インフィニット・ストラトス~終焉の銀河の果てに~ 作:とっぷパン
IS学園・クラス対抗戦 第二アリーナ・第一試合
「うおぉぉぉぉぉおっ!!」
「はあぁぁぁぁぁぁああっ!!」
互いにシールドエネルギーはあと僅かとなり、どちらかの攻撃が二、三回直撃すれば試合終了となったその時。試合の熱に浮かれるアリーナで異変が起き始める。
「キャッ!? なに?」
「いきなり照明が消えて……」
観戦席の室内照明が一斉に消え始め、異常を知らせる非常アラートがけたたましく鳴り始める。
「ああっ!? アリーナ全体が煙幕に覆われていくっ!」
観戦席に座る女子が、突然アリーナの中心付近から漏れ出した煙幕の様な煙に気づいて悲鳴を上げる。
「なに? 一体何が起きているの……?」
「っ!? 遮断シールドが展開されていく……? このままじゃ私達、ここに閉じ込められちゃうっ!」
観客席の
『所属不明のISにロックオンされています。敵・スペック不明、武装不明、特殊装備有り……』
煙幕みたいな特殊兵装があると言う事以外は、あのISの事は分からない、か……。この状況、今のところは俺か鈴の事を狙って来たとしか考えられない。だが、俺も鈴も共に消耗してシールドエネルギーはあと僅か……。敵の攻撃力が分からない以上は、あえて当たって攻撃力を確かめる事もできないな。
「鈴。こいつはちょっと拙いんじゃないか?」
「……管制室に連絡を繋いでみようとしたんたけど、あのISから何かジャミング的なものが出てるみたいね。……雑音しか聞こえないわ」
「先生達からの支援も期待は出来ない、か……。ってことは――――」
学園の教師や千冬姉達からの支援が厳しい事が判明した今。俺は言葉を途中で切りつつ再び黒い煙幕が漂う中心部を、ハイパーセンサーを通して睨みつける。
「――俺達二人である程度の時間を稼ぐか。もしくは――――」
一旦視線を敵機から外して、先程から連絡を取ろうと試みている鈴に視線を合わせる。
「私達二人だけで敵を撃破、または撃退か捕獲をするしか無いって事ね。……はぁ、全く持って難易度が高い任務だわ」
ため息と共に勝気な瞳に闘志の炎を灯す鈴は、若干苛立った様に敵ISに視線を向けた。煙幕で姿こそ見えはしないが、熱源を探知できるセンサーに切り替えれば形位は捉える事ができる。
「――って事だな。頼りにしてるぜ、相棒!」
通常のISに比べて幾分かサイズが小さいが、授業で見た現行ISのどれよりも人型に近い印象を受ける。
「……フフッ。上等ね、一夏! 何処の誰だか知んないけど、大事な大事なと~っても大事な試合をぶち壊しにしてくれた代償は払ってもらうからね!」
怒りに燃える鈴が、所属不明の敵ISに向けて指を指しながら咆える。それと同じ位の感情で苛立っている俺は、目と目で肯き合い残り少ないシールドエネルギーとENを振り絞って戦闘態勢に移行した。
『…………目標確認。任務、了解……稼動実験開始』
そして、黒い煙幕の晴れた中心から一体の異形とも言えるISが姿を現した。時代劇に登場する忍者の様に片膝立ちで地面に手を着き、紅いマントの様な物で身体を覆った姿は正に現代に蘇った忍び。体全体を覆う
『無人稼動IS・ジンライ、参ル……』
己の事を無人IS・ジンライと名のった敵ISは、黒い閃光となって俺達に襲い掛かってきた。
「来るぞ、鈴っ! さっさと倒して再試合でもしようぜっ!!」
「アンタこそ! へますんじゃないわよ、一夏っ! ……まぁ、とりあえず――――」
援軍の期待できない絶望的とも言える戦いが、今始まった。
「「邪魔者はぶっ潰す(してやるわ)!!」」
『…………』
第二アリーナ・Aピット管制室
「……アリーナ内の二人と通信不能! 各セキュリティーシステムの誤作動を確認、アリーナ内の遮断シールドレベル4に格上げされていますっ!」
厳しい表情をした山田先生が、今起きている異常事態を的確に私へと報告してくれている。普段のほんわかとした教師の顔ではなく、学園の生徒達の命を預かる教員としての顔で事態を確認している。日本国家代表であった現役時代からの知り合い兼同僚ではあるが、彼女の普段は見ない新しい一面に着実に進歩している事を感じて少々の驚きと共に嬉しさが込み上げてきた。
「各員、落ち着いて事態の対処に移れ! 山田先生はこのまま逐一アリーナ内の状況報告、残りの生徒達はシステムクラックに全力を尽くせ。……山田先生、Bピットの管制室には通信可能か?」
私は
「……はい、こちらの回線は何とか無事なようですね。非常時緊急回線にてBピット管制室に繋げます」
テキパキとした所作で素早く緊急用回線に接続する真耶から一旦視線を外し、私の少し前で食い入るようにモニター画面を見つめる二人に視線を移す。
一夏の身を心配して不安そうに画面を見つめるその様子は、間違いなく恋する女の顔だ。あの鈍感を通り越して男としての機能を失っているような弟に想いを寄せてくれている、ある意味変わり者と言ってもいい小娘達だが。箒のやつに関してはきちんと女として意識しているようだし、あいつの姉としては嬉しい限りである。まあ、何があったかは知らんが鈴音のやつも若干女として意識できる範囲に入っているようだが、セシリアに関してはまだまだといった所だろう。あいつは幼馴染といったアドバンテージが無い分、自身を一人の女だと意識させるには苦労する事だろう。
「回線開きました。正面モニターに映しますか? 織斑先生」
私が一夏に想いを寄せる小娘達について考えに耽っている間に回線を開いた真耶は、Bピットの様子を正面モニターに映すかどうかの指示を仰いできた。
「いや、コンソールのモニター画面でいい。正面モニターはこのままアリーナの戦闘を映しておくとしよう」
「分かりました。では、こちらのコンソールモニターに回線を繋ぎますね……。緊急用回線、接続完了しました」
「さすがは山田先生だな、仕事が速くて助かる。あ~……クレメンティ先生、こちらはAピットの織斑だが聞こえるか?」
とりあえず、回線は繋がっている様子なので二組の担任であるクレメンティ先生を呼び出してみる。敵ISからのジャミングが強い所為か、緊急用の回線にまで砂嵐の様な雑音が混ざっている。どうやら思っていた以上に強力な
『Ciao、千冬っ!……ソチラは……な様ですネ!』
「ああ、こちらは至って元気だよ。……っと、互いに無事を喜んでいられる状況でもないか」
若干聞き取りにくい音声ではあるが、どうやらBピットの方も大事は無いようだ。まぁ、読唇術を使えれば会話が可能な領域であるのが救いだな。
『まったくで……ス! 篠……博士から連絡を貰っ……は半信半疑でしたが~、一応言われた通り……はしておき……からバッチリですネ~!』
「ふむ、事前に計画を知れた事は大きかった。なんせ、やつらは自分達の計画とやらが上手く事を運んでいると思っている様だからな。……とっ捕まえた時の反応が些か楽しみでもある」
『アハ……ッ! 千冬も……が悪いですね~』
フフ……。不可侵の領域であるIS学園で騒ぎを起こそうとしているんだ、この程度の事位は世間的にも許される範囲だろう。むしろ理事的な立場にあるにも拘らず、未来を担う多くの子供達が集う所で事件を起こす方が言語道断だ。やつらには然るべき罰を受けてもらうとしよう……。
「それではクレメンティ先生、そちらの指揮をお願いします。基本は事前の作戦通りに進めていきますので、教師陣のIS部隊はやつらの脱出ポイントにて待機させておいてください」
『モチ……ね~! ネズミは……一網打尽ですヨ!』
「うむ。いかな理事とは言え、今回の事は目に余る。表の舞台から早々にご退場願うとするか」
『ウケケケケッ! 久々にワクワクし……ましたよ~!!』
画面の向こうのクレメンティ先生と同じように、黒い笑みを零しながら改めて気合を入れる。
しかし、こういう時は私の専用機が無いのが悔やまれる。「うー」に搭乗しても良いのだが、できればあの子には純粋に育ってほしいと思う気持ちがある。全く穢れを知らないのは駄目だとは思うが、これも母親という者が持つ心境なのだろうか……。私自身のお腹を痛めて産んだ訳ではないというのに、私の心にはあの子が自分の子供同然の存在であると言う認識が芽生え始めているようだ。これも、あの二人に出会った御蔭なのだろうな……。
はてさて、幼い子供の教育に相応しくない大人にはどんな懲罰メニューが良いだろうか……。
「……なんだろう。織斑先生が浮かべている表情に何処か見覚えがあるぞ」
「ええ、箒さん。私も幼い頃に見た覚えがありますわ……。あれはそう――」
なにやら箒とセシリアが顔を合わせて話している。
「「――自分の弟(子供)にちょっかいを掛けられた
……? 声を揃えてなにやら呟いたと思ったら、今度はガクガクと膝を震わせ始めたな。…………よく分からん。私が何か怯えさせるような事をした憶えは無いのだが……。
まあいい、今は作戦に集中するか。一夏も存外頑張っているようだしな、褒美として後で何かデザートでも奢ってやるとしよう。
「後は、トウマ君達しだいだな。なんとか持ちこたえてくれ、二人とも……」
第二アリーナ内・敵ISと交戦中
「ちぃえぇぇぇいっ!!」
敵IS・ジンライの死角から、連結させた双天月牙の刃を力の限りに振り下ろす。パワー型のISである甲龍から振り下ろされる肉厚な刃の一撃は、周囲の空気を巻き込み唸りを上げてジンライの肩口に迫る。
『…………』
しかし、特殊合金の分厚い刃がその身に食い込む瞬間、赤いマントが大きく翻りジンライの身体はすり抜けるように空に消える。
「くっ!? ……ああ、もうっ! さっきからちょこまかと動きまくりなのよ!!」
ハイパーセンサーで残像らしき物を追って後ろに振り向けば、先程と変わらない漆黒の全身装甲が泰然と宙に浮かんでいる。無人機と言うからには何らかのOSで制御されているのだろうが、やつのカメラアイからはこちらを観察するかの様な視線を感じる。
謎の無人IS・ジンライとの戦闘が始まって早数十分。私と一夏の二人は始めの怒りはもはや何処にも無く、焦りを隠しながら防戦のカウンター狙いに徹している。ジンライの日本忍者の様なトリッキーな動きに奔走されて、私達の攻撃が尽く当たらない為からだ。先程の消えたかのような回避もそうだが、まるで時代劇に登場する忍者其の者を相手にしている様だ。
「このままじゃ拙いな。俺達のシールドエネルギーが先に尽きちまいそうだ……っと!」
佇むジンライの左後方から曲線を描きつつ一夏が接近するも、見事な後ろ回し蹴りでカウンターをかまされて後退する。
『…………?』
今度は振り向き様に日本古来の暗器である十字手裏剣を大きくしたモノを、右手の平に持ちナイフの様に扱って私に向かって切り付けてくる。暗器自体は折りたためるらしく、始めはクナイの様な形で私達に襲い掛かってきた。
「くっ!? なんとかやつの攻撃に対応できてるけど、このままじゃ確実にジリ貧だわ!」
『…………回避行動、了解。回避率85%……被弾箇所ノダメージチェック開始、……完了。戦闘続行可能』
むうっ!? 奥の手の衝撃砲も殆ど当たらず、シールドエネルギーとEN共にあと僅か。先生方からの援軍は望み薄で、A・Bピット共に通信不能と来たか……。
『やっぱり通信は駄目か、鈴』
一夏から
「うおぉぉぉぉおおっ!!」
『対象攻撃損傷率計算……、損傷ハ軽微ト判断。……迎撃開始』
背後からの雪片による切り付けを寸での所で回避しながら、私よりもエネルギー残値が低いであろう一夏にカウンター気味に蹴りを叩き込もうとしている。
「こっちにもいるって事、忘れんじゃないわよ!!」
一夏にカウンターが決まる寸前、私がジンライの注意を引く事で何とか回避に成功する。注意を引く為とは言え、それなりの速度と力で振り下ろされた刃は呆気無くかわされてしまった。
『……両対象同時迎撃、可能ト判断』
私達二人を分断するように動いていたジンライは、その背に背負っている忍者刀を左手で鞘ごと抜き尋常ではない素早さを生かして私と一夏を同時に相手にしだした。
牽制としてクナイを数十本一気に投げ放ち、一夏が先程の私との戦いで見せたような大地を踏みしめる様な歩方で一気に空を駆け上がってくる。牽制用のクナイは私が衝撃砲を散弾モードで撃墜して防ぐが、ジンライは構わずに迎撃の為に動きが止まっている私の横をすり抜けて雪片を構えて突撃する一夏へと迫る。
「抜けたわよ、一夏っ!!」
「分かってる!」
一夏の目前に迫ったジンライは、私が牽制の為にばら撒いている衝撃弾をかわしながら左手に持った忍者刀を右手に持ち替えて上段から振り下ろした。
しかし、鞘に内刀している状態で、尚且つ距離も些か離れている状態で振り下ろした事に疑問を憶える。が、その疑問はすぐに解消される事になった。
「うおっ!?」
『…………』
忍者刀の鞘の先端からアンカー付きのワイヤーが射出されて、雪片を持つ一夏の右手を絡め取ったのだった。
「一夏っ!」
「ぐ、うぐぐっぐっ……!」
雪片を持つ持ち手を絡め取られた一夏であったが、ジンライの元へと引きずり出そうとする力に何とか抵抗を試みている。その隙に私は双天月牙を脇に構え、結果的に膠着状態になっているジンライに向けて近接戦闘の常套手段である
『…………!』
「うおあっ!?」
双天牙月の刃を振り下ろす直前に反対側に居る一夏から驚いたような叫びが聞こえた。が、好機だと思った私は構わずに一気に刃を振り下ろす。
「もらったわよ、ジンライっ!!」
だがその時、私の眼前に影が差した。
「なに? きゃあっ!?」
「ぐぅあっ!?」
ワイヤーで腕を絡め取られていた一夏が、ジンライによって私に高速でぶつけられたのだ。同士討ちの様な格好で地面に錐揉みしながら落下していくのを感じる。視界はぐるぐると回り続け、ぶつかった衝撃でぼやけそうになる視界の隅でジンライが私達を見下ろしているのが見て取れた。
「…………こりゃ、再戦は出来そうに無いわね」
視界の隅で赤く表示されるシールドエネルギー表示を見れば、残りのエネルギーは僅か13……。このまま地面に激突するだけで、その僅かな力の灯火は風に吹かれた蝋燭の灯の様に消えてしまうだろう。
「……みたいだな、鈴」
一夏が私の耳元でそう呟いた次の瞬間、私と一夏は地面に激突して残り僅かなシールドエネルギーと共に意識も飛びそうになった。
だがその時。
『……稼動実験、終了。稼動データヲ送信、此レヨリ離脱ヲ――――』
学園で唯一
「そうは問屋が卸さねえぜ、お客さん?」
思わず全てを救ってくれる様な気にさせてくれる、そんな力強く頼もしい声が聞こえた……。
第二アリーナ内・Bピット管制室
「甲龍、白式。両機のシールドエネルギーEMPTY、操縦者は意識を失っていますっ!!」
「Bピット緊急発進用カタパルト正常に作動、カノウ・トウマ専用IS雷鳥・改スクランブル完了っ!!」
騒がしくも何処か焦りを漂わせる管制室内。唯一の希望とも取れる男が、今自身のISを纏いアリーナに参戦した。
「ようやく緊急発進用カタパルトハッチが開放されましたカ……。後はお願いしますネ~、カノウ君」
IS学園に就任してから初めての対抗戦中の襲撃に、いつも浮かべている元気な笑顔の代わりに真剣な表情でアリーナ内を見つめる。私の生徒である中国代表候補生はすでに力尽き、一組担任である千冬の弟さんと共に地面で気を失っているのが視界に映る。
「…………ッ!!」
彼女達の傷つき倒れ伏す姿を見ながら、唇をギュッと噛み締めて体の底から湧き上がる怒りの炎を無理やり押さえつける。切れた唇の端から僅かに血が滴るが、それを拭いもせずにただ只管に学園を襲撃した敵ISへと視線を向ける。
今地面で倒れ伏す生徒は、私が此処の教員として初めて担任と言う形で受け持つ子供達の一人である。国家代表と言う重圧から解放された時、私は今まで培った技術を何かの形で残る様に思い始めた。その最中、日本近海で開設されたIS学園で未来のIS操縦者を目指す子供達を指導する教員の募集を聞き、私はすぐに個人用ジェット機を飛ばして面接に向かった。勢い勇んで学園に降り立った私を出迎えてくれたのは、クールな美貌を苦笑で彩った世界最強の称号を頂く千冬とふらついて今にも倒れそうな面接官の学園長だった。
その後、千冬に付き添われながら教員採用の面接を恙無く済ませ、その場で合格を言い渡された私は待合室で千冬と世間話に興じていた。
「ところで千冬~。貴女は何故学園の教師になろうと思ったんですカ?」
「ん? ……なに、クレメンティさんと同じ様な理由だよ。時代はすでに次の世代に移ろうとしている。今はスポーツとしての見方が大半のISだが、いずれは本来の目的にシフトしていくと私は考えている。その時に、私が培った技術やノウハウが役に立ってくれれば良いと、……そう思っただけさ」
モンド・グロッソで世界最強に輝いたあの織斑千冬が、以外にも私と同じ様な理由で教師を目指していた事に思わず呆けてしまった。その気の抜けた顔を見た千冬は、笑みを浮かべながら可笑しいかと聞いてきた。が、私は即座にそれを否定して自分が教員を目指した理由が千冬と同じだと告げて、手と手を取り合って歓喜した。
その出来事から数年の時を経て、やっと自分で受け持つ生徒達が出来た時は感慨深かった。そして、新学期が始まって初めての学年行事を迎えた矢先の襲撃事件。正直言ってはらわたが煮えくり返るほどの怒りが、私の
「唇、切れてますよ……」
「っ!? ……ありがとで~ス、ミナキ」
ギリギリと唇を噛み締めていると、私の横で緊急用カタパルトの開放と言う大役を終えたミナキがそっとハンカチで血を拭ってくれた。
「……きっと大丈夫ですよ。トウマが何とかしてくれます」
見る人を安心させるような笑みを浮かべるミナキ。しかし、その笑みはいつものホッとする様な笑みとは違いどこか影が射している様に見えた。そして、同時に悲しみの中に大きく燃え盛る炎の様な輝きも見て取れたのが印象的だった。
「そうですネ……、カノウ君なら心配するだけ無駄と言うものですネィッ!」
ミナキの瞳に映る感情が気にはなったが、今はカノウ君に賭けるしか選択肢が無い。Aピットには束博士が向かっているが、ピットの完全開放には今暫しの時間が掛かるそうだ。アリーナの各箇所に設置されていたジャミング装置の破壊と、それを護衛している人間との戦闘は未だに続いている。様々な箇所に装置を仕掛けたらしく、装置の発見は兎も角としてもISで戦闘をするには狭すぎる場所ばかりに敵が居るらしい。敵も色々と知恵がまわる様で、私が学園に就任してから最も厄介なやつらが相手のようだ。
「……ですが、油断は禁物です。相手は、あのジンライなのですから」
「……? そうですね、油断は禁物でス」
まるで、今回の敵をよく知っているかの様な話しぶりに思わず首を傾げそうになるが、とりあえずは脇に置いて相槌うつ。
もしも。もしもこの時、ミナキに対して深く踏み込む事ができていたのなら、後々の世界を揺るがす様な事実に少しは耐性が出来ていたのかもしれない。
「ええ…………本当に」
そして、ミナキ・トオミネとトウマ・カノウという人物が背負ってきたモノの途方も無い重圧に、笑顔がトレードマークと言われた元イタリア国家代表とは思えないほどの泣き顔を披露する事もなかったと思う。
第二アリーナ内・ジンライVSトウマ・カノウ
巻き上がる噴煙と火の粉……。
「…………これが、こんな物が
アリーナの内部で響く断続的な戦闘音と悲鳴……。
『……戦闘分析、開始』
怯え竦み救助を必死の思いで待つ子供達を差し置いて我先にと逃げ惑う観戦に来た大人達と、閉じ込められた子供達の命の炎を救う為に奮戦する学園の教師達……。
「…………る……さん」
突然の出来事に対処しながらも、人々を逃がす為に決死の思いで立ち向かった小さな戦士達……。
「……貴様……けは」
残り僅かなエネルギーを振り絞って闘い、力及ばず大地に転がる少年と少女……。事切れたように眠る二人が目に入り、怒りに震える拳をギュッと握り締める。脳裏に蘇るのは雷鳳に乗る切っ掛けとなったあの事件の光景。
「貴様らだけはっ――」
燃え盛る街並み、崩れ落ちるビル。自身の子供を捜して叫び続ける母親の声、辺りを焼き尽くす炎の渦から助けを求める老人の悲鳴と絶叫。
そして――
「――貴様だけは絶対に許さんっ!」
――自分の命を賭けて逃げ遅れた俺とミナキを救ってくれた、心優しき兵隊さん達の雄姿と死に様。
「外道ジンライ!!」
その過ぎ去りし日の悲惨な光景が現在と重なり、俺の心に怒りと熱き闘志が燃え滾り全身にその熱が伝わって行くの感じる。
「歪んだ人類の希望は、俺が地獄の底まで蹴り落としてやるっ!!」
体全体が熱き闘志に包まれた瞬間。俺の精神と呼応するかのように全身のプラズマコンバータが紅く輝き、雷鳥・改の周りに蒼い稲妻が奔る。
『……状況判断、新タナ敵ISトノ戦闘開始』
「いくぞっ! 雷鳥・改!!」
脚部のプラズマエネルギーを爆発させた推進力を用いて、今までこの世界の人間が体験した事も無いであろう速度で一気にジンライへとぶち当たっていく。対比で例えるのなら、
「せりゃぁぁぁぁあああっ!!」
懐に潜り込んでプラズマを纏った拳の雨を、加速した勢いのままに唯只管ジンライの全身に満遍なく打ち込む。回避の隙も与えぬほどの速度と力を持って、
「だぁありゃりゃりゃりゃっ!!」
激しい拳の連打を打ち込みながらも、右足部分についているプラズマコンバータへとエネルギーを集中させる。
『ッ!!??』
俺の魂胆にジンライも気がついた様だが、プラズマエネルギーの充填は完了している。俺の連撃は止められないぜ、ジンライ!
「今、必殺の一撃を……」
『回避率、2%未満。回避不可能……ッ!?』
「貴様に叩き込む……っ! ライジング・ストーム・ハーケンッ!! 吹き飛べぇぇぇええっ!!」
ハーケン・インパルスのプラズマ球エネルギー体を、限界まで高めて右斜め下方から回し蹴りの要領で蹴り込む。臨海寸前まで高められたエネルギーはジンライのボディーに打ち込まれて、やつ諸共アリーナの天井まで吹き飛んでいく。
そして、アリーナの天上付近のシールドにぶち当たった瞬間、ハーケン・インパルスの紅い輝きが白く成り出す。すぐに眩い閃光と共にエネルギー値が限界を向かえ、周囲に放電しながらエネルギーを拡散しつつ大きな爆発を起こした。
「…………」
アリーナ全体を揺るがす程の爆発を見上げながら、天井から地面に向かって降りる直径4メートル程の火柱の中心を注意深く見る。
「……やっぱり――」
普通の有人機ISならば確実に仕留められる程のエネルギーの火柱の中心で、赤いセンサーアイと揺らめく漆黒の影が活動を再開する様子をハイパーセンサーで強化された目が捉える。
「――一筋縄じゃあ行かないか!」
収まった炎の中から赤いマントで全身を覆ったジンライが飛び出し、クルクルと回転しながらアリーナの地面に降り立つ影。赤いマントがボロボロになっている事以外に、外見上のダメージが見られない事に少しばかり感心する。千切れたマントの破片が宙を舞い、高温のプラズマに焼かれてある種の幻想的な風景を醸し出していた。
『……敵戦闘能力、推測不能。システム・ジンライノ成長データサンプルトシテ最良……』
いよいよ本格的な戦闘が始まる。過去と未来のDGG三号機がぶつかり、二つの世界を股にかけた因縁の対決が……。
『我ノ名ハ、無人IS・ジンライ。篠ノ之 束のISヲ超エル者……』
篠ノ之博士のISを超える為だけに、こんな騒ぎを起こす貴様らを決して許しはしない。怒りを無限の闘志に変えて、俺と雷鳥・改が貴様らの欲望と共に蹴り砕く。
「俺の名はトウマ、トウマ・カノウ。……言いたい事は唯一つ。お前を地獄の底まで蹴り砕く、それだけだ!!」
いかがでしたでしょうか。
雷鳳の前身であるジンライの登場であります。始めから技や装備を使い過ぎない様にするために、大体一つ半位の使用率です。
次はいよいよジンライVS雷鳥・改。果たしてファーストシフトもしていない機体でジンライに勝つ事は出来るのか?
老爺と御曹司風の男の行く末は……?
全ては次回のお話で。
誤字脱字・感想など、お待ちしております。