インフィニット・ストラトス~終焉の銀河の果てに~   作:とっぷパン

28 / 32
 様々な私怨が渦巻くクラス対抗戦も終わり、学園には新たならる季節に入ろうとしていた。


第三章~迫り来る二人の編入生、シャルロット&ラウラ編
第28話~親友と一夏と浜辺のトウマ


 六月・日曜日 日本本島・五反田食堂

 

 

 クラス対抗戦から数週間後。一夏は久々に学園の外へと外出する許可をもらい、厳重な警備の元中学時代の友人宅へ遊びに来ていた。ある意味閉鎖的で男女の構成比率が極端な環境で溜まったストレスの解消する為、学園上層部と日本政府が協力して彼の息抜きが実現したのである。

 

 とは言っても、ある程度の監視と警備がしかれるのは当然の事として、私服警官の配備やSP等の特殊部隊が彼を守っている為にそれなりの制限がある。

 

 「で?」

 

 「で? って、何がだよ?」

 

 六畳ほどの部屋の中、一夏と五反田家長男・五反田 弾の二人が格闘ゲームに興じている。 ゲームセンターに置いてある筐体を模した専用コントローラーを操り、双方共に中々やり込んだ手捌きでぶつかり合っていた。

 

 「だ・か・ら、女の園で生活する感想だよ、感想。結構いい思いしてんだろ? このむっつりスケベめ!」

 

 「誰がむっつりだ……。大体、お前が考える様ないい思いなんてそうそう無いぜ?」

 

 五反田家を訪れてから何回も交わした会話に辟易としながらも、ゲームをしながら真面目に応える一夏。そんな彼に弾が操るキャラクターの奥技が炸裂する。中間距離からバレルロールを使った連続射撃が、格闘型ISテンペスタのHPをガリガリと削っていった。

 

 「嘘を吐くな、嘘を。お前のメール見てるだけでも天国じゃねえか。何そのヘヴン。招待券とかねえの?」

 

 「ねえよ、バカ」

 

 「てめ! そこでハメ技かよ!?」

 

 攻撃をくらって引いたと思わせたテンペスタが、今度はちまちまとしたハメ技を繰り出す一夏。低攻撃力の機体であったのならばいざ知らず、テンペスタは攻撃重視のパワー型格闘機なので累積ダメージ量の蓄積速度が半端ではない。

 

 「つうか、アレだよ。鈴のやつが留学してきてくれて助かった。話し相手が結構限られてたからなあ」

 

 「平然とした顔でエグイ攻撃しやがって……。しかし、鈴か。鈴、ね」

 

 ハメ技から特殊キャンセルで抜け出す事に成功した弾は、人心地つきながら一夏の発言にニヤニヤとした笑みを浮かべる。

 しかし、ハメ技からの脱出で完全に油断していた彼は、画面上のテンペスタの動きを見誤ってしまった。ハメ技によって限界まで達したエネルギーゲージが虹色に輝き、格闘型ISテンペスタの最高奥義が発動してしまったのである。

 高速で近づいたテンペスタがスタン効果のある一撃を食らわせ、スタン状態になった敵キャラに対して拳と足を使った壮絶な連撃を叩き込んでいく。凄まじい勢いで減っていくHPが残り50で止まるが、弾の顔色に余裕は戻らず仕舞い。スタン状態から開放されたキャラが仰け反るのに合わせて、テンペスタ最後の一撃が繰り出されたのだ。

 

 「よっしゃ、また俺の勝ち!」

 

 「おわ! 汚ねえ、全く持ってきったね~ぞ……。最後にハイパーモードで削り倒すのは無しだろう」

 

 KOの文字が画面に大きく踊り、一夏の操るテンペスタが天に向かって大きく拳を突き上げ勝利を宣言した。笑顔が眩しい程輝いている美女は、なんとIS学園二組担任教師であるキッカ・クレメンティその人である。

 

 ここで、彼らが遊んでいたゲームを軽く紹介しよう。

 このゲームの名は『IS(インフィニット・ストラトス)VS(バースト・スカイ)』。第二回国際IS世界大会モンド・グロッソの参加機体及び選手のデータを基に、日本のゲーム開発企業が出した大人気戦闘アクションゲームである。日本国内の発売月だけで百万本を売り上げた超名作であり、世界各国でご当地バージョンが製作発売された超人気大作でもあるゲームなのだ。

 ちなみに、第二回大会決勝を辞退した第一回モンド・グロッソ優勝者、織斑千冬のデータは諸事情により一般家庭用機器には搭載されていない。

 

 「やっぱ、イタリアのテンペスタは強えわ。つうかエグイわ」

 

 「たまには別のキャラとか使えよ。イギリスのメイルシュトロームとかよ」

 

 「いやいや、イギリスのやつは特典で出された代表カーン様がないと弱いんだよ。あの威圧的な声と態度がマニアの間では人気なんだぜ。第二回大会の戦闘データしかないから、初回特典で手に入れるしか手はないんだよな~」

 

 「ドMか、お前は……」

 

 実はこのゲームが発売された当初、第一回大会に出場した選手が初回封入特典としてデータの配信がされた事があった。その中には日本代表やイギリス代表、イタリア代表などの引退した選手が含まれて居たという。だが、一番人気の織斑千冬は配信数が極端に少なく、それに続いて二番人気のイギリス代表も配信数が少なかった。故に、データとして手に入れる事ができた人物はゲーム業界でも稀有な存在として崇められている。

 

 ちなみに、この三人の元代表含めモンド・グロッソ出場者上位五名の戦闘データは、他の選手に比べて明らかに突出していた為に、一部のユーザーからはチート(ズル)だと言う声が上がる程であったという。

 

 「で、話は戻るが。鈴の事は――――」

 

 一夏にドM認定をされた弾であったが、鈴についてさらに聞き出そうと話を戻したその時。部屋の襖を乱暴に開けた人物によって続きは中断させられた。

 

 「お兄! さっきからお昼出来たって言ってんじゃん! さっさと食べに――――」

 

 やや乱暴な物言いで部屋に入ってきたのは弾の妹、五反田 蘭。歳は一夏達の一つ下で、今は近くの有名女子中学校、聖マリアンヌ女学院に通う花の中三女子である。兄である弾と同じ赤みがかった長い髪を、これまた同じ様にバンダナとクリップで大雑把に束ねている。

 

 「あ、久しぶり。邪魔してる」

 

 「いっ、一夏……さん!?」

 

 服装は家で過ごす為のかなりラフな格好で、薄着で着崩しは当たり前。ショートパンツの前開き部分のボタンも外れているし、薄手のタンクトップの肩紐などはずり落ちる寸前で辛うじて引っかかっているだけである。そんな状態で異性に遭遇したものだから、彼女は引きつった笑みを浮かべるしか他に無かった。

 

 対して、日本が誇る我等が鈍感王・織斑一夏。

 年頃の女性の際どい姿に眉一つ動かす事無く。美人で大人の女性である姉を筆頭に、歳の近い様々なタイプの女子に囲まれている生活を送っている事から、もはやちょっとやそっと艶姿では彼に歳相応の反応をさせるのは困難を極めるだろう。

 

 「い、いやっ、あのっ。き、来てたんですか……? IS学園て確か全寮制で有名だった筈ですけど」

 

 「ああ、うん。今日はちょっと外出許可貰ったからさ、家の様子見ついでに寄ってみた」

 

 「そ、そうですか……」

 

 故に、彼女が一夏に対して抱く恋心から来る恥じらいも、意中の相手には全く伝わらないのであった。

 

 「蘭。お前なあ、ノックぐらいしろよ。恥知らずな女だと思われ――――」

 

 そして、行き場を失った彼女の感情は当然の如く身内へと向けられる事になる。鋭い視線を実兄に向ける蘭は、その眼力でからかい半分真面目半分の弾を一撃で沈めた。この事から、五反田家内の勢力図が薄らと垣間見える。女性が優遇されがちの社会構図になったご時勢とはいえ、やはり何処まで行っても立場的に男性は女性に敵わない様だ。

 トウマ達がいた世界でも様々な男女間で同じ様な事が見受けられたものである。ジュドーとリィナ&プル姉妹然り、ヒイロとリリーナ、シンジとアスカ&レイなど、列挙に暇が無い。武人ゼンガー・ゾンボルトも伴侶ソフィア・ネート博士と娘イルイに囲まれると強くは出れない事が多々ある、とある時トウマに愚痴を零していたがある位だ。世の男性には辛い現実だが、もはやこの問題は生物学的なことなのだろう。

 

 「……なんで言わないのよ、バカ兄」

 

 「い、いや、言ってなかったか? そうか、そりゃ悪かった。ハ、ハハハハ……」

 

 「……チッ、全く使えないお兄だわ」

 

 言葉のナイフが弾の心にグサッと刺さる。低く小さく呟いた為に一夏には聞こえず、近くにいた弾の耳にだけ届いたナイフは的確に彼の心を抉っていった。

 

 「あ、あの。もしよかったらですけど、一夏さんもお昼食べていきませんか?」

 

 「あー、うん。それじゃあ、ご相伴に預からせてもらおうかな。ありがとう」

 

 「い、いえ! 二人分も三人分も大して変りはありませんから……。下で待ってますね!」

 

 ぱたりと静かに襖を閉め、隠し切れない笑みを浮かべつつ階段を下りて行く蘭。不意打ちで一夏に遭遇した格好だが、やはり意中の相手と過ごせる時間は嬉しいものの様だ。

 

 そこで彼女は考えた。好きな相手を前にして、部屋着全開な格好のまま食事を共にするのは如何なものかと。考え付いたのならば、あとは行動に移すだけ。自分の部屋に戻って出来るだけ自然で、且つ異性の目を引ける格好を選択しなければ……!

 

 「え~と……。これは派手だし、これは地味すぎるし。これなんかは――――大胆すぎる」

 

 クローゼットや箪笥を片っ端から開けて急ピッチで服を選択する。髪もクリップを外して櫛で丁寧に梳かし、不自然にならないくらいのメイクも施していく。全ては一夏に少しでも良い印象を持たれる為に、その一心で起こした行動なのだ。

 

 「ん~、……よし! これなら大丈夫」

 

 完全に余所行きの格好になった蘭。六月の陽気に合わせた半袖のワンピース、少しフリルが付いた裾からは健康的で躍動感あふれる美脚が黒のニーソックスに包まれている。清楚なワンピースに合わせたナチュラルメイクもばっちりと決まり、後は一夏達よりも先に降りて準備をするだけだ。

 

 「…………ん、まだ下に降りてないわね」

 

 兄の部屋から漏れ聞こえる声で状況を素早く判断し、抜き足差し足忍び足とばかりに慎重に部屋の前を通り過ぎる。階段を音も立てずに降ると、裏口から外へと一度出てから食堂入口を通り厨房に入る。昭和を感じさせる店内と厨房には、これまた一際頑固そうな老人が料理をしていた。

 

 「……おめえ、そんな恰好で料理するつもりか? せっかくの御洒落が台無しになっちまうぞ、蘭」

 

 「あ、おじいちゃん!」

 

 彼の名前は五反田 巌。現・五反田食堂の店主にして、御年八十を超えて尚厨房に立ち続ける料理の鉄人だ。年齢とは不釣り合いな筋骨隆々の肉体で中華鍋を掴み、炎を纏いながら豪快に野菜炒めを作り上げている。

 

 「よっと……。ほれ、こいつを盛り付ければ後はお前でも出来るだろう。俺は客の相手があるからな、ガキ共の飯はお前に任せたぞ」

 

 「ありがとう、おじいちゃん!」

 

 「へへっ! 孫に頼られるってのは爺には何よりも嬉しいもんだ……。これぞ長生きの秘訣ってもんよ、がははははっ!」

 

 豪快に笑い飛ばして店内にいるお客さんの注文に取り掛かる巌。その姿に感謝の念を送りつつ、一夏とついでの兄に料理の仕上げにかかる蘭。豆腐の味噌汁をおわんに装い、付け合せのお浸しを小鉢に盛り付けてお盆に配膳する。さらに、一夏の分にだけかぼちゃの煮物を一品多く盛り付けて完成した。

 

 「オッケ! おじいちゃん、こっちは出来たからテーブルに運んでくるね」

 

 「おう、さっさと置いてこい。終わったらこっち手伝ってくれや」

 

 「分かった。食べ終わったら一緒にお店を手伝う」

 

 お昼御飯を載せたお盆を持って、手馴れた手つきでテーブルに運ぶ蘭。実は彼女、この五反田食堂の二枚看板娘でもあるのだ。小さな頃からもう一人の看板娘である母親の見よう見まねで注文を取り、食器片付けやレジ係などを手伝ってきたのである。故に、常連のお客さんからは大そう可愛がられ、お店の売り上げに貢献してきた経歴を持つ。

 

 「蘭、お前って奴は……」

 

 「ん? どうしたんだよ、弾。早く店に入ってくれ」

 

 「遅かったわね、お兄?」

 

 やっと降りてきた一夏達。だが、弾は暖簾を潜るやいなや額に手を当ててため息を吐く。その様子を後ろから一夏が覗き見ようとするが、暖簾に隠されて中の様子を確認する事ができない。

 

 「なに? 何か問題でもあるの? あるならお兄一人で外に行って食べてきてもいいよ」

 

 「聞いたか一夏さんよ……。我が妹の優しさにあふれた言葉に涙が出るぜ」

 

 「分かった、分かったから早く店に入れてくれ。……後ろにお客さんもいるんだからよ」

 

 自分達の他にも店に入ろうとしていた客がいるのに気付いた一夏は、なるべく後ろに聞こえないよう小さな声で弾を急かす。それに対して弾は恐る恐る背後を確認した後、店内から注がれるマグマの様に熱い視線に冷や汗を流し素早い動作で店内に入った。

 案の定弾に視線を飛ばしていたのは祖父である巌であった。同じ孫である蘭とは違い、長男の弾にはすこぶる厳しい巌。小さな頃から厳しく躾けてきた巌であったが、その奮闘も虚しく見事にチャラく成長してしまった弾。そんな孫の姿に後悔と自責の念を抱く巌は、弾に対してさらに厳しく接するようになり今に至る。

 

 余談だが、弾がチャラくなった理由は巌の躾への反発である。あまりにも口煩くあれこれ言われるので、第二次反抗期を拗らせた結果が現状なのだ。が、巌はそれを把握していないし弾も直接言う事もなかった。

 だが、弾も決して祖父を嫌っている訳ではないので、大体は素直に叱られて終わる場合が多い。

 

 「弾。手前、お客を外に待たせるたぁいい度胸だな? 今日こそみっちりしごいてやるから覚悟しろや……!」

 

 「うげげ!? じ、じいちゃん、それだけは勘弁してくれ!?」

 

 怒ると拳骨が飛んでくるのが当たり前なので、平謝りするしか弾には残されていない。店内に客がいる為に喧嘩こそしないが、もしこの場にいるのが一夏達だけだったら巌の説教タイムが始まる所である。

 

 「まあまあ、お父さん。お客さんの目もありますし、説教は後にしましょうね?」

 

 「…………ケッ、しゃあねえな」

 

 怒りが沸々と湧き上がっている巌をとりなしたのは、もう一人の五反田食堂看板娘である五反田 蓮。巌の娘であり、弾と蘭という二人の子供を持つ母親でもある。

 

 「ありがとうね、お父さん。一夏君もごめんなさいね、家族の喧嘩なんかに巻き込んじゃって」

 

 「いえ、弾と一緒にいると割と遭遇しますし、もう日常的っていうか名物みたいな感覚になってきましたから」

 

 「あら、名物だなんて恥ずかしいわ~」

 

 「…………むぅ~」

 

 手を頬にあてながら人妻ならではの色気のある仕草で苦笑する蓮。さしもの一夏も人妻の色気には若干の反応を見せ、照れ笑いを浮かべ蓮から視線を逸らした。蓮はその様子を見てにこやかな笑みを浮かべ、逆に娘である蘭は一夏の態度に、もしかして一夏さんて年上好きなのでは? という想像をしてもやもやとした気持ちになっていた。

 

 「まあまあ。一旦話はそこまでにして、そろそろ飯でも食べないか? 冷めたら美味しくないしな」

 

 妙な雰囲気になりかかった所で弾による仲裁が入る。蘭だけは釈然としない思いを抱えたままではあるが、子供達三人はそれぞれ席に着いた。一夏達の前に置かれているのは、店で一番コストが低い野菜炒め定食煮物付き。こってりとしたタレが絡む野菜炒めに、日替わりで付け足される煮物がついてくる料理である。本日の日替わりメニューは肉じゃがで、一夏の場合はさらにかぼちゃの煮物が配膳されているのだ。

 

 ちなみに、このかぼちゃの煮物は味付けがかなり甘めに設定されている。

 

 「……それじゃあ、いただきます」

 

 「「いただきます」」

 

 食材と調理をしてくれた人に感謝を奉げ、早速お昼ご飯を食べ始める一夏達。三人ともに食べる姿勢や仕草が良く、同年代の子供達に比べると遥かに上手である。勿論これには理由があって、一言で言うのならば五反田食堂のおかげだ。

 

 一夏と弾が知り合ったのが中学生になってからではあるが、それ以前は鈴の家で経営していた食堂でよく食事をしていた。これには姉である千冬がISの事や仕事で家を空けがちで、篠ノ之一家が引っ越してしまった後一人になる事が多かった一夏が、新たに出会った鈴音の家でお世話になる事が多かった為である。

 それから中学に入って弾が新たに友人の輪に加わり、二つの食堂を行き来する事が日常になり始めた。凰一家は中国人家族であり、食事の礼儀に対してもそれなりに寛容だった。それに対して五反田一家は生粋の日本人で、尚且つ店主である巌が礼儀に厳しい人間である。そして巌は影響が一家の中でも発言権が強く、それに伴って礼儀作法という物を家族に叩き込んでいた。

 その五反田食堂でご飯を食べる事になれば自然と一夏も礼儀作法を身に着け始め、一緒に行動する事が多かった鈴音ですら自身の家族の中では一番礼儀を身に着けているのである。

 

 「……蘭さあ」

 

 「何ですか?」

 

 「着替えたのか。どっか出かける予定?」

 

 「あ、いえ。これは、そのですねっ」

 

 黙々と食べ進める中、今更ながらに蘭の服装の変化について問う一夏。本音を言うならば、店に入って来た時真っ先に聞かれたかった質問ではある。

 だが、さすがは天然フラグ建築士の称号を与えられた男。異性に聞いてほしい事柄は決して逃さないが一夏である。

 

 「ああ! もしかして、これからデート?」

 

 「違いますっ!」

 

 「お、おう……」

 

 テーブルを両手で叩きながら否定する蘭と、答えが違った事に対して過剰に否定された一夏。

 しかし、悲しきはキング・オブ・唐変木の称号を併せ持っている事か。聞いてほしい事はちゃんと聞いてくれるが、その聞いてほしい事に対しての答えは殆どの場合当たる事は無い。故に、答えを聞いた女性が過剰な反応をするのも致し方ない事なのかもしれない。

 

 「あ、いえ! と、とにかく違いますから!」

 

 「な、なんかすまんな……」

 

 一夏がきょとんとしたのを見て自分の反応が強すぎた事に気付いた蘭は、多少の焦りを滲ませつつ改めて否定してみせる。そんな蘭の様子に一夏も苦笑しながら謝る。そして、その様子を見ながら弾は爆笑していた。

 

 「プッククククッ!! あ、当てが外れたな、蘭……?」

 

 「む~っ!? お兄!!」

 

 顔を真っ赤に紅潮させて兄に詰め寄る蘭に対して、弾は妹の珍しい失態に腹を抱えて笑うのであった。

 

 「…………」

 

 だが、食事中に騒ぎ出せば当然あのお人が動き出す。弾が爆笑しだした時からすでに厨房から威圧感が漏れ出し始め、カウンターテーブルに座る常連のお客さんがまた始まったと苦笑する。白い板前の袖を巻くり上げ、日に焼けた太い腕を軽く回しながら厨房から姿を現す。

 

 「――っぶ!? お、おおおおお、おい、二人とも。そろそろ静かにしようぜ? な?」

 

 「何言ってんだ、一夏? ここで笑わずに何処で笑うんだよ!」

 

 「うっさい! 馬鹿お兄、後でお話があるから覚悟しといてよね!!」

 

 一夏は厨房を見渡せる位置に座っていた為、鬼の様な形相で厨房から姿を見せた人物にいち早く気づいた。しかし、彼の対面に座る兄妹は会話に熱が入りすぎて全く気づいていない。それとなく穏便に事情を伝えようとする一夏であったが、弾はここぞとばかりに笑い転げて取り合わず、蘭も徐々にヒートアップして声が大きくなっていた。

 

 「ぶっひゃひゃひゃひゃひゃ――――はばがっ!?」

 

 「む~~!! って、痛ったー!?」

 

 兄妹の背後に降り立った鬼神――もとい巌。鍛えられた両腕を静かに振り上げると、無言で一切の手加減なく稲妻の様に振り下ろす。笑っていた弾は何処かの世紀末救世主に出てくる雑魚キャラの様な叫びを上げ、蘭は若干手加減されていたおかげで断末魔を上げる事は無かった。

 

 「……店で騒ぐな。食べ終わってから話をしろ。今まで散々教えてきたつもりだがな……弾に蘭よ」

 

 「…………」

 

 「いっててて。ごめんなさい、おじいちゃん~」

 

 フルパワーで撃沈された弾は返事をする事すら叶わず、蘭は涙目にこそなってはいるがきちんと返事を返したのである。蘭の謝罪を受け取った巌は頷き次の標的として一夏を見やる。自身の姉と同等の質を持った視線を投げかけられた一夏は、緊張で硬くなる身体と表情筋をなんとか動かして必死に頷いて見せる。

 

 「おうおう、この馬鹿共と違って坊主はちゃんと分かってるようだな」

 

 「は、はい……!」

 

 「よし、いい返事だ。なら、これ以上説教はいらねえ。残りもさっさと食っちまいな」

 

 「い、頂きます……!」

 

 ニタリと背筋が寒くなる笑みを浮かべて一夏の肩を叩く巌。あまりの圧迫感に決死の表情で飯を食らう一夏は、拳骨によって撃沈した弾を気遣う事もできずに黙々と食べ進める。蘭にいたっては元から気遣うつもりが無いらしく、隣に座る兄をそのままに食後のお茶を飲み始めた。

 

 「ほらほら、弾。貴方も起きてご飯を最後まで食べなさいな」

 

 「はっ! ……痛っ~。……お前らなあ、何平然とした顔で飯食ってやがんだ……!」

 

 「()()()()早く食べなさい!」

 

 「すみませんでした、お母様!!」

 

 さすがは親子と言った所だろうか。父、巌にも負けない威圧感で弾を屈服させた蓮は、凄みのある笑顔からいつもの笑みに戻り接客へと戻っていく。巌の遺伝子は娘へと受け継がれ、残念がら孫である弾には遺伝しなかったようだ。蘭には片鱗が現れつつあるものの、まだまだ母親や祖父に並ぶには年季が必要である。

 

 「……ふぅ。ようやく一息ついたな、弾」

 

 「ある意味お前は大物だよ……」

 

 「はは、お前も大概だぜ」

 

 そうこうしている間に一夏は定食を食べ終わり、爽やかな笑みを浮かべながらお茶に手を伸ばしている。そんな親友の姿にため息を零すしか出来ない弾であったが、こちらも人の事を言えた達でもないどんぐりの背比べである事に弾以外の人は気付いていた。

 

 程なくして弾も米粒一つ残さず綺麗に完食し、三人の間にまったりとした雰囲気が流れ始めた。だが、弾が何のとは無しに話し出した話題によって再び場が盛り上がる。

 

 「――――そういや一夏。鈴の他にも幼馴染と再会したんだったか? 確かファースト幼馴染とかいう」

 

 「ああ、箒の事だな」

 

 「ほうき? その人って誰ですか?」

 

 学園で再開した幼馴染と聞いて思い浮かぶのは、十中八九その人物が女子である事。蘭にとっては聞き逃す事が出来ない話題なので、積極的に一夏から情報を得ようと尋ねる。勿論、蘭にそんな思惑があるとは予想もしない一夏は、聞かれた内容を素直に教える。

 

 「確か、前にも一度話した事があると思うんだが。俺が鈴と出会う前に一緒に過ごしていた幼馴染で、篠ノ之道場っていう剣術を教えていた一家の女の子だ。一本筋の通った侍みたいな雰囲気の子でさ、子供ながらにこいつは他の女子とは違うなって思ったもんだよ」

 

 「ああ、そういえば前にも聞いた気が……。そうですか、あの人の前にですか……」

 

 「蘭、何ぶつぶつ言って――――」

 

 「お兄は黙ってて」

 

 昔を懐かしむ様子で話す一夏に、僅かに表情を硬くしてぶつぶつと呟く蘭。考え事に耽る妹の姿に新たなからかうネタが増えたと思った弾であったが、口を開いた途端に蘭から一刀両断にされたのであった。

 

 「――これだから思春期の女子ってのは……」

 

 「毎日大変だな、弾」

 

 「けっ! お前だって、あのすげえ姉ちゃんには頭が上がらない癖によく言うぜ」

 

 「ぐうっ!? ……それは、確かに痛い所だな」

 

 お互いに女姉妹を持つ身として何とも言えない共感を覚える二人。特に、ISが登場してから現在まで徐々に女性の社会的地位が向上し始め、一部ではそれこそ女王様の様な振る舞いをする人もいるとかいないとか……。それに、一夏の姉である千冬は幼い頃から弟を守る為に必死で働いてきた女傑である。立場的にも心情的にも一夏が姉に強く物を言う事は出来ず、逆に家事が出来ない千冬に代わって家の事を率先して引き受け始め。何時しか今の関係が形作られていったのだ。

 今ではある程度自分でできる事が増えた為、千冬に対する引け目も和らぎ自然と接する様になっていき、良好な姉弟関係を保っている。

 

 「はは。なんて言うか、男は口じゃあ女には敵わないからな。それに、家じゃあ腕っぷしまで千冬姉の方が上だ。一時は千冬姉と比べられて大変な目にあったけど、今じゃそれを含めて自慢の姉だよ」

 

 「……このシスコンが!」

 

 「ん? ……そうかもな」

 

 たった一人で自分を育ててくれた千冬には、良くも悪くも感謝しているのは事実。多少過去に苦労を重ねたといっても受けた愛情はそれ以上。故に、学園にて厳しく指導されても千冬に対する感情に変化はなかった。

 

 「そういや、もう一人操縦者がいたんだったよな~」

 

 「ん? ……ああ、カノウさんの事か?」

 

 「そうそう、確か――――カノウ・トウマって名前だったか?」

 

 一夏がシスコンという事で決着がついたのか、弾の口から出たのはトウマの名前。親友である一夏と唯一肩を並べる事が許された男である為、女の園であるIS学園に放り込まれた一夏との関係が気になっていたのだ。

 

 「歳は俺達より上だったよな……。学園じゃあ仲はいいのか?」

 

 「おう、仲は良い方だと思うぞ。でも、今はクラスメートとか友達っていうよりも師匠とかコーチっていう方がしっくりくるけどな」

 

 「ほ~う。でもお前と同じ時期に学園に入った人だろ? ISの操縦時間だって大した事はないんじゃないか。そんなんでお前が師事するって、いったいどう言う人なんだ?」

 

  

 弾の口から出た疑問に苦笑する事でしか返せない一夏。正論としか言いようがない親友の言葉だし、実際の所彼もトウマの実力に関しては知らない事が多すぎる。歳の差による肉体面の成熟の開きはまだしも、トウマと一夏では経験してきた人生の密度が違いすぎる。方や平和な世界の日本で伸び伸びと、所により少しばかりの危険を味わってきた一夏に対して、トウマが歩んできた人生は戦争の歴史その物。それに、ここ数年は戦争の当事者として歩んで来た時間が長い。宇宙を救う為に尽力してきた彼の人生を知る由もない一夏では、何故彼が自身よりも遥かな高みにいる事は理解できないだろう。

 

 「実は俺もよく知らないんだよ、カノウさんの事に関してはな。同じ時期にたった二人だけの男性操縦者としてIS学園に入学されられたはずなんだけど、実際は俺なんかよりもずっと先を行ってる人だ。それはISの操縦者としての実力だけじゃないし、色んな所でカノウさんは俺よりも強い……」

 

 いつになく真剣で、尚且つ何処か羨望が混じった表情でトウマの事を話す一夏。やはり彼も一般的な男の子である事には変わりは無く、自分よりも強い存在に対する羨望はしっかりとあるようだ。

 

 現状、トウマという存在は彼が目指す目標であり、トウマと言う隠れ蓑がある事で世界中の国から狙われずらくなっている。一夏は世界最強の身内であり、天災の異名を持つ束とも親交がある。言わば世界最高の宝石で世界最強の爆弾でもある存在なのだが、トウマはと言えば実力はあるが極々普通の一般人なのだ。そうなれば、狙いやすいのは何の後ろ盾も無いトウマとなるのは必然で、実際世界の国々はそう動きを見せ始めている。

 

 「…………まじ?」

 

 中学三年間を一緒に過ごしてきた弾は、一夏のポテンシャルがどの様なモノなのかをよく知っている。周りにいたどんな奴よりも一夏は魅力に溢れていたし、弾自身も密かに嫉妬をしていた位に成績も性格も良かった。正に物語の主人公と言ってもいいし、現実として彼を中心に様々な事件も起きている事も確かである。

 

 事件云々は兎も角として、そんな一夏が初めて自身に見せる感情に弾は思わず聞き返してしまった。

 

 「ああ、本気(マジ)だ」

 

 「……そうか」

 

 だが、返って来た答えは大真面目な顔で一言だけ。それだけで一夏が師事しているカノウ・トウマという男の異質さと凄さが伝わる。

 多少千冬やその他の大人によって過大評価された部分もあるが、概ね間違いが無い事も事実である。

 

 「まあ、普段は近所の元気なお兄さんって感じだから、とっつき易い人だとも思うぞ」

 

 「近所の兄ちゃん、ね。最後の最後で訳分かんなくなっちまけど、お前が無事に過ごせてるみたいで安心したわ」

 

 世界でたった二人の男性操縦者となってしまった親友が、無事に学園生活を送れている事に安心した弾。よく分からない二人目の男性操縦者であるトウマの事はさておき、学園でそれなりに充実した生活を過ごしている一夏の言葉に肩の荷を降ろす様な心持の弾であった。

 

 「う~、でもな~……。一夏さんの傍に居るにはこれしか手はないし」

 

 「何時までぶつくさ言ってんだよ、蘭――」

 

 「お兄は黙ってて!」

 

 「――へいへい、さいですか……。参ったな、一夏のモテっぷりにはよ」

 

 しかし、自身の妹に関しては若干の不安が残る弾であった。

 

 

 

 

 

 

 日本近海・IS学園 浜辺

 

 

 

 

 小さなさざ波がいくつも押し寄せるIS学園の海岸。後ろには山々の緑が青々と広がり、六月の稀に見る晴天の中で雄々しくも美しい命の営みが今日も行われていた。

 

 「……あ~、暇だ」

 

 そんな大自然の営みの中、たった一人ポツンと砂浜に寝転び手持無沙汰に暇を持て余していた。暖かな日差しに手を翳せば、包帯とシップに包まれた腕が目に映る。燦々と降り注ぐ太陽を全身で浴びながら全力でだらけるその様は、誰が何と言おうと完全無欠の暇人であった。

 

 「でも、良い天気だな~。もうすぐ梅雨に入るって事だけが惜しい……」

 

 「あらあら、怪我人がこんな所で日光浴ですか?」

 

 「おう、来たのか」

 

 「来たのか、は無いだろう? 我々は一応君の担任だぞ」

 

 そんな暇人の元に声をかける女性が二名。方やゆったりとした半袖のワンピースに麦わら帽子、手にはハンドバッグを持って散歩と言った装いだ。もう一方の女性は半袖のシャツに短パンといった軽装で、長い後ろ髪をポニーテールで纏めてジョギングといった装いである。

 

 「全く、いくら全治したといっても暫くは安静にしていた方が良いだろうに……」

 

 「頑丈なのは知ってますけど、せめてもう少し落ち着いて休んでいてくれると嬉しいわ」

 

 ため息に呆れと若干の尊敬? が混じった複雑な顔を見せる軽装の女性こと、織斑さん。一方朗らかな笑みを見せるワンピースの女性ことミナキは、散歩がてらに俺を探しに来たと言った所だろう。

 

 「あはは……。いや、何だ。どこぞの戦闘民族じゃないけど、身体を動かさずに過ごすのって結構苦痛みたいでさ。リハビリがてらに気分転換をしに来たんだよ」

 

 「もう、トウマったら。物は言い様ね、千冬さん?」

 

 「うむ。これでは身体が大きな子供と変わらんぞ。だが――」

 

 苦笑しながら俺が寝転んでいる砂浜まで降りてきた二人は、目の前の砂浜に視線を移してさらに苦笑の度合いを深める。普段は穏やかな波が断続的に打ち寄せる砂浜であるはずが、今日は何時もと違う姿を彼女達に見せていた。

 

 「――いくら身体を本調子に戻す為とは言っても、ここまで砂浜に穴を拵えるのはもはやリハビリとは言えん」

 

 「うふふ、月面都市に居た時を思い出す風景ね。懐かしいわ……」

 

 そう。今俺達の前に広がる風景は、まるで月面に降り注いだ隕石が作り出したクレータ群の縮小版と言ってもいい位の穴が幾つも開いていた。その大量の穴が開いている原因は俺のちょっとした()()()()が行き過ぎた結果による産物なんだが、怪我も完治したと保険医のチェルノフさんからお墨付きを貰った事で調子に乗りすぎた。

 

 「ほほう、見た事もない月面にこんな所でお目にかかれるとは……。人生分からんものだな、ミナキさん」

 

 「ええ、色んな事が起きるのが人生ですもの。これからも色んな事に出会う可能性に満ち溢れているわ」

 

 いい感じに感傷に浸る二人をしり目に、今度は俺の顔から苦笑がこぼれ出る。織斑さんは若干の皮肉と珍しい物を見たという言葉そのままだが、ミナキに関しては俺達二人の反応を見て楽しんでいる節があるな。

 

 「まあ、君の担任としては後でちゃんと砂浜を直しておいてくれれば文句は無いぞ? できれば一緒にリハビリとやらをしたい気もするがな」

 

 「あ、ははは……。その事なんだが、実は織斑さんにちょっと協力して貰いたいんだ」

 

 存外に次のリハビリに参加させてくれと言う織斑さんに向かって、すまないという感情を前面に押し出しながら頼み事を持ちかける。一瞬キョトンとした織斑さんであったが、俺のお願いに察しがついたのか少し意地の悪い笑みを浮かべながら顔を近づけてきた。

 

 「協力……? はは~ん、まさか私に砂浜を整備してくれとでも言う気じゃあるまいな」

 

 「ん? そういう手もあったか……!」

 

 「色々と駄目ですよ、トウマ?」

 

 「冗談だよ、二人とも。冗談だから、その怖い笑顔を引っ込めてくれると俺は大変嬉しい」

 

 両側から凄みある笑顔を向けられればいくら美人の笑みでも怖い物には変わり無い。これに関してはゼンガーも最近よく口にしていた位で。あの武人曰く近頃イルイの笑みに凄みが出てきた、娘を持つ親としては複雑なものだな……と電話を通じて話題に上がるようになった。ああ、あの日本人よりも日本人らしいゼンガーでも、親になると変わるもんだと思った。

 

 「で、結局どうしてほしいんだ?」

 

 「おお、それなんだが。俺にISを、うーを貸してくれないか?」

 

 「うーをか……。ふむ、それならば納得だな」

 

 俺の答えに納得した織斑さんは、早速自身の胸元から待機状態のIS『うー』を取り出してくれた。しかしまあ、何の躊躇いも無くシャツの胸元をがばっと開けるのは勘弁してほしい。いくら恋人がいる男でも、異性の身体を見るのは目の保養――

 

 「……トウマ、鼻の下が伸びてますよ~。そんなにおっぱいが見たいんですか? 見たいんですか?」

 

 「すみません、勘弁してくださいミナキさん……!」

 

 「うふふ、夜になったらたっぷりお話しする事が出来ましたね? 今夜は寝かせませんよ、ト・ウ・マ」

 

 「ひょえぇぇぇぇっ!?」

 

 ミナキの迫力に思わず悲鳴を上げてしまった。何だろう、今夜は寝かさないとは二重の意味で胸が躍る言葉だ。一方の意味では男性的に心躍る意味に聞こえるが、もう一方の意味には辟易とせざる負えない気がしてならない。具体的に言えば説教タイムが俺を待ち受けているはずだ。それも夜通し行われる苦行の時間が……。

 

 「オホン……、そろそろ二人だけの会話は終わったかな?」

 

 「ええ、終わりましたよ千冬さん。ささ、早くトウマに砂浜の整備をやってもらいましょう!」

 

 「あ、ああ。では頼んだぞ、トウマ君」

 

 疎外感でも感じたのか、ほっぺを可愛く膨らませる表情を見せた織斑さんだったが、ミナキの笑顔と勢いに引きつった顔で頷き俺にうーを手渡してくれた。

 金属特有のひんやりとした感触が日に焼けた肌になじみ、待機状態のうーが単身赴任で離れていた父親に再会する子供の様に喜びを表す。肌を通してうーの意思が俺に流れ込み、早く展開してくれと催促を繰り返すのに思わず笑みが零れるのを自覚する。砂浜整備と言う名の遊びを通して思いっきり楽しむ為に、俺は拳を天に突き上げ叫ぶ。

 

 「いくぞ! うー!!」

 

 『打鉄・改、システム・モードMP/Gに移行完了。ISスーツを量子展開後、各部装甲を順次展開します!』

 

 うーから機械音声とは思えぬほど感情に溢れた声が発せられるのを皮切りに、装甲展開と同時に何故かBGMが流れ始めた。ちらりと視界の隅に映る空間投影ディプレイに視線を移せば、小さいウインドウにうーからと思われるセリフの指示が出されていた。

 何々、ファイナルフュージョン! だって? って、もしかしてこれはガオガイガーの合体シーンの再現のつもりなのか! そう思い再び視線をウインドウに戻せば、打鉄・改のデフォルメキャラと思わしきキャラクターが目を輝かせて俺の顔を見つめていた。おお、これはやるしかない……! とことんまでやるしか俺に道は残されていないぞ!

 

 「ファイナルゥ、フュージョーン!!」

 

 俺達の世界で一昨年から製作され、去年新作が発表されたGGG製作の長編シリーズアニメーション、第三次スーパーロボット大戦α~終焉の銀河~で使われた勇者王の合体シーンBGM。しかも、その中でもジェネシック・ガオガイガーの合体シーンで使われた荘厳なバージョンが辺りに流れ始めた。

 腰のあたりに展開された筒状の装甲から緑色の煙が吹き出し、その筒自体が非固定装備(アンロック・ユニット)になっているおかげか身体を回転させる事無く竜巻を形成する事に成功している。続いて各部分装甲が展開され、ガオーマシンを彷彿させる動きで次々と俺の手足に装着されていく。

 

 「おおっ!! これがミナキさんが発案したモードMP/Gか……!」

 

 「はい! 演出は束さんと一緒に考案した新規設計で、私とトウマが一番お世話になったGGGのスーパーロボットを参考にしてるの」

 

 どう言う訳か緑色の竜巻内部にいる織斑さんとミナキの二人が、この無駄に再現度が高い演出について説明してくれた。やはりこの演出は二人の科学者による共演だった。元を知っているミナキと、それをISでどう再現するかについては篠ノ之博士が一番の適任だ。詰まる所、二人の博士の悪乗りで誕生した産物なのだろう。

 

 そうこうしている間に腕部装甲の展開までに進み、俺の腕が装甲に差し込まれると同時に手の部分が回転しながら迫り出してくる。背面にはガオガイガーと同じ形状の翼が装着され、その中から頭部装甲が現れて俺の頭部に勢いよく装着された。ビジュアルまで真似たのか、胸部には獅子の顔を模した装甲が展開されて金色の鬣が誇らしく輝いている。額にはGストーンの代わりにハイパーセンサーのクリスタルが展開され、緑色の光で辺りを照らし合体シーンが完成したのである。

 

 「打・鉄・Gィィィィ!!」

 

 『打鉄・G、展開完了!』

 

 ついに、君達の待ち望んだ真の勇者が誕生した……。その名も、勇者IS・打鉄・G!! 

 

 竜巻の中から姿を現した漆黒のボディー。金色の獅子を胸に頂き、額に輝くはGの文字が浮かび上がるクリスタル。量産型ISである打鉄から大幅に改良・変更されたそのシルエットは、正しく勇者の王を名乗るに相応しい。

 

 「うん、演出装備ミッションパック・モードMP/G成功よ!!」

 

 「なんとも雄々しい姿……。訓練機体とは一線を画すデザインと設計がトウマ君の闘志と相まって、見た目以上の力強さを感じさせるISだな!」

 

 非常にキラキラとした輝きを灯した目を向ける織斑さん。興奮冷めやらない様子の彼女は、俺の近くに走り寄って仕切りに頷いている。一方のミナキは、手元の空間投影ディスプレイに演出再現率100%などと言う文字が浮かび、こちらも少なからず興奮を抑えられない様子だ。

 

 『お父さん、勇者王ってかっこいいね! でもでも、私は出来る事ならもっと女の子らしい装備も体験したいの!』

 

 「おうおう、いつの間にか流暢に会話が出来る様になったんだな。父さんは嬉しいぞ」

 

 『うん! メガネのお姉ちゃんといっぱいお勉強したんだ。偉い? 褒めて褒めて!』

 

 メガネのお姉ちゃんと言えば山田さんしかいないな。彼女も副担任としては忙しい身だろうに、後で労いのお菓子でも差し入れしておこう。確か新鮮な牛乳が今朝入って来たって食堂のお姉さん方が言ってたっけ。だったら牛乳プリンでも作って、後いくつか別の食材で見繕って詰め合わせにしてしまうのも手だな。

 

 「……よし。それじゃあ二人とも、これから砂を均すから少しばかり離れていてくれ。ミナキ、こいつは見た目から察するにガオガイガーを模している様だけど、装備の方はどうなっているんだ?」

 

 「装備ですか? それなら特殊武装以外の物理的な装備は全てGGGの兵器を参考にして、射撃武装なんかは従来のIS用装備品を一通り扱えるようにしてあるわ」

 

 ミナキの説明を受けながら武器選択画面の一覧を眺める。ざっと見た所によると、ディバイディング・ドライバーやゴルディオン・ハンマーと言ったGGGでも超機密に属する兵装は搭載されていない事が分かった。逆に言えば、ブロウクン・マグナムやドリルニーと言った物理面での攻撃的な兵装は扱えるようである。

 

 「まあ、武装は追々試すとして。今は地均しする為の何かが…………お! これならイケるかもしれない」

 

 「何か思いついたのか、トウマ君」

 

 「おう。若干乱暴なやり方だが、こいつを応用してやればすぐに終わるかもしれない」

 

 「乱暴? それは一体……」

 

 考え込む織斑さんを横目に見ながら、その場から一気に20m程上昇する。ガオガイガーの右腕は攻撃の用のブロウクン・マグナムだが、左の腕には防御用に調整されたプロテクトシェードが装備されている。そして、その防御の仕方としてはエネルギーの膜を作って敵の攻撃から身を守ると言う、面で対応するガード方法だ。ならば、そのエネルギーの面で砂浜を上から押しつぶしてやれば……!

 

 「いくぜ、打鉄・G! 左腕部の装備展開、プロテクトシェード全力解放!」

 

 『了解。左腕部、プロテクトシェード。最大領域で展開します』

 

 打鉄・Gの左腕部からシールドエネルギーを参考に作られた巨大なエネルギーの膜が形成され、それを地面のでこぼこした穴目掛けゆっくりと押し付けていく。目測で300mはある海岸だが、このやり方なら大した時間もかける事無く整備する事が出来そうだ。

 

 「ほう、エネルギーの膜を平面上にして押し付ける事によって平らにするのか。中々考えさせられるな」

 

 「確かに。色んなバイトで培った経験からくるトウマならではの発想ね。私みたいな研究者じゃ逆に思いつかないかも……フフ」

 

 実はこの発想自体はミナキの言う通り、俺が過去に体験したバイトの経験から思い出した物だ。体験した場所は砂浜では無いが、似たような方法で戦闘で傷付いた町の復興を助けた事があった。その時はちょうどバルマー戦役が終わった直後で、様々な物資や機材が不足していた。だから使えるものは何でも使う精神で、乗り捨てられた量産型MSザクⅡに開発途中だったバリア装置を持たせて地均しをしたんだっけ。

 

 「っと、せっかく砂浜なんだし。押し付けるよりも飛びながらロードローラーみたいにやった方が効率が良いか」

 

 『お父さん。シールドの形状も変更出来るよ!』

 

 「いいぞ、うー。どうせなら、うーが考えた案をシミュレーションして父さんに教えてくれ。その中から最も効率がいい方法を試してみよう。……やれるか?」

 

 『任せて、私計算は得意なんだよ!』

 

 なんていい娘なんだ、家の娘は。偶発的に自我を持つ事になった打鉄が、短期間でここまでの成長を見せるとは……。

 どうやら彼女の人格はここ二ヵ月位の間に急成長を果たし、人間で換算すると小学校高学年程度の精神年齢までに達しているらしい。恐らくは日々織斑さんや山田さん、それに他の教師・学園生徒と言った様々な人を観察して自己進化していった成果なのだろう。家の娘は勤勉だな!

 

 『シミュレーション終了、結果を選抜し一覧で投影します。効率が最も高いプランはFだよ、お父さん』

 

 「……うん、上出来だ! 早速試してみようぜ」

 

 うーのシミュレートに従ってプランFを実践してみる。すると、打鉄・Gのパワーを無駄なく扱い俺が考えていたよりも更に作業時間を短縮する事ができた。さすがはIS、人間が考える速度よりも早く効率もいいプランを短時間で思案できるのは強みだな。

 

 「わははははっ! ヒャッホーイ!!」

 

 『あははははっ! 行け行け、お父さーん!!』 

 

 「おい、トウマ君! もうその辺でいいんじゃないか!」

 

 「トウマー、そろそろ降りて来て下さ~い!」

 

 夢中になって地均しをしていた俺達は、下で声を上げるミナキ達によっていつの間にか作業が終わっていた事にやっと気付いた。砂浜を見渡してみれば俺が拵えた穴達はすっかり消え去り、そこにはこの世界に来てからよく見る砂浜が穏やかに波を受けている風景が広がっている。

 

 「砂浜も元に戻ったし、沢山遊んだ。うー、満足したか?」

 

 『楽しかった! もっとお父さんと沢山遊びたいけど、今日は我慢する~』

 

 「そっかそっか……っと」

 

 聞き分けのいい事を言う娘に改めて感動を覚え、思わず撫でまわしそうになるが、撫でる頭が無いことに気付き伸ばした手が空を切る。ここまでスムーズに会話が出来ると人間の子供と勘違いしてしまうな。

 

 「はは、いつかはお前の頭を撫でてみたくなってきたぜ」

 

 『…………? よく分からないけど、私頑張る!』

 

 俺の言葉を完全には理解できていない様子のうーに微笑みながら、綺麗になった砂浜にゆっくりと着地する。一息ついた所で打鉄・Gを待機状態へと戻した俺は、ミナキと織斑さんがいる所まで歩いて戻った。

 

 「織斑さん、うーを貸してくれてありがとう。おかげ様でこんなに綺麗な砂浜に戻ったよ」

 

 「ご苦労だったな、トウマ君。打鉄・Gという新たなISの可能性も見せてもらったし、この通り地均しも無事に終わった。後は学園に戻り大人しく休養してくれると嬉しいんだが、どうかな?」

 

 早速のお達しが担任様から告げられた。今日はこれ以上する事も無いので織斑さんの言葉に従ってさっさと学園に引き上げるとしようか。

 

 「そうだな、ここは織斑さんの言う通りにしておくとするよ。これから二人はどうするんだ?」

 

 「私はトウマと一緒に帰るつもりよ。千冬さんはどうします?」

 

 「そうだな……。私はまだジョギングの途中だったんだが、時間的にもそろそろ引き上げようかと――」

 

 織斑さんがそう言いかけた時だった。彼女の短パンからケータイの呼び出し音が鳴る。きっと買った時から着信音の変更をしていないのだろう、と思われる電子音声が聞こえる。短パンのポケットからケータイを取り出した織斑さんは、ディスプレイに表示された相手を見てから電話に出た。

 

 「こちら織斑。何か緊急の用件でもできたのか、麻耶。…………ん、そうか。しょうがない、私の方で迎えに出るとしよう。後、すまないが私のロッカーから着替えを取って来てくれ。今からISでそちらに向かう……分かった」

 

 どうやら電話の相手は山田さんのようで、何かの要件で織斑さんが駆り出される事になったらしい。ISで学園に戻るって言うからには、それなりの緊急を要する案件なのだろう。

 

 「すまないが二人とも。この後良かったら私と一緒に外に出張ってもらえないだろうか? 実は海外からの編入生が今しがた空港に到着したらしくてな、予定より早く到着した為に今動ける先生達が居ないらしい。そこでだ」

 

 「偶々学園内で固まっていた私達に白羽の矢が立った訳ですね。私はいいですよ。千冬さんと一緒に編入生を迎えに行きます」

 

 ありがとうと礼を言う織斑さんにミナキはにっこりと笑みを浮かべて頷く。とんとん拍子に予定が決まる中、一つだけ疑問が湧き上がる。

 

 「俺は何のためについて行けばいいんだ? 高々迎え程度に三人も行く必要は無いと思うんだが……?」

 

 編入生か。この半端な時期に来るって事は恐らくはそういう事情のある子なんだろうが、俺が一緒について行く理由が今一思いつかない。身体のコンディションから言っても護衛役とは違うだろうし、残念ながら俺の専用機は未だに修復中の身である。

 

 「なに、理由は単純明快さ。また学園を抜け出してフラフラされても困るからな、私達と一緒にいてくれれば探す手間も省けるし、監視もできる。一石二鳥のお誘いと言う訳だ」

 

 「はは、は。そうでふか……」

 

 「うふふ! 残念でしたね、トウマ」

 

 ま、自業自得と言う訳だな。しょうがない、新たな学園のお仲間となる子のお顔を拝みに御供するとしますか。必ずと言っていい位には関わり合いになりそうだし、精々親交を深められる事を願うか。

 

 「……よ~し! 理由はさておき、新しいお仲間の顔を拝みに向かうとしますか。折角だから俺がISを展開して飛んで行くよ」

 

 「じゃあ、お願いしようかしら。しっかりと抱えて運んで行ってね? 落としたりしたら承知しないんだから」

 

 「全くだ。こんな美人二人を抱えて行くんだから、精々優しくエスコートしてくれよ?」

 

 「男の役得ってやつだな。なら、いっちょ頑張りますかね……! もう一度頼むぜ、うー!!」

 

 俺に名前を呼ばれた打鉄・改(うー)は、今度は親子四人で飛べる事に喜びを表しすぐさま待機状態から装甲を展開させる。今度は先ほどのミッションパックではなく普段の状態での装着である。

 

 ISの展開が完了した俺は、一人ずつ両腕に抱え込んでゆっくりと上昇する。ここからだと学園までの距離は直線で一キロちょっと。さすがに全力で飛ばす訳にはいかないから、暫しの空中散歩としゃれ込む事にしようか。そんな事を思いつつ学園めがけて飛び進む。爽やかな晴れ間が続く青空を翔るのはやはりとても気持ちがいい物だ。どこの世界でもそれは同じな様である。

 

 




 いかがでしたでしょうか?

 今回も原作とはちょこっとずつ展開が違っております。その違いをお楽しみいただけたら幸いです。
 さて、トウマのパートで登場いたしました打鉄・Gの解説を少しいたします。

 このISはミナキと束が共同で開発した演出兼ミッション対応型特殊換装パックです。モードMP/Gとは、MP=ミッションパック G=ガオガイガー と言った次第で、トウマの世界に存在する数々のスーパーロボットを束が再現しようと試みた結果の産物です。さすがに動力源や機体の持つ特性を再現するまでにはいかないものの、ISの持つポテンシャルの高さをフルに活用したおかげである程度の再現が可能となりました。 

 と言う設定でお楽しみください。

 では、感想などお待ちしております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。