インフィニット・ストラトス~終焉の銀河の果てに~   作:とっぷパン

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 トウマによる地獄の様な訓練を経て、一夏と鈴音の戦いが今幕を開ける……。


第23話~ついに開幕、クラス対抗戦。そして、招かれざる来訪者……

 IS学園・クラス対抗戦当日 第二アリーナ・第一試合

 

 

 

 

 

 雲一つ無いような晴れた空の下、本日はいよいよクラス対抗戦(リーグマッチ)が開幕となった。観客席には各国の要人やら将来スカウトする際に参考にしようとに赴いた人達、各クラスの一年生や他学年の生徒達で埋め尽くされている。観客席に入りきらなかった人達は、アリーナ外にある大型モニターや個人の空間投影ディスプレイでも観戦できるらしい。

 

 昨日の夜、束さんがはりきって何かの改装をしていたっけ……。目の下に隈を作りながら笑みを浮かべて作業する束さんは、正直妖怪の類と見間違えるくらい不気味だった。妖怪・月夜の笑いウサギってところか……。

 

 「……あ~あ、こんなに人が集まるとは思わなかったな」

 

 「は? 何言ってのよ、あんたは……」

 

 今俺の目の前には、第一試合の対戦相手でこの数週間色々あった相手でもある鈴が、専用IS・甲龍(シェンロン)を展開して試合開始を待っている。

 

 「世界で初の男性操縦者である一夏と、中国国家代表候補生・凰鈴音の試合なのよ。当然世界の要人やら何やらから注目されるに決まっているじゃない」

 

 

 「うぐっ! ……そりゃそうだよな。注目しない方がおかしい、か」

 

 「そういうこと」

 

 先週の合同授業で一回見たけど……。あのゴツイ非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)が特徴のISなんだが、セシリアのブルーティアーズと同じ第三世代兵装が搭載されているらしい。俺のIS・白式からの情報によると何が搭載されているかまでは分からないが、基本的に厄介な物には違いないだろう。それに、背中に刺してある大きな青竜刀の威圧感がマジでヤバイ。あんなので直接攻撃されたら、ISのシールドバリアーや絶対防御が無い限り恐怖で防げる気がしない……。

 

 『それでは両選手とも、規定の位置まで移動してください』

 

 山田先生のアナウンスが入り、俺と鈴の二人は規定と定められている位置まで移動する。その距離は約五メートル前後。ISの大きさからと武器のリーチから考えて、近接格闘で攻撃する場合は距離を詰める必要がある近さだ。

 

 「一夏。一応聞いておくけど、全力を出してもいいのよね?」

 

 鈴から開放回線(オープン・チャンネル)が入り、改めてあの日の更衣室での会話を思い出す。

 

 「ああ、勿論だ。全力で戦わなきゃ意味が無い、あの約束の意味を教えてもらう為にもな」

 

 そうだ。幼なじみとして付き合いの中でも、滅多に見ることの無かった鈴の涙を見たあの更衣室での出来事。そのケリをつける為にも、俺は全力で戦って鈴から教えてもらわなければならない。それが俺に出来る鈴へのせめてもの償いだ。

 

 「……そう。なら勝って見せなさいよね! この私、中国国家代表候補生・凰鈴音にっ!!」

 

 威勢良く、あの時の泣き顔を微塵も感じさせない笑顔を振りまきながら、鈴は背中の青竜刀を抜き放つ。

 

 『試合開始までのカウント五秒前……4……3――』

 

 俺も白式の拡張領域(バススロット)から、愛刀である雪片弐型をコールして展開する。    

 

 「ああ! 代表候補生のお前に勝って、俺は俺の目標に向かって進ませてもらうっ!!」

 

 刀身を展開して、光の刃を正眼に構える。

 

 『――1……始めっ!!』

 

 アリーナに試合開始のブザーが鳴り響き、俺と鈴は互いにISを前進させてぶつかり合う。

 

 「せやぁぁあああっ!」

 

 「はあぁぁあああっ!」

 

 鈴が上段から大きく振りかぶって、青竜刀による重さを利用した一撃を繰り出してくる。見た目に反して鋭く早いその一撃は、俺が攻撃する事を妨げる様に逆袈裟に切り込んだ雪片の刃を止める。それどころか、逆に俺の方に押し込んできた。

 

 「くっ! なんてパワーだ……。見た目以上のスペックって事かっ!」

 

 鍔迫り合いをしながら三次元躍動旋回(クロス・グリッド・ターン)で上昇していく。このままでは押し切られると考えが浮かんだ俺は、一旦距離を取るために刃を返して離脱する。

 

 「ふうん、初撃を防ぐなんて中々やるじゃない。けど――――」

 

 俺にある程度の実力があると初撃で判断したらしい鈴は、右の手にもう一つの青竜刀を展開して手首の稼動を利用してクルクルと勢い良く回しだした。

 

 「いやあぁぁぁあっ!!」

 

 そして、一旦手首の回転を止めると加速して突撃してきた。

 

 「……くっ!」

 

 二本の青竜刀が唸りを上げて振り回される。重く早い一撃は、その数を増した事でさらに捌くのが難しくなっている。……と思ったら、二つの青竜刀を連結させて独楽の様に回転しながら切りかかってきた。

 

 「てやっ!」

 

 「……っ、なんのっ!」

 

 このまま近接戦闘を続けるには、俺の技量がまだ足りないようだ。勢いを増す青竜刀をかわし、捌きながらも、何とか直撃だけは避けることに成功している。一旦距離を取って――――

 

 「――甘いっ!!」

 

 鈴の不敵な笑みと共に甲龍の非固定浮遊部位の中心付近のカバーが開き、何か大きなエネルギーが形成・射出された。

 

 「くっ!? ……何なんだ、今のは?」

 

 中心部分がチカッと光ったその瞬間、俺のわき腹を掠めて衝撃が走り抜けていった。まるでわき腹を抉られた様なこの衝撃。まさか、これが甲龍の第三世代兵装か!?

 

 「今のはジャブ程度のご挨拶よ」

 

 まだ身体を抜け切れていない衝撃にふらつきながら、不適に笑みを浮かべる鈴を見上げる。牽制(ジャブ)の後には、本命(ストレート)だと相場が決まっているってか?

 

 「……へっ。その程度のジャブじゃあ、カノウさんの地獄特訓で鍛えられている俺には効かないぜ!」

 

 「そう……。じゃあ、今度は出力を上げていくわよ!!」

 

 「え? そいつは勘弁――――」

 

 「問答無用っ!!」

 

 強がってみたら逆効果だったー!? 

 

 先程の二発よりも明らかにパワーも速度も段違いな衝撃が、俺の動きを妨げるかのように辺り一面にばら撒かれ始めた。衝撃の砲弾が着弾した所が土煙を上げて吹き飛び、その衝撃波によって白式の機体が不安定な体勢になる。

 

 これは拙い、とにかく動きながら隙を見つけなきゃ!

 

 「甘いわよ、葬式饅頭に練乳をかけて食べるくらいにねっ!!」

 

 「え? そんなに甘いのか!? そんなの食べたら、絶対に胸焼けで苦しんだ挙句に糖尿病で死ぬわっ! ――――って、おぐっ!?」

 

 見えない衝撃の弾丸に腹部を強打されて、もんどりうって地面叩きつけられる。何とか受身を取る事には成功したが、叩きつけられた衝撃と鈴からの攻撃が全身にダメージを与えて上手く立てない。

 

 「……けっ、結構ヤバイな。こっちも出し惜しみしている場合じゃないか……」

 

 ふらつく身体と飛びそうになる意識を気力で繋ぎ止め、俺は反撃に向けての算段を考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 第二アリーナ・管制室

 

 

 

 

 

 

 「あれが中国製IS第三世代兵装、衝撃砲ですか……」

 

 今私は、第二アリーナの管制室でクラスメイト兼恋のライバルのオルコットと共に一夏と鈴の試合を観戦している。鈴の専用IS甲龍が搭載している第三世代兵装と思われる武器の攻撃によって、白兵戦しか出来ない一夏とその専用IS白式が追い詰められている。

 

 「あら、良く勉強していますね。篠ノ之さんが推察した通り、あの見えない何かで攻撃されている現象は中国製IS甲龍に搭載されている武装が原因です。名を、第三世代兵装・龍咆(りゅうほう)。空間自体に圧力を掛けて砲身及び弾丸を生成し、その衝撃と言う名の弾丸を高速で撃ち出すコンセプトですね……」

 

 私が思わず呟いた独り言に、モニターを注視したままでスラスラと律儀に返答してくれる山田先生。普段はドジっ娘が前面に出ている山田先生だが、こうして疑問に対しての返答を流暢に話してくれる。千冬さんよりも年齢が私達に近い事もあって親しみを持たれ易い人だが、ちょっとした場面で改めて大人であり私達の先達の人なんだなと感じさせられる。

 

 「これは意外と厄介な代物ですわね……。砲身も弾丸も目視できないと言うのであれば、後はハイパーセンサーを駆使して回避するか己の勘と身体を信じて回避するかしかありませんわ。どちらを選ぶにしろ、今の一夏さんにそれを出来る技量と経験があるかどうかですわね」

 

 モニターを見ながら冷静に対衝撃砲の対策を練るセシリアだが、今の一夏に取れる様な手段は上手く思い浮かばないようだ。

 

 「……ふむ、その他に対応策が無い訳ではない」

 

 「え? 本当ですか、織斑先生」

 

 セシリアが述べた対応策に対して、まだ他に策があることを告げる千冬さん。視線は正面のモニターに合わせたまま答えている。鈴に追い詰められて回避に専念している一夏をハラハラとした気持ちで見ている私やセシリアとは違って、千冬さんはいつもの様にクールだ。

 

 「うむ。オルコットが今述べた対策は、私達のような近接格闘型を主とするISを使う者達にとっては不十分な策だ。あのような中級者レベルでの激しい戦闘の最中に、織斑が取れる策としては少々厳しすぎる」

 

 確かに。まだまだ初心者から漸く抜け出そうとしている一夏に、セシリアが言うような対応策はとてもじゃないが取れないだろう。勘も経験も入学当初よりも大分マシになったとはいえ、国家代表候補生を相手に立ち回るには些か不足している部分もある。

 

 「……そこでだ。あいつには以前授業中に暴発させた瞬時加速(イグニッション・ブースト)を私自らが技術指導を施して、なんとか使い物になるように習得させた」

 

 「そうか! 他のISならいざ知らず、姉さんが近接特化で組んだ白式の加速力ならば……」

 

 「そうだ、篠ノ之。束のやつが近接特化に限定して開発したISの加速性能は、そんじょそこらのISでは到底追いつけないほどの速度を誇っている。それに加えて――――」

 

 「ま、まだ何か策があるんですの? 織斑先生」

 

 どうやらまだ何か策があるようで、国家代表であった千冬さんとの経験の差にセシリアが若干ふてくされる様に頬を可愛く膨らませている。

 

 「――あいつはカノウ君からも一つ、特殊な移動歩法(・・・・・・・)を仕込まれている。もしもこの二つを使いこなせるのであれば、国家代表候補生と実力で渡り合う事も可能となるだろう」

 

 「もしかして、昨日の戦闘訓練で実演したあの歩方(・・・・)ですか!」

 

 「うむ。正解だ、山田先生」

 

 「なるほど。もし、あの特殊な移動歩方を使えるのならば、織斑君にも十分勝ち目がありますね」

 

 何やらにこやかな表情で一夏が勝利する可能性を話す山田先生だが、あいにく私とセシリアの二人には良く理解できていない。余裕を見せながら語る千冬さんと可愛らしい笑みを零す山田先生を二人でポカンと見ながら、私とセシリアは互いに視線を合わせてどちらからとも無く肩を竦め合う。

 

 「クククッ。ほれ、そうこう言っている内に織斑がそろそろ仕掛けそうだぞ」

 

 「「え?」」

 

 千冬さんが私達を見て何か含んだ様な笑いを零した後、ようやく一夏が反撃に移る事を示唆した。突然の言葉に慌ててモニターを見つめる私の目には、鈴の猛攻を掻い潜りながら瞳に強い意志の光を宿した一夏が居た。

 

 

 

 

 

 第二アリーナ・第一試合

 

 

 

 

 

 「よくかわすじゃない。この衝撃砲《龍咆》は、砲身も砲弾も見えないのが特徴なのよ。初見でここまで回避されちゃったら、正直アンタの事を見直さなきゃいけないわね」

 

 そう、その通りだった。砲弾が見えないのはまだしも、砲身までも視認できないのはかなりきついはず……だった。だが、どうしたことだろうか。初撃の回避は良いとしても、先程から一夏に向けて撃っている衝撃砲の弾丸は明らかに回避されている。視認できないのが売りの兵装なのに、多寡だか乗り始めてから一月位しか経っていない相手に当てられないでいる。

 

 「どうしたんだ、鈴。今更俺の事を見直しても遅いぜっ!」

 

 「……フン。避けるのだけは上手いじゃない、一夏。でも、回避だけじゃ勝負はつかないのよ?」

 

 なんて強がっては見たものの、こっちも決め手に掛けているのも事実……。さっきまでの近接戦闘でも、一夏はきっちりと私の動きについて来た。観客の人達には私が押している様に見えていたと思うけど、実質的にはほぼ互角の勝負だった。

 

 「……まったく。いつもいつも、気がついたら私を追い越して行っちゃうんだから……。追いかける身にもなれってのよっ!!」

 

 「えっ! 前半の部分が良く聞こえなかったんだけど!! っていうか、その衝撃砲の精密射撃をかわすのに必死でそれどころじゃないけどなっ……!」

 

 まるで、地面を踏みしめるかのように回避やステップをやってみせる一夏。イギリス代表候補生との試合では、映像を見る限りこんな高等技術を使っている様子は見受けられなかったわね……。だとしたら、ここ数週間で技能を見聞きし憶えた事になる。

 

 「へっ! だんだん掴めてきたぜ、衝撃砲の見えない弾丸をっ!!」

 

 「チッ……」

 

 空中を飛び回りながらばら撒くように衝撃砲を撃ち、その中に一夏を狙った精密射撃を織り交ぜて追撃している。しかし、一夏は回避先にばら撒いている衝撃弾までもをギリギリで回避していく。

 

 「捕った!」

 

 「……残念でした」

 

 「なに……っ!?」

 

 三次元躍動旋回で私の後ろを取った一夏だったけど、龍砲の砲身射角はほぼ無制限で撃てるのよね。だから、真後ろだろうと真上真下でも関係なく砲身を展開、衝撃弾を形成して発射できるのよ。

 

 「せいやっ!!」

 

 「うおっと!?」

 

 だけど……。

 

 「もう! 完璧なカウンターだったのに、いい加減落ちなさいよ!」

 

 完全に決まったと思ったカウンターの衝撃弾も、寸での所でかわされてしまった。ほぼ素人と言ってもいい稼働時間しかない一夏相手に、こうまで苦戦を強いられている事に対して段々と苛立ちが募っているのを感じていた。

 

 「そうそう落ちて堪るか!」

 

 ……ふう、平心静气我(落ち着け私)。一夏の成長が異常に早いのは、出会ってから今に至るまでで分かっていた事。実力的には私が上なのは分かっている、焦らず慢心せず唯只管に攻めれば確実に勝てるわ。

 

 「…………」

 

 「何だよ、急に黙り込んだりして」

 

 「……一夏、ここからは本気でいかせて貰うわ。中国国家代表候補生の本気、その身で受け止めてみなさい!」

 

 「上等だっ! こっちも出し惜しみはしないぜ!!」

 

 連結していた青竜刀・双天牙月を手に、空を切り裂くように一夏の懐へと突撃する。上段に全身の筋肉を使って振り上げた双天牙月を、筋肉の反発と突撃をした勢いを足しておもいきり振り下ろす。

 

 「でやあぁぁぁあ!!」

 

 「おおぉぉっ!!」

 

 振り下ろした双天牙月が一夏の雪片とぶつかり、激しく火花を散らしながら鍔迫り合いになる。だが、振り下ろし画受け止められるのは計算の内、ここからが中国製第三世代兵装・龍咆の真価を見せる時!

 

 「いっけーーっ!!」

 

 再度の振り下ろしと同時に龍咆の砲身を生成、衝撃弾を形成をして一夏の身体に打ち込む。

 

 「っ!? げほっ」

 

 「もういっちょ、持って往きなさいっ!」

 

 「くっ!?……それは勘弁願うぜ!」

 

 二度目の衝撃弾は、あの大地を踏みしめるかのようなステップによって回避されてしまった。だが、例え一撃とはいえど確実に叩き込んだ衝撃弾で白式のシールドエネルギーをかなり減らす事が出来たはず。対してこちらは、まだ一撃も良いのを貰っていない。ダメージと呼べるものは皆無だ。

 

 「……そろそろ仕掛けさせてもらうぜ、鈴!」

 

 「御託はいいからさっさと掛かって来なさい、一夏!」

 

 「それじゃあお言葉に甘えて……。いくぞ、白式!」

 

 気合の言葉と共に、先程まで防戦に徹していた一夏の姿が掻き消える。制限を付けているハイパーセンサーを限界まで駆使しても捕らえられないほどの何かで消え失せ、気づいた時には眼前に先程の二倍近くに膨らんだ雪片の刃が迫ってきていた。

 

 「くあっ……!?」

 

 鼻先を掠って青白く太い光の刃が真下に通り過ぎて行く。シールドエネルギーを残さず消し去るほどの力を持った刃が迫っているのを感じた瞬間、身体中の毛穴から冷や汗が噴出すのを感じる。さらに、一夏は返す刀で逆袈裟に切りつけてくる。それを受け止めるべく右手に持っている双天牙月を出来るだけ素早く、且つ力の限りに雪片の刃目掛けて打ち付ける。

 

 「ぬあぁぁあっ!」

 

 「ちぇあぁぁぁ!」

 

 光の刃と双天牙月の刃がぶつかり合い火花を散らし、お互いのISの推進力とパワーアシストをフルに使いながらの鍔迫り合いに発展する。力と力、目と目で互いに負けないと言う気迫を纏って剣を交える。予想以上の力を示してくる想い人の姿に、戦いの最中で不謹慎ではあるが心の底から喜びがこみ上げて来るのを感じていた。

 

 

 

 

 

 第二アリーナ 学園関係者・特別観戦席

 

 

 

 

 「おやおや、なんと清々しい試合だろう。正に可能性と若さに満ち溢れているじゃないか。……ねぇ、博士」

 

 世界各国の要人やIS学園に関係する者達が試合を観戦している席から少し離れた席にて、一人の御曹司風の男が一夏と鈴音の試合を見て感嘆していた。

 

 「……ふん、所詮はガキ共のお遊戯に過ぎん。もう少しまともな試合を期待していたが、あっちの小僧も中国の代表候補生もまだまだと言った所か……」

 

 そして、その隣に座るボサボサの頭髪に胡散臭くも鋭い目付きをした老爺。こちらは御曹司風の男が褒めた二人の試合を厳しい意見で切って捨てた。

 

 「ふふ、これは手厳しい意見ですね」

 

 「……だが、多寡だか一月で素人の小僧をここまで闘える様にするとは。指導を施した者の実力だけは認めてやってもいいかもしれん」

 

 「…………ほう」

 

 老爺が以外にも他者を認めたと事に、普段浮かべている薄い笑みを一瞬消して驚きに目を見開く御曹司風の男。しかし、その驚きの表情を見せたのも束の間。すぐに元の人の良さそうな笑みを貼り付けると、再び若き戦いに目を向ける。

 

 「ふふ、実に素晴らしい戦いですよ。この後に起こる事件も合わせれば、正に混沌の名に相応しい光景が見れるでしょうね。……クククッ、実に愉快、愉快」

 

 愉快そうに笑みを浮かべアリーナの中で闘う生徒を見る御曹司風の男の目は、整った外見に反して酷く虚ろで濁った印象を受ける。そして、これから起こるであろう混乱に胸を躍らせる姿は、何処か子供じみて見えるのであった。

   

 

 「……さて、多少の懸念材料はあるものの。これから起こる出来事は、いずれ人類の躍進に繋がるだろう。学園が、世界がどう変動し混乱の渦に巻き込まれるか楽しみだ」

 

 隣で愉快そうに笑みを浮かべる男から視線を外した老爺は、観客席で応援する生徒達や世界各国の要人達をぐるっと見回す。どの席に座る者達も、今はアリーナで戦う二人の若き戦士に目を奪われ興奮した様子で観戦している様だった。  

 

 「どいつもこいつもアホ面引っさげて浮かれよってからに……。ISの本質をまるで分かっとらん。兵器は何処まで言っても兵器だというのに、大人も子供もスポーツか何かと勘違いしているのが大半か……」

 

 一通り見回した老爺は、ある一角に座る生徒達に目を留めた。おそらくは各学年の内の一クラスであろう子供達は、他の生徒達と違って真剣な眼で、かつ誰もが状況を自身の手でレポートに纏めているようだった。広いアリーナに座る者達の中でも、老爺には明らかに茶番としか思えない行事に真剣な眼差しと態度で参加している子供達は何処か浮いていた。

 

 「…………ほう、この有象無象の中にもそれなりの心構えを持ったやつらが居よったか。おそらくは彼のブリュンヒルデが受け持つ生徒達か、この試合で戦う小僧を鍛えた者のどちらか……」

 

 静かに目蓋を閉じて暫しの間考えを巡らせる。しかし、その沈黙は数秒と無い間で終わり、目をカッと見開き不敵な笑みを浮かべる老爺。

 

 「是非も無し。例えどちらであろうとも、私の計画になんら支障も無い。……所詮人には限界がある。その先に辿り着こうというのならば、必ずや私の開発したシステムが必要になるだろう」

 

 「……ククッ……ククッフフフハハハハハッ!!」

 

 全ての人類を見下したような目をしながら尚もぶつぶつと一人で話す老爺を尻目に、隣に座る御曹司風の男も目に危険な光を宿す。  

 

 「さあ、始めよう諸君。これから彼女らには混沌とした未来が待っているよ……」

 

 胡散臭い笑みを貼り付けた御曹司風の男の背後には、いつの間にか数名のボディーガードであろう黒服の男達がズラッと20名ほど整列して待機していた。

 

 「……当主様、手筈は整いました」

 

 「そうか。では、各自持ち場で待機した上で作戦終了と共に脱出せよ。尻尾を掴ませる様なモノは決して残すな」

 

 「心得ました、当主様。これより各自持ち場に移動、System―《ZLAI》及びMMI・System―《LIOH》搭載型無人機動IS《ジンライ》の実戦型稼動実験を開始いたします」 

 

 黒服の一人がそう言うと、横一列に並んでいた黒服達は一斉に敬礼し観客席から出る為の通路に消えていった。それを確認した御曹司風の男と老爺は、アリーナで白熱する試合に視線を戻す。これから起こる混乱に思いを馳せながら、自身が開発したシステムの成果に心を躍らせながら。

 

 

 

 

 

 

 「…………」

 

 

 

 

 そして……。 

 

 

 

 

 

 「…………」

 

 

 

 自分達を覗き見る二つの視線に気がつく事無く……。

 

 

 

 

 「……まさか、あの人は――――」

 

 

 

 

 

 IS学園の行事の裏で暗躍する陰に気がつく事無く、初回から激戦を繰り広げるクラス対抗戦は予定通りに進行していく。

 

 

 

 

 

 「――――お父さん……なの?」

 

 

 

 

 

 

 




 いかがでしたでしょうか。

 ついに来てしまいました、クラス対抗戦の始まりであります。一夏君にとっては鈴音との約束と涙の理由を聞き出す為の戦いでもあり、対する鈴音は中国国家代表候補生としての実力を示さなければならない戦いの始まりです。

 そして、最後に登場した老爺の正体とあるはずの無い雷凰の前身であるジンライとの関係は……。一切登場しなかったトウマとミナキは何処に行ったのか……。御曹司風の男の正体とは……。
 全ての謎は次回以降のお話で。

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