きく関わってくる事になるでしょう。

 さてさて、ピンク髪の女性とは誰の事やら……。

 誤字脱字・感想など、お待ちしております。
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