インフィニット・ストラトス~終焉の銀河の果てに~ 作:とっぷパン
IS学園・医務室 とある教師
「さて、ここまで運んだは良いものの、上にはどう報告したら良いものか」
日の光が陰って空に星達が瞬き始めた頃、IS学園の医務室に先ほどの女性教師がいた。自身が体験したことではあるが、それを人に話すにはどうしたら良いのか見当もつかない。笑われるが関の山だろうが報告しないわけにも行かない。ゆえに、今この教師は途方にくれていた。
「何で私がこんなことで悩まねばならないんだ。今日は早番だったのに……家に帰りたい」
せめてベッドに寝かした男女がおきて自分に説明してくれないだろうか、いやいっそ夢ならばこれから家に帰ってコーヒーを飲んで休めるのに……。
と、半ば現実逃避をしはじめた時ベッドに寝ている男の方に反応があった。
「……? ここは、どこなんだ?」
「!? 気がついたのか!」
若干顔をしかめ額を手で押さえながら意識が戻った男はゆっくりと起き上がる。そして起き上がった男を天から差した一条の希望の光のように見つめる女性教師。
「……すまないがそこにいる人、水を一杯くれないだろうか。それと、よっかったらで良いが『年』を教えてくれないか?」
辺りを見まわして男は自身が寝ていたベッドのそばにいた女性教師にとりあえず声をかけたが、肝心の女性教師は顔が一瞬石像のように固まりすぐにむっとし表情になった。
「起きて早々『歳』を聞かれるとは思わなかったぞ。まったく、失礼なやつだな君は。女に歳を聞くのはマナー違反だと教わらなかったのか?」
そして、見事にお互いの会話は食い違った。男は焦る、何か失礼なことを言ってしまったのかと……。女性教師は相変わらずむっとした表情で男を見ている。
「…………あっ! ち、違う、その『歳』じゃない。年号の事だよ、…………誤解させてすまなかった」
段々はっきりしてきた頭で、目の前の女性が怒っている理由に気づいた男は慌てて訂正する。
「なんだ年号の事か。……まぁ、許してやろう。だが、次はナ・イ・ゾ?」
凄みのある笑顔で男にそう言って聞かせた女性教師はトウマに水を渡しながら、今さらながらに自身が直面していた事態を思い出す。そういえば、私は何をさっきまで悩んでいたんだ?
「…………そうだ!! 君達は何者なんだ? 突然空が光ったかと思えば、君ともう一人女性がその光の中から降って来たんだが――――」
まくし立てるように話す女性教師に、男は苦笑しながら話し終わるの黙って待つ。
若干混乱しながらも自身が見た事を伝え終わった女性教師に対して男は、隣のベッドに眠る女性を見ながら冷静に言葉をつむいだ。
「とりあえず、自己紹介からはじめようか。俺の名前はトウマ・カノウ。歳は23だ。αナンバーズ・トオミネ研究所所属・銀河防衛艦隊・第一小隊小隊長で、搭乗機体はDGG-XAM3C〈ダイナミック・ライトニング・オーバー〉通称・大雷鳳……っと、言えるとしたらこんなとこかな?」
目の前の男、トウマ・カノウから語られたのは聞いたこともない部隊の名前だった。女性教師は静かに眼を閉じて聞く事に徹する。でないと、自身がさらに動揺していることを悟られてしまうと思ったからだ。
「……すまんが、身分証明書などは持ってないのかカノウ君。さすがにそれだけでは、君が言っていることが正しいことなのかどうか判断できかねる」
女性教師にそう言われ、トウマは着ていたジャケットのポケットから一枚のカードを取り出した。
「ほら、これでいいか。そのカードの緑色のところを指で触ってくれ、そうすれば中の情報が確認できるから」
トウマにいわれたとおりに緑色の部分を自身の指で触る。すると、カードからホログラフィが現れて中の情報を女性教師に提示した。
「!?……これは、凄い技術だな」
中に書かれていたのはトウマが言った情報そのままだったが、それ以前に小さなカード一枚に組み込まれた技術そのものに女性教師は感心してしまった。空間投影型のディスプレイはこの世界にも確かに存在するがここまで小さなカード一枚に組みこめられる技術はないからだ。そして先ほどから自身が感じていたものに、確認した情報から確信がもててしまった。
「カノウ君、これは返すよ。君が言ったことは確かにこのカードの中にも記されていた、とりあえずは信じよう」
トウマにカードを返しながら女性教師は、目を伏せながら今度はトウマの質問に答え始めた。
「…………君はさっき年号が知りたいといっていたな、情報の対価として教えてやろう。だが、もしかしたら君には辛い事かもしれない……」
たかが年号ごときに勿体つけるように話す女性教師。しかしどちらかと言うとためらっているようにトウマは感じた。
「……今日は西暦・2025年、3月17日の月曜日だ」
女性教師の口から語られた年号年月日に、トウマは、「そうか、教えてくれてありがとう」の一言で済ませた。
だが、トウマのあまり気にしていなさそうな態度に、今まで少し悲痛そうな表情をしていた女性教師は今度は呆気にとられた表情に変えてトウマに話しかけた。
「意外だな、君の今の状況がどういうものか分かったと思うんだが……驚いたりはしないのか?私なら少なくとも君のように冷静にはなれる自信がないんだが」
女性教師の疑問にトウマは目を瞑りながら答える。
「まぁ、ある程度予想はできたよ。君の態度からしても別の世界じゃないのかってな。もちろん、不安な気持ちは俺にもあるよ。これからのこととかね……」
トウマの穏やかなしゃべり口に自分が思う程の不安はなさそうだと女性教師はほっと一息つく。それを尻目にトウマは視線を隣のベッドに移しながらさらに言葉をつむいだ。
「でも、ミナキと一緒ならどんな世界でも生きていけるってそう思えるんだ……」
その言葉を聞いて、女性教師も視線をベッドで眠る女性に移す。
「ミナキさんというのか、その人は。……君の大事な人なのかな?」
女性教師からの問いかけに、トウマは優しい笑顔で「そうだ」と答えた。
「そうか……。とりあえず君の事情はまだまだ分からない事があるし、こちらも聞きたいことはたくさんある。だが、今はここまでにしよう。続きは明日だ」
聞きたいこと、分からないことはたくさんあるものの。驚きの連続でなんだか疲れてしまった女性教師は、ここでいったん打ち切る。そしてふと気づいて、トウマにこう告げた。
「ようこそ、トウマ君。私の名前は「織斑 千冬」だ。このIS学園で教師をしている。明日もまた説明をしてもらうだろうから、今日のところはゆっくり休んでくれ」
やっと名前を聞けたトウマは、こちらを見て微笑む千冬に「ありがとう、織斑さん」と返すといつの間にかやってきた眠気に身をまかせ目を閉じた。それを見た千冬は「おやすみ、トウマ君」と告げ静かに医務室を後にするのだった。
IS学園・医務室 翌日・朝
いろいろあった昨日から一夜明けて気を失っていたミナキも目を覚まし、改めて自分達の状況説明のために昨日自分たちを介抱してくれた千冬を待つ二人。とりあえずお互いが無事に同じところに出られた事に安堵した二人だったが、互いのお腹から音がなって赤面しながら笑いあった。
「そういえば、あの戦いの後から何も口にしていませんでしたね。またトウマと一緒にいられると分かったら気が抜けちゃって、つい鳴っちゃいました」
ミナキが恥ずかしそうに、しかしどこか嬉しそうに口元をほころばせトウマに話す。
「そうだな、お互い何も食べてなかった。……よし、織斑さんが来たら食事のことも聞いてみようか。さすがに昨日はすぐ寝ちゃったから腹の減りは気にならなかったけど、もうペコペコだ」
そんなたわいもない話ができる喜びをあの時力を貸してくれたイルイ達に感謝しながら、二人は千冬が来るのを待っっていた。
同時刻・IS学園寮 寮監室・千冬
「ああ、昨日はいろんな意味で疲れた。おかげで朝までぐっすり寝られたが……」
ジャージ姿で体をほぐすためのストレッチをしながら、昨日のことを思い出す千冬。彼女は今自身の部屋で昨日の出来事を反芻していた。
突然光の中から現れた二人の男女。昨日の彼の様子から、どうやら二人は別の世界からやって来たらしいということが事がわかった。普段の私なら失笑ものの話だが、現場に居合わせたことで確信を得てしまった。
「……とりあえず、カノウ君達が起きているなら朝食ことからかな……。いや、まず一夏に連絡をしなければな。昨日はすぐ寝てしまったから連絡できなかった……」
言葉の途中で、昨日は早番で帰ることになっていたのに帰れずじまいだったことを思い出す。あいつのことだから、きっと怒っているだろうな、と自身の弟の性格を思い出し手軽くため息を突く千冬。携帯電話を取り出し自宅の電話番号を見つけると、若干ためらう様子を見せながらもコールボタンを押した。
数回のコールの後、電話口に聞きなれた声がでる。
『千冬姉っ!昨日はどうしたんだよ、家に帰ってこないし連絡もないし。俺、めちゃくちゃ心配したんだぜ!!』
予想通り自分を心配してくれていた弟に、嬉しさと苦笑が同時に顔に出る。
「すまなかったな一夏。仕事先のほうでトラブルがおきてな、それで昨日は泊まりになってしまったんだ。心配をかけたな……」
昨日の出来事を振り返りながら、弟には事実をぼかして伝える事しかできない千冬。まぁ、いきなり空から人が降ってきましたなんて言える訳がないからそこは致し方ないだろう。
『そっか、わかったよ。でも連絡ぐらいはしてくれよな、今日は早番だって言うから晩御飯とか二人分用意してたんだから』
どうやらあまり怒ってはいなそうな弟の口調からもう一度「すまなかった」と伝えこれから仕事があるからとりあえず電話を切る。
「さてと、真耶に連絡を入れてカノウ君達の所に行くか……」
今日も忙しくなりそうな予感と共に同僚の教師である「山田 真耶」に連絡を入れてトウマ達のもとへ向かう千冬。IS学園の教師としての顔を作りつつ空腹を訴え始めた自身の腹をさすり、とりあえず飯だなと、改めて千冬は思うのだった。
IS学園・職員室 山田 真耶
昨日先輩が偶然出くわした男女のことで私と先輩は非常に忙しかった。侵入者だったらさっさと追い出せばいいのだが、この男女についてはそうもいかなくなった。先輩いわく、異世界から来た人達らしい。男の人が昨日の夕方頃に目を覚まし、自分達のことを少し話してくれたそうだ。……正直言って最初は何の冗談かと思った。でも普段そんな冗談なんて一つも言わないあの厳格な織斑先輩が嘘を言うわけもないし、私は不覚にも考えすぎて知恵熱で一時的にダウンしてしまった。
「昨日は恥ずかしい思いをたくさんしてしまいました。……唯でさえ忙しいのに、異世界から人が迷い込んでくるなんて聞いたことありません……」
昨日のことをできれば無かった事にしたいと思いながらも、今日は件の男女から事情聴取しなければならない。また忙しくなりそうだと感じながらIS学園教師・山田真耶は、先輩教師・織斑千冬からの頼まれごとを消化し始めたのだった。
「……先輩、書類整理を押し付けるなんてあんまりですよ~!」
IS学園・医務室
「ん?今、何か聞こえたような……?まぁ、気のせいだろう」
真耶の叫びは、どうやらここまで聞こえたようだ。しかし、その肝心の千冬は気のせいの一言で片付けてしまった。哀れ真耶、君の苦労が報われる日は来るのだろうか。
「カノウ君、入るぞ」
医務室のドアを開けて中に入ると、昨日は寝たままだったミナキとトウマが起きて談笑していた。会話が弾んでいた二人だったが、千冬が医務室に入ってきたことでいったん会話をとめてドアのほうに向き直る。
「ああ、織斑さん。おはよう」
「おはようございます、織斑さん」
おおむね元気そうな二人を見て千冬は笑顔で「おはよう」と返して、早速ここに来た目的である朝食に誘うことにした。
「二人ともこれから朝食はどうだろうか。おそらくだが、昨日から何も食べてないんだろう?」
千冬のその言葉に待ってましたとばかりにトウマがくいつく。ミナキは若干恥ずかしそうだ。
「そうなんだ織斑さん。実は二人ともさっきからお腹が鳴ってな仕方がなかったんだよ。そっちから誘ってもらって助かる。なっ、ミナキ」
「そうですね、織斑さん助かりました。あと、すでに名前は知られているようですけど、改めて自己紹介させてください。トウマと同じ世界からこちらに飛ばされてきました、ミナキ・トオミネです」
トウマに賛成しながら改めて自己紹介をするミナキ。にこやかな笑顔でよろしくお願いしますと千冬に告げる。その笑顔に心を和ませながら千冬も自己紹介をする。
「IS学園教師の織斑千冬です。昨日偶然あなた方二人を学園敷地内で発見しましたので、保護させていただきました。……まぁ、とりあえず自己紹介はここまでにして、これからみんなそろって学園の食堂に案内しようと思う。そのあと事情を改めて説明してもらうが、それが終わったら今度はこちらの世界の歴史と世界情勢、ISとは何かについて説明を聞いてもらうことになるからよろしく頼む」
千冬の言葉に二人は了解の意思を伝え、三人は食堂へと向かうのであった。
いかがだったでしょうか。千冬は原作小説やアニメよりも若干性格を普通の人ぽくしてみました。そして、真耶先生はおそらく原作どうりの苦労人です。
誤字脱字、感想などお待ちしております。