インフィニット・ストラトス~終焉の銀河の果てに~   作:とっぷパン

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 遂にあの二人がやって来た。波乱と色恋の風を引っ提げて金と銀の旋風と黒き雨が吹き荒れる!


第29話~迷う留学生、探すトウマ。そして……

 日本・東京 IS学園専用空港・ターミナル出口

 

 

 

 

 スカッとした青空に飛行機雲が白い軌跡を描く、ここIS学園専用飛行場。世界中の国際空港から日夜多くの飛行機が到着し、様々な国から届けられた人や物資などがIS学園に運ばれて行く巨大空港である。

 

 「何!? 当初の予定よりも一日早い便のチケットを手配しただと……!」

 

 「なんだって!? 日本に向かう便の予約をミスしましたって言うのか!」

 

 そんな巨大な空港の玄関口で、金と銀の髪を持つ少年と少女が自身のケータイに向かって同じ様な内容で叫んでいた。

 方や童顔で世間一般で言う中世的な顔立ちながらも、立ち振る舞いからはしっかりとした男性的な雰囲気を感じさせられる少年。もう一方は小柄で銀髪の少女で、その可愛らしい外見に似合わない威圧的な様子と無骨な眼帯からはまるで軍隊に所属する人間を連想させる。どちらも美男子と美少女と言うに相応しい外見を有しているが、そんな二人も空港の出口でケータイに向かって叫んでいては美人が台無しと言えよう。

 

 「……分かった。学園には先程連絡を入れておいたから大事にならんだろうが、ドイツに戻った際はキッチリと始末書を書いて貰うぞ」

 

 「しょうがない。学園にはすでに連絡はしてあるし、すぐに迎えを寄こして下さるそうだ。だが、フランスに帰った時は覚悟してもらうよ……!」

 

 「「……ふぅ。……ん?」」

 

 大体同じ内容の用件を話し終わった二人の男女は、これまた同じタイミングでケータイを切りため息を吐く。そこで初めてお互いを認識する事になった二人はお互いに後ろを振り向き、銀髪の少女は首を傾げ、金髪の少年は口元が引きつった様子で固まった。

 

 「……先程は騒がしい様を見せてしまい申し訳ありません、マドモアゼル(お嬢さん)

 

 「丁寧な謝罪痛み入る。いや、こちらこそ騒がしい思いをさせた様子。謝罪をされてはこちらも決まりが悪い……」

 

 とりあえず再起動を果たした金髪の男子から騒いだ事に対する詫びを入れる事にしたらしい。優美さを感じさせる見事な仕草で謝る男子を見て、こちらも直ぐに謝罪の言葉を述べる少女。

 

 だが、この少女が首をかしげた理由は他にあった。そう、二人が着用している服装が男女の違いはあれどIS学園の制服なのである。少女の方が学園の制服を着ている事には何の違和感は無いが、男子である金髪の少年が学園の制服に袖を通しているのには違和感しかない。まるで数ヶ月前に相次いで見つかった男性操縦者を思わせる出で立ちに、銀髪の少女は目の前に立つ金髪の少年に鋭い視線を容赦なく浴びせかける。

 

 「……失礼だが、貴方は学園に関係のある人なのか?」

 

 「ええ、もちろんです」

 

 「ほう。実は、私はこの度ドイツからIS学園に編入する事になった者だが、彼の学園に居る男性操縦者は二人とも黒髪の日本人だったと記憶している。我ドイツ政府からも三人目が居るとは聞いていないが……、はてさて」

 

 「…………」

 

 訝しむ少女に対してあくまでも笑顔を絶やさない金髪の少年。些か剣呑な雰囲気が周囲に流れ始めるが、以外にも先に折れたのは銀髪の少女の方だった。

 

 「ふむ、ここで私が詮索した所でどうなる事でも無い。貴方にもそれなりの理由があって此処に居るのであろう? こちらも国家の威信を背負って学園に編入するのだ、そちらから何か私に介入してこなければそれでいい」

 

 「……さて、私には何の事か分かりかねますが。貴女がそう仰るのであれば、この心に刻んでおきましょう」

 

 胸に手を置き一礼してから顔を上げた金髪の少年。紳士の笑みを浮かべたまま一歩下がると、そのまま口を閉ざし直立不動の姿勢で空に視線を移した。目の前の少年が言外にこれ以上話す気がない事を察した少女もまた、口を閉ざし澄み切った青空を見上げる。新たな到着を告げる飛行機雲が遠くに軌跡を描くのをじっと見つめる二人。

 

 だが、再び沈黙を破ったのは金髪の少年からだった。

 

 「……マドモアゼル(お嬢さん)

 

 「何だ、ユンゲ(少年)

 

 「貴方は何の為にIS学園へと向かうのですか? 応えられる範囲で構いません。是非お聞かせ願いたい……」

 

 少年からの問いに一つ肯いて眼帯をしていない赤みを帯びた瞳を閉じる。数秒の間をおいた彼女は再び目を開き、視線を彼に移してハッキリとした口調でこう答えた。

 

 「政府からの意向はそれとして、私の目的はただ一つ……。彼の男性操縦者と戦い見極める事だ」

 

 冷静な感情を秘めた瞳から強く出る戦いの意志。美しい銀髪という何処か浮世絵離れした冷たさを感じる容姿。それに加えて、たった数分ではあるが会話した本人から滲み出る理知的な言動とは打って変わって熱い感情が声と瞳から見え隠れする。

 そんな彼女の返答を聞いた少年は目の前の彼女をジッと凝視してしまう。何故彼女がここまで戦意を滲み出しているのか、それは少年には推し量る事はできない。

 しかし、男性操縦者という単語が彼女の口から出てきたと言う事実は、少年に些かの動揺を与えるには十分だった。

 

 「見極める、ですか……」

 

 「そうだ」

 

 少々詰まった物言いの少年に対して、あくまでもスパッと答える少女。その些かの揺るぎも感じられない言葉に、彼女は強い信念を持ってこの場に居るのだろうと言う事だけは理解したようだ。

 

 「さて、私はきちんと問いに答えた。ならば今度はこちらの質問に答えてもらおうか」

 

 「――ええ。私に答えられる範囲であれば、どんな事でも」

 

 「ほほう、言質は取ったぞ」

 

 少女の言葉に若干頬が引きつるのを感じる少年だったが、言ってしまった物は今更しょうが無いと諦め、腹をくくるような決意を秘めた笑顔で見返した。その表情にまたニタリと笑みを浮かべた少女は、自分よりも背の高い少年を見上げつつ質問をぶつけた。

 

 「なに、そう固くなる事も決意を固める事も無いぞ。私が聴きたい事は極めてた、単純で簡単な事だ」

 

 「はあ……?」

 

 ここで少年はある事に気づいた。目の前にいる少女の身体が小刻みに震え、拳は固く握られ頬が若干紅潮している。息も少しだけ荒く、軽くジョギングをした程度に息を切らせている。この条件から導き出される少女の質問とは何か? 少年は自分が生きてきた経験を全て洗いざらいに思い出して、少女が口にしようとしている質問に対する返答を考える。時間して一秒にも見た無い長さで導き出した答えは――――

 

 「その、だな……」

 

 「はい」

 

 「ト――――」

 

 「……と?」

 

 もじもじと太ももをこすり合わせ、照れた表情を浮かべる少女。そんな彼女とは対照的に、緊迫した雰囲気を纏ながら言葉の続きを待つ少年は少女の一挙手一投足に目を光らせている。IS学園に現れた怪しくも新たな男性操縦者である事を、少なからず自覚しているのかどうかは定かではないが、手に汗握る雰囲気と緊張感から出自に関する質問は彼にとって最も答えたくない事柄の一つなのだろう。

 そんな事を知る由も無い少女の方はといえば。此方もまた雰囲気が切羽詰った物に変化しつつあった。綺麗な銀髪が映える美しい肌にはいつの間にやら玉の様な汗が浮かび、もじもじとこすり合わせていた内腿は何かを堪えるような仕草で震えている。そうまるで――――

 

 「トイ――――――――っ!!」

 

 「――――!? ――――??」

 

 いよいよ少女の口から言葉が出かかったその時、滑走路から大きなジャンボ旅客機が二人の頭上を通って翔け抜けて行った。凄まじい爆音を立てるエンジンによって消される二人の会話。勢いよく飛び出した言葉はしっかりと少年の耳にだけは届いた様で、少女の言葉を聞いた彼は驚きに顔を染めてあたふたとし始めた。少年は自身の傍らに置いていたキャリーバックを開け放ち、中身がぐちゃぐちゃになるのも構わず一心不乱に探し物を始めた。何をどう詰め込めばここまで物が入るのかと小一時間程詰めかけたくなる様な内容物が辺りに散乱するが、少年はそれでも必死の形相で探し物を続ける。

 

 「――――? ――――?」

 

 「……――――、――――っ!」

 

 「――――!? ――――、――――!!」

 

 やがて探し物が見つかったのか、今にも崩れ落ちそうな少女に肩を貸しながら二人は連れ立って空港内に走り込んでいく。最早先程までの緊張感は失せて無くなり、パニック寸前の少年が脂汗を流す少女を連れて駆けて行く様だけがそこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 日本・IS学園専用空港 ターミナル出口

 

 

 

 

 

 

 「……なんだ、こりゃあ? 引ったくりにでも会ったのか……?」

 

 「本当ね。あらあらまあまあ、こんなに散らかしちゃって……。いったい何があたのかしら?」

 

 二人が空港内に入って数分後。学園関係者専用の駐車スペースにやや大きめの普通乗用車に乗って現れた学園教師である千冬とミナキ、そしてついでに連れて来られたトウマの三人がターミナル出口に散乱している荷物を見て驚き、この場から消えた留学生の二人を心配していた。

 

 「――――ふむ。ざっと見た所こちらの荷物には特に手を付けられていない様だな……。物取りの犯行、では無さそうだ」

 

 「そう言ったトラブルじゃない理由は何なんだい、織斑さん」

 

 トウマからの当然の質問に千冬は散乱している荷物の中から持ち主の財布と思わしき物を取り出して見せる。差し出された財布を受け取ったトウマは若干の罪悪感を振り払い中身を確認してみる。すると中には学園内で流通している貨幣である日本のお札と小銭が残っており、さらには数枚のクレジットカードもそのまま残っていたのである。

 

 「なるほど。これだけ金品が残っているのだから、金銭目的の引ったくりの類じゃあ無さそうと見てもいいかも。でも、この荷物の持ち主達は何処に消えちゃったのかしら? 学園からの情報では出口付近で待機させているってお話だったはずだけど……」

 

 「それなら、空港内に入って受付から聞き出すか監視カメラの映像を確認させて貰った方が早いな」

 

 「だな。なら膳は急げだ、二人とも。俺は荷物の方を受付で預かって貰えるように頼んでくるから、二人は呼び出しの放送と監視カメラの確認に行ってくれ」

 

 トウマの言葉に了解の意を示した千冬とミナキは、呼び出しの放送へはミナキが、監視カメラの確認作業には千冬が向かう事に決めて早速動き出した。自動ドアを潜り抜けると総合受付のカウンターに空港スタッフが三人程掛けていたので、とりあえず教師の肩書きがあるミナキと共に向かう。千冬はそのまま受付を通り過ぎて、チケット受付や出発ロビーへと続く所の奥にある警備室へ向けて歩を進めるのであった。

 

 「ようこそ、IS学園専用空港へ。本日はどの様なご用件でしょうか?」

 

 「人を探しているのですけれど、姿が見えないので館内放送を流して頂きたいのですが……」

 

 「畏まりました。では、貴方様のお名前とお探しになっている方のお名前と特徴を教えていただけますか?」

 

 「はい。私はIS学園教師トオミネ・ミナキです。あ、身分証はこれを確認して下さい。それで、探しているのはヨーロッパ方面から今日着いた生徒の事なんです。特徴は――――」

 

 ミナキが探している生徒の特徴を受付の女性スタッフに説明している間、トウマは隣の男性スタッフに荷物の件で回収して預かってもらうように頼んでいた。

 

 「すまないが、これらを預かって貰いたいんだが――頼めるかな?」

 

 「はい、トランクケースとキャリーバッグが御二つずつですね……名前は――はい、名札がありましたので控えさせて頂きます。一応貴方様のお名前も御教え願えますか?」

 

 「カノウ・トウマ、IS学園に滞在している生徒さ。学生証を確認してくれ」

 

 「失礼致します。……確かに、カノウ・トウマ様と確認致しました。では、あちらのサービスカウンター席でお待ち下さい」

 

 ミナキの方の話が終わるまで待った後、二人はスタッフに指示されたサービスカウンターの座席に着き一息入れる。二人が席に着いたのを確認したカウンタースタッフの女性がコーヒーの入った紙コップを差し出し、一仕事終えたような感覚の二人は遠慮なく飲み干すのであった。

 

 「――……ふう、後は織斑さんの成果次第ってところか?」

 

 「そうね。映像を確認するのは結構時間がかかるでしょうから、このままここでゆっくりしてましょう。あ、お菓子もあるわ~、どれも美味しそうね」

 

 「さいですか……あまり食べすぎると後で苦労するぞ、ミナキさん」

 

 「うぅ、善処しますぅ……美味し!」

 

 トウマの忠告も何のその、乙女の本能が赴くままにお菓子を口に運ぶミナキにため息を一つ。研究職である彼女が食欲のわりにきちんと体系を維持できている秘密、それは彼女だけが知る第一級機密である。

 コーヒーを飲み干したトウマはミナキの食べっぷりに苦笑零しながら、口の中をすっきりさせる目的でウーロン茶を頼む。熱い季節に移り変わりある今日、学園の砂浜での一件や先程の荷物回収で体内から失われた水分を補充する為、トウマは運ばれてきたウーロン茶に口をつけるのであった。

 

 それからしばらくの間談笑を楽しんだ二人。空港内に行きかう人達の喧騒を眺めながら忙しなく動く世間を語り合っていた所で、警備室に向かった千冬が向かった時と同じ澄まし顔のまま二人の元へ帰って来た。ウーロン茶が三杯、お菓子の袋が十程も開いた後だった。

 

 「……大分待たせてしまったようだな、二人とも」

 

 「ああ、少しばかり水分を取りすぎて尿意を覚えるくらいには……。それで織斑さん、留学生の足取りは掴めたのかい? トイレに行く前に結果だけ聞いておくよ」

 

 「うむ、では結果だけ。答えは掴めたと言っておこう。早く用を足して来ると良いぞ、我慢は体に毒だ」

 

 空調が効いている空港内で五百ミリのコップで三杯も飲めば当然の結果である。そんなおっちょこちょいなトウマに笑みを零しながらトイレを進める千冬は、急いでトイレに向かう彼に後ろからこう話しかけた。

 

 「ああ、ついでにトイレに居る二人を連れて来てもらえると助かるなトウマ君」

 

 「え? ……うん、そういう事か――ああ、漏れる漏れるっ!?」

 

 「気を付けてね、トウマ。漏らしちゃ駄目よ~」

 

 気の緩みは尿道括約筋の緩み。思わず漏れそうになった所を踏ん張って耐えるトウマは、サービスカウンターからトイレに急いだ。そんなトウマにお菓子を咥えたままのミナキが注意を送るのであった。

 

 

 

 

 

 ~二十分後~

 

 

 

 

 

 「お~い、織斑さん! 探している二人はこの男女で合ってるかい?」

 

 「ああ、間違いない。手間を掛けたな、トウマ君」

 

 用を済ませて戻って来たトウマの横には、件の留学生が二人小さく身を縮めて連れ添っていた。その内銀色の髪を持つ眼帯少女は、学園教師で世界最強の肩書を持つ千冬を前に嬉しそうでありながらも罰が悪そうに俯いていた。

 反対の金髪の少年は綺麗な整えられた眉をㇵの字に下げてすまなそうにしていた。

 

 「あらあら、金の美少年と銀の美少女? 随分と可愛らしい迷子さん達ね」

 

 「「……どうもお騒がせ致しました」」

 

 「ふふ、潔いのは加点対象ね。最も、空港への迷惑と引き換えに差し引き零ですけどね」

 

 怖い笑顔で留学生を褒めて落としたミナキに益々しゅんとする二人。日本に着いてそうそうにこの様な失態を演じる事になった訳だから、留学生の身としては肩が狭いと言う話だろう。銀髪の少女は軍隊式の気を付けで背筋を正し直立、金髪の少年はやはり背筋を伸ばして紳士風の出で立ちで沙汰を待っていた。

 

 「まあまあ、トオミネ先生。この様な場所でいつまでも説教をするわけにもいかない、ひとまず学園に向かう車の中で続きと行きましょう」

 

 「そうですね……。では、そうしましょうか織斑先生。それじゃあ二人とも、空港のスタッフさん達にお話をした後学園に向かいますからね。受付に預けた荷物をとって来るように、分かりましたか?」

 

 「「分かりました……」」

 

 ミナキによる説教が確実に待っているであろう事実に気を落としながら、総合受付の荷物預かり係に小走りで向かう留学生二人。初っ端から学園に迷惑をかけてしまった形はもう変えられない、ならばこれからの生活態度で改善を示すしかミナキや千冬の印象を良くする事は出来ないだろう。

 

 「……私の所為で要らぬ評価を受けさせてしまったな、すまん」

 

 「いいんですよ。同じ日に同じ様な身内のミスによって出会った留学生同士です、助け合いが大事と言う事でしょう」

 

 「そうか……助け合いか」

 

 銀髪の少女からの詫びの言葉に実に紳士的な対応で笑顔を見せる金髪の少年。中性的な容姿とその笑顔によって、今から留学する学園ではかなりの人気が出るであろう事は様に想像できる。

 かく言う凛々しい出で立ちの銀髪の少女も若干照れくさい様子を見せているのだから、その破壊力は推して知るべし。

 

 「……ふ~ん、所で織斑さん。銀髪の女の子の方はまだしもだ、金髪の子はもしかして――男かい?」

 

 「うむ、どうやらその様だな。全く、今年は厄介事が多い年になりそうだよ」

 

 肩と首を大きく解すように回した千冬の言葉に思い当たる節が大いにあるトウマは汗をタラリ。思わず痒くも無いのに頭をかいてしまうトウマであった。

 

 「あら、愚痴でしたら大いに付き合いますよ? どうですか、今夜トウマの部屋で」

 

 「ああ、それは是非参加したい。美味しい料理もついて来るんだろう?」

 

 「おいおい、愚痴と料理で憂さを晴らそうってか? ……よし! 普段から迷惑を沢山かけている俺から二人にご奉仕と行きますか。何でも食べたい物を言ってくれ、材料と財布に相談して往々に応じよう」

 

 荷物を取りに行った留学生の後を追って歩き出した三人。だが、トウマの言葉に嬉しそうにしていた二人の教師はピタリと動きを止め、ISの旋回反応速度もかくやと言う速度で振り返った後、震える声で聴き返した。

 

 「――本当か、トウマ君。よし、ミナキさん。彼の言質は録音したな、いや私達の耳が録音機で十分だ。早速帰ったらオーダーする料理の内容を決めなければ……料理の雑誌を一夏から借りれば!」

 

 「それなら私はネット上に存在するレシピを片っ端から審査して、口コミや感想なども参考にしながら選別しますね!」

 

 先程までの疲れた雰囲気や表情は何処へ消えたのか……。モンドグロッソ優勝でも見せた事の無い全力のガッツポーズでもしそうな千冬と、大雷鳳に搭載されているシステムLIOHの稼働限界値をトウマが初めて突破した時、その後に開かれた祝賀会で見せた笑顔にも勝るとも劣らない笑みを浮かべるミナキ。

 良い大人である彼女達の無邪気な笑顔と勢いに若干頬が引きつるのを感じるトウマであったが、これも普段から色々と抑圧された環境に生きるが故と思い直し歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 IS学園・一年生寮 午前十一時四十二分

 

 

 

 

 

 所は変わってIS学園一年生寮。トウマ達が留学生を迎えに行っている間、学園には一夏を思う女子生徒達が両部屋に集まって楽しい会話に花を咲かせていた。

 

 「――ほう、私が転校してからそんな事があったのか。お前も苦労したんだな、鈴」

 

 「全くよ! あの無自覚鈍感な一夏の一級フラグ建築被害者を退けるのにどれだけ私が苦労したか! アンタなら分かるでしょ? あいつの無自覚な優しさと変に一本気が通った性格は」

 

 「うむ。私も当時は友人関係の広い方では無かったから、一夏と共にいるだけで豪い嫉妬を浴びせられた記憶があるな……。子供ながらに驚嘆したよ」

 

 先陣を切って話をしているのは中国から単身やって来た代表候補性、凰 鈴音だ。片手に炭酸ジュースの缶を握りしめ、若干酔っているのではないだろうかと思う程の剣幕でまくし立てている。当然ノンアルコールのジュースなので酔ってはいない完全な素面であるが、雰囲気的に酔っている状態になっているのだろう。極稀にそんな人間もいるものだ。

 

 対してその酔っ払い鈴の話を聞いて深い相槌を打ち、己の昔を懐かしんでいるのはもう一人の幼馴染篠ノ之 箒であった。彼女も初めは一夏との仲もそれほど良くはなく、どちらかと言うと剣道場の同門で競い合う間柄であった為に避けていた節があった位だ。

 それからしばらくしたある日に、一夏との仲を一気に縮める出来事があり初めて友情と恋心が芽生えたと言う過去がある。

 そんな彼女の過去の中でも思い出されるのは仲良くなってからの周りの反応だった。小学生とはある種残酷な所を持っている子供時代で、それによって発生した幼稚でありながら残酷ないじめにはさしもの箒も辟易とした覚えがある様だ。

 

 「いいですわね。御二人とも一夏さんとの思い出があって……。私なんて、その頃ですと両親を亡くしたばかりの私に群がる親戚連中相手に一生懸命に立ちまわっていた記憶しか御座いませんわ」

 

 「いや、それはそれで凄まじい思い出だと思うぞ、セシリア」

 

 「お二人に比べたら……全く持って色恋の欠片も無い時期でしたわね。私、自身の幼少時代に少々凹みますわ……」

 

 一夏の幼馴染二人に対して中々に重い話を繰り出しているのは、最早学園では御馴染になったオルコット家当主、セシリア・オルコットだ。確かに一夏と関わっていた二人に比べて色恋の欠片も無いセシリアではあるが、ある意味そう言った生活の果てに一夏と巡り合えたとも言えるのが悲しくも楽しい現実である。

 

 「しかしなんだ、私達はそれぞれ一夏と言う一人の男を通して出会たのだから、改めてこう考えると実に不思議な関係だな」

 

 「それには全くの同意見ですの」

 

 「同じく。ほんとに不思議よね、今の私達って」

 

 改まった様に話す箒の言葉に納得の意を示す代表候補性二人。そもそも何故この三人が一つの場所で話をしているかと言うと、それは今日の朝方にまで遡る――……。

 

 

 

 

 学園寮・AM:八時四十三分

 

 

 

 「何だ一夏、出かけるのか?」

 

 「おう! 今日は久しぶりに外出許可が下りたからな、家に帰って掃除とかした帰りに友達の所へ寄って来るつもりだ」

 

 「ほ~、何とも有意義な時間の過ごし方だな。……まるで普通の高校生の様だ」

 

 「いや、俺達の歳から考えたらこれが普通だろ。むしろ、今のこの現状の方がイレギュラーだと俺は激しく思うぞっと――よし!」

 

 最近見慣れた学園の制服から普段着に着替えた一夏。本日は学園が休みの為、以前から一時帰宅を申請していた一夏はこの休みを利用して家に帰るつもりであった。今まで姉である千冬が働きに出て稼いできた分、弟である一夏が家事の一切を取り仕切って来た事もあってほぼ毎日掃除などをしてきた。

 しかし、今年になってからIS学園と言う離れた場所に寮生活と相成った事もあって掃除をしようにもできなかったのである。その為、定期的に家に帰っている千冬に期待しても意味が無い事を分かっている身としては、今回の休日外出許可が下りた事に内心小躍りしている一夏であった。

 

 「ガスの元栓は箒が居るからいいとして……うん、特に忘れ物もないな。じゃあ箒、行ってくる。門限までには帰るから、他の皆にもそう言っておいてくれ」

 

 「分かった。せかっくの休日だ、存分に息抜きをしてくるがいいさ」

 

 「ああ、精々骨休みをさせてもらうとするよ」

 

 ウキウキとした心持ちで箒に挨拶を済ませた一夏はショルダーバッグを掛けて出て行った。恋する相手を新妻の如く見送った箒は特にやる事も無いのでお茶を入れる事に。各部屋に備え付けの簡易キッチンにある電子魔法瓶のスイッチを入れ、お湯が湧き上がるまでの時間を剣道で使う防具や竹刀の手入れに費やす。

 普段からまめに手入れをしている御かげで特に汚れが付いている訳では無いが、面紐の緩みや擦り切れてしまう所は無いか、ハードな打ち込みによって傷や凹みが出来ていないかなど、確認しなければならない事項は多数あるのだ。その一つ一つを丁寧に確認してこそ、本番で己の力を出し切る事が可能となるのである。

 

 しかし、その様な作業は得てして時間がかかるもの。面の手入れが終わる頃には沸騰した事を知らせる音が鳴り、それを皮切りにひと段落付けて戸棚から愛用の湯飲みと和菓子を取り出し並べ始めた。

 

 「……ふむ、まあこんな所だろう。一夏も居ない事だし、今日はゆっくりと過ごせる――ん……良い香りだ」

 

 熱く沸かされたお湯を御茶葉に注ぎ入れ、ふんわりと香る緑茶の香りに思わず表情を和らげる箒。これが着物を着て畳の部屋だったのならば、箒の容姿と醸し出す和の雰囲気から名のある絵画に負けぬ程の美しい光景だっただろう。

 

 「ああ~、この和菓子も美味いな~。態々姉さんにお願いして取り寄せてもらった甲斐がある一品だ……」

 

 和菓子を口にした瞬間、普段の質実剛健とした雰囲気からは考えられない程ふにゃりとした年相応の女の子らしい笑みを浮かべる。やはり彼女も多分に漏れず立派な女子である様だ。

 

 しかし、そんなつかの間の平穏はあっさりと崩れる事になる。箒が二つ目の和菓子に楊枝を伸ばそうとした時だった。

 

 

 「ん~、んん? 何だ、私の至福を邪魔する輩は……!」

 

 部屋のドアが乱雑にノックされ、ふにゃりとしていた彼女の顔を凛々しくも苛立ちの混ざったそれに変わる。

 

 「この乱暴な叩き方は奴しか居らん!」

 

 ドスドスッと言う効果音でも聞こえてきそうな足音を立ててドアに向かう箒。如何やら彼女にはこの乱暴なノック音の主に心当たりがある様で、こめかみに血管を浮かび上がらせてドアノブを握り潰さんばかりに力強く握った。なお、その間もノックは継続している。

 

 「……ん? これは……一人じゃない?  一体誰が一緒なのだ……。何にせよ、私の至福を邪魔する輩は説教してくれる!」

 

 ついに開け放たれるドア。そんな怒りの形相と気迫を纏った箒の目に飛び込んできたのは、再度ドアを叩こうと拳を振り上げた鈴とセシリアの姿だった。何やら競う様に扉を叩いていた二人であったが、出てきた箒の形相と雰囲気に顔を思いっきり引きつらせて共に拙い! と顔に出す。

 

 「お前ら~、私の至福の時間を邪魔するとはいい度胸だな……! 纏めて説教してやるからそこに直れ!」

 

 相対するはこの世に現れし刀の修羅。血走って真っ赤に染まった眼に映るは自身に敵対する哀れな得物達。今更ながらに自分達のやらかした事が箒の癇に障ってしまった事に気付く鈴とセシリアだが、何をしようとも後の祭り。諦めに似た感情を一瞬にして抱いた二人は潔く廊下に腰を下ろしたのである。

 

 「……ふん、随分と潔いじゃないか二人とも。理由も聞かずに叩き出しては武士の名折れ、理由だけは聞いてやるぞ、聞くだけだがな」

 

 「え~っとですね、箒さん。その、私達は一夏さんに用がありまして――」

 

 「そ、そうなのよ! 一夏にちょいと用があったのよ――……はい、すみませんでした」

 

 一夏に用があると言う二人は箒の意外な譲歩に息を吹き返したかに見えたが、即座に某ゾクゾク美さんも裸足で逃げ出す視線を向けられて沈黙する。だが、その言葉を聞いた箒はふと一夏が出かける時に交わした会話を思い出していた。

 

 「…………ふむ」

 

 「ひえぇぇっ!? ほ、箒様、どうかお許しくださいぃぃっ!」

 

 「この様な失態は今後犯さないと、女王陛下と私自身の矜持に懸けて誓いますわ!? ですから、何卒お願い致しますわ!」

 

 「あ、いや。そんなに怯えなくとも……うぅ、そんなに怖いのか私は」

 

 公然の場と言うのに廊下にひれ伏す余りの怯えっぷりに逆に怒りが覚めた箒が、今度は罪悪感に苛まれて心に若干のかすり傷を負う。痛む心に軟膏を塗った彼女は取りあえず怒気を引っ込めて二人の肩を叩く。叩かれた二人はビクッと身を震わせるが、その後何も無い事に違和感を覚え恐る恐る顔を上げた。すると、先程まで全力で怒りを表現していた箒の顔には苦笑が浮かんでいるだけで、二人はキョトンとした表情を浮かべながら互いに顔を見合うのだった。

 

 「そう言えば一夏から言付かっていたのを思い出したよ。怒鳴ってすまなかったな、二人とも」

 

 「……ぷっはぁ~、良かった。一瞬本気で地獄を垣間見た気がしたわ……」

 

 「本当ですわ。この様な所で同年代の方に膝をつくとは、私高貴なる者として恥ずかしい限りですわ」

 

 「すまん、すまん」

 

 差し出された箒の手を取って立ち上がる二人の顔に浮かぶは冷や汗か恥ずかしみの汗か。それは二人のみぞ知る事だが、どちらにしても今の二人には安堵が訪れた事が一番大事だった。

 

 何時までも廊下でさらし者をするつもりも無いので早々に箒達の寮部屋に入る三人。事態が収拾した事によっていつの間にか集まっていたギャラリーは誰も彼もつまらなそうに其々の日常へと戻っていく。今日は偶の休日なのだ、普段は優秀な生徒達も一皮むけば十代の女の子。やる事、やりたい事は山の様にあると言う事だ。

 

 「さて、一夏からの伝言だが。今日は久々の実家帰りと友人と会って息抜きをしてくるそうだ。相手は鈴とも面識がある五反田と言う男子だとも言っていたぞ」

 

 部屋に設置されているデスクに腰かけた箒は、二人をベッドに座るよう促して早速伝言を伝えた。内容を聞いて一番に反応を見せたのは、伝言の内容にも名が出た鈴で。少し悔しそうな声を上げるが納得はした様子だった。

 

 「そっか、弾と一緒なの。……あ~、どうせならあたしも一緒に行って遊びたかったな~。残念」

 

 「五反田……弾さんですの?」

 

 残念そうに身体をベッドに投げ出す鈴。そのまま地団駄でも踏む様な雰囲気だったが、さすがにここは他人の部屋だと自重したみたいである。対して聞きなれない名前が出て来たセシリアは疑問符を浮かべながら鈴を見やり、同じく名前だけしか知らない箒の視線も自然と自分のベッドに身を投げ出している鈴に向けていた。

 その視線に気づいた鈴はベッドから跳ね起き、懐かしそうな表情で五反田 弾と言う人物について話し始めた。

 

 「ああ、五反田 弾ってのはね。平たく言うと私と一夏の中学時代の友人なのよ。確か、箒は私と入れ違う形で転校しちゃったのよね? その後あたしが転校してきて一夏と仲良くなって、中学に進学してからはこの弾って言う男が仲間に加わって……。

 兎に角何をするにもこの三人で。部活も新しくバンドの奴を結成して作ったり、結構色々やった仲間なのよ。基本チャラくて馬鹿だけどね。一夏と同じで、こう心に一本芯の通った良い奴なのよ」

 

 自国に帰国する前の楽しい時間を思い出して顔を綻ばせる鈴。一夏以外の男子の話を懐かしそうにする鈴の姿が珍しく、箒もセシリアもつい聞き入ってしまった。それに幼少期の苛めによって磨かれた鋭い選定眼を持つ鈴である。そんな彼女に高評価を貰っている男と言うのは、すべからず一夏に匹敵する良い奴と言っても過言ではないだろう。

 

 「ま、もう一人後で友達が出来るんだけど、そいつはそいつで女にもて無い奴なんだけど性格は割といい奴よ」

 

 「そうでしたの。鈴さんも一夏さんも御友人に恵まれていらっしゃいますのね」

 

 「ふふん、自慢じゃないけどあたしの友達はそんじょそこらの男とは比べ物になんないって事だけは言えるわね! ……揃いも揃ってもて無い奴らだけどさ、逆にそんな奴らだからあたしが一緒に居ても自然と会話したり遊んだりできたのかもしれないわね」

 

 「羨ましい限りだ、全く……」

 

 同じく幼少時代に友達の少なかった二人は羨望の眼差しを以って鈴を見る。セシリアは身内とのそれこそ血を見る程のドロドロした戦いを繰り広げ、箒は各地を転々とする日々を送っていた事から一人でいる方が多かった位である。友人の事を胸を張って自慢げに話す鈴に羨望を抱いても致し方無い。

 

 「じゃあ、次は箒の番ね」

 

 「ん? 私の番とはどういう事だ、鈴」

 

 「どういう事も何も、休日に一夏を尋ねて偶然集まった者同士。折角だから過去の思い出なんかを話そうって訳よ。アンタも一夏の幼馴染なんだから、記憶に残っている話の一つや二つあるんでしょう?」

 

 「それもそうだな。一夏の貴重な情報を教えてもらった事だし、折角だから私の思い出も話すとするか……。うん、あれはそうだ。確か私が――――」

 

 

 

 

 IS学園・一年生寮 正午

 

 

 

 

 「ははははっ! その時の対戦相手の顔と言ったら、実に愉快な物だったな!」

 

 「おほほほっ! そ、それは傑作ですわ……! 是非私の経営する会社から感謝の表彰状を差し上げたい位ですわ~!」

 

 「ぷふふっふふっ、ひぃ、ひひひひひっ! だ、駄目よ、セシリア……! そういうのはきちんとしたセレモニーを開いて堂々と表彰してやらないとね? あひゃひゃひゃひゃっ!! う、げほっ!?」

 

 「や、やめろ鈴……! それ以上私の腹筋を使わせるな!」

 

 そんな事を話して早三時間余り。流石は女子、三人集まれば何とやらとはよく言ったモノである。鈴の友人自慢から始まった話は最早過去話から外れ、自身が体験した面白おかしい体験話へと移り変わっていた。

 

 「ひぃー、ひぃー、げほっ!? あぁ、笑ったわ……今年一番ね」

 

 「……ふう、少し話に熱が入りすぎたな。喉が痛い」

 

 「それにもうすぐお昼ですわ。折角ですから昼食もこのままご一緒しませんこと?」

 

 「「賛成!」」

 

 長く話をしたおかげで痛む喉を御茶やジュースで労り、エネルギーを消費した分を補充しようと連れ立って食堂に向かう。一夏がいない内に女の結束を深め昵懇にした彼女達。以外にも盛り上がった女子会に満足しつつ、お腹を満たすために歩を進めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 ……だが、彼女達はまだ知らない。もうすぐ彼女達にとって最大のライバルが出現しようとしている事を……。

 

 

 

 

 

 




 さて、お久ぶりの投稿です。お楽しみいただけたら幸い、これからもよろしくお願い致します。

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