インフィニット・ストラトス~終焉の銀河の果てに~   作:とっぷパン

25 / 32
 一夏と鈴のコンビを破ったジンライ。その時、雷鳥を纏いし闘神が姿を見せる……。


第25話~怒れる雷と漆黒、激闘の果てに

 IS学園・第二アリーナ 学園関係者・特別観戦席

 

 

 

 

 

 「ククククッ、ハアッハッハッハッハッハッ!! ついに出てきたか、未知なる男性操縦者よ!!」

 

 「ええ。やっと引っ張り出せたようですね、彼の男を」

 

 悲鳴や怒号で溢れる一般観客席とは対照的に、第二アリーナの特別観客席では二人の男が揃って笑みを浮かべていた。片や新しい玩具を手に入れた童の様に、片や得物の動きを見定める狩人の様に。だが、それぞれに違う笑みを浮かべる彼らではあるが、一般人がみれば共通してこう答えただろう――――

 

 「さあ、私にその力を見せてくれ! 閉塞した人類の壁を打ち破る雷の男よ!!」

 

 「ふふっ、精々先程の二人よりは奮戦してもらいたいですね~。……青き清浄なる世界の為に!」

 

 ――――狂っている、と。 

 

 

 

 

 

 

 IS学園・第二アリーナ

 

 

 

 

 

 静かでありながらも不気味な気配を漂わせるジンライを注視しながら、現時点での雷鳥・改のステータスを確認する。ファーストシフトも出来ていない初期設定な機体ではあるが、元々はこの世界には存在しない大雷鳳が変質したと思われる特機とも呼べるISだ。

 しかし、システム・LIOHが搭載されているとは言え、暴走の危険性を排除してもスペック的には第三世代の量産型クラス。ジンライ相手に何処までやれるかは正直分からない、が――――。

 

 「――なんとしてでも貴様は止めてみせるっ!!」

 

 『……戦闘開始。データ取得、解析ヲ同時進行』

 

 「いくぞぉぉぉおおっ!!」

 

 自身の闘志を奮い立たせる為に、気合と根性を全開にして突撃していく。脚部のプラズマコンバータを起動させつつ両拳にもプラズマの紅き光を発生させ、雷鳳搭乗時の戦闘において最も多く繰り出した反撃の技の構えに入る。両拳の手甲部分にあるプラズマコンバータを展開させ、拳をぶつけ合う事で青白いプラズマの鞭を作り出す。

 

 「プラズマ・ビュート! やつを逃がすなっ!!」

 

 そのまま両拳を古流空手の山突きの様に正面へと突き出し、大きく真上に振りかぶって思いっきりジンライ目掛けて振り下ろす。青白き雷の鞭が大自然の生み出す雷の様に屈折を繰り返しながら光速でジンライに迫る。二機のプラズマコンバータで生み出された雷の鞭は、強力な磁界を発生させつつさらに速度を上げて進んでいく。

 

 『…………っ!?』

 

 俺の突撃と同時に正面へと迎撃に出ていたジンライは、プラズマビュートを避ける事が叶わずに背中のマントを掴みながら両腕をクロスさせて防御の姿勢をとった。

 しかし、この技の真骨頂は雷の鞭によってスタン状態にさせる事や、プラズマビュートの副産物である電熱でダメージを与える事ではない。そう、この技はあくまで反撃、つまりはカウンターを主体とした技なのである。

 

 『…………』

 

 プラズマビュートがジンライに当たる瞬間、雷の鞭はその形状を変化させる。直撃した所から幾重にも鞭が枝分かれし、ジンライの背後に回って再びエネルギーを合流させる。すると、出来上がるのは雷の檻。敵をスタン状態にして動きを止め、電熱で獲物を焼きながら雷の檻は俺の方へと戻ってくる。ここで突き出した腕を思いっきり後方へと振り払い、拳のプラズマコンバータを解除しつつ機体背後のスラスターを起動させる。スラスターの噴射光で蒼い軌跡を描きながら、雷鳥・改は己の分身とも言える黒き影へと雷の翼をはためかせる。

 

 「おおぉぉぉぉぉっ!! ……カウンターッ!」

 

 そして、ISへと変化してから改良されたプラズマコンバータによって、脚部のコンバータを同時展開させて紅きプラズマを纏った飛び蹴りを放つ。

 

 「インパルス・ブレイク……ッ!!」

 

 『……ッ!?』

 

 本来ならば此処で飛び蹴りを食らわせて敵を蹴り砕く技だが、改良されたプラズマコンバーターによって作り出されたハーケン・インパルスによって、カウンター蹴りのダメージが1,5倍増しになる。顔を覆うバイザーが緑色に輝いて軌跡を残し、飛び蹴りのインパクトの瞬間にハーケン・インパルスの輝きによって周りが紅く彩られていく。

 

 『…………!』

 

 だが、やはり元はDGGを冠した特機なだけあって、大戦後の三年の歳月で培った必殺の一撃もそう簡単には決めさせてくれなかった。

 

 「……っ!? やるっ!」

 

 俺の蹴りが当たる一寸前までガードの姿勢を固めていたジンライは、その紅きマントを大きく翻して蹴り足を絡め取ったのである。蹴りの威力を上手い具合に逃がし、尚且つ相手の動きも止めて見せるとは大したものだ。

 俺の蹴りを止めた後に、残っていたハーケン・インパルスのエネルギー球も爆発寸前に蹴り飛ばして見せた。一連の連続した攻防を乗り切って見せたジンライに対して、俺の闘志が俄然漲るのを感じる。  

 

 「ならば……っ!」

 

 絡め取られた蹴り足をマントを引き裂きながら脱出させ、脚部についているスラスター噴射口兼プラズマ・コンバータを起動させる。両足に装着されたスラスターから勢い良く噴射剤を撒き散らし、ジンライを巻き込みながら細い竜巻を発生させて上昇していく。

 

 「こいつはどうだっ、ジンライ!!」

 

 『――分析開始……』

 

 下で気絶している一夏君と凰ちゃんを巻き込むわけにはいかないが、大技を叩き込まなければジンライの大よその機体性能がハッキリとしない。カウンター・ブレイクの強化版を上手く防御されはしたが、複数向けの攻撃をどの様に受けるのかも試さなければ……。

 

 「でええええええいっ!!」

 

 竜巻によって機体を上昇させながら、ジンライのボディに数え切れない程の蹴りを打ち込んでいく。わき腹、背面、左脚部、右肩など、全身余す事無く蹴り上げてアリーナの天井付近に到達する。竜巻で天井のシールドにジンライを縫い止めながら、俺は両腕に装着された射撃型プラズマ・コンバータを起動させる。紅いプラズマ球が形成され、それをジンライ目掛けて拳を突き出す要領で射出する。

 

 「せりゃっ! せい、せい、せいっ! せりゃああああぁぁぁぁっ!!」

 

 その動作を次々に休む事無く続け、拳による弾幕を形成しながら同時に射出したプラズマ球によって敵をシールドに固定させる。一つ一つは大した事の無い威力のインパルス・ショットではあるが、塵も積もればなんとやらと言わんばかりにそのエネルギーを蓄積させていく。

 

 『……っ!? 回避率ッ、算出……!?』

 

 拳の残像ができるほどの速度で打ちながら、雷鳥・改のPICと脚部のスラスターを使って高度を一気に下げていく。地面が近づき、ジンライの姿がプラズマ球で覆い隠されたのを見計らって、今度は全てのスラスターを駆使して天井目掛けて上昇していく。脚部のプラズマ・コンバータを二基とも最大出力で稼動させて、蒼い稲妻と化して紅いプラズマの海へとダイブする。

 

 「ライトニング・プラズマ・ダイブっ! くらえぇぇぇっ!!」

 

 蒼い稲妻と紅いプラズマの海のエネルギー同士が掛け合わさり、紅いプラズマの海が一気に膨張し光を放ち始める。稲妻の様な蹴りがジンライの居るであろう紅いプラズマの海の中心に突き刺さり、蹴り足の装甲を通して確実に手応えを伝えてきた。何かが砕ける音と感触を確かめた後、急いでその場から離脱を図る。

 そして、その数秒後。エネルギーが限界値に達した光の海は、激しい爆風と衝撃波を撒き散らしながら太いエネルギーの柱に姿を変えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 IS学園・第二アリーナ Aピット・管制室

 

 

 

 

 

  「くっ!? 状況確認を急げ! シールド損壊率を出せ、観客席の非難率もだ!!」

 

 「きゃっ!? ……は、はいっ! 計算……算出終了、中央モニターに出します!」

 

 大きな衝撃と爆発の振動を受けて、管制室内の其処彼処から驚きの声と悲鳴が上がる。ちーちゃんが悲鳴を上げる生徒に素早く指示を出し、その声に正気を取り戻した生徒が慌てて指示された事に取り掛かる。

 

 「……観客席の非難率40%、シールド損傷率22,6%……か。束、まだ管理システムは奪い返せんのか? そろそろ一夏達を脱出させんと、トウマ君が戦い辛くてしょうがない」

 

 他の生徒達にも指示を飛ばしながら、ちーちゃんは私が座っているコンソールのモニターを覗き込んできた。88cmのおっぱいが顔の付近に迫り思わずその柔らかな膨らみに顔をうずめたくなるが、緊急事態の為にグッと我慢してキーボードを叩き続ける。

 

 「分かってるよ、ちーちゃん! ……でもね、アリーナ内を統括するシステムの94,6%は奪い返したんだけど、残り5,4%のゲート封鎖を解除する権限だけがどうしても取り返せないんだよ~!」

 

 他の生徒達とは一線も二線も隔したスピードでシステムクラックを行いながら、最後の5,4パーセントをどうしても取り戻せないでいる。権限としては非常に重要かつ、今だからこそ必要なゲート封鎖を解除するモノで、これが取り戻せない為にいっくん達を回収する事も出来ずにいる。 

 

 「……お前の力をもってしてもか?」

 

 「もってしても、だよ……」

 

 「チッ、奴らも唯ではやられてくれないか……」

 

 舌打ちをしながら腕組みをして、なにやらブツブツと考え始めるちーちゃん。きっとイライラが溜まって物騒な事でも考えているのだろう……。くわばらくわばら、自他共に天才&天災と称されるこの私もこんなくだらない事件を引き起こした連中に思わず同情しちゃうよ。

 

 「さてと、早くしないとトッチーも全力で戦えないし、いっくんと鈴ちゃんも心配だね~」

 

 何故私ほどの天才が苦戦しているのかと言うと、実の所唯一つの暗号が解けないからである。その暗号に至るまでのプロセスは全て突破してあるのだが、最後の暗号だけがどうしても解けないのだ。数式を使った暗号なら大抵三秒もあれば解ける自信があるのだけど、これは明らかに奴の個人的なモノをパスワードとして使用している。しかも、その暗号がクイズ形式で出題されるのである。

 

 「……またエラー、か。こいつは本格的に参ったね~……」

 

 頭を掻きながら思わず愚痴を零す。正直言って、これは解くまでに時間が掛かりすぎてしまう。完全に時間稼ぎでもあり、永遠に解けない暗号なのかもしれない。……ある意味あっぱれだよ。

 

 「あの陰険な爺め~……! ホントに厄介なモノを持ち込んでくれたよ!」

 

 私にしては珍しく焦りを滲ませながら、片っ端から暗号となるキーワードを打ち込んでいく。あの爺の性格だけは承知しているつもりだが、趣味趣向はまったくと言っていいほど知らない。それに、あの爺には血縁となる親戚、親、子供の類が一切居ないときたもんだ。

 

 これは、あれだね。もしかしなくても、詰みってやつじゃないかな?

 

 あははははっ…………笑えないぜぃ。

 

 「これは本格的に拙い様だな、束」

 

 「正直、詰んでるねっ!?」

 

 「…………詰んでる、か」

 

 「この天才・束さんも、まだまだ修行をやる余地があるみたいだよ」

 

 コンソールの画面に集中しながらちーちゃんに色々とヤバイ事を告げる。この地球上にある言語の数は約1万弱。その中にある言葉は無限大にも等しい数となる。そんな中からパスワードを求めるなんて、人一人の人生を費やしても終える事は出来ないだろう。

 

 「…………っ! そうだ、束。ミナキさんに連絡を取ってみよう。彼女は短い時間といえど、Bピットの発進カタパルトを開放して見せた。もしかすれば……」

 

 「ミッチーが何か手がかりを知っているかもしれない、か。……あの糞爺に負けたようで癪だけど、それしか手はないね」

 

 Bピットにいるミッチーはこの何れかの暗号を解いて見せた。偶然なのかどうなのかは分からないが、解いて見せた事は事実。ならば、アリーナの権限を集約しているAピットの開放も出来るかもしれないね。

 

 「山田先生、急いでBピットに緊急回線を繋いでくれ! ミナキさんに聞きたい事ができたとな!」

 

 「了解! 緊急回線接続開始……っ!? 駄目です! 回線回路に異常を確認、敵システムが妨害を始めました!!」

 

 まやっちが緊急用回線を開こうとしたその時、コンソールの回線回路見取り図にバグが発生した。ジンライを模したようなデフォルメキャラが次々と現れ、数十体ものバグが回線回路の通り道を封鎖していく。

 

 「束っ!!」

 

 まやっちからの報告を聞いた瞬間、ちーちゃんは私に向かって叫ぶ。バグの対処くらいなら、片手間で朝飯前に完了できるぜぃ!

 

 「この天才、束さんにおまかせあれ~!!」

 

 ちーちゃんからの要請に応える為、私はたわわに実った胸元から一枚のUSBメモリを取り出す。これは、私が作成した特製のウイルス&バグ撃退プログラムが入っている代物だ。

 

 「撃退プログラム、“鳥ではない、我輩は猫である。猫でなければなんだというのだっ!” だぜぃっ!!」

 

 私が威勢良く名前を披露したその瞬間、Aピットにいる全員がずっこけた。真剣な面持ちをしていたちーちゃんも例外ではなく、コンソールの画面に思いっきり頭をぶつけている。一昔前のコント番組の様な展開に思わず笑みを浮かべてしまう私。緊急事態なのにも関わらす、この出来事でいい感じにほぐれた様だ。

 

 「何だその名前はっ!?」

 

 「ふっふっふ~、ちーちゃんたらナイスツッコミ!」

 

 「言ってる場合か! 何でもいいから急げ、束っ!!」

 

 「分かってるって……! いっけーっ! 鳥ではない、我輩は――……以下略っ!!」

 

 コンソールのメモリー差込口に鳥ではない、我輩は――以下略をセットすると、敵システム迎撃の為に猫のぬいぐるみの様なキャラが画面の上部から出現する。のっぺりとした身体にみよ~んと細く長い手と耳と同じ位に短い足、その上部に何とも言えない猫の顔が描かれている。

 

 『ハロー、エヴリニャン!』

 

 『…………?』

 

 『ハウアーユー! ファインサンキュー』

 

 やたら優しげで特徴的な渋い声でバグに躍り掛かっていく鳥ではない、我輩は――以下略。長い手の先から鋭い爪が生え、ジンライ(仮)の身体を粉微塵に切り裂いて行く。

 

 『アイウィッシュ、アイワーバード』    

 

 

 『鳥……強力ッ、注意サレタシ――――』

 

 他のバグに注意を促そうとした瞬間、バグの身体は砕けて消え去る。塵に成り損ねた破片が宙を舞い、他のバグの足元に転がりまた砕け散る。

 

 『鳥ではない、吾輩は猫である』

 

 『――――…………ッ!?』

 

 『猫でなければ、何だというのだ?』

 

 着地から立ち上がった鳥ではない、我輩は――以下略。顔の半面に影を背負って猫目が紅く輝き、言い知れない恐怖に後ずさろうとしているバグを捉える。その威圧感が半端ない様子からは、先程の優しい声色は微塵も感じられなかった……。

 

 「……姉さん。これは幾らなんでも、行動と言動が違いすぎると思うんだが……?」

 

 「そうかい? お姉ちゃんとしては結構気に入っているんだけどな~」

 

 「え? いや、その……」

 

 箒ちゃんが特製対バグ&ウイルス撃退プログラムに対しての感想を言ってきたが、そう言って話している間にもバグはその数を激減させていく。

 

 『ん? お前が本当のバグかね? 私は猫舌だが、どうだ? バグよ~!』

 

 『…………滅』

 

 『――――……ならばその舌、引っこ抜いてくれるぅっ!!』

 

 鋭い爪が生えた腕を十字に交差させて踊りかかる一匹の猫(?)と言う名の狩人。交差する腕の間から覗く瞳が紅く光り、黒い影を背負った身体で唯一鮮烈に輝いている。大将の様な位置に居るバグを取り囲む雑魚バグを一気に屠り、鋭い爪を舌で舐め上げながらゆっくりと進む猫(?)。

 

 『……敵、殲滅可能率――――』

 

 『さて、そろそろおねんねの時間だ。歯はよく磨いたかね?』 

 

 最後の一体の懐へと潜り込んだ猫(?)は、バグが持つ手裏剣状のクナイを手刀で叩き落とす。そのまま背に背負った忍者刀に手を伸ばす前にバグの首を刎ね飛ばす。

 

 『……任務、失っぱ――――』

 

 『グッナイ。そして、グッバイ……』

 

 転がり落ちた頭部を短い足で踏み抜き、今際の際の言葉でさえも無視してバグを消去する猫(?)。圧倒的な力の奔流の前には、多寡だかバグなど障害にはなりえなかったみたい。

 

 『…………塵となれば、皆同じ。例え一時の命なれど、価値を見出せしは何時となるのか……』

 

 黄昏時の夕日に佇む賢者の様に、あるいは長き修行を積んだ修験者の様に深い事を呟く猫(?)。やたら渋い声と相まって、とてつもなく格好がいいオジサンの姿が垣間見えたのであった。

 

 「…………」

 

 「…………」

 

 「…………」

 

 無事に回線回路を回復させたというのに、何だかピット内が静まり返っている。ちーちゃんは黙って硬直し、箒ちゃんとオルコッちゃんの二人は石化した様に固まっている。まやっちや他の生徒達は、魂が抜けてしまった様に脱力して呆けている。と~ってもヤバイ状況なのに、皆どうしたんだろうね?

 

 「おーい、まやっちー。回線確保したよ~」

 

 「…………」

 

 「おーい…………。まぁ、いっか。私が繋げちゃえば一石二鳥だもんね!」

 

 とりあえず、皆動いてくれないので私が緊急回線に接続する。権限をほぼ取り返したために、通信状況も至って良好だぜぃ!

 

 「もしもし、こちら天才・束さん。Bピットのミッチー、応答してちょうだいなっ!」

 

 『――――こちら、Bピットのミナキです。束さん、私に何か御用ですか?』

 

 一呼吸ほど置いて、私の座っているコンソールの画面にミッチーの姿が映し出される。若干疲れた様子が見てとれる意外は大事は無い様だ。それと、なんだが悲しそうでもあるかな……?

 

 「もっち~! ちょっち手伝って欲しいのだよ、ミッチー殿!」

 

 『分かりました。では、早速内容を教えてください』

 

 「実は――――」

 

 事のあらましをミッチーに伝える。あの陰険な爺の事も伝えた上で、彼女がどう対応するのかをじっと待つ。ミッチーは数秒目を閉じて顔を伏せた後、何かを決意した目で私を見返してきた。

 

 『――――そうですか…………。大丈夫です、私に暗号を解かせてください。恐らく、この暗号を解けるのは世界で私だけでしょうから』

 

 鋭く、そして絶対の自信を持って私に応えたミッチー。そんな彼女に対して、私は同じく自信を持って肯き返す。

 

 「……そっか。じゃあ、早速蹴散らしてやろうかね!」

 

 『ええ。トウマじゃないけれど、木っ端微塵に蹴り砕いてあげましょう!』

 

 彼女の口から出た言葉に思わず身震いを覚える。普段は優しい面が前面に出ている彼女だからこそ、より一層の恐怖心を抱く感じだ。

 

 「おおう、普段のミッチーからは想像もつかない言葉だね!」

 

 『フフッ、トウマと付き合っていたら自然とこうなりますよ』

 

 「アハハハッ! それは束さんの頭脳を持ってしても反論の言葉が見つからないねっ!」

 

 『でしょう?』

 

 よし、気合は十分で戦力も問題無し。時間は殆ど無いけど、切り札がある限り此方が勝利してみせる。いっくんと鈴ちゃんも救出しなきゃだし、糞爺とインテリお大臣もひっ捕まえないといけない。世界に混沌をもたらすとか可笑しな事を言っている連中だけど――――

 

 「――――私の楽しみを奪おうとする奴らは、地獄の底まで蹴り飛ばしてやるぜぃ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 第二アリーナ トウマVSジンライ

 

 

 

 

 

 

 プラズマエネルギーの火柱が中々収まらず、その間に気絶している二人をアリーナの隅に寝かせた後、再び空中にてジンライの様子を観察する。一夏君達にはざっと見ても大きな怪我は無かった。エネルギーが切れ掛かった所にジンライのカウンターが決まった所為で、地面に激突した瞬間のダメージは多少なりとも有る様だが、骨折や裂傷・出血と言った大事は無い様で安心して胸を撫で下ろした。

 

 「…………さて、そろそろ出て来てもいいんじゃないか? ジンライさんよ」

 

 火柱が段々小さくなってきた所を見計らって、エネルギーの柱に隠れているであろうジンライに問いかける。DGGの系列であるジンライならば、この程度でやられはしない。例え、それが歪んだ信念の元で組み上げられたモノであっても、性能の高さは折り紙つきである事だけは確かだ。

 

 『…………』

 

 火柱の中央から火の玉が飛び出す。弧を描いて地上に降り立った火の玉の中から、紅く鋭い眼光が俺に突き刺さる。勢い良く真紅のマントを翻し火の粉を払い、その強靭な漆黒のボディを見せ付けるジンライ。俺が蹴り砕いた部分は一見すると見られず、所々の装甲が剥がれ落ちている事以外大きなダメージは見られなかった。

 

 「……手応えは有った筈なんだがな」

 

 『…………』

 

 確かに蹴り足に物体を砕いた感触が伝わってきたのだが、特に損傷が無い事を疑問に思っているとジンライの懐から何かが転がり落ちた。ガシャンという金属音を立てて地面に転がり落ちた物を見ると、俺が蹴り砕いた物の正体が判明した。

 

 「ん? ……ははっ! なるほど、そういう事かよ!」

 

 『……空蝉』

 

 「そっか、そう言えば忍者だったな。機体コンセプト通りの性能を持っているって事か、こりゃあ参った」

 

 転がり落ちた物体は奴の手持ち武装だと思われる十字手裏剣と、砕けて剥がれ落ちた胸部装甲版であった。正に戦国時代の忍びを訪仏とさせる空蝉の術の再現。武器と装甲を犠牲にして内部の機能を守る。躊躇いも無く武装を防御に使用した判断能力は、さすがは無人機だと感じさせられる物だった。

 

 「何の躊躇いも無く武器を捨てる……。人間には中々難しい判断をあっさりとこなしやがる」

 

 人間ならば、己の武器を失う事に何らかの躊躇を見せる物だ。ラファール・リヴァイヴの様な拡張領域が多く、武装を多く積む事のできるISならばまだ即座に判断が下せるかもしれない。だが、白式の様な強力な武装で一つしか積めない機体ならば、こんな判断は到底下せないだろう。

 

 「……さて、戦いの続きといこうか、ジンライさんよ」

 

 『…………』

 

 一通り雷鳥・改の装備を試した所で凡その戦闘データは判明した。ならば、後は徹底的に叩き潰すだけだ。この雷鳥・改では初めて出す技だが、はたして機体が持つかどうか……。

 

 『滅……っ!!』

 

 「見ていてくれ、ミナキ。ジンライは俺が倒す!」

 

 背中の忍者刀を抜き放ち、俺に向かって突撃をかけてくるジンライ。瞬間速度は雷鳥・改と良い勝負で、パワーこそ若干奴の方が勝っている物の、その他の数値は軒並み俺の方に軍配が上がる様だ。

 

 俗に言う忍者走りで突撃しながら左手に飛びクナイを数十本握り締め、俺の数メートル手前で一気に投げ放つ。そのクナイを両手のプラズマ・コンバータを展開させて、細い鞭状のプラズマ・ビュートで纏めて絡め取る。数本が取りきれずに抜けてきたが、それは手刀で叩き落す。

 

 「ぬるいぞ、ジンライ!……むっ!?」

 

 俺の眼前に迫った奴は、そのまま攻撃をすると見せかけて上に跳んだ。さらに、左手の手甲の部分から小型のミサイルの様な物が射出され、俺の周りで炸裂し煙幕を撒き散らした。

 

 『…………』

 

 ハイパーセンサーを駆使して奴を捉えようとするが、きっと特殊な煙幕のなのだろう、熱源などがセンサーに全く反応しない。辺りを警戒しながら見回していると、突如背中に衝撃が走った。

 

 「ぐっ!?」

 

 ぶつかった感触と衝撃から、自身が飛び蹴りをくらったのを理解しつつも勢い良く煙幕の中から飛び出す。そのまま地面にうつ伏せのまま叩きつけられたが、奴を捉える為に即座に体勢を立て直そうと仰向けになる。

 しかし、時すでに遅し。

 振り返った俺が見た物は、煙幕の中から真上に飛び出したジンライが踵落としの体勢で急降下してくる所だった。

 

 『…………ッ!!』

 

「くっ! やってくれるぜ!!」

 

 踵落しが決まる寸前に両腕を交差させて防御する。瞬きをするよりも短い時間の後、交差させた両腕に奴の蹴りがぶち当たった。ミシミシという音が腕の装甲から聞こえ、やがて両腕の装甲が砕ける音に変化し、踏みしめているアリーナの地面に小さな亀裂が走り陥没する。

 

 「があぁぁぁぁっ!」

 

 『滅ッ!!』

 

 次の瞬間左腕の装甲が砕け散り、それを見た俺は瞬間的に身体を後ろに逃がして回避する。ジンライの脚部が地面に突き刺さり、直径二mの円状に大きく陥没した。

 

 「っ!? まだまだぁぁぁぁっ!!」

 

 奴が後方宙返りで離脱しようとした所に、今度はこちらが突撃を仕掛ける。ジンライの攻撃を受けた後だと尚更脚部が持つか心配だが、左腕が使いものにならなくなった今奴を仕留めきれる技はこれしかない。

 

 「プラズマ・コンバータ全力開放っ! 決める、奴より速く!」

 

 全身に有るプラズマ・コンバータを起動させ、白が基調のボディを紅いプラズマの輝きで彩る。胸部中央の大きなコンバータが一際大きく輝き、その光が軌跡となってジンライ目掛けて一直線に突き進んでいく。雷の様な速度でジンライの横っ面に無事な右拳を叩き込み、左膝蹴り、右後ろ回し蹴りで奴を吹き飛ばす。

 

 『……!?』

 

 「うおぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

 さらに、爆発的な瞬発力で吹き飛ばされた奴の後方へと回りこみながら、左足でジンライを空中へと蹴り上げる。今の蹴りで背面の装甲が大きく砕け、その飛び散った破片の雨を駆け抜けてさらに飛び蹴りを食らわせる。蹴り抜いた所でPICをフルに使って身体の向きを再び奴の方へと強引に変える。

 

 「てやあぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

そのままジンライを上に上昇させつつ、同じ様な要領で飛び蹴りの連撃を食らわせ、奴の身体をアリーナの天井付近まで蹴り上げていく。一蹴り事にジンライの堅牢な装甲が砕けて剥がれ落ち、全身に仕込まれている様々な武装が雨となって地面に降り注ぐ。

 

 『……損傷箇所チェックッ……ダメージ限界マデ、アトッ!?』

 

 しかし、懸念していた雷鳥・改の脚部にもダメージが蓄積してきた。奴の装甲を砕く度にこちらの装甲にもヒビが走り、両足の装甲からミシミシという軋む音が大きくなり始めた。

 

だが、そんな事で躊躇している場合ではない。蹴り上げられる奴よりも速く真上に回りこみ、最後の蹴りのモーションに入る。

 

 「必殺!! ライジング・メテオォォォォ!!」

 

 相手の肩口目掛け渾身の力で雷を纏った右足を振り下ろす。稲妻の様な速度で蹴りを叩き込み、装甲にヒビが入っていた右脚部はジンライの身体を吹き飛ばすと同時に砕け散った。

 蒼い光を纏いながら稲妻の如く地面に突き刺さるジンライ。激突した場所が大きく陥没し、クレーターの中心から大きな爆発と共に辺りに爆風と衝撃波を撒き散らした。

 

 「……ん? こいつは……」

 

 爆発の光を見ながら空中で警戒をしていると、爆心地から何かがこちらに飛ばされてくるのが見える。爆風に煽られながら漂う紅い布を、装甲が破壊されて剥き出しの左腕で掴む。それは、ジンライが纏っていた紅いマントの切れ端だった。

 

 「……そうだよな。やっぱり、こいつがないと雷鳳らしくない」

 

 マントの切れ端を自分の首に巻きつけ、初めて雷鳥を纏った時から感じていた物がようやく埋まった。爆風に棚引く真紅のマフラー。戦いの末に千切れた為に所々ボロボロだが、こいつを首に巻巻くだけで雷鳥・改がぐっと俺に馴染んだ気がする。 

 

 「……俺の……勝ちだ」

 

 さて、まだ肝心な奴らが残っている。この事件を引き起こした奴らを徹底的に叩き潰さなければ、第2第3のジンライが現れるかもしれない。

 

 「さてと、もう一踏ん張りか。最後まで付き合ってくれよ、雷鳥・改……」 

 

 爆発の業火に焼かれるジンライを見届けた俺は、今だ気絶している一夏君達にちらりと目を向けつつ、事件の根幹を叩く為に満身創痍の機体を特別観戦席へと向けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 第二アリーナ 学園関係者・特別観戦席

 

 

 

 

 

 

 「ふむ。稼動効率60%弱、か。まぁ、初期型にしては良くやった方だな」

 

 「……フフフッ……蓋を開けてみれば我々の負けですか。残念ながら、ここは一旦退却するしかないようですね」

 

 「そうだな、すでに戦闘データは私の研究所に送ってある。長居は無用、さっさと雲隠れと行くか」

 

 戦闘が終わったアリーナを見ながら、二人の男達が特別観戦席にてのんびりと撤退の準備を図る。御曹司風の男がパチンッと指を鳴らせば、背後の扉から3人の黒服SPが姿を見せる。その内の二人が良く訓練された動作で御曹司風の男の身なりを整え、残りの一人が隣に座る陰険な老爺からサンプルデータが入っていると思わしきメモリーを受け取る。受け取ったメモリーをあらかじめ用意しておいたアタッシュケースにしまい、脱出する準備を始めるSP。

 

 「しかし、幾らデータサンプルが不足している為に戦闘能力が低いとはいえ、私が作ったジンライを破壊して見せるとは……」

 

 その様子を眺めながら、自身が製作したISを破壊したトウマを見やる老爺。剣呑な光を宿したその目には、破壊されたジンライのマントをマフラーの様に首に巻きつけるトウマの姿が映っていた。

 

 「そうですね。彼のブリュンヒルデが出張ってきたのなら兎も角、多寡だか数ヶ月前に発見された男性操縦者に負けるとは……。些か計画に支障が出そうですね~」

 

 微塵も脅威だとは感じさせない様な態度で語る御曹司風の男。一見すると笑っている様に見える男の目には、陰険な老爺と同じく剣呑な光を宿しながらトウマの姿を映していた。

 

 「……当主様。学園内の各構成員に脱出を指示、尚且つ我々の脱出の為のルートを確認しました。これより御二方を護衛し、この地より撤退いたします」

 

 「ご苦労。……では博士、早々にここから脱出と行きましょう」

 

 鷹揚に肯く御曹司風の男と、それに続いて頷く老爺。黒服の男達が先導して観戦席の扉から通路に出ようとした瞬間、扉の感知器に男達が反応する前にひとりでに開き出した。

 

 「……そうは問屋が卸さないよ、御曹司のオジサン」

 

 扉から姿を見せたのは、学園に所属する保健室の先生で緊急医療チームの指揮官でもあるナディア・チェルノフ教員だった。何時かのボサボサだった金髪は美しい艶を放ちながらお団子上に纏められ、口には咥えタバコに右手には取り回しの良いサブマシンガンが一丁握られている。

 

 

 「いや、IS学園外部理事にして国際IS委員会議員、ムルタ・アズラエル理事。…………フゥ~、年貢の納め時って奴だね」

 

 彼女が気だるげにタバコを吹かすと、後ろの開いた扉から他の学園教師陣が続々と駆け込んできた。教師達全員の手には何かしらの武器を所持しており、始めから彼らを捉える気が満々だった事が伺えた。

 

 「……ほう、これはこれは学園教職員の皆さん。おそろいで武装なんかしまして、物騒なお出迎えわざわざありがとう、とでも言うべきかな?」

 

 窮地だというのに、相変わらずおどけた態度を崩さないアズラエル外部理事。今回の事件の黒幕である彼は、何処までも冷静にこの場から脱出する事を考えていた。

 

 『無駄だよ、無駄無駄。ここからは逃げられっこないって。大人しく掴まっちゃいなよ、外部理事さん』

 

 そんな彼らの目の前に突然空間投影ディスプレイと回線が開き、メタリックなウサギ耳のヘッドカチューシャを付けた女性が映し出される。

 

 「貴様はっ……!!」

 

 彼女の姿を見たとたん、今までの冷静でおどけた態度はなりを潜め。一気に顔が険しくなるアズラエル外部理事。彼の表情からは怨みや憎悪と言った感情しか見えなくなり、公人としての仮面があっけなく剥がれ落ちる

 

 『ハロハロ~! 7年ぶりのお久しぶりだね~、気色悪いナルシスト。そして、初めまして陰険な糞爺! 世紀の天才科学者、篠ノ之 束さんですよ~!!』

 

 「ふん、口の悪い小娘だな」

 

 『大丈夫、貴方の性格ほど悪くは無いつもりだから~!』

 

 にこやかに笑みを貼り付けながら容赦なく罵倒する束。そんな彼女の態度を気に入ったのか、一度キョトンとした後静かに目を閉じて笑みを零す老爺。幾分か悪意が篭っている含み笑いに、束以下学園教師陣は完全に引いていた。

 

 『ああ、そうだ。言い忘れていたけど……』

 

 老爺の方を出来るだけに見ない様にしながら、束が今思い出したかのように話し出す。それと時を同じくして、開いたままの扉の置くから一人分の歩く靴音がやけにはっきり響いてきた。 

 

『只今ちーちゃん――もとい、第一回世界大会総合および格闘部門優勝――――』

 

 カツン、カツンと小気味の良い音を鳴らしながら段々と近づいてくる一人の人間。静かながらも周囲の体感気温が2~3℃下がった様に感じる威圧感。

 

 『――第二回世界大会を優勝間近かで突如棄権した後、ドイツ軍、IS特殊部隊臨時顧問就任――――』

 

 地獄の底から罪人を裁きに来る使者とさえ錯覚させてしまう、恐怖を纏う生ける伝説。

 

 「お、おいっ!、まさかここに向かっているのは……!?」

 

 「も、ももももも、もしかしなくてもっ!?」

 

 「あ、あの、生ける伝説の女傑……っ!?」

 

 一歩部屋に近づく度に、心の臓が冷たく冷えていくのを感じる黒服達。身体中の血液が冷え始め、自身の身体が凍りついていく幻覚すら見ている。 

 

 『――そして現在、ここIS学園にて一年一組の担任を任されている初代ブリュンヒルデ(世界最強)。その名も――――』

 

 実に楽しそうな笑みと動作で束が名を明かす。その様子に顔を青ざめさせる男達に対して実に愉快そうな笑みを浮かべる教師達。

 

 そして、ついにその世界最強が姿を見せる。

 

 『――織斑千冬が向かってま~す!!』

 

 暑くも寒くの無い温度に設定されている筈の室内が一気に寒気を感じる気温に下がる。圧倒的なプレッシャーが室内を満たし、その威圧に乗って彼女の激しい怒りの感情が男達を縛り付ける。

 

 「……IS学園国際規約第一条。いかなる国家、及び組織も学園の領域にて関係者への干渉は認められない……。まさか、国際IS委員会のアズラエル理事ともあろう方が、この条文を知らないとは言いますまい?」

 

 黒く艶のあるロングへヤーを後ろで縛り、狼を思わせる鋭い切れ長の瞳と美しい顔立ち。メリハリの利いた男女問わず魅了する身体に、世界最強を頂くに相応しい気高い精神と強い心。

 

 「学園に、私達の生徒達に手を出したのが運の尽きだ……。貴様ら全員、大人しく懲罰を受けるが良い」

 

 一部のファンには地上に舞い降りた女神とさえ称される女性。その織斑千冬がビシッと決まったスーツ姿で日本刀を携えて現れた。

 

 「…………フ、フフッ。フハハハハハッ!!」

 

 そんな中、窮地に筈のアズラエル理事が突然声を上げて笑い出す。気が狂ったのかとも思わせる笑みに、武装した教師達が一歩後ずさる。千冬はそのまま仁王立ちで、ナディアは会いも変わらず気だるげな表情でタバコを吹かしている。 

 

 「ふむ。何が可笑しい?」 

 

 「クククッ! 何を言うかと思えば、私達がこの件の首謀者だとでも言うのかい? ブリュンヒルデ。それは幾らなんでもお門違いというものだよ!」

 

「そうさな。確たる証拠を提示して貰えないのならば、国際IS委員会にて何かしらの処分を決めなければならないが?」   

 

 何が可笑しいのかと言う千冬の質問に対して、笑いを堪えながら堂々と無実を主張するアズラエル理事と老爺。先刻までの物騒な会話は何処に行ったのか、まるでここに居る教師達を馬鹿にした様な物言いを始める二人。

 

 「クッハハハハハッ!!」

 

 「……残念だが、理事。この事に関しては、貴方と同じ国際IS委員会の方からの証言と、録音音声による貴方方の会話が証拠として提出されている。言い逃れなど欠片もできんし、決してさせはしない」

 

 「――――ハッ、……なんだと?」

 

 高笑いを途中で止め、険しい顔で千冬に問いただすアズラエル理事。 

 

 「つまり、……ここに来た時点であんた等は終わってたって事だよ」

 

 『そゆ事~! 完全に詰んでま~す!!」

 

 それに対してナディアは目を閉じてタバコの煙を吐きながら、束は小躍りでも踊りだしそうな位にノリノリでばっさりと斬り捨ててみせる。

           

 「…………ふう、そうですか。そこまでの確証があるのならば、これ以上芝居をする必要も無いですね」

 

 「そういう事だ、アズラエル理事」

 

 観念したかのような物言いでため息を付くアズラエル理事。

 老爺は相変わらず剣呑な笑みを浮かべて黙っている。その何とも言えない不気味さに、さしもの世界最強も眉をひそめて不快そうな顔で老爺を睨んでいる。

 

 「……さて、確かそちらの御老人は国際IS委員会の議員の一人だったな。そして、世界的な機械化工学の権威でもあるという」

 

 「いかにも、私は国際IS委員会の議員で、たった今破壊された無人起動ISジンライの製作者でもある」

 

 千冬の詰問に対して老爺はあっさりと正体をばらして見せた。老爺の意外な言動に虚を突かれた形になった学園教師達ではあったが、ジンライの製作者である事が分かると一様に顔が険しくなる。中でも特に千冬はその変わりようが著者で、先程までは威圧感だけを発していたが、己の弟が実験台にされた事が分かると威圧感の中に殺気が混ざり出した。 

 

 「……ほ~う、随分と簡単に吐いてくれて助かるが、保身はしなくても大丈夫なのか爺?」  

 

 千冬が殺気を出し始めたのを素早く感じたナディアは、このままだと彼女が本気で奴らを殺しかねないと判断し、さっさと終わらせようと右手のサブマシンガンを男達に向ける。 

 

 「ふん! 今更保身も何もないわ。……なんせ――――」

 

 銃口を向けられた老爺が唐突に右手を上に揚げる。感覚的に何かが起きると察した千冬とナディアの二人は、とっさの判断で千冬が前に出てIS打鉄・改、通称「うー」を展開して防御の姿勢をとり、ナディアは他の教師達と一緒に千冬の背後に滑り込む。

 

 「くっ!? 全員防御姿勢をとれっ!!」

 

 その僅か数秒にも満たない時間の後、老爺の指がパチンと鳴らされ学園関係者特別観戦室の天井が崩れ落ちる。教師達とSPの男達の悲鳴が合わさり、その中でアズラエル理事と老爺だけが笑みを浮かべて立っている。

 

 「――――私達はこの場から確実に逃げ遂せるのだから、な」

 

 天井の崩落が終わったその場には瓦礫から教師達を守る千冬と、先程トウマが倒した筈のジンライと思われるISが二体片膝をついて彼らを守っていた。

 

 「チッ、増援が居たとは……」

 

 「なに、君達に危害を加えるつもりは無い。無論、こちらに手を出さなければの話だが」

 

 「……計算を間違ったか」

 

 ISを所持しているのは現状で千冬一人のみ、対して敵ISはトウマが中々に手こずったジンライが二体。さらには増援がまだあるのかも不明で、ISを所持していない教師達やアリーナ内の生徒達が人質に取られている状況。正に現状では学園に対抗する余地は無いと言ってもよかった。

 

 そう――――

 

 「……とでも言うと思ったのか?」       

 

 ――――この学園に居る人物の事を考慮しなければ。

 

 「なんだと? うおっ!?」

 

 千冬がにやりと笑った瞬間、観戦室の特殊硬化ガラスが轟音と共に破られ、アリーナの試合場から雷のISが姿を現す。満身創痍な機体ながらも、その燃え上がる闘志は微塵も衰えを見せず、むしろ先程のジンライとの闘いよりも迫力が増している。

 

 「……人の道を外れし悪逆非道を尽くすモノ、人それを外道と言う」

 

 激しくスパークするプラズマ・コンバータが、まるで彼の怒りを表すかの様に紅く光り輝いている。世界最強である織斑千冬でさえも圧倒するプレッシャーを撒き散らし、ゆっくりと、しかし着実に彼らに近づいていく。

 

 「未来を担う子供達を実験と称し、己の私利私欲のために傷つける……」

 

 アズラエル理事と老爺を守るジンライは、トウマが乗り込んできたと同時に数十本のクナイを波状攻撃で投げ打つ。

 

 『…………ッ!?』

 

 しかし、放たれたクナイはトウマに突き刺さる前に全て掻き消え、逆に投げたジンライの身体に突き刺さっていた。何が起こったのかも分からずに敵も見方も皆がトウマの方へ視線をやれば、トウマは何かを投げた様な状態で泰然として佇んでいた。

 

 「……決して許さん。例えどんな理由があろうとも、な」

 

 刺さったクナイの場所が悪かったのか、二体の内前に出ていた方が機能を停止して膝をつく。その姿を見たもう一体のジンライは、素早くその場に屈むと腰の辺りから数個の手榴弾の様な物を取り出す。 

 

 「カオル・トオミネ……。そして、ムルタ・アズラエル。世界は違えど、その本質は会いも変わらずかっ!?」

 

 狭い空間で爆弾などを使われては堪らない、そう思ったトウマは急いでジンライに攻撃を仕掛ける。

 

 しかし、トウマが攻撃を仕掛けるよりも速くジンライの指が爆発物と思われる物のスイッチを押してしまう。眩いほどの閃光が室内を満たし周囲の学園教師達の目を眩ませると、次に対IS用の煙幕が勢い良く辺りに充満し出す。

 

 「雷の男よ、お前には人類が持つ希望を見せてもらった。……その礼として一つ教えてやろう」

 

 黒い煙幕が老爺とアズラエル理事の姿を隠していく中、何を思ったのかトウマにカオル・トオミネと呼ばれた老爺が語り出した。

 

 「私の事を良く知っているような口ぶりだが、最も大事な部分を貴様は履き違えている……」

 

 「ん? 何の話だ、カオル・トオミネ!!」

 

 「そう、それだよ! 私の名前だ!!」

 

 老爺が言っている事が良く理解できないトウマ。ハイパーセンサーを通して人影らしきものを捉えながら、トウマは因縁の相手の言葉を聞く。

 

 「……私の名は、カオル・タカミネ(・・・・)だっ!!」

 

 大きく響くカオル・タカミネの声。それは確実にトウマの耳に届き、蝸牛で電気信号に変えられて聴神経を通して脳の皮質下に向かう。皮質下で選別し取捨選択された信号が大脳皮質へと送られ、彼のカオル・タカミネの言葉を理解する。

 

 「……タカ、ミネ? …………なんだってっ!?」

 

 その驚きが大きな声となり、崩落寸前の観戦室内を満たしていく。

 

 「フハハハハッ! では、また会おう! 雷の機神を使う男性操縦者よっ!!」

 

 「ちょっ、おい!? ……ああっ、くそっ! 待ちやがれっ!!」

 

 トウマの混乱した叫びも虚しく黒煙に包まれ天井に開いた穴から空に消えていく。煙幕が晴れるとそこにはもうカオル・タカミネとアズラエル理事の姿は無く、SPの男達が床に転がって震えているだけだった。

 

 「…………カオル・タカミネって、マジか……」

 

 あれだけ周囲に威圧感を撒き散らしていたトウマだったが、カオル・タカミネの発言で一気に脱力してしまった。張り詰めていたのもがプツンと切れてしまったトウマは、崩れ落ちるように床に座り込んだ。

 

 「……その、なんだ。気を落とすな、トウマ君。奴らの名前を言いそびれていた我々にも責任の一端がある」

 

 『色々大丈夫かい、トッチー』

 

 ISを解除して床に座り込むトウマに、同じくISを解除した千冬とモニター越しの束が慰めの言葉を掛ける。色々あった学年別クラス対抗戦ではあったが、最後の最後でどっと疲れが増したトウマであった。

 

 「……なんだかな~。とりあえず今は休ませて、くれ……」

 

 「トウマ君!?」

 

 世界を転移した時から今日までの度重なる戦いによって体力に限界が来たトウマは、そのままドウッと後ろに倒れて張り詰めていた気と意識を手放す。慌てて千冬が駆け寄るが、トウマが静かな寝息を立てている事に気がつくとホッと息を吐いた。

 

 「はぁ、はぁ。……あら、寝ちゃったみたいね」

 

 「ミナキさん。……ええ、疲れが溜まって寝てしまったようだ」

 

 「フフッ、可愛い寝顔でしょ? 闘っている時はあんなに頼もしいのに……」

 

 観戦席とは反対側に位置するBピットから遅れて到着したミナキが、床で寝てしまったトウマの寝顔を見て優しく手を添えて微笑む。

 

 「そう、だな。まるで赤子の様だ……」

 

 そんなミナキに倣う様に千冬もトウマの傍らに膝をつき、疲れて寝むる戦士の顔にそっと手を添えて撫でる。二人ともに母性に満ち溢れた笑みを携え、疲れて眠る男をジッと見つめる。

 様々な戦いを経て成長した戦士は、今は唯自身の身を案じる女達に身体を預けて僅かな休息に付くのであった。   

   

 「……さて、それではミナキさん。私は他の先生と共に事後処理に当たるとしよう。すまないが、詳しい話はまた後で」

 

 「ええ、トウマは私が見てるから、千冬さんは織斑君と凰さんの所に行ってあげてください。彼らもジンライ相手に頑張ったのですから、先生よりもお姉さんとして労ってあげてください」

 

 ミナキの言葉に目を閉じて黙考する千冬。数秒経った後に静かに目を開けて一つ肯く。アリーナ内から無事に救出されている弟達に視線を移し、フッと笑みを浮かべてから再び視線をミナキに戻した。

 

 「……ミナキさんの言う通りにしよう。あいつらも中々に頑張ってくれたからな、面倒な事務処理が終わったら様子を見に行くとするよ」

 

 『束さんも行く~!!』

 

 そう言って踵を返し、束と連絡を交わしながらボロボロになった観戦室から出て行く千冬。すでに他の教師陣は被害検証と生徒の避難誘導に向かっており、観戦室に残ったのはミナキとトウマ、それに片手にサブマシンガンを携えてタバコを吹かすナディア先生であった。

 

 「トオミネ先生、とりあえずカノウさんを医務室に移動させましょう。ここに居ては危険ですし、イチャコラするならやはり医務室に限ります」

 

 真顔で鼻血を流しながら親指をグッと立てて語るナディアに、ミナキは母性に溢れる微笑みを苦笑に変えて返す。

 

 「……それじゃあ、早速医務室に運びましょう。手伝ってくれますか、チェルノフ先生?」

 

 「勿論です。ささ、速く向かいましょう!」

 

 何処からとも無く担架を取り出したナディアは、ミナキを急かす様にテキパキとトウマを担架に乗せる。そんな彼女の姿に益々苦笑しながら、ミナキ自身も担架に乗せるのを手伝うのであった。

 

 「お疲れ様、トウマ……。起きたら色々話を聞かせてね?」

 

 「ムニャ、ムニャ……、腹減った……」

 

 「フフッ、ご飯の準備もしておかないと駄目みたいね……」

 

 疲れ切った戦士を乗せて、ひと時の休息と共に担架は医務室へと向かう。目覚めた時に待っているミナキの手料理と言う不安要素を抱えたまま……。

 

 

 

 




 いかがでしたでしょうか。

 今回で雷鳥・改とジンライの戦闘が一区切り付きました。初戦は満身創痍(雷鳥が……)ながらも、トウマと雷鳥・改の勝利に終わりました。
 そして、このネタがずっとやりたかったのですよ。
 3次α時にミナキが雷鳳に乗って闘うシーンでのバグネタですね。

 後は、束のウイルス撃退プログラムのネタもふと思いついたので入れてみました。

 御曹司の正体は、前の世界でお亡くなりになったムルタ・アズラエル。結構な外道っぷりを発揮していた彼が、今回の黒幕に選ばれました。

 鈴音編のまとめである後日談は次回に……。

 では、誤字脱字・感想など、お待ちしております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。