インフィニット・ストラトス~終焉の銀河の果てに~   作:とっぷパン

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どんちゃん騒ぎに巻き込まれたトウマは、お疲れ気味でも休む暇無し。新たにやってきた転入生も加えて更にドタバタは加速していく……!


第30話~二人の転入生は騒動の始まり?

 IS学園・一年一組 HR前

 

 

 

 

 「ねえ、聞いた聞いた~?」

 

 「こらこら、本音ってば主語をつけなさいよ……。で、聞いたって何を?」

 

 「にひひひ、ごめんごめん。それはね、留学生の話だよ~。しかも二人組!」

 

 本日もにぎやかな一年一組の教室。昨日留学生を迎えに行った俺達は、あの後車の中でいろいろ話をしながら学園に向かい転入の手続きを済ませた。それからしばらく織斑さんやミナキと共に留学生二人組に学園の案内をした俺は、一旦4人と別れて終業後の愚痴大会に向けて食材と飲物を調達するべく、IS学園人工島内に学生たちの為に築かれた商業都市へと足を運んだのである。

 

 この都市は学園を卒業後に迫られる職業選択の幅を広げる為に築かれた場所であった。その中には学生たちの家族が住める様に住宅街まで完備されており、態々海外や日本本島へと帰省せずとも直ぐに会えて、尚且つ超機密の塊であるISに関わっている生徒たちの家族を物騒なごたごたから守る為の防護機能を兼ね備えているスペシャル都市だ。

 当初は学園しか建設される予定は無かったのだが、いざ開校してから様々な危険が降りかかっては遅いとの日本政府の考えから島ごと増設されたのだと言う。いや~、この世界の日本は中々気が利いているぜ。

 

 

 「この時期に留学生? それも二人――て、お隣にも凰さんが転校して来た訳だし十分あり得る話だね。それで、本音はその留学生を直接見たの? どんな印象だった!」

 

 「あわわわ~! そんなに興奮しなくてもちゃんと教えるよ~。……ん~とね~、片方は銀髪で背の低い女の子でと~ってもラブリーだった!」

 

 「へ~、銀髪で背の低いか~……こりゃ手強そうな子が入って来たわね」

 

 雑貨や衣服は勿論の事、世界各国の様々なニーズに応えた結果として巨大な食材専門の商店街が出来上がり、毎日の様に発着する空輸便によって新鮮な食材が所狭しと並んでいる。人も街も活気にあふれている様からは、ふと元の世界で街の復興を手伝っていた時を思い出させる様な印象を受けたもんだ。

 

 「もうお一方はどのような方ですの? 留学生として転入して来られる方でしたら必然的にそれ相応の実力者と見なければなりません。もしかしたら国家代表候補性の一人かもしれませんしね」

 

 「ん~、もう一人はセッシ―と同じ感じの色白で金髪の子だったよ~。でもでも、何か知らないけど男の子っぽい服装してた」

 

 「男装? でしょうか。しかし、この時期に色白で金髪と言うと欧州連合の何処かからでしょうが、私としてはあの国しか思い浮かびませんわね」

 

 そんな大規模商業都市で買い物を済ませた俺は、少しだけ息抜きに喫茶店に入りお茶を楽しんだ後トレーニング用の機材を見て回りながら帰路に着いた。勿論荷物の類は学園から都市まで引かれている専用モノレールの駅で全て受け取り、俺達の世界での旧西暦時代に蔓延った泥棒のイメージよろしく風呂敷に全て包んで担いできた。全重量が500キロを超える荷物はリハビリには丁度いい重さで、痛めた筋肉や骨に適度な負担を掛けながら自然治癒力を高めるべくゆっくりと時間を掛けて徒歩で来たんだ。

 

 

 唯まあ、一般常識から考えれば骨を折った人間がそんな無茶をすれば当然の如く周りに心配される訳で……。寮の入り口に到着した時には待ち構え得ていたミナキや織斑さん、それに何処から聞きつけたのかその場に居た篠ノ之博士や山田さんに恐怖の笑顔で以って出迎えられすぐさま説教を食らいましたとさ……トホホ。

 

 「何だセシリア、大凡の見当がついている様だが……。もしや、欧州発のイグニッション・プランとやらに関係している話か?」

 

 「あら、よくご存じですわね箒さん。これ以上は国の政策にも関わりますので御教えできませんが、いずれ御本人が登場なさるのですし。私からはここまでのヒントとさせて頂きますわ」

 

 「それもそうだな。何処の組に編入されるかは分からないが、留学生として転入してくるのならば自ずと私達にも接触を図ってくる事だろう。一夏関係でも、姉さん絡みでもな」

 

 「そういう事ですわ」

 

 その後、約定の通りに目いっぱいの料理を拵えた俺はワイワイと子供の様にはしゃぎ鬱憤を晴らす彼女達に掴まり、くだを巻かれつつ精一杯給仕に努める事と相成った訳だ。それが深夜一時に近づいた所で俺以外全員が酔いつぶれて撃沈、それを各々の部屋まで担いで運んだ後に片付けをして時刻は深夜三時を回る。

 

 少しばかり無理をした身体は睡眠と休息を求めてベッドへ直行し、倒れる様に布団に包まって泥の様に眠りましたとさ。以上が昨日の出来事である。

 

 「それより皆。カノウさんが此処に着いてから一度も起きないんだが、誰か理由を知っている人はいないか?」

 

 「……いや、何だ。一夏よ、その理由を知ったらお前は私と共に職員室に行って説教をかましてやらなければならなくなるぞ」

 

 「説教って、誰に? 俺や箒が説教しなきゃいけないって事は親しい人が関係してる訳だよな…………まさか」

 

 「そういう事だ。その怒りは後にとっておけよ、放課後になったらやる事が出来たんだからな……!」

 

 そう、先程から繰り広げられる少年少女達の会話に参加していないのは昨日の疲れが抜けない為である。病み上がりと言う事もあり一先ず安静にして休んでいるのだけど、そろそろ織斑さんか山田さんが来る頃合いだな。さてと、本当はもう少し寝ていたい所だけども起きますか!

 

 「元気百倍、蕎麦がきマン!」

 

 「うわあっ!?」

 

 「むおっ!?」

 

 「きゃん! ですわっ!?」

 

 ああ、自分に発破をかける為に勢いをつけてみたんだが……どうやら周りを驚かせる結果に変わった様だ。ん~?何だか背中に乗ってる奴がいるな。背中に思いっきり柔らかい物が押し付けられているし、一夏君と俺以外は皆女子だけだ。十中八九女の子が張り付いている。

 

 「おお~! トッチ~が元気なった~!」

 

 「何だ、布仏ちゃんだったのか。この通り元気なったから手を離して降りてくれ。もうすぐ先生達がやってきてHRが始まるぞ~」

 

 「おおう! それは一大事だ……ところで蕎麦がきマンて何~? アニメだったら見てみたいかも~」

 

 ふにゃっとした雰囲気に通りにゆるゆると着地して顔を寄せてくる彼女に、この世界で放送されている今季一押しのアニメの存在を教える。名前だけ聞くと自分の顔を餓死寸前の人々に分け与える某パンマンが思い起こされるが、この蕎麦がきマンはそんじょそこらのマンじゃない。餓死寸前の人々に食べ物を分け与える所は同じだが、某パンマンと違って悪役を倒すやり方がとても現実的なやり方で有名なんだ。

 

 そもそも題名でもある蕎麦がきとは、蕎麦の産地でそば麺が出来る以前から長く親しまれてきたそばの食べ方の一つである。形こそ様々だが、練ったそば生地を食べやすい大きさに手で丸めたりして形を整え茹で、蕎麦汁や雑煮・すいとん汁の様にして調理をする物やたれ等をかけて食べる物だ。

 

 それをこのアニメでは巨大な蕎麦がきを鈍器の様に扱って敵を撲滅させたり、熱い熱湯を注ぎ入れた蕎麦がきを敵の顔面にぶち当てる等と言った少々変わった扱いをしている。例の如く、この後スタッフが美味しく食べましたと言ったテロップが必ず字幕で出るのも愛嬌であり、確実に食べられない様な方法で消費した場合も流れたりするなど消費者に一定の意思を示している。

 

 他にも罠にはめたり策略を以って敵を打ち倒すなど、随所に大人的な表現が出ている子供向け番組なんだ。ちなみ番組自体は十五分位の長さなので、忙しい大人でもサクッと見れる良心設計でもある。

 

 「放課後になったら録画したデータをあげるから、今は席に戻ってくれ。でないと、織斑さんが来て頭を出欠簿でバシンッ! とやられちゃうぞ~」

 

 「あわわわ~、今度こそ一大事だね! 急げ~!」

 

 それでもノロノロと走る布仏ちゃんに苦笑しつつ、周りに集まっていた一夏君達も其々の席へと戻っていく。布仏ちゃんがようやく席に着いたその時、教室の自動ドアが開き何時もの凛々しい顔つきで織斑さんと山田さんが入って来たのだった。

 

 「諸君、おはよう。それではこれよりHRを始めるぞ。山田先生、出欠確認と連絡事項の伝達をお願いします」

 

 「はい、分かりました。それでは皆さん、今日も出欠確認からいきますよ~。まずは一番――――」

 

 

 

 

 ~HR・十分後~

 

 

 

 

 

 「――と言う事で、今日は皆さんにビッグなニュースがあります! なんと、先日学園に留学生が転入してきました。二組の凰さんに続いての留学生ですが、今度は私達一年一組に編入される事になりました~!」

 

 「「「ええっ!?」」」

 

 「では早速入って来てもらいましょう! トオミネ先生、お願いします!」

 

 山田さんの張り切った司会っぷりに微笑ましい物を感じつつ笑みを浮かべていると、再び教室のドアが開いて留学生二人を伴ったミナキが入室して来た。勿論入室して来た留学生とは先日迎えに行った二人組だ。先に入って来た金髪の子は自然体で紳士然とした態度と雰囲気で歩き、顔には柔和で優し気な微笑みを携えクラスの女子を見ている。

 

 「ちょっと、滅茶苦茶可愛い子じゃない……! でも、ほんとに男子の制服着てるわね?」

 

 「そうね……。もしかしたら、これってもしかしちゃうんじゃない?」

 

 前に座っている子達がヒソヒソと話し合う中で、俺は一応彼と事前に会っている事もあって心の中で正解と叫ぶ。いくつか疑問は残るものの、それはこれからの生活でいずれ解決していく物だとも思っている。

 

 次に入って来たのは綺麗な銀髪が特徴で、一般女性としてはやや背が低い小柄な少女である。こちらは軍服をモチーフにアレンジされた学園制服を着こなし、ブーツを鳴らしながら軍人の歩き方で入室して来た。まあ、巨大な軍隊に所属していたからこそ分かる微妙な違いだが……。

 

 二人ともにミナキの隣に並び立つ。こう言う場面にありがちな緊張した様子も無く、自然な雰囲気と表情でこれから勉学を共にするクラスメイトを見ている様だ。

 

 「では、自己紹介をしてもらいます。デュノアさんから順にどうぞ」

 

 「はい、トオミネ先生」

 

 ミナキに促されて半歩分前に出るデュノア君。紳士然とした笑みを携えて一呼吸、正面を見据えていよいよ口を開いた。

 

 「シャルル・デュノアです。男性操縦者が入学しているとの報を聞きまして、フランスからやってきました。こちらでは不慣れな事も多いかと思いますが、皆さんよろしくお願いします」

 

 少し低くハスキーな声にしんと静まり返る室内。誰もが教壇で挨拶をする彼に目を向け、一挙手一投足を見逃すまいと鬼気溢れるプレッシャーで以って観察している。少々いけない気配を漂わせている鼻息の荒い女子さん達も多少いるけど、そんな事はどこ吹く風と紳士スマイルに徹している様だ。

 

 「あ、あの。男の方ですか……?」

 

 静まり返った戦線を押し上げる義勇兵の如く、ガッツを振り絞った一人の少女が震える声でこの場で一番気になっている疑問を投げかけた。

 

 「はい、こちらに僕と同じ境遇の方が二名いらっしゃると聞いて本国より転入を――」

 

 天性の人懐こそうで中性的な顔立ちに合わせ、礼儀正しい立ち振る舞いを兼ね備えたフランス紳士(ジェントルマン)のコンボと来れば、一流の容姿を兼ね備えた娘が多いIS学園生徒達でも一撃で撃沈されてしまうかな?

 改めて見ると金髪はセシリアちゃんよりも濃い目で、自称死神のディオみたいに首の後ろで丁寧に束ねている。身体全体としてはシュッとしたこの世界の今時男子と言った印象を受ける。あの世界で散々貴公子だとか王子(プリンス)の類に分類される人物を見ているけど、彼らと比べれば色々と足りない所があるのも正直な所だ。

 

 ま、この世界の十五歳にそれを求めるも間違っているとは分かってるけどな。

 

 「きゃ……」

 

 「はい?」

 

 「「「きゃあぁぁ――――っ!」」」

 

 マイク・サウンダース十三世を彷彿させる天然の超マイクロウエーブ振動発生器と化した少女達の黄色い声が、教室の超硬化窓ガラスを粉砕せんと突き進んで俺らの耳を直撃。事前にこうなるだろうとうっすら予感していた俺は、ミナキ特製の強力耳栓MAXを付ける事で被害を回避できた。壇上の織斑さんや山田さん、それにミナキの三人も事前に装着して被害を未然に防いだ様である。

 対する子供達はと言うと……ああ、一夏君は石の様に固まって動いてない? それに、視線がもう一人の転入生の方を向いている、か。ふむ……。

 

 「男子! 三人目の男子!」

 

 「しかも、またうちのクラス!」

 

 「美形! しかも、守ってあげたくなる系の!」

 

 「うぅ……IS学園に入学できてよかった」

 

 そして、件の転入生さんは……こちらも一夏君と同じく石像の如くか。箒ちゃんとセシリアちゃんは――撃沈! 如何やら超振動で脳を揺さぶられてしまった様だ。対応を誤ったら次の瞬間には命が無い、それが戦場だぞ二人とも……!

 

 「あー、騒ぐな。――静かにしろっ!!」

 

 「「「…………」」」

 

 鶴の一声ならぬ、怒りの織斑さんが一声で見事に平静を取り戻すクラス女子。軍隊の如く見事に訓練されている状況を見て、女の子達の黄色い声に引いていたデュノア君も顔を驚きに染めて更に引いた。フランス紳士も気負されるパワーの源は何なんだろうか? ひょっとしたら無限力の発現の一端ではないだろう――――訳無いか。

 

 「皆さん、転入生の紹介はまだ終わっていませんからね? これ以上騒ぐようならば、私達教師の権力を総動員して貴方達に可能な限りのありとあらゆる罰則を設ける事もあり得ますので悪しからず」

 

 「「「……っ!?」」」

 

 「はい、皆さんは聞き分けの良い子達で先生は大変嬉しく思いますよ。うふふふ」

 

 織斑さんの物理的な怒りの感情表現とミナキの精神的な怒りの感情表現が合わさった時、そこに生まれるのは悟りを開いた様な顔つきで静かに前を向く生徒達だった。

 

 さて、教室が二人の鬼神によって静まり返ったのを機に再び自己紹介へと戻る。お次は石像と化している異端の少女の番だ。

 六月の梅雨入り前の貴重な太陽に照らされた銀髪が煌めき、無造作に伸ばされた髪をまるで妖精の様な神秘的な印象に変えている。そして、彼女自身は地球連邦のお偉いさんがよく大河長官に向けて放っていたような冷たいプレッシャーを纏い、左目に付けられている眼帯と相まって非常に場外れ的な印象を抱かせてしまう。

 だが、見開かれている彼女の右目には何やら熱く燃る感情が露わになっている。視線の先が一夏君を向いている事からも、彼と何らかの関わりがあると見ていいのかもしれんね。

 

 男としては華奢で小柄な部類に入るであろう彼と比べても更に低い背丈の彼女は、そのまま無言を貫き通して一向に自己紹介を始める気配が無い。山田さんが彼女の様子にあたふたし始め、ミナキと織斑さんのスイッチが入りそうになったその時。遂に件の少女が口を開いた。

 

 「――失礼しました。私の名はラウラ・ボーデヴィッヒ。ドイツ国家代表候補性として自身の見聞、そして経験を積む為に転入して来た」

 

 やや低い声色で簡潔に話す。要点だけを話す姿は正に軍人さんに多く見られた話し方だが、よくよく見ると彼女の額に薄っすらと汗の雫が滲んでいる。大方鬼神のプレッシャーを敏感に感じ取った所為だろうが、昨日初めて会話をした時よりも些か社交的に感じるな。

 

 「私の目的は唯一つ――織斑 一夏! 貴様をブッ飛ばしてやることだ!!」

 

 「「「ええっ!?」」」

 

 おお? いきなり一夏君に宣戦布告か! これは結構楽しい展開になって来たけど、当の一夏君はと言えば――。

 

 「上等だぜ、ラウラ・ボーデヴィッヒ……! ここまで来て会うとは思ってなかったが、そっちが掛かって来るなら返り討ちだ!!」

 

 「「「ええ~っ!?」」」

 

 ――がたっと立ち上がり拳を突き付け闘志が漲って受ける気満々。一夏君にしては珍しいと言わざるを得ない位に張り切っているな……。やっぱり知り合いかね、この二人は。

 そう思いつつ視線を織斑さんに向けると、彼女はげっそりとした表情を隠そうともせずに両肩を落としている。これまた数カ月の付き合いでしかないが今まで見た事の無い様子に新鮮味を感じながらも、これは確実にひと悶着在りそうだとも確信できる訳でして……。

 

 一夏君とボーデヴィッヒさんが一触即発、しかしてクラスの皆は状況について行けずに混乱。山田さんはみんなと同じく混乱し、織斑さんはぐったりと疲れて注意を促す事すらできず……。そして、最後に残った俺はミナキの笑顔に恐怖していた。

 

 「はい、先の約束に反しましたので全員ペナルティです」

 

 「「「しまった~!?」」」

 

 連帯責任、か。いい、いい言葉だよな……はぁ。

 

 

 

~HR後~

 

 

 

 「ああ。言い忘れていたが織斑」

 

 「はい」

 

 波乱のHRが終わった所で教室の去り際に織斑さんが一夏君に声を掛けた。俺は授業の準備をしつつ彼らの会話を見守る事にしよう。さっきみたいに罰則を食らう前に面倒事は阻止しなければ……!

 

 「デュノアの面倒はお前が見てやれ。カノウ君はお前の為に色々と忙しい立場だし、それ以外にも様々な事で面倒を見ている暇はない。同じ男子の好だ、今度はお前がしっかりとする番だぞ」

 

 「分かりました。俺に任せてくれ、千冬姉――痛っ!?」

 

 「織斑先生、だ。何時まで経っても癖が抜けないのはよろしくないぞ……」

 

 「はい~……」

 

 如何やら転入生のデュノア君は一夏君に任されたらしい。織斑さんに注意と言う名の愛の鞭を食らった頭をさすりつつ了解の意を示した一夏君は、早速織斑さんの頼み事を果たすべくデュノア君に向き直った。

 

 「紹介に預かりましたシャルル・デュノアです。君が織斑 一夏君か、よろしくね――」

 

 「ああ、早速で悪いんだが自己紹介は道すがらで頼む。今から俺達は学園に入った者としての洗礼を受ける羽目になるからな」

 

 「――洗礼? ……よく分からないけど、分かったよ」

 

 「それじゃあ、行くぞ!」

 

 必要な荷物を持った一夏君がデュノア君の手を握り教室から駆け出していく。その顔は戦地に赴く兵士とも思わせるような鬼気迫る物で、手を握られたデュノア君はその表情に益々疑問を深めている様だ。連れ立って教室を後にした二人を見送ったからには、俺も移動をしないとな。さてっと、ん?

 

 「…………」

 

 「どうかしたのかい?」

 

 一夏君達をどうやって追い抜いて行こうかと考えた矢先、制服の裾をクイクイと引っ張れて振り向いた。すると、俺の制服を引っ張っていた少女が無言で立っていた。

 

 「――ボーデヴィッヒちゃん」

 

 そう、俺の服を摘まんでいたのは先程織斑さんより拳骨を頂いて涙目でうずくまったまま放置されたボーデヴィッヒちゃんだった。周りのクラスメイト達は既に教室を後にし、この場に残っているは俺と彼女の二人だけ。はてさて、一体何を聞かれるのだろうか……?

 

 「カノウ・トウマ殿。折り入って聞きたい事があるのですが……宜しいでしょうか?」

 

 「あ~、何でも聞いてくれと言いたい所だが、授業もあるから手短にお願いできるかな。遅刻したら織斑先生とトオミネ先生が怖いからさ」

 

 「はい、それならば大丈夫です。私が聞きたい事は一つだけ、それは――」

 

 んん? 何だ、思ったより雰囲気が重くないな。てっきりドイツ政府の意向を受けてがどうのこうのと言われるものと思っていたんだが……。それに、開かれている赤い瞳の端に心なしか雫が見えるような――

 

 「――授業を受ける場所は何処でしょうか?」

 

 「あ、ははっは、そう来たか……」

 

 瞳一杯に溜まった涙が零れ落ちそうになるのを必死にこらえるボーデヴィッヒちゃん。こっちは思わず旧世紀のノリというか今でも浅草等の下町劇場で続いていたズッコケを披露する所だったぜ。

 だが、どう苦慮してもこの少女をほっておく選択肢は無い。ならばと言っては何だが、ここは俺が彼女をエスコートして授業へと連れて行くしか道はなさそうだ……。

 

 「よし、ボーデヴィッヒちゃん。俺が更衣室と授業を受ける第二グランドへと案内するから、先ずはISスーツに着替える更衣室に行こうか。俺は既にスーツを着込んでいるから着替えは必要ないし、更衣室に着いたらパパッと着替えてしまおう」

 

 そうと決まったら善は急げ、善でなくとも今は急げ! ボーデヴィッヒちゃんと連れ立って教室を出る。確か、女子の更衣室は男子用へ行く通路を右に曲がった所を直進だったな。普段近寄らない男子の不可侵領域地帯だが、何かあった時の為に頭に建物の見取り図を大方叩き込んでおいて良かったぜ。

 

 「すみません。付いて早々にご迷惑をお掛けした他に、この様な失態に御付き合わせてしまうとは……」

 

 「良いんだよ、そんな事は。君はまだまだ若いし、ISという物が存在しなければ普通の学校に通っていてもおかしくは無かった。多少の失敗はしてこそ自分の糧になっていくものさ。俺なんか最近でも失敗ばかりだぜ?」

 

 しゅんとしょ気ている彼女を励ます意味も込めて自分の近況を軽く話す。思えば、αナンバーズの一員として銀河大戦を生き残る前から様々な事を経験して来たものだ。そんな経験があればこそ、今こうして居られると考えれば人生のすべては無駄が無く、かつ全ての経験が自分の為に糧となってくれいる事が分かる。

 

 「――昨日も君達と別れた後が大変でね。織斑先生やトオミネ先生、それに條々之博士や山田先生の愚痴聞き大会に強制参加されたんだよ。立場としては聞き役と料理役、絡み酒と泣き上戸と笑い上戸が阿鼻叫喚の雨あられとなった俺の部屋で夜遅くまでヒーコラ言っていた訳さ」

 

 「なんと、織斑教官がその様な……。あの方を知っている身としては考えられない姿だ」

 

 「ははは、人間なんて誰でもそんなもんさ。完璧な奴なんてこの世に存在しないし、完璧なんて実はつまらないもんだよ」

 

 そう、完璧を求めるがあまりに道を踏み外した者達を腐るほど見て来た。そして、そう言った人達はαナンバーズによって倒されている……。その中には知り合いだったり家族だったりと、色んな悲しみも同時に残されてしまう人も多くいたもんだ。

 

 「…………」

 

 「まあ、話半分で聞いておいてくれると助かる。後、先生達には秘密で、な?」

 

 「分かりました、先生方には秘密にしておきましょう。恐らくはそれが私の為にも最善な判断です……」

 

 ぶるっと震えが来た身体を両手で抱きしめた彼女は、少々青くなった顔に冷や汗を滲ませて引きつった笑みを浮かべている。織斑さんと知り合いの様だから彼女の怖い笑顔でも思い出したのだろう。ここ数カ月で大分打ち解ける事が出来たから俺も度々目にする機会があった、あのS気を滲ませた黒い笑みを……。

 

 ま、被害者は主に一夏君と彼を慕う女子達だけどな!

 

 「ありがとな。っと、そうこうしてる内に更衣室に着いたな」

 

 「では、私は着替えてまいりますので」

 

 会話しながらだったもんだから危うく通り過ぎる所だった更衣室に駆け込むボーデヴィッヒちゃん。この学園に設置されているロッカーは超ハイテク仕様で、指紋認証や網膜スキャン等をキーにして完全に個人対応が可能となっている。

 さらには使用中のロッカーは赤色のランプが点灯していて、使用されている事が一発で分かる親切使用なのも特徴だ。

 

 残念ながらと言っては何だが、男子や男は基本的に俺と一夏君しかいない。だから、男子更衣室にある大量のロッカーは宝の持ち腐れ同然に放置されている状態だ。

 

 「ふむ、俺も着替えてだけはおくか……。雷鳥・改、制服を量子格納と同時に専用ISスーツを展開。身体機能に制限付加、加圧調整を常時5Gに――」

 

 『了解。制服量子格納と同時に専用ISスーツを展開します。身体機能制限調整開始、設定値を常時5Gに――3G、4G、5G設定完了しました』

 

 機械音声の指示によって雷鳥・改からISスーツが展開される。量子の光に俺の身体が包まれると同時に制服が消え、足元から制服とISスーツが一センチの隙間を空けて頭までせり上がり展開が完了した。

 

 PICによる慣性制御の応用で発生させた重力を地球上の五倍に設定し、内臓が押し上げられて締め付けられる感覚に身体を慣らす。訓練を受けている軍人ですら長時間の負荷は耐えられないが、今の俺にとっては丁度いいリハビリみたいなものだ。

 

 「お待たせしました、カノウ殿――いつの間に御着替えを?」

 

 カシュッと空気音を立てて開かれたドアからボーデヴィッヒちゃんが姿を見せた。わずか数十秒もしない内に服装が変わっている事に疑問を持つ彼女に応えるべく、今は量子収納と展開だけが使える雷鳥・改を見せつつ振り向く。

 

 「はは、君を待っている間だよ。ん、これなら何とか間に合いそうだな」

 

 少々カスタムされたオーダーISスーツに身を包んだ彼女。自身の銀髪に合わせたのか若干白っぽいグレーの生地に裾付近に黒の淵どりと、旧スクール水着を模した様な基本スーツを大分カスタムしている。

 そして、スーツの付け根である股から伸びる白い足の右太ももにはISらしき物がバンドで固定されていた。

 

 ちらっと確認した限りでは彼女自身の身体能力には関心するばかりだ。負荷をかけているとはいえ、それなりに本気を出して走っている俺にしっかりと付いて来ているのだから大したものだね。歩幅も違うのに額に滲む汗は僅か数的程度とは……大分訓練している様だな~。

 

 「中々鍛えているな、ボーデヴィッヒちゃん!」

 

 「一応国を代表する代表候補生ですから、それなりには……! その様な事より、私はカノウ殿の身体能力が驚きなのですが!?」

 

 「そりゃ、鍛えてるかならな!」

 

 驚きに目を白黒させている彼女の姿が微笑ましく、しかして時間は呑気に笑っている余裕も無く……。今走っている通路は三階付近だったはず、だがアリーナは二つ先の建築物の一階から入る構造になっている。ISの個人的使用は学園島内で禁じている規則だし、ここは一丁生身で近道と行きますか。

 

 「ボーデヴィッヒちゃん。ここから見えるあの建物の先に第二アリーナがあるんだが、このままの速度で走ったとしても遅刻は免れそうにない……そこでだが」

 

 「近道を選択する、と言う訳ですか?」

 

 「あったり~! じゃあ早速――うん、窓から飛び降りてみようか。あ、そ~れ」

 

 「は? え? カ、カノウ殿!?」

 

 並行して走る彼女を腰から抱え込み窓ガラスを空けて冊子に右足を掛ける。俺の言葉を聞いて頭で理解した彼女は、驚きと混乱で以って抵抗しようと試みるが既に後の祭り。ISを展開すれば脱出する事も可能だろうが、学園に編入するにあたって国家代表候補生の一人である彼女は規則を頭に叩き込んで来た事であろう。

 

 ならば、ISの個人使用は規則違反に当たり。尚且つ先生、つまりは織斑さんからの厳しい指導が待っている事位も知っている筈だ。恐らくはであるが、織斑姉弟と関わりがあるらしいボーデヴィッヒちゃんは織斑さんの怖さも身に染みて覚えている事だろうから、規則違反の類は避けようと考えていると見ていい。

 

 「たまには自由落下も良いもんだ、なっと!」

 

 「ひゃあぁぁぁ!?」

 

 三階の窓から地面に向かってダイブ。軍人然とした雰囲気とは裏腹に年相応の悲鳴を上げる彼女を脇に抱え、全身の筋肉を使って地面に着地した衝撃を分散。再生して間もない骨に衝撃がじんと響くが、スーツの機能で即座に回復し走り出す事に成功した。

 

 「おおっ! 流石に骨にくるな~。後は自分で走れるかい?」

 

 「――カノウ殿、次からはもう少し心の準備をさせていただけると有り難い。……うぅ、怖かった」

 

 下ろした瞬間にへたり込むボーデヴィッヒちゃん。こりゃあ、とても走れそうにないな……ふむむ。仕方がない、緊急事態につき再度抱えなおして俺が走るとしますか。

 

 「すまないな、ボーデヴィッヒちゃん。後でゆっくりと謝るから、今は授業に間に合う為と思って我慢してくれ……。じゃあ行くぞ!」

 

 「ふぁ!? ちょっ、カノウ殿!?」

 

 慌てふためく彼女を無視して再度、今度は所謂抱っこの姿勢で抱え走る。開始時間まで残り五分を切った所で更に加速し、校舎を横切り第二アリーナの入口へと滑り込んだ。グランド部分で集合だった筈なので入口からまっすぐ伸びる通路を進めばギリギリで到着だぜ。希望は見えてきた……!

 

 「カ、カノウ殿……! 出来れば生徒達と接触する前に私を下ろして頂けないだろうか!」

 

 「ああ、もう自分で立てそうかい?」

 

 「はい。それに……幾らなんでも初日から代表候補生が抱っこで到着したとなれば、その、外聞も色々とありますので」

 

 成程ね、やはり国家代表とはいかないまでも彼女達も色々と大変な様だな。

 

 彼女の立場を酌んで通路出口で抱っこからそっと地面に下ろす。少々まだ足取りに不安が残るが、それも数歩歩く内に元に戻った様だ。この辺りは流石に軍属の人間なだけはあるなと思いつつ、俺達は授業開始二分前でギリギリ間に合うのであった。

 

 

 

 




 お久しぶりの投稿です。トウマとミナキがやって来た事によってどんどんと変わっていくISの世界、その変化をお楽しみいただけたら嬉しい限りです。

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